数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
もう船に乗って結構な時間が経つ。 見渡す限りただ海が広がる世界。 どこまでも、どこまでも海。
広がる無限の同じ世界に恐怖感も無いことはない。 そしてこれまで過ごした時間が夢だったのかという錯覚も覚える。 しかしそれは確かに錯覚に過ぎない。 バイアシオン大陸で過ごした駆け抜けるような時間はまごうことなき事実で、その現実があるからこその今にすぎない
「どしたん? エレンディア」
なにより不意に背中へ抱きついてきたこの子が、私がバイアシオン大陸で過ごした証人であり証拠である。 そして今こうしている原因でもあり理由だ。 カルラ・コルキア、私と共にバイアシオンを出た私の相棒さん。
「何ぼけらーっとしてんのよ。 今のうちだけだよー? そんな顔してられるのは」
言いながら私の頬を撫でる。 それに対応するように私も肩あたりに伺える彼女の頬へ手を伸ばすとその手を掴まれる。
「いつまでもこんなとこにいるから、冷え切ってるじゃない。 いい加減中入ったら?」
言いながら体を離し、私の手を引っ張り立たせる。
「そんな寒そうな格好してるあなたに言われたくないわよ、カルラ」
「素足出してるのはお互い様じゃない」
「私は足だけよ。 あなたみたいに他のとこは出してないもの」
「まーあたしはあたしの魅力も武器だから」
そう言ってくすくすと笑う。
「ふーん」
そう返し、私はまた海を見る。 実際には海は見てない。 考え事のためカルラから視線を外したにすぎない。
しかし困ったことに私の相棒は人の心の機微を感じることができる。
「何?」
「ん?」
考えようとした矢先に声をかけられ、生返事で返す。
「後悔してるの? 戻る? ううん、帰る?」
口調はいつもと変わらないけれど、さすがに誰でもわかりそうなほど彼女の心が波立っているのがわかる。
「そうじゃないわよ。 凄いわよね、この何も見えない世界って。 私、こんな光景初めて見るから」
「そう? すっきりしてていいじゃない」
言いながら近寄ってきて、背中から抱きついて私の腰に手を回す。
「でもエレンディアが考えてたことってそれじゃないよね」
「・・・そうね」
話を逸らしても悟られてては意味がない。
「あたしには言えないこと?」
「言えるわよ?」
「じゃ、言って」
「でもまだその時期じゃないから言わない」
耳元で彼女が小さく笑う。
「つまりあたしのことってわけだ。 くすくす」
「そうは言ってないでしょ」
「じゃ違うの?」
「・・・違わない」
左手は腰に回したまま右手で彼女が私の髪を撫でる。
「・・・ま、いっか」
そう言って体を離し、船室へと向かいだす。 振り返り言う。
「時期が来れば教えてくれるんでしょ?」
私はカルラの方を向いて返す。
「私、カルラと喧嘩したくないの」
そう言うと彼女は笑って言った。
「あはははは、そらあたしだって嫌よん。 バイアシオン救世の勇者様と戦うなんて怖いもんね」
それを聞いて思わず言ってしまった。
「・・・でもしないとダメみたいね」
その言葉と同時にカルラの目が変わる。辺りに緊張感が漂う。 彼女一人から発せられたその気配。
「どういう意味かな? エレンディア」
「カルラこそその目は何よ」
少し気圧されて、つい挑発的に言ってしまう。
「フフ、そうね・・・これから一緒にやっていこうって言うのに、あたしもちょっと緊張してんのかもね」
まただ。 それが私は嫌なんだ。 あっさりと感情を隠して笑い、緊張感を消す。
「カルラ・・・」
「反省してとっとと寝るわー。 んじゃね、エレンディア」
「待ってっ!」
言うだけ言って去ろうと踵を返した彼女に叫ぶ。 足を止め、顔だけこちらに向ける。 薄笑みを浮かべ彼女は言う。
「何よー、エレンディア。 あたし何かした?」
そこで少し冷静になる。 本当自分で選んだとは言え、私の相棒は面倒極まりない。
「・・・心当たりあるんじゃないの?」
「無いねぇ。 だから聞いてるんじゃないー」
心理戦はハイレベルなものを要求される上に、本当のところは激情家。 うかつなことを口にすれば殺し合いにもなるだけに言葉は気を付けなければいけない。
「私、カルラのペットじゃないわよ?」
驚いたような顔を浮かべたあと、笑い出す。
「あははは、何バカなこと言ってんの? 勇者様をペットにできるほどあたしは立派じゃないわよ、あはははは。 そんなこと思ってもいないわよー」
「・・・だったらあなたの都合で触るのはやめて」
「・・・」
相変わらず貼り付けたような薄笑みのままではあるものの、瞳の奥から深い闇が漏れ出してきた。
「あら、抱きついたの嫌だった? ごめんねー、次からは・・・」
「そうじゃないわよ。 わかってるんでしょ?」
彼女がいつものようにはぐらかすのを遮るように言う。
彼女の瞳の奥に様々な感情がうごめいているのがわかる。 カルラの触れられたくないことに触れようとしているのはわかっている。 できればそっとしておきたい。 だけどそれではダメ、私の気持ちがそれでは持たない。
「・・・」
「・・・」
無言でお互いに言いあう。 彼女は眼で私に幾万幾千の罵声を浴びせている。 私は精一杯の思いを伝えている。
けれどわかっている。 どちらも意味は無い。 言葉にしない言葉は決して届かない。 わかって、なんてのは甘えにすぎなくて、相手のためを思った行為ではない。 だから私は言う。 彼女を傷つけ怒らせるものであったとしても言うしかない。
「・・・私にも触れさせてよ、カルラ・・・」
言うや彼女はぎりっと奥歯をかみしめ怒りの表情を露わにする。 剣呑な光が瞳に灯る。 だが言葉は発しない。 彼女の口から零れそうになっている呪言は私に向けてのものではないことを彼女自身がわかっているから。 けれど溢れそうにさせているのは私、だからその目は憎悪に燃えている。
