数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
「こういうのはどうじゃ?」
多くの混乱を越え世界が再び平和に向かって歩みだし始めた頃、各国の首脳陣の集まる中でマシロ女王が言い出した。
彼女はこの短い中で成長し、最近では幼くつたないながらも女王としての責を理解し勤めているようだ。
「それはいいですね。 校長はどう思われますか?」
ヴィントブルーム王国と並び復興が進んでいるエアリーズ共和国のユキノ大統領が後押しをする。
「そうですね…。 いくつか難しい部分はありますが、賛同はできます」
「では決定じゃっ! さっそく準備にかかるといいっ。 協力は惜しまんぞ!」
「と言うわけで、皆に集まってもらったわけだが」
ガルデローベ学園そばに造られた建造物の一室に五人。
ガルデローベ学園長にして五柱の一人、『氷雪の銀水晶』ナツキ・クルーガーが四人を前にして言う。
「はあ? なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?」
この中では一番年少にあたる新任、『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャンが不平をあげる。
「ま、立場上そうなるのは必然ですね」
即座に切り返したのは、言われたナツキではなく『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー。
「そうねぇー。 しょうがないんじゃないのー。 あたしも気は進まないんだけどー」
続けて口をそろえるは『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス。
「なんでよ」
「我々五柱は各国に対し、中立の立場であることは以前と変わっていないからだ。 この計画の性質から言って、我々以外に適任な人材はいないと思う」
「はあ? つーかこれって何するわけ?」
態度からしてだるそうにナオが言う。
「お前、話を聞いてなかったのか?」
ナツキが顔をしかめる。
「あんたの堅苦しい説明は聞いてると疲れてくんのよ。 もっと簡単に話してくれない?」
「つまりここは情報発信基地になるわけどす」
微笑を浮かべいつの間にかナオの横に立っているのは、『嬌嫣の紫水晶』シズル・ヴィオーラ。
「情報発信?」
「ガルデローベの技術を各国にも提供するのが目的。 すでに各国に送った端末でこちらからの情報を受け取ることはできるようになった」
「受信だけねー。 でまあ、そういう重要な内容だから、ある程度責任ある立場でないといけないからあたし達なわけ」
「アスワドはんの協力もあって全ての国に通信できるようになっとります」
ナオ以外は理解している模様。 それぞれが解説を繋いでいく。
「それでここから各国が利用できそうな技術を伝える、ということだ」
「つっても、あたし何も知らないわよ。 何を伝えろっての」
「それについてはヨウコとアスワドの面々が考慮してくれてる。 この発信はだいたい月に一回で行う予定だが、その都度どの情報を送るかは連絡が来るから問題はない」
「月一ねー。 それでもわざわざここに来るのはめんどいわよねー」
薄笑みを浮かべながらマーヤがナツキの方を向いて言う。
「また、これはエアリーズ共和国のユキノ大統領の提唱で、公共連絡になることも決定している」
「どういう意味ですか?」
「つまり、国家首脳陣にだけ伝わる連絡ではなく、国全体への送信となるということだ」
「はあ?」
「要するに、月一で我々の声が世界中に流れるというわけですね」
「…げっ。 冗談でしょ?」
露骨に嫌そうな顔をしてナオがナツキを見るが、ナツキは小さく首を振る。
「それにこの計画はすでに決定事項だ。 このように専門の施設も用意された以上、我々に拒否することは許されない」
「そういうわけで、今回の内容はこれになる。 各自目を通してくれ」
そう言ってナツキは四人に紙を渡す。 それぞれ目を通し始める。
「放送は一週間後を予定している。 それでは皆頼む」
そう言い残し立ち去ろうとするナツキにナオが口を出す。
「これ、誰が喋るのよ」
「皆で決めてくれればいい。 特別誰と決めているわけではない」
「…なんか自分が入ってないみたいな物言いじゃない? あんたはどうなのよ」
「すまないが、私は学園の方で仕事があるのでこれには参加できない。 今後においては善処するつもりだ。 では後はよろしく頼む」
「ちょっと待ちなよ。 何勝手なこと言ってんのさ。 そんな自分勝手許されると思ってんの?」
「まあまあ。 ナツキは学園の仕事だけでなく、各国との折衝もあるさかい。 堪忍しておくれやす」
ナオがナツキに詰め寄ろうとした所、シズルが間に割ってはいる。
「止めなくていいのですか?」
サラがマーヤを見て尋ねる。 しかし彼女は薄笑みを浮かべながら楽しそうに答える。
「そう思うならあんたが止めればー? 楽しそうじゃない」
「全く…。 マーヤお姉さまは相変わらず趣味が悪いですね」
そう言ってサラはため息をついた。
「どいてよ、あたしは学園長様に話があるんだけど?」
「少し落ち着かれたらどうでっしゃろ? ナツキかて悪気はないんやし」
「ハッ、どうだか。 こんな勝手に話決められて黙ってなんかいらないわよ。 自分は高みの見物なんて、冗談じゃない。 口だけ学園長にはついていけないね」
怒りの表情でナオが言うと、シズルの顔に昏い影がさす。
「あー…」
「新任は考えが足りないわねー。 この前までここの生徒でしょうにー」
「外野うるさいわね、何か言いたいわけ?」
ナオは後ろを振り向き二人に言う。
「あんた、『嬌嫣の紫水晶』を知らないわけ?」
マーヤがナオに言うと同時に、
「…マテリアライズ」
シズルの静かな声が狭い一室に響く。 ジェムが輝き、紫のローブがシズルの身に纏われる。
「…そうどすなぁ…新任さんに五柱のあり方を指導せえへんといかんなぁ…」
薄笑みを浮かべシズルがゆっくりと口を開く。 だが目は昏い影がさしたままだ。
「マテリアライズっ」
その顔に畏怖を感じたナオも慌ててローブを着用する。
「ここではまずいと思いますが」
「そうねー。 ちょっとマズいわねー」
身の危険を感じローブを纏った二人が勝手なことを口にする。
「…そうどすなぁ…ここではナツキに迷惑がかかるかもしれまへんなぁ…。 …ほな…場所変えましょかぁ…」
言うやシズルが手に持った薙刀を振る。
ガズッ、という音とともに壁が崩れ去り、シズルが外へ出る。 唖然とする三人。
「あー…。 これは本当にマズいわねー。 なんか完全にスイッチ入っちゃってるじゃない」
「私、学園長を呼んできます。 それまでマーヤお姉さまお願いします」
壁に開いた穴から声が飛んでくる。
「…さあ…指導の時間どすえ…」
「う、うわっ!?」
声と同時に飛んできたシズルの蛇腹剣にナオが引きずりだされる。
「あたしじゃ無理だから、はやく頼むわねー」
「はい」
