数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
「では、ふたりの新たな旅立ちを祝して。 手始めに、まずどこに転送しましょうか?」
ルルアンタと私はお互いに目を交わす。 決まってる、あそこだ。 二人で転送機へと駆け出す。
転送機に立ち、私達は手を繋ぐ。
「それでは、二人ともお別れですね。 自由な旅を」
オルファウスさんの転送機で猫屋敷から飛んだ場所はここだった。
ロストールとノーブルを結ぶ街道の途中の林の中。 ひっそりと石が積み上げられている。
「お父さん。 久しぶり」
「フリントさん、久しぶりなの」
「こーら、ルルアンタ。 フリントさんじゃないでしょ、お父さん」
「…うん。 お父さん…久しぶり、なの」
そしてささやかな墓をきれいにする。
「その、お父さん。 私、お父さんみたいにはなれないみたい」
「…」
「旅商人できるほどの商才はないわ、私。 そして、スパイみたいな真似もできない」
正面から墓を見つめ、私は一言一句はっきりと口にする。
「私達を養い育て、守ってくれたお父さんには心から感謝してるし、尊敬もしてる。 でもお父さんのようにはなれないし、なりたくない」
「…エレンディア」
「私は私でありたい。 そうすることに決めました。 しばらくは会えなくなるけど、ごめんなさい」
お墓の前にお酒を置く。
「ふふっ、聞いてお父さん。 このお酒はね、私とルルアンタで採ってきたタレモルゲの汽水でできてるのよ? ね、ルルアンタ?」
「そうなの、酒場で作ってもらったのっ」
「こうやってルルアンタと二人で冒険者としてがんばっていきます。 心配かもしれないけど、私達を見守っててください」
そう言って祈りをささげる。 隣ではルルアンタも同じように祈りをささげてる。
「それじゃお父さん、私達行くね」
「お父さん、バイバイ」
「行こうか、ルルアンタ」
「うんっ」
二人手を繋ぎ歩き出す。
「さて、と。 とりあえずは報告もしたし…。 どこ行こうか?」
「うーん…。 エレンディアはどこ行きたいの?」
「そうねえ…」
「久しぶりっ、ヒルダリア」
「こんにちはっ」
「あら、あなた達。 本当久しぶりね。 元気だった?」
「ええ、もちろん。 ね、ルルアンタ」
「うんっ。 ヒルダリアお姉さんは元気?」
「ふふ、元気よ」
クスリと笑い、ヒルダリアがルルアンタの頭を優しく撫でる。 ルルアンタは笑顔で私達を見上げてる。
「船、頼んでいいかしら?」
「ええ、もちろん。 気にせず言って」
「どこ行くの? エレンディア」
「いい所、よ」
「うわぁ…。 凄い、きれいー。 凄いねー、エレンディアーっ」
しぶきの群島の端、輝く世界を望める場所。 かつてザギヴを救う時にオルファウスさんに連れてきてもらった場所だ。
あの時はルルアンタはいなかった。 だから連れてきてあげたかった。
「ね。 凄いよねー。 世界ってこんなにきれいだったんだねー…」
「エレンディア、どうしてこんな場所知ってるのぉ?」
「うん。 あのね、ルルアンタがいなかった時に知った場所なんだよ。 だからルルアンタにも教えてあげたかったんだ」
「そうなんだー。 うん、ルルアンタ教えてくれて嬉しいよっ」
満面の笑みでルルアンタは私を見る。 その笑顔が何より嬉しい。
「これからどうするか…。 ここでゆっくり考えましょう、この素敵な景色の前で」
「うんっ、そうするの」
二人、高台に腰掛け、瑪瑙色に輝く海を見つめる。
遠く海を見つめながら私は思う。 バイアシオンを出て行くべきか。
オルファウスさんも言っていた。 今の私は皆の脅威でもある。 ルルアンタがいなければ私は私が怖い、居場所がわからない。
私を知らない世界へ行くべきなのだろうか。
「エレンディア?」
ルルアンタが私の顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめん。 ぼーっとしてた」
「エレンディア。 エレンディアがつらかったら、どこか遠くに行く?」
「!?」
「エレンディア震えてるの。 でも、皆はエレンディアのこと好きだよ? ルルアンタもオルファウスさんもぶさいくな猫ちゃんも今まで出会った皆も」
「…」
「皆お友達なの。 皆エレンディアの味方なの。 心配ないの、エレンディアが困ってたら、今までエレンディアが助けてくれたみたいに皆も助けてくれるのっ」
「あ…」
涙が浮かぶ。 溢れそうになる。
「エレンディアだって女の子なの。 かわいいの。 皆助けてくれるよ?」
「こ、こんな…斧振り回す女の子…を?」
「かわいいの」
「…神様だって…倒しちゃ…うん…だよ?」
「関係ないの」
「私…たぶん…大陸…で一番…強いん…だよ?」
「でも泣き虫なの。 大丈夫、ルルアンタがいるよ」
そう言ってルルアンタは立ち上がり、私の頭を抱きしめる。 涙が溢れ出す。
「遠くに行っても行かなくても、ルルアンタも皆もエレンディアの味方だよぉ。 一人じゃないよ」
「うん…うんっ」
私もルルアンタを抱きしめる。
ネメアさんのような気分だった。 一人高みに着き孤高の存在。 畏怖の象徴。 だけど、私はネメアさんにはなれない。 人の目が怖かった。
だけど、ルルアンタはそれをわかってくれていた。 皆もわかってくれていると言う。 正直それはわからない。
でも、ルルアンタはわかってくれている。 嬉しい。 ただ、嬉しい。
「…怖、かった…私が…」
「怖くないの。 エレンディアはかわいいの」
ルルアンタは優しい笑顔で私を見ながら、私の頭を撫でる。
「私が…お姉ちゃん、なのに…ね」
「お姉ちゃんだって、偉い人だって、ルルアンタだって、誰だって、つらい時はあるの。 気にしなくてもいいんだよぉ」
「そう、だよね…」
「そうなの」
ありがとう、傍にいてくれて。 ありがとう、私の大切な妹。
顔を上げルルアンタの頬にキスをする。
「エレンディア、甘えんぼさんなの」
ルルアンタは笑顔でそう言う。
「…うん。 今日は…甘えさせて」
「うん、いいよぉ」
日が落ちても、私はルルアンタに抱かれ動けずにいた。 その温もりに身を任せながら、私は強くなれる気がした。