「・・・っ。 ふっ・・・う・・・は・・・」
ふだん抑えつけて仕舞い込んでいるたくさんの負の感情の制御に苦しみ、カルラは息を荒くする。
苦しめているのはわかる。 だけどそこを踏まえて、そしてそこを越えて、私はカルラとこれからを共にしたい。 ずっと共に行く相棒なのだから。
だから彼女に向って一歩踏み出した。 けれどその瞬間カルラは大きく後ろに跳びすがった。
「・・・っ」
荒い息を吐きながら、何かを言おうと逡巡する彼女に私は言う。
「何も言わなくていいわよ」
そして再び彼女に向って一歩踏み出す。 私が言葉を口にしたことで、彼女のスイッチが切り替わったのか、燃えるような瞳だけを残し表情はいつもの薄笑みに変わっていく。
「ふ、ふふ・・・」
そして後ずさりながらゆっくりと鎌を構える。
「あたしとしたことが道連れを間違えたかな・・・? 確かに喧嘩になりそうね・・・でもあたしとの喧嘩は命がけよ?」
「間違えてないわよ。 私じゃないとダメでしょ。 カルラには私じゃないとダメなのよ」
「何それ。 何のつもり? 何言ってるの?」
口調にいら立ちが露わになっている。 私はまた一歩彼女に踏み出す。
「エンシェントの墓地で会った時に言ったこと覚えてる? 同情したら殺す、って言ったはずよ?」
「覚えてるわよ? それ何か関係あるの?」
カルラはすでに鎌を振りかぶった体勢で構えてる。 いつでも振りきれるように。 私はまた一歩踏み出す。
「何も言わなくていいってどういうこと? 私じゃないとダメって何様? あたしのことをわかったつもりにでもなった?」
瞳の奥の黒い炎が彼女の何もかもを燃やしているのを感じる。 今の彼女の眼には私はどう映っているのかな、なんて場違いなことを考えたりもした。
「私は私の問いの返事が欲しいだけ。 触れさせてくれるのかくれないのか。 それに対して言葉は別に必要としてないわ」
また一歩踏み出す。 あと2,3歩で彼女の鎌の射程範囲だ。
「ネメアさんや他の人ではあなたは自由でいられないでしょ? あなたが自由に振る舞えるのは私だけだと思うってこと」
カルラは薄笑みを浮かべたまま・・・のつもりであろうが、すでに溢れかえる怨嗟の思いでその笑みはひきつっている。
「何それ。 何わかったつもりになってるの? あんたにあたしの何がわかるの?」
それでもやはりカルラは尚カルラであった。 激情に流されず私との距離を測っている。 次の一歩で彼女は迷わず鎌を振るうであろう。
「・・・やだなー。 やめない? あたしエレンディアのこと気に入ってるからこれ以上はしたくないんだけど?」
嬉しい。 これだけ怒り、憎み、哀しみ、といろんな激情が蠢いているであろうに、まだ彼女は私と最後の一線を越えない関係でいたいと思ってくれている。 気に入ってるから。
だけど同時にくやしい。 それは気に入ってる、に留めているからの制止。 これ以上私も彼女も近づかない、不可侵の関係。 彼女はそれを理解して言ってはいない。 だから私は踏み込むしかない。
「やめない」
私は一歩踏み出した。
その目はすでに私と旅立つことにしたカルラのものではなく、『青い死神』『神速の戦術家』と呼ばれたディンガル青竜将軍カルラ・コルキアのものだった。 いや、それすらも異なるかもしれない。 その目はかつて滅ぼした彼らを見る目、幼いカルラのものだったのかもしれない。
「-っ」
私の一歩と同時に彼女が動く。 私が一歩踏み終わってからが彼女の鎌の間合いではあったものの、彼女は「待ち」の戦術をしない。 つまり足りない距離を自分が踏み込むことで埋め、私の一歩が終わる前に彼女の間合いに変える。
彼女は右構え、つまり私から見て左から鎌が薙ぎにくる。 彼女はやると決めたことはためらわない、その鎌は止まることなく振りぬくだろう。 速度重視の彼女の攻撃を完全に避けるのは力をつけた私でも容易なことではない。 ただし、それは普段なら、の話だ。 彼女はすでに構えていた。 その時点で薙ぐ鎌の軌道は限定されている。
私は一歩を踏み出すと同時に斧を左側に縦に振る。 正直賭けではあった。 彼女が足を狙ってきたなら間に合わない。 けれど今の彼女はそこまで冷静ではない、上半身だろうと賭けての行動だ。
ガキィン
私の斧が弾かれる。 弾かれた反動のままに右へと体を泳がす。 次の一手にも警戒はしていたが、カルラはそこで少し落ち着きを取り戻した。 状況としては悪化しているけれど。
「あーらら。 これから一緒にやっていくんじゃなかったっけー? なーんで勇者様とやりあわないとなんかねー」
もうこれで次の一手は読めない。 彼女は鎌、私は斧、どちらも大ぶりな武器だけど速度の面では彼女に分がある。
「・・・やめないんだよね?」
「・・・あなたもやめる気ないでしょ?」
「エレンディアがやめるなら私も考えるよ。 うん、本当」
「まぁやめないけどね」
言うや彼女に素早く踏み込む。 カルラも即座に位置を変えようと動く。 お互いの武器は近距離に弱い。 だから常にある一定の距離を保つ。 けれどそれは双方が戦う意思があれば、の話だ。 私はカルラと戦う気は無い。
私は彼女の左側から近づこうとする。 必然的にカルラは空間のある右側へ移動しようとする、がそこに私は斧を振る。 ただ振っただけ、薙ぐ意思はない。 移動先を奪うためだけのもの。 距離を維持することが大事なため、異物がある時点で対策を考える。 その異物をどかして場所を得るか別の場所を取るか。
下手に私の力を理解しているからこそ、彼女は他の場所を取ることを選んだ。 右に移動しようとし、後ろへ下がる。 後退は逃げ場を失うことにはなるが、現状の立ち位置を確保する分には問題ない。