「ちょっとあんた…本気?」
先頃の混乱期の反省から、オトメはまだ各国にいるものの、基本的にオトメの軍事行為は厳禁になっている。
「…これは後進の指導ですから…」
「…そう…なら、あたしも手加減しないよっ」
「あの自信はどこからくるのかなー。 無駄だっての。 …それにしても嬌嫣の紫水晶がああも簡単にキレちゃうとはなー」
ナオが構え直す、と同時にシズルが動く。 右手の薙刀を水平に構えたかと思うと、薙ぐかのようにナオの右手方向へと高速で飛ぶ。
「くっ!?」
あわてて爪を振り回し、糸を繰り薙刀の刃を絡ませて止める。 しかし、シズルは刃を止められるや蛇腹に伸ばしナオを振り飛ばす。
「うあっ!」
糸を伸ばし近くの木に絡ませ体勢を立て直す。 そこにシズルの蛇腹剣が飛んでくる。
「そう何度も食らわないってのっ」
蛇腹の伸びた部分を糸で絡み取る。 そしてお互い力を出して動きが取れなくなる。
「くくく…」
「…」
無表情でシズルは片手で堪え、空いた手を懐へと伸ばす。
「ちょ、ちょっとっ! マズいって、嬌嫣の紫水晶っ。 それは本当にマズいってのっ!」
様子を伺ってたマーヤが飛び出しシズルの手を掴む。 ゆっくりとシズルがマーヤを見る。
「…」
「落ち着きなさいっての。 それやっちゃったら学園長も本当に困るわよっ」
「っ!」
シズルの動きが止まる。
「何をしているっ!」
ちょうどその時ナツキの声が飛んできた。
「いったいどういうことだ?」
四人を前にしてナツキが厳しい表情で問う。
「ちょーっと、新任の指導が行き過ぎちゃってねー」
「…何が指導だっての。 殺る気全開だったじゃないのっ」
「あー、あんたはちょっと黙ってて」
マーヤがナオを押しやり、サラが合わせて引っ張る。
「ちょっとっ。 何すんのっ、あんたらっ!」
「シズル、どういうことだっ?」
「ナツキ…」
肩を落とし、シズルは俯き加減にナツキを許しを乞うように見る。 その様子を見ながらマーヤがナツキに向かって言う。
「あー…、学園長。 嬌嫣の紫水晶の事情聴取はそっちでやってもらえるー? こっちで破絃の尖晶石についてはやるから」
「しかし…」
「一緒にやっててまた揉めたら意味ないでしょー。 基本、謹慎の方向で片つけといて。 つまり、この企画から嬌嫣の紫水晶を外して」
「それは…」
「こっちでなんとかするからさ。 そっちはなんとかお願いねん♪」
ため息をついてマーヤを見る。
「おもしろがって見てたんですね、『怜踊の蛍石』ともあろう方が。 どうしてあなたはそう…」
「だから悪かったってぇん。 だからそっちはよろしく」
「…仕方ないですね…」
「ちょっと。 あたしは納得できないんだけど」
ナツキに連れられシズルが去った後、マーヤとサラを睨んでナオが言う。
「あんたねぇ…。 嬌嫣の紫水晶の前で学園長に絡むんじゃないわよ、ここの生徒でしょうが」
「調べによると、この子は学園長としばらく一緒に動いていたらしいですわね。 学園長とエアリーズまで行き、その後カルデア、黒い谷を経て、ヴィントブルームに帰還」
「はぁん。 それで学園長にあーゆー態度がとれるわけか」
「元々の性格もあるでしょうけど」
「それがなんだってのよ」
自分の言葉を無視された上に目の前で自分について話されているのは気分がよくない。 不機嫌にナオが口を出す。
「で、嬌嫣の紫水晶はそれも気に入らないわけね」
「おそらく」
「ちょっとっ。 無視してんじゃないよっ」
「うるさいわねぇ。 あんたはあたしに貸しがあるんだから、黙ってなっての」
ひらひら手を振ってマーヤはナオの方すら見ずに返事をする。
「はあ? あたしが、いつあんたに貸しを作ったっての?」
「さっきよ。 あんた、あたしが嬌嫣の紫水晶止めなかったら死んでるわよ」
「あん? 別にそこまで追い詰められてなかったわよ」
「バカねぇ…。 あの時嬌嫣の紫水晶はスレイブ召還しようとしたのよ? どうやったら対処できんのよ」
「な、なんでスレイブなんか召還できんのよっ」
「アスワドにでも貰ったんじゃない? それに召還しなくても嬌嫣の紫水晶には勝てないわよ」
「…そこまで大事になってたんですか?」
呆れたようにサラが言う。 マーヤはため息をつきながら頷く。
「ま、最初の一手から殺る気だったからねぇ…。 これは当分あの二人はここに呼ばないことにするしかないわねー」
「…仕方ないですね…」
と、サラは何か考えついたかのように笑みを浮かべる。
「では代わりを用意しましょう。 少し連絡してきます」
そう言って部屋を出て行く。
「よく理解できないんだけど」
「まあつまり、あたしら三人でこれやらなきゃいけなくなったから、銀河の藍玉が学園長と嬌嫣の紫水晶の代わりになるのを呼ぶってさ」
「なんで三人でやんの。 あいつらにだってやる義務があんでしょっ」
「あんた嬌嫣の紫水晶に目ぇつけられといて、よくまだそんな口きけるわねー。 生憎あたしはそんな修羅場にいたくないんで却下」
「…」
「マーヤお姉さま、何か連絡が来てますよ」
「んー?」
戻ってきたサラがマーヤに手紙を渡す。 それを受け取り見ている内に、サラが目を見開く。
「ごっめーん。 あたし一旦帰るわー」
「は?」
「うん、すぐ戻るからー。 後よろしくー」
言うやいなやマーヤが出て行く。
「ちょっと待ちなよ、あんたっ。 あんたも止めなくていいの!?」
ナオがサラに問うもサラは動じずあっさりと答える。
「マーヤお姉さまは人の言うこと聞きませんから。 それにだいたい理由はわかりますし」
「何だっての」
「今マーヤお姉さまはカルデアに駐留しているらしいんですが、そこでオトメの監視をしているらしくて」
「あ、あー…アカネか…」
少し前に久しぶりに会ったアカネの様子が思い出される。
てっきり男と逃げ切ったと思っていたが、いまだオトメであった彼女。 あの微笑みをたやさなかった彼女は存外荒んでいた。
「ここに来る際に影武者を置いてきた、とさっき言ってましたから、それがバレたのでしょう」
「…アカネ苦労してんのね」
「…」
「今日が放送日というわけですけど…」
「あたしとあんたの二人でどうすんのよ」
シズルが壊した壁の修復は済んだものの、人は減ったまま当日を迎えてしまった。
「おかしいわね…。 私の方は来るはずなんだけど」
サラが呟くと同時にこの施設のスタッフが飛び込んでくる。
「『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー様、エアリーズより使者がいらっしゃってます」
「ああ、来たようね。 ここに通してください」
「はっ」
「何?」
「五柱の代理を呼んだのよ」
「…」
「…チエじゃない、何やってんの?」
入ってきたのはナオの学生時代同級であったチエ・ハラードであった。
「ええ…、エアリーズ共和国ユキノ・クリサント大統領のお言葉を。 『銀河の藍玉のご意向ですが、現状アーミテージ准将には外交及び国防の任があり、そのような大役は務まりかねます。 代理としてチエ・ハラード少尉が受けさせていただきます』」