お互いを守る。 私はあなたを、あなたは私を。 いかなる時も傍らに。
私は強くなれる気がした。 ルルアンタのために。 ルルアンタと共に。
(終)
ルルアンタと私はお互いに目を交わす。 決まってる、あそこだ。 二人で転送機へと駆け出す。
転送機に立ち、私達は手を繋ぐ。
「それでは、二人ともお別れですね。 自由な旅を」
オルファウスさんの転送機で猫屋敷から飛んだ場所はここだった。
ロストールとノーブルを結ぶ街道の途中の林の中。 ひっそりと石が積み上げられている。
「お父さん。 久しぶり」
「フリントさん、久しぶりなの」
「こーら、ルルアンタ。 フリントさんじゃないでしょ、お父さん」
「…うん。 お父さん…久しぶり、なの」
そしてささやかな墓をきれいにする。
「その、お父さん。 私、お父さんみたいにはなれないみたい」
「…」
「旅商人できるほどの商才はないわ、私。 そして、スパイみたいな真似もできない」
正面から墓を見つめ、私は一言一句はっきりと口にする。
「私達を養い育て、守ってくれたお父さんには心から感謝してるし、尊敬もしてる。 でもお父さんのようにはなれないし、なりたくない」
「…エレンディア」
「私は私でありたい。 そうすることに決めました。 しばらくは会えなくなるけど、ごめんなさい」
お墓の前にお酒を置く。
「ふふっ、聞いてお父さん。 このお酒はね、私とルルアンタで採ってきたタレモルゲの汽水でできてるのよ? ね、ルルアンタ?」
「そうなの、酒場で作ってもらったのっ」
「こうやってルルアンタと二人で冒険者としてがんばっていきます。 心配かもしれないけど、私達を見守っててください」
そう言って祈りをささげる。 隣ではルルアンタも同じように祈りをささげてる。
「それじゃお父さん、私達行くね」
「お父さん、バイバイ」
「行こうか、ルルアンタ」
「うんっ」
二人手を繋ぎ歩き出す。
「さて、と。 とりあえずは報告もしたし…。 どこ行こうか?」
「うーん…。 エレンディアはどこ行きたいの?」
「そうねえ…」
「久しぶりっ、ヒルダリア」
「こんにちはっ」
「あら、あなた達。 本当久しぶりね。 元気だった?」
「ええ、もちろん。 ね、ルルアンタ」
「うんっ。 ヒルダリアお姉さんは元気?」
「ふふ、元気よ」
クスリと笑い、ヒルダリアがルルアンタの頭を優しく撫でる。 ルルアンタは笑顔で私達を見上げてる。
「船、頼んでいいかしら?」
「ええ、もちろん。 気にせず言って」
「どこ行くの? エレンディア」
「いい所、よ」
「うわぁ…。 凄い、きれいー。 凄いねー、エレンディアーっ」
しぶきの群島の端、輝く世界を望める場所。 かつてザギヴを救う時にオルファウスさんに連れてきてもらった場所だ。
あの時はルルアンタはいなかった。 だから連れてきてあげたかった。
「ね。 凄いよねー。 世界ってこんなにきれいだったんだねー…」
「エレンディア、どうしてこんな場所知ってるのぉ?」
「うん。 あのね、ルルアンタがいなかった時に知った場所なんだよ。 だからルルアンタにも教えてあげたかったんだ」
「そうなんだー。 うん、ルルアンタ教えてくれて嬉しいよっ」
満面の笑みでルルアンタは私を見る。 その笑顔が何より嬉しい。
「これからどうするか…。 ここでゆっくり考えましょう、この素敵な景色の前で」
「うんっ、そうするの」
二人、高台に腰掛け、瑪瑙色に輝く海を見つめる。
遠く海を見つめながら私は思う。 バイアシオンを出て行くべきか。
オルファウスさんも言っていた。 今の私は皆の脅威でもある。 ルルアンタがいなければ私は私が怖い、居場所がわからない。
私を知らない世界へ行くべきなのだろうか。
「エレンディア?」
ルルアンタが私の顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめん。 ぼーっとしてた」
「エレンディア。 エレンディアがつらかったら、どこか遠くに行く?」
「!?」
「エレンディア震えてるの。 でも、皆はエレンディアのこと好きだよ? ルルアンタもオルファウスさんもぶさいくな猫ちゃんも今まで出会った皆も」
「…」
「皆お友達なの。 皆エレンディアの味方なの。 心配ないの、エレンディアが困ってたら、今までエレンディアが助けてくれたみたいに皆も助けてくれるのっ」
「あ…」
涙が浮かぶ。 溢れそうになる。
「エレンディアだって女の子なの。 かわいいの。 皆助けてくれるよ?」
「こ、こんな…斧振り回す女の子…を?」
「かわいいの」
「…神様だって…倒しちゃ…うん…だよ?」
「関係ないの」
「私…たぶん…大陸…で一番…強いん…だよ?」
「でも泣き虫なの。 大丈夫、ルルアンタがいるよ」
そう言ってルルアンタは立ち上がり、私の頭を抱きしめる。 涙が溢れ出す。
「遠くに行っても行かなくても、ルルアンタも皆もエレンディアの味方だよぉ。 一人じゃないよ」
「うん…うんっ」
私もルルアンタを抱きしめる。
ネメアさんのような気分だった。 一人高みに着き孤高の存在。 畏怖の象徴。 だけど、私はネメアさんにはなれない。 人の目が怖かった。
だけど、ルルアンタはそれをわかってくれていた。 皆もわかってくれていると言う。 正直それはわからない。
でも、ルルアンタはわかってくれている。 嬉しい。 ただ、嬉しい。
「…怖、かった…私が…」
「怖くないの。 エレンディアはかわいいの」
ルルアンタは優しい笑顔で私を見ながら、私の頭を撫でる。
「私が…お姉ちゃん、なのに…ね」
「お姉ちゃんだって、偉い人だって、ルルアンタだって、誰だって、つらい時はあるの。 気にしなくてもいいんだよぉ」
「そう、だよね…」
「そうなの」
ありがとう、傍にいてくれて。 ありがとう、私の大切な妹。
顔を上げルルアンタの頬にキスをする。
「エレンディア、甘えんぼさんなの」
ルルアンタは笑顔でそう言う。
「…うん。 今日は…甘えさせて」
「うん、いいよぉ」
日が落ちても、私はルルアンタに抱かれ動けずにいた。 その温もりに身を任せながら、私は強くなれる気がした。