私は追うように間を詰める。 彼女は場を手に入れ、鎌を薙ぐ。 すかさず私は斧の持ち手を中ほどまで滑らせ短く持ち、彼女の鎌を精一杯はじく。 かろうじてできたものの完全にはいかず、振り切った鎌は私の頬を裂いた。
だけど彼女の懐には入れた。 もう鎌も斧も振れない。 私と同じように柄を短く持とうとする手を掴む。
その瞬間彼女の身体がびくっと震える。
「っ!」
息をのむ音と同時に蹴りが飛んでくる。 かろうじて足を上げて防ぎ体勢は崩していないものの、受けた部分がじんじんとする。
「・・・捕まえた」
「・・・は・・・はな、ふっ、離して・・・っ」
震える声、荒い息、その状態でも尚蹴りをもって状況打開しようとする。
「離しなさいよっっ!!」
掴んでいる私の手への嫌悪で集中がそこに向う。 その刹那の瞬間に私は手を離し斧を捨て、さらに踏み込んでその勢いのまま彼女を抱え込んで押し倒す。
「~っ!!」
その倒れこむわずか数秒の時、カルラは委縮し硬くなった体を無理に動かし、手に持った鎌を捨て私の胸を突いて離す。 私は懸命にその突いた両手を掴み、二人は倒れこんだ。
倒れた衝撃はなんでもない。 だけどカルラは目をつぶり歯を食いしばり体を小さく震わせている。 武器もなく押し倒され、嫌な記憶が駆け巡っているのかもしれない
「カルラ」
呼びかけた声にびくっと怯える。 それが私の声でも、彼女には耳鳴りのようになっているのだろうか。 小さく、小さく身体を丸めようとする。
「カルラ。 私よ、触れるのは私。 私だけよ」
恐る恐るといった感じで目を開く。
「あなたに触れるのは私だけ。 怯えないで。 あなたの中に例外を作って。 あなたに触れる者は私だけって」
「・・・」
「全てを拒絶しないで・・・私を、拒絶しないで?」
「・・・か、勝手なこと言うわね・・・エレンディアは・・・」
「私に触れて?」
掴んだ彼女の手を私の顔へと持っていく。 頬に触れた右手が裂かれた傷に触れ血に塗れる。
「・・・えぐってあげようか?」
「さんざん意地悪したからそれくらいは耐えるわよ・・・しないでくれる方が助かるけど」
「・・・どうしてここまでしなきゃいけないの? わかってるんでしょ?」
「私が、あなたに触れたいからよ」
「・・・そんな簡単な話じゃない・・・」
いまだ掴んだ両手は小さく震えている。
「エレンディアに私の闇はわかるわけがない・・・っ」
「そうね・・・わからない。 だけどそれをわかる必要は無いでしょ? もちろんあなたがわかって欲しいなら私は聞く。 でもいいのよ、そんなことは」
「そんなことっ!?」
「そんなこと、にしなよ。 もうここはバイアシオンじゃないの。 あなたの過去はもうここにもこれからにもない。 そしてあなたと過ごす未来のために私はあなたに触れたい」
彼女は私から視線を外し、耐えるように顔をしかめる。
「・・・」
「すぐには無理だってわかってる。 ゆっくりでいいから。 だからせめて許可して、触っていいって」
「・・・本当なんでこんなのを旅の道連れにしたんだか、あたしは・・・」
「・・・こんなのだからでしょ?」
「そうね・・・本当腹立つけど、そうなんだろうね・・・」
そう言って傷口に触れた右手の親指が傷を荒くなぞる。
「いっ」
「触れて・・・いいんでしょ?」
「いいよ・・・」
答える前に彼女の顔が近づき傷口へと触れる。 優しく、柔らかく。
「ん・・・それで、返事は・・・?」
すぐ隣にある彼女の耳にそっと言う。
「嫌って言ったら?」
「・・・いいって言うまで相手するわ」
そう答えるとカルラはわざとらしくうんざりしたように大きくため息をつく。
「ま、負けたんだししゃーないか。 すぐにってわけにはいかないけど」
「じゃあ最初に慣れてほしいところから・・・」
そう言って彼女の方を向く。
「目、あけててもいいよ」
「・・・ムード台無しね」
「そんなものとっくにないわよ」
そして彼女の唇に私はそっと顔を寄せる。
私とカルラのファーストキスは血の味がした。
(終)
「読み物ブログで小話ではなく戯言ばかり更新って時点でここも終わってるわよねえ」
「・・・」
「まぁ・・・趣味の場ですし、あまり追い詰めるのもどうかと思いますけど・・・」
「そうよねっ、アイリーン! あなたって本当よくわかってる!」
「とは言え、やめないって自分で言ってるのだし、もう少しがんばった方がいいとは思う・・・」
「・・・」
「だいたいしばらく前にどっかで書いたのは10分で書いたとか言ってたじゃないよー。 書けるなら書きなさいよー」
「書ける時と書けない時ってのはあるの! 仕方ないの!」
「というかエレンディア。 そこはそのままでいいの・・・?」
「・・・あそこは・・・もう書かない、かな・・・。 書けない、かも・・・」
「まーあれいろいろ痛かったから」
「痛いって言わないでよー!」
「話だけでもいろいろどうかと思う内容なのに、なんで余計なもの加えたの・・・?」
「えっと・・・それの返事は簡単だけど、他の場所のことを話すのはやめない・・・?」
「じゃあやめていいけど、ここで話すことってあるっけー?」
「・・・」
「更新全然ないしー。 話のしようがなくないー?」
「こ、今月は更新したじゃないっ」
「あれについてはもう十分ネタにしたっしょ」
「・・・」
「いちおー今ジルオールで小話は書いています・・・」
「どしたん? 頭でもうった?」
「書いても書かなくてもこの言われよう・・・」
「だってあなたこれまでを見れば当然でしょう」
「で、誰の話ー? またアトレイアー? てーかさ、平穏果てしなくって誰の話になるわけ?」
「ザギヴよ? そう書いてあるじゃない」
「?ついてるじゃないのよ! 後半なんてほとんどアトレイアだしっ」
「私としては相当がんばった話なんだけどな・・・」