「はあ? チエ、あんたもたいへんねー…」
「…私、ハルカお姉さまに直接連絡したのですけど?」
「つまり、勢い込んで出て行こうとしたアーミテージ准将をユキノ大統領が発見し、事の次第を聞いてこうなったと」
淡々と答えるチエ。 サラの目が妖しく光る。
「随分と勝手なことされますね、大統領閣下も。 これは公的命令のつもりでしたが。 そもそも現在の状況で国防のためとは…」
「まあ、連合会議になっても勝てる目算はありそうですが」
「…すでに手を打ってますか。 さすがに一筋縄ではいかない方ですね。 いいでしょう、直接話します」
「って、ちょっとあんたっ」
ナオの声を無視してサラが出て行く。 後にはナオとチエだけが残る。
「どうなってんのこれ…」
「ま、いろいろ、ね。 アーミテージ准将は人気者だから。 それよりシズルお姉さまとやりあったんだって? 無茶するね、君は」
「…そんなつもりじゃなかったけどさ、なりゆきよ。 …で、何。 あんたやるの?」
「一応国家命令だしね。 ま、仕方ないさ。 むしろ渡りに舟だったかな?」
「はあ? 何が楽しくてこんなのやんのよ?」
呆れた顔でチエを見てナオが言う。
「いや、別にこれがやりたいわけではないけど。 ヴィントブルームに来るのは嫌じゃなかったんでね」
「どうしてよ」
「かわいい後輩達に会いたかったしね」
そう言って昔のようにどこからか取り出した青い薔薇をナオに差し出してウインクする。
「はっ。 相変わらずお盛んね」
差し出された薔薇を軽く払ってナオはそっぽを向く。 払われたチエは機嫌を悪くするでもなく笑い、窓の外に見えるヴィントブルーム城を見つめる。
「すいません。 『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャン様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様の使いがいらっしゃってますが」
「はあ?」
「おやおや、アカネもかわいそうに」
哀れむようにチエが言うと同時に『清恋の孔雀石』アカネ・ソワールがむくれ顔で部屋に入ってくる。
「…」
「アカネじゃない。 どうしたの?」
「聞くのは野暮ってもんだよ、ナオ。 建前上は『怜踊の蛍石』様に都合ができたので代理で使わされたって所…ま、つまりは私と同じようなものかな。 アカネは正式に五柱代理ではあるけど」
「…で、本音は面倒だし邪魔も出来て、一石二鳥ってとこ? 大したタマね、あの人も」
「まあ、マーヤお姉さまはああいう人だから。 とは言え、本当になんらかの事情が出来たのも事実だろうね。 仮にも五柱がそれだけで職務放棄は出来ないだろうから」
黙って立っていたアカネだったが、ぶるぶる震えたかと思うと叫んだ。
「私が何したって言うのよーっ。 もうなんでーっ!」
「したじゃない、あんた」
「うん…しょうがないんじゃないかな」
「何がしょうがないのよーっ。 うう…カズくん…」
今度は座り込んでしまう。
「なーにー? アカネってばそんなにエッチしたかったのー?」
笑いながらナオが言うとアカネは顔を赤くして手を振りながら言い訳する。
「ち、違うわよっ! わ、私はただ、カズくんと…」
「したかったんだよね」
「うう…」
チエの身もふたも無い一言にアカネは俯く。
「アカネ・ソワール様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様よりメッセージが届いてます」
「へ?」
アカネが顔を上げて、スタッフから手紙を受け取る。 開いて目を通す。
「…」
アカネの肩が震え出す。 その背中越しに二人が覗き込む。
「なになに…。 『ちゃーんとあたしの代わりを務めないとカズくんにハーレム勧めちゃうわよー♪』」
「『そういうわけでよろしくー♪ 同級生の『破絃の尖晶石』と仲良くがんばってねー』か…」
アカネは肩を震わせたまま俯いていて表情は見えない。
「本当性格悪いわねー」
「…そうだね。 アカネもたいへんだな…」
「あのー…。 もう時間なのですが…」
困った顔でスタッフが声かける。 ナオとチエが顔を見合わせる。
「えっと…私はまだ何をするか具体的にわかってないんだけど。 だいたいはわかってるけど、何を話すかは…」
「それよりアカネが使い物になんないんだけど」
「でも実際時間ぎりぎりなんです。 世界的に今日の放送は注目を集めていますから、中止や延期はできないんですけど…」
「とりあえず資料をくれるかい? なんとかやってみるよ」
やれやれといった感じではあるがチエが姿勢を正してスタッフに指示する。 切り替えの速さは昔と変わらない、いやむしろ昔以上かもしれない。
「あ、あたしが持ってるわ。 はい。 …結局五柱はあたし一人じゃない」
「それじゃ、メインはナオに任せるよ。 精一杯フォローはさせてもらうからさ」
「はあ…。 とんだ貧乏くじよ。 五柱に指名されてからこっち、碌な目にあってないわ」
「ぼやかないぼやかない。 ほらアカネも。 いい加減あきらめて手伝って」
「…」
ゆっくりとアカネが立ち上がる。
「それでは放送開始しますっ」
スタッフがそう言い合図を送る。 それを見てうんざりした顔でナオがマイクに向かって口を開く。
「えー…。 では、ガルデローベ学園より全国へ…」
「何がハーレムよーっ! ふざけないでよーっ!!」
記念すべき第一回放送を飾ったのはアカネの大絶叫であった。
後日計画は見直しが決定され、いまだ再開のめどは立っていない。
(終)
註・すいません、シズルの方言間違ってるかもしれません。 あしからず。
多くの混乱を越え世界が再び平和に向かって歩みだし始めた頃、各国の首脳陣の集まる中でマシロ女王が言い出した。
彼女はこの短い中で成長し、最近では幼くつたないながらも女王としての責を理解し勤めているようだ。
「それはいいですね。 校長はどう思われますか?」
ヴィントブルーム王国と並び復興が進んでいるエアリーズ共和国のユキノ大統領が後押しをする。
「そうですね…。 いくつか難しい部分はありますが、賛同はできます」
「では決定じゃっ! さっそく準備にかかるといいっ。 協力は惜しまんぞ!」
「と言うわけで、皆に集まってもらったわけだが」
ガルデローベ学園そばに造られた建造物の一室に五人。
ガルデローベ学園長にして五柱の一人、『氷雪の銀水晶』ナツキ・クルーガーが四人を前にして言う。
「はあ? なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?」
この中では一番年少にあたる新任、『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャンが不平をあげる。
「ま、立場上そうなるのは必然ですね」
即座に切り返したのは、言われたナツキではなく『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー。