お互いを守る。 私はあなたを、あなたは私を。 いかなる時も傍らに。
私は強くなれる気がした。 ルルアンタのために。 ルルアンタと共に。
(終)
「思ったんだけど、空中都市の話って、あれいいのかな?」
「アタクシがそんなこと知るわけないでしょっ。 高貴なエルフはそんなこと知る必要ないのよっ」
「ネタバレとか以前に著作権的にマズいような気がするんだけど」
「アタクシの言ってること聞いてるの? そんなこと考える必要もないって言ってるのよっ」
「怒られる前に消した方がいいのかな?」
「そんなー。 エレンディアがその方が話に入りやすいって言うから、なぞったのにそんなこと言うのかい?」
「そうだよ、エレンディアっ。 ボクだって、だからっ…」
「まあ、エステルは結構変えてるんだけど…」
「あれ? 僕かい、エレンディア。 それはないよー。 僕ばかり悪者扱いかい?」
「シャリは悪者じゃないかっ。 ボクだけじゃない、世界中のみんなを困らせてっ」
「アハハ、エステルそんな怒らないでよ。 僕はただ願いをかなえようとしただけだよ」
「そんな言い訳でごまかされないよっ! エレンディア、君もなんとか言ってよっ」
「結構オリジナルな展開のつもりではあるんだけどなー…。 やっぱりマズいかなー」
「エレンディアっ!」
「フフフ、まあ確かによくないかもしれないよ? 僕は気にしないから消せばいいじゃないか」
「誰か教えてくださると助かります。 基本方針は近日中に消す、という方向で考えます」
「エレンディア、誰に言ってるの?」
「二次創作だから、本編の台詞とかあった方がより話が楽しくなると思うんだけど…あれは使いすぎかもしれないわよね」
「でもどれくらい、ってどう決めるのさっ」
「そんなことどうでもいいじゃない、くだらない」
「君は黙っててよっ」
「あんた、アタクシを誰だと思ってるのっ?」
「…そう言えば君、誰?」
「ちょっとちょっと二人とも、やめてよ。 まあいいわよ、消すのは構わないし」
「ボクは…嫌だな…」
「あら、どうして?」
「だ、だって、エレンディアがせっかく…その、ボクを助けてくれた時の話だし…」
「ふふ、エステル。 かわいい♪」
「わっ。 エ、エレンディアっ」
「あーあー、付き合ってらんないわ」
「まあ、またいつか書くわよ。 エステルは初回以外いつも大切にしてるからねっ」
「あ…そ、そんな…あ、ありがとう…」
「いっそ男の子で、の方がいいかな?」
「…次はお兄様、って言ってたよね。 それって当分書かないってことじゃないの?」
「貴族はたいへんよねー」
「ちょっとっ! エレンディアっ、露骨に話をそらさないでよっ! ちゃんとボクの目を見て話してよっ」
「いいわよ。 じーっ」
「な、なんだよ。 わざとらしい…。 そんなのでボクはごまかされたりは…」
「ちゅっ」
「んんっ!?」
「大丈夫。 大好きだよ、エステルっ」
「も、もーっ。 エレンディアーっ」
(終)
註・エレンディアのキャラがいつもと違うかも。 著作権がよくわかってません。 誰か教えてください。
「アタクシがそんなこと知るわけないでしょっ。 高貴なエルフはそんなこと知る必要ないのよっ」
「ネタバレとか以前に著作権的にマズいような気がするんだけど」
「アタクシの言ってること聞いてるの? そんなこと考える必要もないって言ってるのよっ」
「怒られる前に消した方がいいのかな?」
「そんなー。 エレンディアがその方が話に入りやすいって言うから、なぞったのにそんなこと言うのかい?」
「そうだよ、エレンディアっ。 ボクだって、だからっ…」
「まあ、エステルは結構変えてるんだけど…」
「あれ? 僕かい、エレンディア。 それはないよー。 僕ばかり悪者扱いかい?」
「シャリは悪者じゃないかっ。 ボクだけじゃない、世界中のみんなを困らせてっ」
「アハハ、エステルそんな怒らないでよ。 僕はただ願いをかなえようとしただけだよ」
「そんな言い訳でごまかされないよっ! エレンディア、君もなんとか言ってよっ」
「結構オリジナルな展開のつもりではあるんだけどなー…。 やっぱりマズいかなー」
「エレンディアっ!」
「フフフ、まあ確かによくないかもしれないよ? 僕は気にしないから消せばいいじゃないか」
「誰か教えてくださると助かります。 基本方針は近日中に消す、という方向で考えます」
「エレンディア、誰に言ってるの?」
「二次創作だから、本編の台詞とかあった方がより話が楽しくなると思うんだけど…あれは使いすぎかもしれないわよね」
「でもどれくらい、ってどう決めるのさっ」
「そんなことどうでもいいじゃない、くだらない」
「君は黙っててよっ」
「あんた、アタクシを誰だと思ってるのっ?」
「…そう言えば君、誰?」
「ちょっとちょっと二人とも、やめてよ。 まあいいわよ、消すのは構わないし」
「ボクは…嫌だな…」
「あら、どうして?」
「だ、だって、エレンディアがせっかく…その、ボクを助けてくれた時の話だし…」
「ふふ、エステル。 かわいい♪」
「わっ。 エ、エレンディアっ」
「あーあー、付き合ってらんないわ」
「まあ、またいつか書くわよ。 エステルは初回以外いつも大切にしてるからねっ」
「あ…そ、そんな…あ、ありがとう…」
「いっそ男の子で、の方がいいかな?」
「…次はお兄様、って言ってたよね。 それって当分書かないってことじゃないの?」
「貴族はたいへんよねー」
「ちょっとっ! エレンディアっ、露骨に話をそらさないでよっ! ちゃんとボクの目を見て話してよっ」
「いいわよ。 じーっ」
「な、なんだよ。 わざとらしい…。 そんなのでボクはごまかされたりは…」
「ちゅっ」
「んんっ!?」
「大丈夫。 大好きだよ、エステルっ」
「も、もーっ。 エレンディアーっ」
(終)
註・エレンディアのキャラがいつもと違うかも。 著作権がよくわかってません。 誰か教えてください。
「あーあー、何やってんだい、桂。 また無駄に書庫増やして」
「うん。 そうなんだよね…」
「どうせこれ以上増えないだろ、コレ」