「そうですね。 出てくるキャラ数、長さ、ここにしてはかなりのものですね。 私は名前しか出てないけど」
「エレンディアはキャラ増やすと話まとまらなくなるよねぇ」
「・・・今書いてるのはこれを元にしてるんだけど・・・」
「がんばってね、エレンディア♪」
「露骨に態度変わったわね・・・」
「カルラ様・・・」
「だあって、エレンディアってば私のこと好きとか言ってるくせに全然書いてないじゃないよー」
「うん。 あなた物凄く書きにくい。 全然進まない。 私とあなたしか出てないのに話が全然進まない」
「まだ完成してないのにネタばらししてどうするの、エレンディア・・・」
「あ! あー・・・そのー・・・見なかったことに・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あー・・・まぁはやく書いてよね!」
「・・・はい。 がんばります・・・」
(終)
落ちてない・・・
「あの・・・エレンディア?」
「どうしたの?」
「えと・・・この前ボクの話書いたじゃない?」
「ええ、そうね」
「後から『インフィニット準拠』とか注釈つけてたじゃない?」
「・・・うるさいわね。 初代ジルオールだと『ボクの姉さんになってよ』は言わないことを思い出したからよ・・・」
「あのね・・・ボクの記憶が確かなら8年前のボクの話もやっぱりインフィニット準拠だと思うんだ・・・」
「え!?」
「あの時のシャリの台詞ってインフィニットからの追加じゃなかったかな・・・シャリエンド自体がインフィニットからだし・・・」
「ええっ!?」
「他の話はたぶん注釈いらないのー。 ルルアンタのエンディングは初代と変更なかったから」
「私は変更あったのだけど、近衛将軍になるという点しか話には使われていないし影響してなかったわね」
「え? え??」
「その・・・つまりボクの話だけインフィニット以降な要素が入ってて・・・」
「嘘ーっ!!」
「エレンディアは初代版はインフィニット以降プレイしてないからいろいろ忘れているのー。 インフィニットが一番好きというわけではないけれど、初代版は出すのがめんどいし2周目要素もないからプレイし直すのがたいへんで避けてて、PSP版は嫌いなのー」
「だからPSP版が嫌いなんじゃなくて携帯機が嫌いなのよっ!」
「でも前に文句散々言ってたのー」
「・・・」
「あ、で、でもそんな気にしなくてもいいんじゃないかなってボク思うんだよ! もう初代版ジルオールのサイトさんってほとんど開店休業か活動停止とかだし、今ジルオールで見るお客さんってインフィニット以降をプレイしてだと思うからさ!」
「初代からずっとやってるのにその程度の知識しかないのー」
「えと、ルルアンタ。 そのへんにしておこうよ・・・」
「エンサイも設定集も攻略本も持ってるのにろくろく見ないのー」
「・・・」
「それで忘れた頃に攻略本通りにゲームして攻略本の誤情報でクリア失敗して怒るのー」
「るるあんたぁぁぁあぁぁああっっ!!!」
「全部本当のことなのーっ」
「それで・・・また放置なのかしら?」
「ルルアンタの次はザギヴがいじめる・・・」
「だ、だってあなた年に数回更新じゃないの・・・」
「いちおー年内に更新はします・・・」
「あと半年もある中で年内更新するって言われても・・・」
「すでにうろ覚えだけど3か月更新無しだとブログ消しちゃうからねって連絡がレンタル先から来てたから、最低でも3か月ごとくらいには更新があるはずなのー」
「へーそうなんだー。 え、じゃあ突然消えちゃう可能性もあるってことなの?」
「そういうことになるわね・・・不本意だけど」
「エレンディアは自分が書いた物読むの好きだったわよね?」
「そういうネタばらしはやめてもらいたいんだけど、そうよ」
「なのにバックアップ取ってる話はあまりないのー。 戯言は全てバックアップがないのー」
「って、ルルアンタが言ってるけどいいの?」
「戯言も読むの好きだけど、あれは勢い任せで書いてるし管理しきれない量にすでになってるから・・・」
「なんて言うか・・・雑ね、エレンディア。 ちゃんと整理整頓くらいできないの?」
「で、でも私旅ばかりでちゃんとした家とかなかったからっ」
「そうやって現実と虚構を織り交ぜるのは現実逃避なのー」
「急ごう、すべては徒労だ。 8年かけて書いたもの、書きかけで放置したもの、いつか書こうと保留したもの、その全ては徒労である。 円卓騎士が一人『嘲笑うもの』このザハ・・・」
「デュアルスペル、アドヴェント」
「き、きさっ」
「エレンディアってわりと大人げないよね」
「私は知ってたわよ」
「ルルアンタも知ってたのー」
「あんたら・・・」
(終)
この話自体が雑だな・・・
「わ、わわっ、本当に書いたんだ? は、恥ずかしいよ・・・」
「またまたぁ、嬉しいくせにぃ」
「でもジルオール話これで6つなのに、そのうち2つがボクっていいのかなあ?」
「だいじょぶだいじょぶ、そもそも片方のあんたの話ってほぼ9割原作だから」
「それ言わないでよ・・・」
「これさー、わかりづらくない?」
「私に絵が描ければ絵で描きたかったんだけどね・・・できないの・・・。 頭に映像は浮かんでいるんだけど・・・。 まぁでもシチュエーション重視の思いつきだからこんなものでいいんじゃないかな・・・」
「あ、あのさ、えと、聞きたいことあるんだけど」
「何?」
「ボクとエレンディアって背丈の差ってあるの?」
「エステル・・・」
「な、何?」
「そこがわからないからぼかして書いたらあーなったのよ・・・」
「エレンディアってさー。 設定集だのエンサイだの持ってるくせに全然見ないよねー? なんで?」
「え? だってあまり見たら創作的に邪魔じゃない?」
「あんた、これまでに散々設定重視で設定の範囲内じゃないと書けないって言ってたでしょー!」