「そうねぇー。 しょうがないんじゃないのー。 あたしも気は進まないんだけどー」
続けて口をそろえるは『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス。
「なんでよ」
「我々五柱は各国に対し、中立の立場であることは以前と変わっていないからだ。 この計画の性質から言って、我々以外に適任な人材はいないと思う」
「はあ? つーかこれって何するわけ?」
態度からしてだるそうにナオが言う。
「お前、話を聞いてなかったのか?」
ナツキが顔をしかめる。
「あんたの堅苦しい説明は聞いてると疲れてくんのよ。 もっと簡単に話してくれない?」
「つまりここは情報発信基地になるわけどす」
微笑を浮かべいつの間にかナオの横に立っているのは、『嬌嫣の紫水晶』シズル・ヴィオーラ。
「情報発信?」
「ガルデローベの技術を各国にも提供するのが目的。 すでに各国に送った端末でこちらからの情報を受け取ることはできるようになった」
「受信だけねー。 でまあ、そういう重要な内容だから、ある程度責任ある立場でないといけないからあたし達なわけ」
「アスワドはんの協力もあって全ての国に通信できるようになっとります」
ナオ以外は理解している模様。 それぞれが解説を繋いでいく。
「それでここから各国が利用できそうな技術を伝える、ということだ」
「つっても、あたし何も知らないわよ。 何を伝えろっての」
「それについてはヨウコとアスワドの面々が考慮してくれてる。 この発信はだいたい月に一回で行う予定だが、その都度どの情報を送るかは連絡が来るから問題はない」
「月一ねー。 それでもわざわざここに来るのはめんどいわよねー」
薄笑みを浮かべながらマーヤがナツキの方を向いて言う。
「また、これはエアリーズ共和国のユキノ大統領の提唱で、公共連絡になることも決定している」
「どういう意味ですか?」
「つまり、国家首脳陣にだけ伝わる連絡ではなく、国全体への送信となるということだ」
「はあ?」
「要するに、月一で我々の声が世界中に流れるというわけですね」
「…げっ。 冗談でしょ?」
露骨に嫌そうな顔をしてナオがナツキを見るが、ナツキは小さく首を振る。
「それにこの計画はすでに決定事項だ。 このように専門の施設も用意された以上、我々に拒否することは許されない」
「そういうわけで、今回の内容はこれになる。 各自目を通してくれ」
そう言ってナツキは四人に紙を渡す。 それぞれ目を通し始める。
「放送は一週間後を予定している。 それでは皆頼む」
そう言い残し立ち去ろうとするナツキにナオが口を出す。
「これ、誰が喋るのよ」
「皆で決めてくれればいい。 特別誰と決めているわけではない」
「…なんか自分が入ってないみたいな物言いじゃない? あんたはどうなのよ」
「すまないが、私は学園の方で仕事があるのでこれには参加できない。 今後においては善処するつもりだ。 では後はよろしく頼む」
「ちょっと待ちなよ。 何勝手なこと言ってんのさ。 そんな自分勝手許されると思ってんの?」
「まあまあ。 ナツキは学園の仕事だけでなく、各国との折衝もあるさかい。 堪忍しておくれやす」
ナオがナツキに詰め寄ろうとした所、シズルが間に割ってはいる。
「止めなくていいのですか?」
サラがマーヤを見て尋ねる。 しかし彼女は薄笑みを浮かべながら楽しそうに答える。
「そう思うならあんたが止めればー? 楽しそうじゃない」
「全く…。 マーヤお姉さまは相変わらず趣味が悪いですね」
そう言ってサラはため息をついた。
「どいてよ、あたしは学園長様に話があるんだけど?」
「少し落ち着かれたらどうでっしゃろ? ナツキかて悪気はないんやし」
「ハッ、どうだか。 こんな勝手に話決められて黙ってなんかいらないわよ。 自分は高みの見物なんて、冗談じゃない。 口だけ学園長にはついていけないね」
怒りの表情でナオが言うと、シズルの顔に昏い影がさす。
「あー…」
「新任は考えが足りないわねー。 この前までここの生徒でしょうにー」
「外野うるさいわね、何か言いたいわけ?」
ナオは後ろを振り向き二人に言う。
「あんた、『嬌嫣の紫水晶』を知らないわけ?」
マーヤがナオに言うと同時に、
「…マテリアライズ」
シズルの静かな声が狭い一室に響く。 ジェムが輝き、紫のローブがシズルの身に纏われる。
「…そうどすなぁ…新任さんに五柱のあり方を指導せえへんといかんなぁ…」
薄笑みを浮かべシズルがゆっくりと口を開く。 だが目は昏い影がさしたままだ。
「マテリアライズっ」
その顔に畏怖を感じたナオも慌ててローブを着用する。
「ここではまずいと思いますが」
「そうねー。 ちょっとマズいわねー」
身の危険を感じローブを纏った二人が勝手なことを口にする。
「…そうどすなぁ…ここではナツキに迷惑がかかるかもしれまへんなぁ…。 …ほな…場所変えましょかぁ…」
言うやシズルが手に持った薙刀を振る。
ガズッ、という音とともに壁が崩れ去り、シズルが外へ出る。 唖然とする三人。
「あー…。 これは本当にマズいわねー。 なんか完全にスイッチ入っちゃってるじゃない」
「私、学園長を呼んできます。 それまでマーヤお姉さまお願いします」
壁に開いた穴から声が飛んでくる。
「…さあ…指導の時間どすえ…」
「う、うわっ!?」
声と同時に飛んできたシズルの蛇腹剣にナオが引きずりだされる。
「あたしじゃ無理だから、はやく頼むわねー」
「はい」
「ちょっとあんた…本気?」
先頃の混乱期の反省から、オトメはまだ各国にいるものの、基本的にオトメの軍事行為は厳禁になっている。
「…これは後進の指導ですから…」
「…そう…なら、あたしも手加減しないよっ」
「あの自信はどこからくるのかなー。 無駄だっての。 …それにしても嬌嫣の紫水晶がああも簡単にキレちゃうとはなー」
ナオが構え直す、と同時にシズルが動く。 右手の薙刀を水平に構えたかと思うと、薙ぐかのようにナオの右手方向へと高速で飛ぶ。
「くっ!?」
あわてて爪を振り回し、糸を繰り薙刀の刃を絡ませて止める。 しかし、シズルは刃を止められるや蛇腹に伸ばしナオを振り飛ばす。
「うあっ!」
糸を伸ばし近くの木に絡ませ体勢を立て直す。 そこにシズルの蛇腹剣が飛んでくる。
「そう何度も食らわないってのっ」
蛇腹の伸びた部分を糸で絡み取る。 そしてお互い力を出して動きが取れなくなる。
「くくく…」
「…」
無表情でシズルは片手で堪え、空いた手を懐へと伸ばす。
「ちょ、ちょっとっ! マズいって、嬌嫣の紫水晶っ。 それは本当にマズいってのっ!」
様子を伺ってたマーヤが飛び出しシズルの手を掴む。 ゆっくりとシズルがマーヤを見る。
「…」
「落ち着きなさいっての。 それやっちゃったら学園長も本当に困るわよっ」
「っ!」
シズルの動きが止まる。
「何をしているっ!」
ちょうどその時ナツキの声が飛んできた。
「いったいどういうことだ?」
四人を前にしてナツキが厳しい表情で問う。
「ちょーっと、新任の指導が行き過ぎちゃってねー」