「うん、多分…。 というか、なんか書くのがつらくなってきちゃった…」
「でも昨日のは随分前に書いたやつじゃなかったかい?」
「本当はね、あれは出すのイヤだったんだよ」
「あん? じゃあなんで出したんだい?」
「昨日はもう戯言すら書けなくて…。 とりあえず何か無いかなー…って。 それであれがあったから仕方なく…」
「だからそうしゃにむにがんばらなくてもいいじゃないか。 気楽にやんな、気楽に」
「うん…でも、ただペースがつらいとかだけじゃなくて、ちょっと落ち込んでて…」
「どうかしたかい?」
「それはですね」
「どっから出てきたんだい? 葛」
「最初からいましたよ?」
「…いたらあたしは匂いで気づくんだがねえ」
「ま、それはさておいてですね。 桂おねーさんが落ち込んでいるのは、先日ご学友の奈良さんがですね…」
『あー、はとちゃんっ』
『あ、陽子ちゃん。 元に戻ったん…』
『(自主規制)コンプよっ! ふっふっふ、あたしを熱くさせたわ、あいつは』
『相変わらずのままですわね』
『それにしてもよかったわっ。 久しぶりに(自主規制)で楽しんだわっ。 はとちゃん、あれ書きなさいよっ』
『えっ? ええっ!?』
『そうねえ…。 あたしとしては(自主規制)のエピローグでいけると思うわっ。 もしくは(自主規制)の…あー、でもそれならPC版の内容が知りたいかもしれないわね』
『…陽子ちゃん、そもそも何言ってるのか分からない』
『ま、たいして寝てないのは変わってませんからしょうがありませんわね』
『だいたいなんで(自主規制)がクリアできないのよっ! おかしいでしょっ、コレ!』
『陽子ちゃんお願いだからちゃんと喋ろうよ』
『調べてみたらPC版では出来るしっ。 これじゃ新キャラ追加してもプラマイゼロじゃないのよーっ』
『…全く聞いてませんわね』
「というわけでですね」
「ああ」
「それで落ち込んでいるわけです」
「さっぱりわからないね」
「ま、それは冗談として。 結局桂おねーさんも(自主規制)をやって楽しみまして、その…うーん、何と言うんでしょうか、影響受けすぎてしまいまして」
「よくわからないね」
「どうもキャラやイメージがそれ関係しか浮かばなくなったらしいんですね」
「じゃあ、その陽子の言う通り書けばいいんじゃないかい?」
「それが…自分の中に吸収したというより、邪魔になっているという状態のようで」
「つまり話は浮かばないし、キャラも動かない、と」
「そういうことです。 正直動かせそうなのは一人くらいらしくて…」
「難儀なこったね。 しばらくはダメってことかい?」
「なにやらお疲れのようですしねー」
「まあ桂は無駄に熱中するからねえ…」
「はいです。 ゲーム断ちしてたから去年の年末はいろいろ書けたのですが…、始めてしまうとダメですねー」
「誰の話してんだい?」
「特にADVはダメなんですよ。 のめりこんでしまうので」
「…よくわからないけどね、言い訳はよくないよ。 そんな話するくらいなら書かない方がいいんじゃないかい?」
「…ええ、そうなんですよねー。 疲れの影響が知らず知らずの内に出てしまうんですよねー。 ですので桂おねーさんを癒さんとわたしが…」
「話が戻ったね。 どっから出てきたんだい?」
「ではサクヤさん、おみやげを楽しみにしててください」
「こら、話を聞きなっ」
「だから最初からいた、と話したじゃないですか」
「ありえないね。 あたしが気づかないわけはないんだよ」
「そんなことありませんよ? こうして桂おねーさんの服を着て、言霊を使えば…」
「…ほうぅ」
「…」
「…」
「…あんた、いつも何やってんだいっ。 ちょっと躾がなってないね。 あたしが躾けてやるよっ」
「丁重にお断りしますー」
「待ちなっ、葛ーっ」
(終)
「うん。 そうなんだよね…」
「どうせこれ以上増えないだろ、コレ」
「うん、多分…。 というか、なんか書くのがつらくなってきちゃった…」
「でも昨日のは随分前に書いたやつじゃなかったかい?」
「本当はね、あれは出すのイヤだったんだよ」
「あん? じゃあなんで出したんだい?」
「昨日はもう戯言すら書けなくて…。 とりあえず何か無いかなー…って。 それであれがあったから仕方なく…」
「だからそうしゃにむにがんばらなくてもいいじゃないか。 気楽にやんな、気楽に」
「うん…でも、ただペースがつらいとかだけじゃなくて、ちょっと落ち込んでて…」
「どうかしたかい?」
「それはですね」
「どっから出てきたんだい? 葛」
「最初からいましたよ?」
「…いたらあたしは匂いで気づくんだがねえ」
「ま、それはさておいてですね。 桂おねーさんが落ち込んでいるのは、先日ご学友の奈良さんがですね…」
『あー、はとちゃんっ』
『あ、陽子ちゃん。 元に戻ったん…』
『(自主規制)コンプよっ! ふっふっふ、あたしを熱くさせたわ、あいつは』
『相変わらずのままですわね』
『それにしてもよかったわっ。 久しぶりに(自主規制)で楽しんだわっ。 はとちゃん、あれ書きなさいよっ』
『えっ? ええっ!?』
『そうねえ…。 あたしとしては(自主規制)のエピローグでいけると思うわっ。 もしくは(自主規制)の…あー、でもそれならPC版の内容が知りたいかもしれないわね』
『…陽子ちゃん、そもそも何言ってるのか分からない』
『ま、たいして寝てないのは変わってませんからしょうがありませんわね』
『だいたいなんで(自主規制)がクリアできないのよっ! おかしいでしょっ、コレ!』
『陽子ちゃんお願いだからちゃんと喋ろうよ』
『調べてみたらPC版では出来るしっ。 これじゃ新キャラ追加してもプラマイゼロじゃないのよーっ』
『…全く聞いてませんわね』
「というわけでですね」
「ああ」
「それで落ち込んでいるわけです」
「さっぱりわからないね」
「ま、それは冗談として。 結局桂おねーさんも(自主規制)をやって楽しみまして、その…うーん、何と言うんでしょうか、影響受けすぎてしまいまして」
「よくわからないね」
「どうもキャラやイメージがそれ関係しか浮かばなくなったらしいんですね」
「じゃあ、その陽子の言う通り書けばいいんじゃないかい?」