「う・・・」
「エレンディアの言うことは嘘は言ってないけど、その場の思いつき率が高いから話半分で聞くといいのー」
「・・・」
「あー・・・ま、そっか・・・」
「納得するのっ!?」
「9割自分の妄想で話作ってるから設定とか見るとキャラが違う場合もあるのー。 逆に言うと自分の中に入り込んでないキャラは全然書けないのー」
「やめて・・・ネタばらしはやめて・・・後で自分の首を絞めるから・・・」
「だから今やってるアンケートでフェルムとかに票が入るときついのー」
「やめてって言ってるでしょっ、ルルアンタっ!」
「フェルムダメなの?」
「んー・・・インフィニットまでなら書けるかもー・・・。 だからインフィニットプラスは除外って書いてあるのよね」
「プラスってそんな変わったっけ、エレンディア。 ボクそんな気しないんだけど」
「『フェルム』は変わったわよ。 あと他に数人。 なんせ仲間になるからね」
「それってそんな大きな違い? むしろ仲間になって書ける内容が増えるんじゃないの?」
「それ話させると長くなるわよ?」
「え、えーっと・・・」
「だいたいエレンディアはプラス好きじゃないもんね」
「プラスが好きじゃない、ではなくて携帯機が嫌いなの。 ここ重要な違いだから」
「でも前にプラスのこと散々文句言ってたのー」
「ルルアンターっ!!」
「でさー、久しぶりにジルオール熱がわいたんで、結構ジルオールサイトまわってたんだけどさ」
「へー」
「ほとんど開店休業なのね・・・」
「あー・・・まぁ、もう10年以上前のゲームだし・・・。 何度もリメイクしてごまかしてはいるけどゲーム自体はPSのゲームだからね・・・」
「あと百合サイトの無いこと無いこと・・・。 おっかしいわよねー、ジルオールって言ったら百合ゲーじゃないねぇ?」
「や、全然違うから。 それあんただけだから」
「嘘だー! インフィニットからエステルだってエンディング台詞が変わったくらいに同性エンディングも重視されてるゲームなのよ! 百合ゲーなのよ! そうよねっ、エステル!」
「え、ええっ? えっと・・・」
「あーはいはい。 相手しなくていいって、あきらかに強引に話がすり替わってるから」
「すり替わってないわよ!」
「同性エンディングも重視、までは妥協しても、そこから百合ゲーにはならないわよ」
「・・・」
「ところで知ってた? 今回のエステル話でジルオール話がなんと8年ぶりなんだけど」
「8年!?」
「ここが8年も存在してることが脅威なのー」
「そう・・・そうね・・・そうなんだけど・・・」
「なんかもっと書いてた気がボクするんだけど」
「それは前回も言ってるけど戯言のせいねー。 あれのせいでもっと書いてる気になっちゃってるのよね、エレンディアは」
「いつまでエレンディアはいるのー?」
「何? ルルアンタはさっさと閉鎖しろというの? 私のルルアンタはもっと優しかった・・・」
「そうじゃなくて黄金畑の・・・」
「言うなーーーーーっっ!!!」
「え、何ルルアンタ。 それ何の話?」
「やーめーてー」
「この戯言で少し言ってるけど、この後黄金畑でやりだして途中までは書いてたのー」
「やめてやめてやーめーてー」
「えーっと・・・で、このエレンディアの様子ってことは止まっちゃったの、かな?」
「止まった上にエステルちゃんの話みたいに9割原作引用だったから、またこんなのか・・・って自分で落ち込んでそのままになってるのー」
「・・・そこまでわかってて、いつまでいるの?とか聞いたのね、ルルアンタは・・・」
「えへへー」
「るるあんたぁぁあぁぁあぁっっ!!」
(終)
「それじゃあ、エレンディア。 行こうか!」
そう言ってエステルが駆け出す。
「そうね」
私も一緒に走り出す。
「門まで競争だよー! 先についた方の行先にけってーいっ」
少し前を走る彼女が私の方を向いて笑いながら言う。 その眩しい笑顔を見て私は言った
「エステルーっ」
「何ー、エレンディアーっ。 待ってなんかあげないよー?」
「姉さんにはならないわよー?」
言った途端エステルが足を止める。 俯いてわずかに肩が震えてる。 怒ったのかと思ったけれど、追いついて見ると顔を耳まで真っ赤にしていた。 照れている様子。
「も、もぅっ! 恥ずかしいなっ、大声でっ」
「エステルが言ったことじゃないの」
「聞かなかったことにするってできないの? いじわるだよ、エレンディアはっ」
「聞かなかったことにしていいならいいんだけど・・・」
そう言うと彼女は真顔になって上目づかいに聞いてきた。
「・・・ダメ、なの・・・?」
「ダメよ」
私は即答する。
「どうしてー!」
「あのね、エステル」
私は彼女に向けて手を開いて右手を伸ばす。 伸ばされた手の意図がわからずエステルは小首をかしげる。
「握って?」
「う、うん」
彼女も手を伸ばし私の手を握る。
「あなたが私を頼るように、私だってあなたを頼ってるのよ?」
「う、嘘だよー? ボクの方がエレンディアに頼りっぱなしだよ!」
「そんなこと思いっきり言われても困るけど・・・本当だよ? それが信じられないって言うなら、こう言おうかしら。 エステルは私が困ってたら助けない?」
「そ、そんなことないよ! エレンディアが困ってたらボク絶対助けるよ!」
「そうでしょ? うん、私エステルのその気持ちに頼ってるよ?」
そう言って笑うと彼女は顔を赤くして俯く。 隙アリ! とばかりに私は繋いだ手を引っ張る。
「と、ととっ、うわっ、エレンディア!?」
ふらふらっとつんのめって来たエステルを抱きしめる。 ふわっとした風と砂の薫りが私の胸に収まる。
「エ、エレンディアっ。 こんなところで何っ?」
「エステル、下に行かないで。 後ろに下がらないで。 私から離れないで、私の隣にいてよ」