「…何が指導だっての。 殺る気全開だったじゃないのっ」
「あー、あんたはちょっと黙ってて」
マーヤがナオを押しやり、サラが合わせて引っ張る。
「ちょっとっ。 何すんのっ、あんたらっ!」
「シズル、どういうことだっ?」
「ナツキ…」
肩を落とし、シズルは俯き加減にナツキを許しを乞うように見る。 その様子を見ながらマーヤがナツキに向かって言う。
「あー…、学園長。 嬌嫣の紫水晶の事情聴取はそっちでやってもらえるー? こっちで破絃の尖晶石についてはやるから」
「しかし…」
「一緒にやっててまた揉めたら意味ないでしょー。 基本、謹慎の方向で片つけといて。 つまり、この企画から嬌嫣の紫水晶を外して」
「それは…」
「こっちでなんとかするからさ。 そっちはなんとかお願いねん♪」
ため息をついてマーヤを見る。
「おもしろがって見てたんですね、『怜踊の蛍石』ともあろう方が。 どうしてあなたはそう…」
「だから悪かったってぇん。 だからそっちはよろしく」
「…仕方ないですね…」
「ちょっと。 あたしは納得できないんだけど」
ナツキに連れられシズルが去った後、マーヤとサラを睨んでナオが言う。
「あんたねぇ…。 嬌嫣の紫水晶の前で学園長に絡むんじゃないわよ、ここの生徒でしょうが」
「調べによると、この子は学園長としばらく一緒に動いていたらしいですわね。 学園長とエアリーズまで行き、その後カルデア、黒い谷を経て、ヴィントブルームに帰還」
「はぁん。 それで学園長にあーゆー態度がとれるわけか」
「元々の性格もあるでしょうけど」
「それがなんだってのよ」
自分の言葉を無視された上に目の前で自分について話されているのは気分がよくない。 不機嫌にナオが口を出す。
「で、嬌嫣の紫水晶はそれも気に入らないわけね」
「おそらく」
「ちょっとっ。 無視してんじゃないよっ」
「うるさいわねぇ。 あんたはあたしに貸しがあるんだから、黙ってなっての」
ひらひら手を振ってマーヤはナオの方すら見ずに返事をする。
「はあ? あたしが、いつあんたに貸しを作ったっての?」
「さっきよ。 あんた、あたしが嬌嫣の紫水晶止めなかったら死んでるわよ」
「あん? 別にそこまで追い詰められてなかったわよ」
「バカねぇ…。 あの時嬌嫣の紫水晶はスレイブ召還しようとしたのよ? どうやったら対処できんのよ」
「な、なんでスレイブなんか召還できんのよっ」
「アスワドにでも貰ったんじゃない? それに召還しなくても嬌嫣の紫水晶には勝てないわよ」
「…そこまで大事になってたんですか?」
呆れたようにサラが言う。 マーヤはため息をつきながら頷く。
「ま、最初の一手から殺る気だったからねぇ…。 これは当分あの二人はここに呼ばないことにするしかないわねー」
「…仕方ないですね…」
と、サラは何か考えついたかのように笑みを浮かべる。
「では代わりを用意しましょう。 少し連絡してきます」
そう言って部屋を出て行く。
「よく理解できないんだけど」
「まあつまり、あたしら三人でこれやらなきゃいけなくなったから、銀河の藍玉が学園長と嬌嫣の紫水晶の代わりになるのを呼ぶってさ」
「なんで三人でやんの。 あいつらにだってやる義務があんでしょっ」
「あんた嬌嫣の紫水晶に目ぇつけられといて、よくまだそんな口きけるわねー。 生憎あたしはそんな修羅場にいたくないんで却下」
「…」
「マーヤお姉さま、何か連絡が来てますよ」
「んー?」
戻ってきたサラがマーヤに手紙を渡す。 それを受け取り見ている内に、サラが目を見開く。
「ごっめーん。 あたし一旦帰るわー」
「は?」
「うん、すぐ戻るからー。 後よろしくー」
言うやいなやマーヤが出て行く。
「ちょっと待ちなよ、あんたっ。 あんたも止めなくていいの!?」
ナオがサラに問うもサラは動じずあっさりと答える。
「マーヤお姉さまは人の言うこと聞きませんから。 それにだいたい理由はわかりますし」
「何だっての」
「今マーヤお姉さまはカルデアに駐留しているらしいんですが、そこでオトメの監視をしているらしくて」
「あ、あー…アカネか…」
少し前に久しぶりに会ったアカネの様子が思い出される。
てっきり男と逃げ切ったと思っていたが、いまだオトメであった彼女。 あの微笑みをたやさなかった彼女は存外荒んでいた。
「ここに来る際に影武者を置いてきた、とさっき言ってましたから、それがバレたのでしょう」
「…アカネ苦労してんのね」
「…」
「今日が放送日というわけですけど…」
「あたしとあんたの二人でどうすんのよ」
シズルが壊した壁の修復は済んだものの、人は減ったまま当日を迎えてしまった。
「おかしいわね…。 私の方は来るはずなんだけど」
サラが呟くと同時にこの施設のスタッフが飛び込んでくる。
「『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー様、エアリーズより使者がいらっしゃってます」
「ああ、来たようね。 ここに通してください」
「はっ」
「何?」
「五柱の代理を呼んだのよ」
「…」
「…チエじゃない、何やってんの?」
入ってきたのはナオの学生時代同級であったチエ・ハラードであった。
「ええ…、エアリーズ共和国ユキノ・クリサント大統領のお言葉を。 『銀河の藍玉のご意向ですが、現状アーミテージ准将には外交及び国防の任があり、そのような大役は務まりかねます。 代理としてチエ・ハラード少尉が受けさせていただきます』」
「はあ? チエ、あんたもたいへんねー…」
「…私、ハルカお姉さまに直接連絡したのですけど?」
「つまり、勢い込んで出て行こうとしたアーミテージ准将をユキノ大統領が発見し、事の次第を聞いてこうなったと」
淡々と答えるチエ。 サラの目が妖しく光る。
「随分と勝手なことされますね、大統領閣下も。 これは公的命令のつもりでしたが。 そもそも現在の状況で国防のためとは…」
「まあ、連合会議になっても勝てる目算はありそうですが」
「…すでに手を打ってますか。 さすがに一筋縄ではいかない方ですね。 いいでしょう、直接話します」
「って、ちょっとあんたっ」
ナオの声を無視してサラが出て行く。 後にはナオとチエだけが残る。
「どうなってんのこれ…」
「ま、いろいろ、ね。 アーミテージ准将は人気者だから。 それよりシズルお姉さまとやりあったんだって? 無茶するね、君は」
「…そんなつもりじゃなかったけどさ、なりゆきよ。 …で、何。 あんたやるの?」
「一応国家命令だしね。 ま、仕方ないさ。 むしろ渡りに舟だったかな?」
「はあ? 何が楽しくてこんなのやんのよ?」
呆れた顔でチエを見てナオが言う。
「いや、別にこれがやりたいわけではないけど。 ヴィントブルームに来るのは嫌じゃなかったんでね」
「どうしてよ」
「かわいい後輩達に会いたかったしね」
そう言って昔のようにどこからか取り出した青い薔薇をナオに差し出してウインクする。
「はっ。 相変わらずお盛んね」
差し出された薔薇を軽く払ってナオはそっぽを向く。 払われたチエは機嫌を悪くするでもなく笑い、窓の外に見えるヴィントブルーム城を見つめる。