「それが…自分の中に吸収したというより、邪魔になっているという状態のようで」
「つまり話は浮かばないし、キャラも動かない、と」
「そういうことです。 正直動かせそうなのは一人くらいらしくて…」
「難儀なこったね。 しばらくはダメってことかい?」
「なにやらお疲れのようですしねー」
「まあ桂は無駄に熱中するからねえ…」
「はいです。 ゲーム断ちしてたから去年の年末はいろいろ書けたのですが…、始めてしまうとダメですねー」
「誰の話してんだい?」
「特にADVはダメなんですよ。 のめりこんでしまうので」
「…よくわからないけどね、言い訳はよくないよ。 そんな話するくらいなら書かない方がいいんじゃないかい?」
「…ええ、そうなんですよねー。 疲れの影響が知らず知らずの内に出てしまうんですよねー。 ですので桂おねーさんを癒さんとわたしが…」
「話が戻ったね。 どっから出てきたんだい?」
「ではサクヤさん、おみやげを楽しみにしててください」
「こら、話を聞きなっ」
「だから最初からいた、と話したじゃないですか」
「ありえないね。 あたしが気づかないわけはないんだよ」
「そんなことありませんよ? こうして桂おねーさんの服を着て、言霊を使えば…」
「…ほうぅ」
「…」
「…」
「…あんた、いつも何やってんだいっ。 ちょっと躾がなってないね。 あたしが躾けてやるよっ」
「丁重にお断りしますー」
「待ちなっ、葛ーっ」
(終)
わたしにいろんな時間があって、いろんな出会いがあって、いろんな思い出がある。
だけど、どんな時間か、どんな出会いか、どんな思い出かわからない、だけど心に痛みを残す何かもある。
「どうしたの? 姫子。 またそのアルバム?」
「あ、まこちゃん…」
「何ー、そぉんなに姫子は自分が好きなの? そんな自分しか写ってない写真ばっか見てー」
「ち、違うっ。 違うよ、まこちゃん」
わたしの手にある小さなアルバム。 中に入っている写真はいろんな場所で笑顔を浮かべる私「だけ」が写っている。
「これ…変だよね」
「まあねえー。 あんまアルバムに自分の写真ばかりは入れないねー」
「そうじゃなくてっ。 なんか誰かと写ってたような…そんな、感じが」
「んー? じゃあ姫子一緒に写ってた人消しちゃったの?」
「そんなことしないよっ」
「じょ、冗談よ。 何ムキになってんのよぉ?」
「え?」
なぜだろう。 何もかもわからない。 わたし一人しか写ってない写真にどうして誰かと写っていたと思うのか、どうして消したと言われて心が落ち着かないのか、わからない。
だけど、わかることもある。 これは大切な写真で、そして、とても悲しい何かだということが。
「よくわかんないけど、元気出しなっ」
「うん…がんばる」
そう返事をして精一杯の笑みを浮かべる。
部活のあるまこちゃんと別れて、とつとつと寮へ帰る。
途中、歓声が聞こえてきた。 テニスコート。 顔を向けるとそこには「乙橋学園の神さま」と呼ばれている幼馴染の大神くんがいた。
数日前、その大神くんに丘に呼び出されて行くと告白をされた。 けれどわたしはその告白を受けることは出来なかった。
なぜならわたしの中に大神くんではない誰かがいたから。
おそらくその誰かこそがわたしの心の痛み。 顔も声も思い出もないけれど、わたしにはわかる。 わたしには大好きな人がいる。
そしてわたしは再び寮の方へと向いて歩き出す。
時は流れる。
朝目が覚めると涙を流している時がある。 夢の中で大切な人と逢っていたような気がするけれど、どんな夢だったか思い出せない。
友達と話している時に誰かの姿が浮かびそうになって、息が詰まることがある。 だけど、結局その姿は浮かんでこない。
でも、逢えばわかる。 そしていつか必ず逢える。 だからわたしは一所懸命がんばって日々を生きていればいいのだと思う。
いつしかわたしは乙橋学園を卒業し、大学へと通うようになっていた。 長かった髪を短くし、わたしは待つことを忘れかかっていた。
大学の長い春休みで退屈していたわたしは、『少し買い物でもしてこようかな』そんな気分で近くの街へと向かった。
交差点で信号が変わるのを待つ。 春の息吹を乗せた風を感じる。
やがて信号は変わり、人々が歩き出す。 わたしも同様に歩き出す。
大きな交差点を四方八方から人が入り乱れて歩く。 交差点の中央に差し掛かった時、反対側から歩いてくる人が目に入った。
長い黒髪は風に踊り、均整の取れた体は美しく、その瞳はまるで水晶のように輝いていて、誰よりも美しい人だった。
だけどそうじゃない、そんなこと今はどうでもいい。 なぜかわかった。 この人がわたしが探していたわたしの大好きな人。 誰よりも何よりも大切なわたしの愛する人。
彼女はわたしに柔らかい笑みを浮かべる。 わたしの目には涙が浮かんでいた。
そしてわたし達は人目もはばからず、その場で抱き合った。
「また、逢えたね」
「…そう、ね」
「うん…」
お互い名前もわからないけれどわかる。 これは運命だと。 わたし達はただ愛し合う運命にある。 その先に待ち受けるものが何であれ、わたし達は共にある。
「わたし、来栖川姫子」
「私は姫宮千歌音」
初めて聞くはずのその名前はただ懐かしい。 体へと染み込んでいく。
信号が点滅をする。 だからわたしは彼女の手を引っ張る。
「行こう、千歌音ちゃんっ」
「ええ、姫子」
まるで昔からそう呼んでいたように彼女の名前を呼ぶと彼女もわたしの名前を呼ぶ。
二人で手を繋ぎ走り出す。 わたし達を取り巻く運命すら置いていくように、二人の想いは走り出す。
そう、無限の宇宙すら越えて、わたし達はただ愛し合う。
(終)
だけど、どんな時間か、どんな出会いか、どんな思い出かわからない、だけど心に痛みを残す何かもある。
「どうしたの? 姫子。 またそのアルバム?」
「あ、まこちゃん…」
「何ー、そぉんなに姫子は自分が好きなの? そんな自分しか写ってない写真ばっか見てー」
「ち、違うっ。 違うよ、まこちゃん」
わたしの手にある小さなアルバム。 中に入っている写真はいろんな場所で笑顔を浮かべる私「だけ」が写っている。