彼女が私を見る。 少し驚いたような顔。
「エレンディア・・・」
「本当だよ? 私エステルに頼ってるんだよ?」
「エレンディア・・・・・・」
エステルが涙目になる。
「あなたが泣く時はこうして私が肩を抱く。 私が泣く時はお願いするからね?」
「うっ・・・泣かない・・・くせに・・・っ」
「泣くわよ、失礼ね。 誰かさんのせいで凄い泣いたわよ」
「ボク・・・? ううっ・・・いつ・・・? ボク知らないよ・・・」
「ラドラスが落ちた時よ。 あの時私がどれだけ泣いたと思ってるの」
そう言ってエステルの額をこつんと叩く。
「そんな・・・うっ、ボク・・・見てないもん・・・」
「そうね」
私はやわらかく笑って、エステルをぎゅっと抱きしめる。
「だから、見える隣にいてね?」
「あ・・・う、うんっ」
泣き笑いしてエステルも抱き返してくる。
しばらく抱き合って、落ち着いてきた彼女から離れる。
「と、言うことでー」
「うん。 何?」
「お先っ」
言うやいなや私は駆け出す。
「先に門についた方の行先よねー?」
「あっ! ちょ、ず、ずるいよっ、エレンディアっ!」
あわててエステルが追いかけてくる。 その彼女に向けて手を伸ばす。
「ふふっ。 大丈夫よ」
その手をエステルが握る。
「あなたの行くところが私の行くところ」
「・・・っ、うんっ。 エレンディアの行くところがボクの行くところ!」
「どこまでも」
「いつまでも!」
そして私たちは手を繋ぎ、今度こそ新たな冒険へと旅立った。
(終)
「この前なんか意味わからない場所であなた書いてたじゃない?」
「意味わからないってどういうことよ・・・」
「なんでここで書かないの? ってことに決まってるじゃない、やーねー」
「まぁ・・・その、衝動的なものだから・・・」
「あれってば、痛くない?」
「そゆこと言わないでよっ! 私だってそう思ってるんだから!」
「痛いと思ってるならやめればいいのに・・・だからエレンディアは・・・」
「はいはい、アイリーン、お説教はあとにしてー。 言いたいことあるからさー」
「言いたいこと? 何よ」
「だからなんでここで書かなかったのよ?」
「え、だって・・・ここの趣旨からダイナミックに外れてるよ、あれ? エルファス×女主と黄金畑姉弟&ナッジ&ヴァンだし」
「てかなんであんなの書いたの? 頭でも打った?」
「カルラの中の私っていったいどんななの・・・?」
「こんな」
「こんなですね」
「・・・」
「だいたいここ別に百合縛りじゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
「いあさー、この前久しぶりに見直して驚いたんだけどさ。 結構ジルオールで書かれたつもりでいたけど、全然書いてないのね、エレンディアってば」
「あれ? そうだっけ?」
「たったの5本。 5本しか書いてないから!」
「あれー? そうだったっけー?」
「それってさ、あきらかにこれのせいだよね」
「これ?」
「戯言でしょ。 戯言ではわりとジルオールって書いてるから、エレンディアは・・・」
「あ、あー、そうかー!」
「そうかー、じゃないわよ。 書きなさいよー」
「うぐ・・・でも時間が・・・」
「時間が・・・、じゃないっての。 あんなとこで書いてるじゃないよー! あれはなんなのよ!」
「あれ、10分くらいで書いてるよ?」
「あのね、エレンディア。 こういう話を出すのは本当は嫌なんだけど、黄金畑姉弟の話って当初書く予定なかったよね。 本当はエステル話のはずだったよね」
「待って待ってカルラ。 ここ見てる人にはわからないネタばらしやめない?」
「というかあなたしかわからないネタばらしよ。 本当はエステル話書こうとして百合話だから、『あ、これ書いたら怒られるかもー』ってその場で黄金畑姉弟の話書いたわよね? ならエステル話ここで書きなさいよ」
「・・・だって、あれ凄い短いよ・・・?」
「アカイイトだって長短入り乱れでしょー。 書けるものはどんどん書いていきなって。 せっかくスイッチ入って書ける状態なんだから、そゆ時に書かないとまた書けなくなるよ?」
「・・・なんか今日のカルラ優しくない?」
「言われてみればなんとなく・・・」
「別にー? あたしはいつも通りよ?」
「いやいや、いつものカルラはもっと厳しかった!」
「私もそう思います」
「あら、アイリーンまでエレンディアの肩を持つの?」
「そ、そういうわけでは・・・」
「エステルちゃんの話以外にカルラちゃんの話の構想もあるからじゃないのー?」
「あっはっはっはー、ルルアンタは相変わらずだねー。 エレンディアの気持ちが少しわかったわー。 ちょっとあたしと向こうで話しましょうか、ルルアンター」
「カルラちゃん、なんで鎌持つのー・・・?」
「カ、カルラ様、落ち着いてっ」
「・・・まー、向こうでは書けない気がするし、近いうちに書くわよ・・・」
「ちゃーんと、エステルのだけじゃなくてあたしのもよろしくねー」
「えーと、そっちは微妙・・・エステルのは書くー・・・」
「なんでよっ!」
「だってあれ頭の中である程度話進んだら、わりと殺伐としてたよ? 大丈夫?」
「エレンディアががんばればいいんでしょ? がんばってー」
「がんばれないからこうなってるのに・・・」
「あまりそーゆーこと言ってると、また書く書く詐欺になるのー」
「るるあんたぁあぁぁっ!」
「嘘は言ってないのーっ」
(終)
「案の定続かなくて逃亡だったねぇ」
「・・・いろいろ理由があるんだ」
「まぁ聞き飽きたから言い訳はいいよ、別に。 誰も期待もしてないし問題ないしー」
「そういうこと言うなよーっ」
「まぁ事実だから仕方ないですね」
「・・・」
「いろいろ理由があるのだけど、特に致命的だったのはPS2が壊れたことでね」