「すいません。 『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャン様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様の使いがいらっしゃってますが」
「はあ?」
「おやおや、アカネもかわいそうに」
哀れむようにチエが言うと同時に『清恋の孔雀石』アカネ・ソワールがむくれ顔で部屋に入ってくる。
「…」
「アカネじゃない。 どうしたの?」
「聞くのは野暮ってもんだよ、ナオ。 建前上は『怜踊の蛍石』様に都合ができたので代理で使わされたって所…ま、つまりは私と同じようなものかな。 アカネは正式に五柱代理ではあるけど」
「…で、本音は面倒だし邪魔も出来て、一石二鳥ってとこ? 大したタマね、あの人も」
「まあ、マーヤお姉さまはああいう人だから。 とは言え、本当になんらかの事情が出来たのも事実だろうね。 仮にも五柱がそれだけで職務放棄は出来ないだろうから」
黙って立っていたアカネだったが、ぶるぶる震えたかと思うと叫んだ。
「私が何したって言うのよーっ。 もうなんでーっ!」
「したじゃない、あんた」
「うん…しょうがないんじゃないかな」
「何がしょうがないのよーっ。 うう…カズくん…」
今度は座り込んでしまう。
「なーにー? アカネってばそんなにエッチしたかったのー?」
笑いながらナオが言うとアカネは顔を赤くして手を振りながら言い訳する。
「ち、違うわよっ! わ、私はただ、カズくんと…」
「したかったんだよね」
「うう…」
チエの身もふたも無い一言にアカネは俯く。
「アカネ・ソワール様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様よりメッセージが届いてます」
「へ?」
アカネが顔を上げて、スタッフから手紙を受け取る。 開いて目を通す。
「…」
アカネの肩が震え出す。 その背中越しに二人が覗き込む。
「なになに…。 『ちゃーんとあたしの代わりを務めないとカズくんにハーレム勧めちゃうわよー♪』」
「『そういうわけでよろしくー♪ 同級生の『破絃の尖晶石』と仲良くがんばってねー』か…」
アカネは肩を震わせたまま俯いていて表情は見えない。
「本当性格悪いわねー」
「…そうだね。 アカネもたいへんだな…」
「あのー…。 もう時間なのですが…」
困った顔でスタッフが声かける。 ナオとチエが顔を見合わせる。
「えっと…私はまだ何をするか具体的にわかってないんだけど。 だいたいはわかってるけど、何を話すかは…」
「それよりアカネが使い物になんないんだけど」
「でも実際時間ぎりぎりなんです。 世界的に今日の放送は注目を集めていますから、中止や延期はできないんですけど…」
「とりあえず資料をくれるかい? なんとかやってみるよ」
やれやれといった感じではあるがチエが姿勢を正してスタッフに指示する。 切り替えの速さは昔と変わらない、いやむしろ昔以上かもしれない。
「あ、あたしが持ってるわ。 はい。 …結局五柱はあたし一人じゃない」
「それじゃ、メインはナオに任せるよ。 精一杯フォローはさせてもらうからさ」
「はあ…。 とんだ貧乏くじよ。 五柱に指名されてからこっち、碌な目にあってないわ」
「ぼやかないぼやかない。 ほらアカネも。 いい加減あきらめて手伝って」
「…」
ゆっくりとアカネが立ち上がる。
「それでは放送開始しますっ」
スタッフがそう言い合図を送る。 それを見てうんざりした顔でナオがマイクに向かって口を開く。
「えー…。 では、ガルデローベ学園より全国へ…」
「何がハーレムよーっ! ふざけないでよーっ!!」
記念すべき第一回放送を飾ったのはアカネの大絶叫であった。
後日計画は見直しが決定され、いまだ再開のめどは立っていない。
(終)
註・すいません、シズルの方言間違ってるかもしれません。 あしからず。
アオイに会いに行ったら、例によってマシロ陛下について相談してきた。
何を話しても反応なし。 けんもほろろな態度に困り果てている様子。 だったら…、
「そっかー、アリカちゃんかー。 ありがとう、チエちゃんっ」
「アオイのためだからね」
「じゃあお礼にー、今日はわたしがご飯を奢るね?」
「お礼? 別にそんなことしてもらう必要はないよ」
明るい笑顔でそう言ってくれる、それだけで私は充分過ぎるくらいのお礼を貰った。
「いやー、いつもチエちゃんには相談乗ってもらって迷惑かけてるしー。 それにね、いいお店見つけたのっ」
「ほう?」
「すっごい美味しいんだってっ。 これは行かなきゃっ」
無邪気に語るその様子が年齢よりも幼く、そしてかわいく見える。
「ふうん。 それは行かねば、かな?」
「でしょうー?」
「フフフ」
「アハハハハ」
かくして私とアオイは2人で街へと向かった。
「でもチエちゃんは凄いよねー。 トリアスNO.1だもんねー」
「いや繰り上がりなだけだから」
もう日も落ち始める中、アオイお勧めの店に話しながら向かう。
「だけどその前はNO.2でしょ? もうマイスターまですぐだね」
「ま、そうなったらアーミテージ准将の下だから、今よりたいへんだけどね」
「あー…。 あの方の下はたいへんそうだねー…」
苦笑しつつ私を見る。
「まあ、アオイの方がたいへんかもしれないけどね」
「わたしがたいへんなのは今の内だけだから。 マシロ様もいずれ大人になるわよ」
「でも今はたいへんだろう?」
「アハハ…」
ふとアオイが城の方を振り返る。
「マシロ様は甘えたいだけなのよ。 本来ならご両親である先王様達に」
「…」
マシロ女王は先王の娘とは限らない。 喉まで出かかった言葉を飲みこむ。
そんなことはアオイだってわかっている。 でも公式的にはそうなっているのだから、それでいい。 いずれにせよ、彼女に両親がいないことは確かなのだから。
「…でも、今のままでは大人になる前に…」
独り言のように呟いた言葉。 アオイの苦悩はわかる。 スラムまで生まれている現状は芳しくない。 あるいは彼女が大人になる時を待たずして…。
「どうしたの、チエちゃん? お店、すぐそこだよ」
「あ、ああ。 少し考え事をね」
「んー? 下の子達でも連れてこようかなって?」
「ははっ、私はそこまでサービスしないよ」
「いらっしゃいませ」
店はまだ早い時間にもかかわらず、結構な混みようだった。
「申し訳ありません。 只今満席でして、しばらくお待ち頂けますか?」
「あ、はい。 いいよね? チエちゃん」
「ああ」
「………あっ、これは申し訳ありませんっ! パールオトメのチエ様でいらっしゃいましたかっ! 只今席をご用意させていただきますのでっ!」
「あ、え、ええ。 ありがとうございます」
オトメ候補生への優遇。 それだけオトメを人々が求めていることがわかる。
混んでいるようだし、せっかくアオイと来ているのだから、いつもなら遠慮するところだが、ここは甘えておくのもいいだろう。 そう、思った。