「これ…変だよね」
「まあねえー。 あんまアルバムに自分の写真ばかりは入れないねー」
「そうじゃなくてっ。 なんか誰かと写ってたような…そんな、感じが」
「んー? じゃあ姫子一緒に写ってた人消しちゃったの?」
「そんなことしないよっ」
「じょ、冗談よ。 何ムキになってんのよぉ?」
「え?」
なぜだろう。 何もかもわからない。 わたし一人しか写ってない写真にどうして誰かと写っていたと思うのか、どうして消したと言われて心が落ち着かないのか、わからない。
だけど、わかることもある。 これは大切な写真で、そして、とても悲しい何かだということが。
「よくわかんないけど、元気出しなっ」
「うん…がんばる」
そう返事をして精一杯の笑みを浮かべる。
部活のあるまこちゃんと別れて、とつとつと寮へ帰る。
途中、歓声が聞こえてきた。 テニスコート。 顔を向けるとそこには「乙橋学園の神さま」と呼ばれている幼馴染の大神くんがいた。
数日前、その大神くんに丘に呼び出されて行くと告白をされた。 けれどわたしはその告白を受けることは出来なかった。
なぜならわたしの中に大神くんではない誰かがいたから。
おそらくその誰かこそがわたしの心の痛み。 顔も声も思い出もないけれど、わたしにはわかる。 わたしには大好きな人がいる。
そしてわたしは再び寮の方へと向いて歩き出す。
時は流れる。
朝目が覚めると涙を流している時がある。 夢の中で大切な人と逢っていたような気がするけれど、どんな夢だったか思い出せない。
友達と話している時に誰かの姿が浮かびそうになって、息が詰まることがある。 だけど、結局その姿は浮かんでこない。
でも、逢えばわかる。 そしていつか必ず逢える。 だからわたしは一所懸命がんばって日々を生きていればいいのだと思う。
いつしかわたしは乙橋学園を卒業し、大学へと通うようになっていた。 長かった髪を短くし、わたしは待つことを忘れかかっていた。
大学の長い春休みで退屈していたわたしは、『少し買い物でもしてこようかな』そんな気分で近くの街へと向かった。
交差点で信号が変わるのを待つ。 春の息吹を乗せた風を感じる。
やがて信号は変わり、人々が歩き出す。 わたしも同様に歩き出す。
大きな交差点を四方八方から人が入り乱れて歩く。 交差点の中央に差し掛かった時、反対側から歩いてくる人が目に入った。
長い黒髪は風に踊り、均整の取れた体は美しく、その瞳はまるで水晶のように輝いていて、誰よりも美しい人だった。
だけどそうじゃない、そんなこと今はどうでもいい。 なぜかわかった。 この人がわたしが探していたわたしの大好きな人。 誰よりも何よりも大切なわたしの愛する人。
彼女はわたしに柔らかい笑みを浮かべる。 わたしの目には涙が浮かんでいた。
そしてわたし達は人目もはばからず、その場で抱き合った。
「また、逢えたね」
「…そう、ね」
「うん…」
お互い名前もわからないけれどわかる。 これは運命だと。 わたし達はただ愛し合う運命にある。 その先に待ち受けるものが何であれ、わたし達は共にある。
「わたし、来栖川姫子」
「私は姫宮千歌音」
初めて聞くはずのその名前はただ懐かしい。 体へと染み込んでいく。
信号が点滅をする。 だからわたしは彼女の手を引っ張る。
「行こう、千歌音ちゃんっ」
「ええ、姫子」
まるで昔からそう呼んでいたように彼女の名前を呼ぶと彼女もわたしの名前を呼ぶ。
二人で手を繋ぎ走り出す。 わたし達を取り巻く運命すら置いていくように、二人の想いは走り出す。
そう、無限の宇宙すら越えて、わたし達はただ愛し合う。
(終)
「く、くくく…あははははっ♪」
「…」
「…」
「あはははっ、も、本当最高っ♪ あー、たまんないっ。 あははははっ」
「…」
「…」
「あー、はー…。 ぷっ、くくっ、あははははっ」
「…ね、ねえ、陽子ちゃん。 あの…どうしたの、かな?」
「…」
「はとちゃんっ。 (自主規制)の演技って(自主規制)だと(自主規制)よねーっ。 あははははっ」
「陽子ちゃん、何言ってるかわからないんだけど」
「それにしてもこの発想からしてどうなのかと思ったけど、おもしろいわよっ、あははっ。 くくく…ま、正直(自主規制)は(自主規制)だけど、(自主規制)はいいわね、最高だわ。 あははははっ」
「全くわからないってば…」
「どうして(自主規制)なのかしら?」
「ネタバレなのかな?」
「注意事項にはネタバレは…」
「シャラーップ、お凛っ。 余計な事は言わなくていいですわっ。 なんてね、あははははっ」
「…」
「…」
「どうしちゃったのかな?」
「さあ…。 羽藤さんは何か思い当たる節は?」
「うーん…。 なんだろ? 特にはないけど…」
「困りましたわね…。 まあ普段からおかしいとは言え、これは…」
「うあー、よく寝たー…」
「陽子ちゃん、授業中ずっと寝てたね」
「何言ってんのよ、はとちゃんっ。 学生ならともかく社会に出たらそうそう寝てられないのよっ? ゲームで朝までなんてバカしてていいと思ってんのっ? 甘いっ、あんたは本当に甘ちゃんねっ」
「なんか陽子ちゃん言ってることめちゃくちゃなんだけど」
「でも楽しくてさー。 あははははっ。 あー、でもプロローグ長いってこれー」
「ねえ陽子ちゃん、聞いてるかな?」
「いやまあそこはいいわよ。 でもいくらなんでも(自主規制)てからは正直(自主規制)だと思うのよねー」
「聞いてないんだね…」
「どうやら朝と変わってないみたいですわね」
「あー…楽しいー。 でもね、はとちゃん」
「あ、うん。 何かな、陽子ちゃん」
「睡眠不足の運転は事故率大幅アップよっ! ダメっ! 寝なさいっ!」
「…」
「…」
「ほら(自主規制)でも(自主規制)じゃない? どれだけありふれている出来事なのかってことよっ! ああ…でも楽しいのよねー…」
「…お凛さん、どうしたらいいのかな?」
「どうしようもないですわ、これは」
「キャラ作りもあやういよね、これ」
「羽藤さん、いくら眠いとは言え私達はしっかりしてないといけませんわ」
「あ、うん。 そうだよね」