「だから言い訳はいらないっつったろ、バカなの?」
「・・・」
「えーと・・・言い訳しないともう話すネタが尽きたわけなんだけど・・・」
「お前、それでも社長かよ」
「社長関係なくない? ていうか社長にその言葉づかいおかしくない!?」
「・・・最近は社長は何をしておいでなのですか?」
「マンガ読んでたりしてます・・・」
「ゲームは?」
「ちょっとなんか気力と体力がなくて・・・」
「てーか社長って何があるの?」
「何って?」
「気力も体力も根気もやる気も才能も時間も何もないじゃん?」
「・・・」
「何があるわけ?」
「・・・殺意ならあるかな・・・」
「何言ってんの、度胸が無いんだからそれ意味ないでしょ」
「ねぇ、こいつすっげームカつくんだけどっ!! 解雇しましょうよ、秘書さんっ!!」
「留守の社長よりはよっぽど役に立ちますので、それは承諾致しかねます」
「・・・」
「その読んでるマンガなんだけど、女子バレーの話なのですね」
「無理やり話しだしたな」
「百合的に見ることも可能ではあるけれど、基本的にメインどころのキャラたちは全部恋愛対象の異性がいるのですよ」
「真鍋さんが少し追い詰めすぎたからでは・・・」
「私だとこの時点でこの作品で百合な2次創作は不可能になるのだけど、独自の想像力で百合な2次創作を作っていく人とかもいるじゃないですか。 私の好みではないもののあれはあれで凄いなぁって思ったんですよね」
「ほっといたらなんかバカなこと言ってるんだけど」
「さんざんスルーして拾ったと思ったらそれですか」
「創作なんだからどういう展開になろうがおかしくないだろ。 お前の想像の枠が狭いだけのことで人が凄いっていうのは、ただ視野が狭いってのを自覚してないだけの話じゃんさ」
「・・・」
「そもそも恋愛対象の異性がいたら百合じゃないってのがすでに視野が狭い」
「なんでだよぅ」
「最終的に一人を選ぶなら誰を選ぶ、が焦点なんじゃないのー?」
「・・・」
「お前も創作してるつもりならもっと視野広くもたないと話にならんって理解しとけよな?」
「・・・はい、すいません・・・って、なんで謝らないといけないんだーっ! こいつ黙らせましょうよ、秘書さんっ!!」
「社長よりは弁が立つので、それは承諾致しかねます」
「・・・やっぱりここは地獄だった・・・」
(終)
春まであと少し、遂にWCWWのタイトル戦が行われることになる。 カードはすでに楠木とアドミラルと決定していて、本人たちも結構ナーバスにはなっている
それにあてられて他の面々も多少ぎこちない感じがジムには感じられた
現在担当している麗華に練習メニューを伝えひと休みと思ったら、ベンチで真鍋が考え込んでいた
「どうした? 珍しいな、おとなしく考え込むなんて」
「んー、まぁね」
気の無い返事で考え続けている。 てっきり噛みつかれるものと思っていたので拍子抜けし、そして不安になった
「どうした? 悩みなら相談してくれ」
「いや、たいしたことじゃないよ。 さとみんにはかなり離されて追いつけなさそうだなってだけ」
「・・・」
適当な同情ならできる。 だがそれをしたら本気で怒るだろう。 小縞はすでにトップ争いに参加しているが、確かに本人の言う通りまだ結論づけるには早い時期ではあるものの、真鍋が追いつくのはかなり困難であろう
「今のままじゃ当て役にもなれないからね・・・」
「ふむ・・・ま、しかしその中でがんばるのも大事だ。 ノエルだって・・・」
「あいつの話は聞きたくないんですけど」
じろっと睨まれる。 ああ、しまった、ノエルとは遺恨があったんだっけか
「あ、ああ・・・すまん。 ただな、真鍋・・・」
「あーほっといてくんない、社長? 自分で考えてるんだからさー」
「す、すまない・・・」
追っ払われながら、自分の不甲斐なさに情けなくなる。 こういう苦悩をさせる前に、こちらが真鍋をもっとうまく使うべきだった。 上の選手ばかり見ていていては社長などと胸をはれるものではない
考えてみれば中堅選手もそれなりには抱えている状態でもある。 もっと彼女らの「おいしい」使い方は考えなければならないな・・・
「社長」
後ろから声をかけられる。 振り返ると楠木が立っていた
「ん? どうした、楠木」
「考え事なら事務所の方でした方がいいんじゃないんですか?」
「え? あ、邪魔だったか? すまない」
考え込んでいたためにぼーっと立っていた。 とは言え別にそこまで狭いジムでもないが・・・
「いえ・・・。 他に聞こえてないでしょうが、口に出てましたよ。 聞こえてました」
「え・・・」
「まぁ、大丈夫だと思いますけどね」
「何がだい?」
「そのー・・・私がこういうのもなんですけど、私ら後輩がトップ争いを始めて、先輩たちが中堅扱いになったりもしています。 だけど先輩ですからね。 そのままおとなしく下で落ち着きませんよ。 なんらかの形で仕掛けてくるでしょう」
「それはわかっている。 私が考えてたのは社長として、だよ」
「あんまそっちでいじられるとこっちも動きにくいって遠回しに言ってんだよ、楠木は。 バカ社長」
いつの間にか後ろにいた真鍋が口を挟んでくる
「なっ・・・」
「あはは、真鍋先輩はきついね。 まぁでもそんな感じでもあります」
「むぅ・・・そういうものか・・・」
「上に決められて動くような人形になるくらいならこんな業界きてねーっての。 みんなそうだよ。 そっちにはそっちの思惑があるだろうから、選手が乗るべきところもあるだろうけど、介入のしすぎは勘弁しておくれよねー」
相変わらず私はまだまだらしい。 選手に教えられることばかりだ・・・。 さすがに少々こたえて肩を落として事務所へ向かおうとすると、真鍋の声が後ろから飛んできた
「そんなしょげんなよー。 心配してもらって悪いね、私はなんとかするよ」