だけど…、アオイを見ると、つらそうな困ったような、でも無理につくった笑顔で私を見ていた。
「どうかしたかい、アオイ?」
「う、ううん。 別にどうもしないよ」
胸の前でアオイは両手を振る。
「私には言えない事かい? なら無理には聞かないけど」
「そうじゃない…。 本当に何でも無いから…」
「お待たせしました」
先程の店員ではなく、おそらく店長、もしくはオーナーらしき人物の案内で私達は席へと案内される。 他の客に声をかけられ、それに応えながら。
その間ずっとアオイは顔を伏せて歩いていた。 注目されるのがつらいのか。 でもアオイだって普段は…。
そこでやっと気付いた。 そう、正に注目されるのがつらかったのだ。
アオイはマシロではない。 けれどマシロのわがままのすぐそばにいる存在だ。 そしてマシロ程愚かでもいられない。 だから人の目がつらいのだ。
このような特別扱いが後ろめたい気持ちになる、それをわかってあげれなかった自分が恥かしい。
「やっぱり出ようか?」
席に案内されると同時にアオイに向かって言う。
「えっ? どうして?」
「それは…、だって…」
「せっかくチエちゃんのおかげで席を用意してもらえたんだから、甘えておこうよ。 それとも何か用事あった?」
何もなかったかのように振舞うアオイを見るのがつらい。 無理に張りつけた笑顔をされるのがつらい。 …だけど、それを口にするわけにはいかない。
「さーて、何頼もうかー?」
そう言って、アオイはメニューで顔を隠す。 私にはもう何も言う言葉が見つからなかった…。
「美味しいーっ。 うん、来てよかったねー、チエちゃん」
「ああ、そうだね」
美味しい? さっきからのせいで私にはもはや味なんかわからない。 だけどアオイがそう言うのだから美味しいのだろう。
「どうしたの、チエちゃん? 美味しくない?」
「いや…」
いつも通りに振舞うアオイがつらくて、ポーカーフェイスでいられない。 だったらいっそのこと…。
「ねえ、アオイ」
「ん?」
「どうしてそんなつらいのを我慢してまで、マシロ女王に仕え続けるんだい?」
「…」
目の前の料理へと伸ばしていた手が止まる。
「別に仕事なら他にいくらでもあるだろう? それなのに…」
「どうしたの? チエちゃん。 それにわたし女王陛下に仕えてるのよ? これ以上名誉な仕事は無いわよ」
「でもそのせいでアオイはそんな顔をするようになった」
「そんな顔って?」
「つらいことを押し隠して無理やり笑顔を浮かべたり、つらいくせになんでもないような顔を浮かべたりっ」
「…」
「私はそんなアオイを見るのは嫌だよ」
そう言うと、アオイは少し俯いて小さく呟いた。
「ありがとう、チエちゃん」
そして顔を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「でもね。 マシロ様には味方がいないの。 最初からずっと。 だから、せめてわたしは、わたしだけはずっと味方でいるつもりなの」
「どうしてそうまでしてあの女王にっ。 本物とは限らないのにっ」
「…チエちゃん」
厳しい目でアオイが私を見る。 つい興奮して言うべきではない事まで口走ってしまった。
「…すまない」
「でも…そうね。 だからこそ、かもしれない。 マシロ様はもしかしたら突然皆から突き放されてしまうかもしれない。 だからこそ味方であるのかもしれないかな」
「だけど…だけどっ、アオイの、アオイの味方がいないじゃないかっ」
もはや溢れ出した感情を止める事も出来ず、私はアオイに感情をぶつける。
「わたしにはチエちゃんがいるから」
そう言って、アオイはいつもの笑顔で微笑んだ。
「…」
その暖かい笑顔は、とても美しく、そして優しかった。 それが嬉しく、悲しかった。
わがままな女王に振りまわされ、民の不満に晒され、王宮においても心安らぐ時もそう無いであろう。 なのに優しさを失わず、こんなにも暖かい。
だから私は自分に誓う。 アオイが女王に忠誠を誓う以上に、私はアオイを想う。 私がどんな時もどんな事があってもアオイの味方でいる。
例え離れ離れになろうとも、心は常にアオイの傍らに。
「おいしかったねー」
「…ほとんど味はわからなかったよ」
「もー。 チエちゃんってばもったいないー」
「ハハハ、だからまたどこか行こう。 今度は私が奢るからさ」
店を出て二人ぶらぶらと歩く。 たわいのない時間。 だけど、私には心安らぐ大切な時間。 願わくばアオイもそうであって欲しい。
出来るだけ二人でいたくて、わざと人通りを避けて城へと向かう。
「姉さーん。 準備完了ですよー」
「よし、それじゃあ…」
せっかく人通りを避けたのに何やら声がする。 …どこか聞いた事のある声のような…。
「あ」
「あ」
「ん?」
ナオだった。 愚連隊まがいのことをしていると小耳に挟んではいたが、正にそのままであった。
そして…
「すまない、アオイ」
「ううん、いいよ。 チエちゃんもたいへんだね」
とんでもない事態に早々に寮に戻る必要が出来た。 仕方なく慌ただしくアオイを城へと送る。
「それじゃあ、アオイ、また。 愛してるよ」
「こんな時にふざけないのっ」
綺麗な笑顔を浮かべ、私を見送ってくれる。
冗談に乗せた想いは届かない。 わかってはいるが少し切ない。 だけど、言えるだけでもいい。 いずれは言うことすら出来なくなるかもしれない。
「おやすみ」
「うん」
心でアオイの笑みを、声を想い返し、私は踵を返して寮へと向かった。
(終)
何を話しても反応なし。 けんもほろろな態度に困り果てている様子。 だったら…、
「そっかー、アリカちゃんかー。 ありがとう、チエちゃんっ」
「アオイのためだからね」
「じゃあお礼にー、今日はわたしがご飯を奢るね?」
「お礼? 別にそんなことしてもらう必要はないよ」
明るい笑顔でそう言ってくれる、それだけで私は充分過ぎるくらいのお礼を貰った。
「いやー、いつもチエちゃんには相談乗ってもらって迷惑かけてるしー。 それにね、いいお店見つけたのっ」
「ほう?」
「すっごい美味しいんだってっ。 これは行かなきゃっ」
無邪気に語るその様子が年齢よりも幼く、そしてかわいく見える。
「ふうん。 それは行かねば、かな?」
「でしょうー?」
「フフフ」
「アハハハハ」
かくして私とアオイは2人で街へと向かった。
「でもチエちゃんは凄いよねー。 トリアスNO.1だもんねー」
「いや繰り上がりなだけだから」
もう日も落ち始める中、アオイお勧めの店に話しながら向かう。
「だけどその前はNO.2でしょ? もうマイスターまですぐだね」
「ま、そうなったらアーミテージ准将の下だから、今よりたいへんだけどね」
「あー…。 あの方の下はたいへんそうだねー…」
苦笑しつつ私を見る。
「まあ、アオイの方がたいへんかもしれないけどね」
「わたしがたいへんなのは今の内だけだから。 マシロ様もいずれ大人になるわよ」
「でも今はたいへんだろう?」
「アハハ…」
ふとアオイが城の方を振り返る。