「じゃ、あたし帰るから」
「…陽子ちゃん、まだお昼休みだよ?」
「いや本当今日は寝ないとマズいから。 寝ること考えたら1時間くらいしか時間ないし」
「どうしようもない状態になってますわね」
「無理して書かなくてもよかったような…」
「そうですわね」
「ついつい続けちゃうのよねー…。 この後どんな(自主規制)があるのかなー…って。 そしたら(自主規制)なのよーっ。 あははははっ♪ ありえないと思わない? あははははっ」
「同意を求められても…」
「ま、そういうわけだから。 これとっとと纏めて終わらせてね。 それじゃねーっ、あははははっ」
「…壊れてたね」
「いえ、壊されてた、という方が正しいかと」
「えっと昨日の『空中都市、そして私は』は前後編を中止して後編部分をくっつけました、だって」
「もともと分ける意味はなかったのでは?」
「ううん、あったんだけど…。 その…、眠くて…」
「眠いからくっつけた、というのですか?」
「そうじゃなくて、昨日の時点で眠かったから」
「? おっしゃってることがよくわかりませんが」
「本当はあれ、昨日出すつもりじゃなかったんだよね…」
「…」
「なんか…陽子ちゃんだけじゃなくて、私もおかしくなってきちゃったかも。 あとお凛さんに任せていいかな?」
「…お断りしますわ。 仕方ないですわね、私達も帰りましょう」
「えっ!? で、でもまだお昼休みだし…」
「体調不良ですわ。 さあ帰りますわよ、羽藤さん」
「でもいいのかな?」
「大丈夫ですよ、いざとなったら校則は変えますので。 安心してください、桂おねーさん♪」
「そんなことしちゃだめだよ、葛ちゃん」
「…羽藤さん、つっこむ所はそこではありませんわ」
(終)
註・(自主規制)はお問い合わせいただいても答えません。 あしからず。
「…」
「…」
「あはははっ、も、本当最高っ♪ あー、たまんないっ。 あははははっ」
「…」
「…」
「あー、はー…。 ぷっ、くくっ、あははははっ」
「…ね、ねえ、陽子ちゃん。 あの…どうしたの、かな?」
「…」
「はとちゃんっ。 (自主規制)の演技って(自主規制)だと(自主規制)よねーっ。 あははははっ」
「陽子ちゃん、何言ってるかわからないんだけど」
「それにしてもこの発想からしてどうなのかと思ったけど、おもしろいわよっ、あははっ。 くくく…ま、正直(自主規制)は(自主規制)だけど、(自主規制)はいいわね、最高だわ。 あははははっ」
「全くわからないってば…」
「どうして(自主規制)なのかしら?」
「ネタバレなのかな?」
「注意事項にはネタバレは…」
「シャラーップ、お凛っ。 余計な事は言わなくていいですわっ。 なんてね、あははははっ」
「…」
「…」
「どうしちゃったのかな?」
「さあ…。 羽藤さんは何か思い当たる節は?」
「うーん…。 なんだろ? 特にはないけど…」
「困りましたわね…。 まあ普段からおかしいとは言え、これは…」
「うあー、よく寝たー…」
「陽子ちゃん、授業中ずっと寝てたね」
「何言ってんのよ、はとちゃんっ。 学生ならともかく社会に出たらそうそう寝てられないのよっ? ゲームで朝までなんてバカしてていいと思ってんのっ? 甘いっ、あんたは本当に甘ちゃんねっ」
「なんか陽子ちゃん言ってることめちゃくちゃなんだけど」
「でも楽しくてさー。 あははははっ。 あー、でもプロローグ長いってこれー」
「ねえ陽子ちゃん、聞いてるかな?」
「いやまあそこはいいわよ。 でもいくらなんでも(自主規制)てからは正直(自主規制)だと思うのよねー」
「聞いてないんだね…」
「どうやら朝と変わってないみたいですわね」
「あー…楽しいー。 でもね、はとちゃん」
「あ、うん。 何かな、陽子ちゃん」
「睡眠不足の運転は事故率大幅アップよっ! ダメっ! 寝なさいっ!」
「…」
「…」
「ほら(自主規制)でも(自主規制)じゃない? どれだけありふれている出来事なのかってことよっ! ああ…でも楽しいのよねー…」
「…お凛さん、どうしたらいいのかな?」
「どうしようもないですわ、これは」
「キャラ作りもあやういよね、これ」
「羽藤さん、いくら眠いとは言え私達はしっかりしてないといけませんわ」
「あ、うん。 そうだよね」
「じゃ、あたし帰るから」
「…陽子ちゃん、まだお昼休みだよ?」
「いや本当今日は寝ないとマズいから。 寝ること考えたら1時間くらいしか時間ないし」
「どうしようもない状態になってますわね」
「無理して書かなくてもよかったような…」
「そうですわね」
「ついつい続けちゃうのよねー…。 この後どんな(自主規制)があるのかなー…って。 そしたら(自主規制)なのよーっ。 あははははっ♪ ありえないと思わない? あははははっ」
「同意を求められても…」
「ま、そういうわけだから。 これとっとと纏めて終わらせてね。 それじゃねーっ、あははははっ」
「…壊れてたね」
「いえ、壊されてた、という方が正しいかと」
「えっと昨日の『空中都市、そして私は』は前後編を中止して後編部分をくっつけました、だって」
「もともと分ける意味はなかったのでは?」
「ううん、あったんだけど…。 その…、眠くて…」
「眠いからくっつけた、というのですか?」
「そうじゃなくて、昨日の時点で眠かったから」
「? おっしゃってることがよくわかりませんが」
「本当はあれ、昨日出すつもりじゃなかったんだよね…」
「…」
「なんか…陽子ちゃんだけじゃなくて、私もおかしくなってきちゃったかも。 あとお凛さんに任せていいかな?」
「…お断りしますわ。 仕方ないですわね、私達も帰りましょう」
「えっ!? で、でもまだお昼休みだし…」
「体調不良ですわ。 さあ帰りますわよ、羽藤さん」
「でもいいのかな?」
「大丈夫ですよ、いざとなったら校則は変えますので。 安心してください、桂おねーさん♪」
「そんなことしちゃだめだよ、葛ちゃん」
「…羽藤さん、つっこむ所はそこではありませんわ」
(終)
註・(自主規制)はお問い合わせいただいても答えません。 あしからず。
(エステルっ………!)