「そうですよ、社長。 もっとうちらを信じて期待してくださいよ。 がんばりますから!」
選手に教えられ励まされ、社長としての面目は立たないが・・・まぁ素直に嬉しい。 それに選手に心配させているようでは確かにまだまだだ
「わかったよ。 楽しいリングを期待してる。 がんばってくれ」
まだまだ一人前の社長は遠そうだ・・・
(終)
新女のEXタッグリーグ、その裏でWCWW今年最後のシリーズは行われていた。 注目度においてはやはり全国ネットのEXに負けるものの、WCWWのファンやまた業界的にはこちらもすでに注目のシリーズでもある
この流れを作るためだった連続タイトルマッチのシリーズは今年いっぱいまでだ。 そうでなければファンにも飽きられてしまうしタイトルの価値も損なわれる
今後団体を引っ張っていくだろうと思われた小縞を倒し2冠王者となったアドミラル。 やはり団体を引っ張るのはヘビー級になるのかな、と思わされた
さて、そのアドミラルだが、防衛戦はどうなるか。 先輩である楠木が立ち向かう。 これにより一通りうちの注目株をタイトルマッチの舞台に上げ、世間様へのアピールが済むことになる。 そのためのカードだ。 ただ正直私の予想ではアドミラルの勝ちと踏んでいた。 それは先シリーズのアドミラルの小縞への勝ち方が鮮やかだったからだ、これは当分勝てる選手が出ないかもしれない・・・そう思わされたものだ
ところが私はまた予想を外す。 まだまだ選手たちの力が見えていない、と少々へこまされた
まさかアドミラルが両方奪われるとは全く予想をしていなかったのだ。 楠木が第5代BDヘビー、第9代WARS無差別の2冠となったのであった
この連続タイトルマッチシリーズの間、防衛は小縞のそれぞれ1回だけで目まぐるしくタイトルが移動していった事実は、経営面においては素晴らしい成果を出したが、団体としては必ずしも望む形ではなかった。 というのも団体としてはエースをはっきりさせたかったのだ。 そこから生まれるムーブメントが次へのステップになると考えていた。 もちろん今の状態もダメというわけではない。 しかし柱は据えておきたいと思っていたのだが・・・これでは誰が柱となるのか・・・
「社長、難しい顔をしてらっしゃいますね・・・?」
「ん・・・霧子くんか・・・」
「興行は大成功だったかと思いますが・・・EXのことですか?」
そう、メロディたちを送っていたけれど、興行はまさに大成功といってよかった。 顔をしかめる理由がない、ふつうなら
「今回だけで見るなら大成功ではあるが・・・今後のうちをどう見せていくかという点では少々難しくなってきたな、とね」
そう言うと霧子くんはきょとんとした顔を浮かべる。 そして笑って言った
「その答えは彼女たちが教えてくれますよ」
言われて私も少々考えすぎていたことに気付く。 そうだ、リングに上がる彼女たちが答えを見せてくれる。 フロントはあまり介入するべきではなかったな・・・
「・・・そうだね。 ちょっと考えすぎていたようだ」
そして年末恒例のプロレス大賞の発表が行われた。 早瀬が新人賞をメロディ対ノエルがジュニア賞をもらう。 大賞はマイティ祐希子であった
「龍子はまだいけると思っていたが、WARSベルトを奪われたからなぁ・・・。 それに対してマイティはアジアヘビーとNJPWヘビーの2冠で防衛も重ねてる。 この受賞は必然かもな」
「まぁくやしいけれどあんな試合見せられちゃ文句の言いようもないですね」
楠木がそう言うと
「あんな試合でごめんなさいね」
とメロディが言った
「あっ、いやそういうつもりじゃないんですっ、メロディさんっ」
「私も別に嫌味とかじゃないわよ。 本当あそこまで強いとは思わなかったのよね」
「でもメロディさん凄かったですよ! 私凄い感動しましたっ!」
小縞が当時と同じようにきらきらした目でメロディに言う
「ありがと。 でも・・・来年は倒さないとね・・・来年こそはうちが優勝しないとうちは結局『新興団体』の枠から抜けれないわ」
「メロディの言う通りだ。 誰が行くことになるかはさすがにまだ気が早いが来年は確実に取りに行く。 みんな頭のどこかに置いておいてほしい」
「ねー社長?」
「なんだ真鍋」
「それって誰の腰にベルトがあってもってことー?」
にやにやと笑いながら聞いてくる。 わかってて聞いてくるからこいつにも本当困る
「・・・王者は出さないよ。 うちは新女を超えるからね。 わざわざ王者が相手するつもりはない」
「やっぱそっかー・・・。 うちで王者として興行出るのとEX出るのはどっちがおいしいかなぁ」
「タイトル持ってからそういうことは言えよ・・・。 って、そうそう、それだ」
「ほへー? それだ、って?」
「新年、というかこれからのWCWWとしてもそろそろ看板が必要な頃合いに来た。 すでに作らせているが、WCWW無差別級ベルトを用意している」
「「!」」
皆の目の色が変わる。 当然ではあるが
「これに伴い、来月はその挑戦権を賭けたリーグ戦を行う。 決勝のカードで春にWCWWタイトルマッチを行う。 参加・不参加は自由とする」
「不参加自由は余計だね、社長。 あたしが行けるとは思ってるわけではないがここの選手である以上チャンスはありがたくもらうよ。 皆もそうだろう?」
ケルベロスが言うとみな頷いた
「そうだな、済まない。 来月みんながんばってほしい」
そして新年興行、予告通りのWCWW全員でのリーグ戦。 おおよその予想通り、決勝のカードは楠木対アドミラルであった
私が思っていた以上に楠木とアドミラルが団体を動かし始めていた。 新しい流れが始まろうとしていた
(終)
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