「マシロ様は甘えたいだけなのよ。 本来ならご両親である先王様達に」
「…」
マシロ女王は先王の娘とは限らない。 喉まで出かかった言葉を飲みこむ。
そんなことはアオイだってわかっている。 でも公式的にはそうなっているのだから、それでいい。 いずれにせよ、彼女に両親がいないことは確かなのだから。
「…でも、今のままでは大人になる前に…」
独り言のように呟いた言葉。 アオイの苦悩はわかる。 スラムまで生まれている現状は芳しくない。 あるいは彼女が大人になる時を待たずして…。
「どうしたの、チエちゃん? お店、すぐそこだよ」
「あ、ああ。 少し考え事をね」
「んー? 下の子達でも連れてこようかなって?」
「ははっ、私はそこまでサービスしないよ」
「いらっしゃいませ」
店はまだ早い時間にもかかわらず、結構な混みようだった。
「申し訳ありません。 只今満席でして、しばらくお待ち頂けますか?」
「あ、はい。 いいよね? チエちゃん」
「ああ」
「………あっ、これは申し訳ありませんっ! パールオトメのチエ様でいらっしゃいましたかっ! 只今席をご用意させていただきますのでっ!」
「あ、え、ええ。 ありがとうございます」
オトメ候補生への優遇。 それだけオトメを人々が求めていることがわかる。
混んでいるようだし、せっかくアオイと来ているのだから、いつもなら遠慮するところだが、ここは甘えておくのもいいだろう。 そう、思った。
だけど…、アオイを見ると、つらそうな困ったような、でも無理につくった笑顔で私を見ていた。
「どうかしたかい、アオイ?」
「う、ううん。 別にどうもしないよ」
胸の前でアオイは両手を振る。
「私には言えない事かい? なら無理には聞かないけど」
「そうじゃない…。 本当に何でも無いから…」
「お待たせしました」
先程の店員ではなく、おそらく店長、もしくはオーナーらしき人物の案内で私達は席へと案内される。 他の客に声をかけられ、それに応えながら。
その間ずっとアオイは顔を伏せて歩いていた。 注目されるのがつらいのか。 でもアオイだって普段は…。
そこでやっと気付いた。 そう、正に注目されるのがつらかったのだ。
アオイはマシロではない。 けれどマシロのわがままのすぐそばにいる存在だ。 そしてマシロ程愚かでもいられない。 だから人の目がつらいのだ。
このような特別扱いが後ろめたい気持ちになる、それをわかってあげれなかった自分が恥かしい。
「やっぱり出ようか?」
席に案内されると同時にアオイに向かって言う。
「えっ? どうして?」
「それは…、だって…」
「せっかくチエちゃんのおかげで席を用意してもらえたんだから、甘えておこうよ。 それとも何か用事あった?」
何もなかったかのように振舞うアオイを見るのがつらい。 無理に張りつけた笑顔をされるのがつらい。 …だけど、それを口にするわけにはいかない。
「さーて、何頼もうかー?」
そう言って、アオイはメニューで顔を隠す。 私にはもう何も言う言葉が見つからなかった…。
「美味しいーっ。 うん、来てよかったねー、チエちゃん」
「ああ、そうだね」
美味しい? さっきからのせいで私にはもはや味なんかわからない。 だけどアオイがそう言うのだから美味しいのだろう。
「どうしたの、チエちゃん? 美味しくない?」
「いや…」
いつも通りに振舞うアオイがつらくて、ポーカーフェイスでいられない。 だったらいっそのこと…。
「ねえ、アオイ」
「ん?」
「どうしてそんなつらいのを我慢してまで、マシロ女王に仕え続けるんだい?」
「…」
目の前の料理へと伸ばしていた手が止まる。
「別に仕事なら他にいくらでもあるだろう? それなのに…」
「どうしたの? チエちゃん。 それにわたし女王陛下に仕えてるのよ? これ以上名誉な仕事は無いわよ」
「でもそのせいでアオイはそんな顔をするようになった」
「そんな顔って?」
「つらいことを押し隠して無理やり笑顔を浮かべたり、つらいくせになんでもないような顔を浮かべたりっ」
「…」
「私はそんなアオイを見るのは嫌だよ」
そう言うと、アオイは少し俯いて小さく呟いた。
「ありがとう、チエちゃん」
そして顔を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「でもね。 マシロ様には味方がいないの。 最初からずっと。 だから、せめてわたしは、わたしだけはずっと味方でいるつもりなの」
「どうしてそうまでしてあの女王にっ。 本物とは限らないのにっ」
「…チエちゃん」
厳しい目でアオイが私を見る。 つい興奮して言うべきではない事まで口走ってしまった。
「…すまない」
「でも…そうね。 だからこそ、かもしれない。 マシロ様はもしかしたら突然皆から突き放されてしまうかもしれない。 だからこそ味方であるのかもしれないかな」
「だけど…だけどっ、アオイの、アオイの味方がいないじゃないかっ」
もはや溢れ出した感情を止める事も出来ず、私はアオイに感情をぶつける。
「わたしにはチエちゃんがいるから」
そう言って、アオイはいつもの笑顔で微笑んだ。
「…」
その暖かい笑顔は、とても美しく、そして優しかった。 それが嬉しく、悲しかった。
わがままな女王に振りまわされ、民の不満に晒され、王宮においても心安らぐ時もそう無いであろう。 なのに優しさを失わず、こんなにも暖かい。
だから私は自分に誓う。 アオイが女王に忠誠を誓う以上に、私はアオイを想う。 私がどんな時もどんな事があってもアオイの味方でいる。
例え離れ離れになろうとも、心は常にアオイの傍らに。
「おいしかったねー」
「…ほとんど味はわからなかったよ」
「もー。 チエちゃんってばもったいないー」
「ハハハ、だからまたどこか行こう。 今度は私が奢るからさ」
店を出て二人ぶらぶらと歩く。 たわいのない時間。 だけど、私には心安らぐ大切な時間。 願わくばアオイもそうであって欲しい。
出来るだけ二人でいたくて、わざと人通りを避けて城へと向かう。
「姉さーん。 準備完了ですよー」
「よし、それじゃあ…」
せっかく人通りを避けたのに何やら声がする。 …どこか聞いた事のある声のような…。
「あ」
「あ」
「ん?」
ナオだった。 愚連隊まがいのことをしていると小耳に挟んではいたが、正にそのままであった。
そして…
「すまない、アオイ」
「ううん、いいよ。 チエちゃんもたいへんだね」
とんでもない事態に早々に寮に戻る必要が出来た。 仕方なく慌ただしくアオイを城へと送る。
「それじゃあ、アオイ、また。 愛してるよ」
「こんな時にふざけないのっ」
綺麗な笑顔を浮かべ、私を見送ってくれる。
冗談に乗せた想いは届かない。 わかってはいるが少し切ない。 だけど、言えるだけでもいい。 いずれは言うことすら出来なくなるかもしれない。
「おやすみ」
「うん」
心でアオイの笑みを、声を想い返し、私は踵を返して寮へと向かった。
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