私は宿屋へと駆け戻る。
「ルルアンタっ、フェティっ。 出るわよっ、今すぐっ!」
「はあ? 何言ってるのよ、あんた」
「どうしたのぉ? エレンディア」
息を切らせたまま私は叫ぶ。
「いいから出るわよっ! 速くっ!」
「…わかったのぉ」
「なんだって言うのよ…」
私の言葉にルルアンタが出発の準備を始める。 フェティも不満そうに準備しだす。
「フェティちゃん、ごめんなさいなのぉ」
「…どうして、あなたが謝るのよ」
「エレンディアの代わりなの」
「だったらあの女に言わせなさいよっ。 あんたに言われても意味ないわよ」
「まだっ?」
「もうすぐなのぉ」
「ったく…」
「エステルちゃん、またシャリにさらわれたのぉ?」
リベルダムへと向かう街道を駆けつつ私は事情を話す。 ギルドで聞いた話をそのまま二人に伝えた。
「これだから下等生物は嫌なのよ。 お互いに足を引っ張り合って生きているのね」
「そんなことはどうでもいいじゃないのよっ。 今はエステルを助けに行かなきゃっ!」
いつもなら流せるフェティの憎まれ口が苛立たしい。
「…わかったわよっ。 だからこうしてアタクシまで急いでるんでしょっ」
「二人とも喧嘩しちゃダメなのぉ」
ルルアンタがおろおろして言う。
…いけない。 ルルアンタまで困らせて。 こういう時こそ落ち着いて行動しなくてはいけないのに、感情的になっている。
「…ごめん、ルルアンタ。 でも、私…心配で…。 フェティも…ごめん…」
「…あーっ、もういいわよっ。 とにかく急げばいいんでしょっ?」
「またあの洞窟なのぉ?」
「…ううん。 今、エステルの水晶が示しているのは………ラドラス、よ」
『招かれざる客が来たようだね。 彼女を追ってきたのかな?』
ラドラスに入ると同時に声が響く。 聞いたことのある声。
「シャリっ! どういうつもりっ? エステルはどこっ?」
『アハハッ、そんなにいきりたたないでよ。 今日は特別な日なんだからさ』
相変わらずシャリはからかうような喋り方をしてこちらを苛立たせる。
『だから、招かれざる客だけど特別に、歴史の目撃者にしてあげるよ』
何? 何を言ってるの? なんなの、この子はっ!?
『今、いにしえの魔道文明の大いなる遺産、空中都市ラドラスが、四人の巫女の力でよみがえり、大空へと飛び立つのさ!!』
シャリの謳いあげるような高らかな声とともに足場が揺れる。 縦に横に大きく、私達は立っているのがやっとだ。
そして、転送機を使った時のような浮遊感、いやそれよりももっと直接的な浮遊感を感じる。 …まさか……本当に、飛んでる…の?
『この空中都市ラドラスってね、こう見えて実はものすごく大掛かりな兵器なんだよ。 それこそ、これひとつでこの大陸が沈んじゃうくらいのね』
…そうなの? エステルや砂漠の民が細々と暮らしていたここが? でも確かに他に類を見ない技術だとは思っていたけど…兵器?
『…そうだ! それやっちゃおう!』
…え?
まるでいたずらを考えた子供のように無邪気にはしゃぐ声、だけどそれは、世界の終わりを伝える宣言。
…バカなこと言わないで。 そんなこと許されないし、許さない。 あの子が何を考えているのかわからないけど、そんなことはさせないっ。
『あ、もし、僕にご意見ご感想があるならこの都市の制御の間まで来てよ。 …って、言わなくても君はここまで来るか。 じゃ、今、そこと、この制御の間を直結するよ。 さ、こっちに来なよ、エレンディア』
「言われなくても行くわよっ!」
考えるよりも先に体が動く。 仲間を待たずに私は部屋を飛び出していた。
「やあ、エレンディア。 こんな所にまで君と一緒なんて、もうこれは、運命的な何かを感じるね」
「シャリ…エステルはどこっ!? それに、他の三人もいるのねっ、どこにいるのっ!」
部屋を見回すが姿は見えない。
「今、彼女たちには、この都市の底にある動力の間で動力になってもらってるよ」
動力? …この巨大なラドラスを彼女たちの魔力だけで動かしているの? …いや、今はそれどころじゃないっ。
すかさず私は部屋の出口へと振り返る。
「行かせないよ。 言ったでしょ? 君は招かれざる客だって。 …僕はこれを使ってやるんだ。 それをジャマするのはほっとけないな」
振り返る。 酷薄な笑みを浮かべるシャリと目が合う。 その目は昏く濁っている。
「あなたは…いつもそうね」
「…? 何を言ってるんだい? エレンディア」
「いつも楽しそうに、好き勝手に話して…でも誰とも話してはいない。 誰かと話そうとしていない」
怪訝そうな顔を浮かべる。
「あなたの話を聞いてくれる人がいないの? 私は聞いてるわよ?」
「…」
シャリの顔が不快な色を浮かべる。 だけど私は言葉を続ける。
「ただ話しているだけ、言葉を並べるだけでは何も変わらないし、変えられない。 あなたが何でこんなことをするのかわからない、そしてどんな理由があっても私は許さないけど…」
片時もシャリと視線を離さずに私は強く言い放つ。
「話していかなきゃ何も変わりはしないのよっ! 一人遊びもいいかげんにしなさいっ!」
「…」
昏い目のまま、シャリは宙に浮き私を見下ろしている。 だが、やがていつもの如く薄笑みを浮かべると言った。
「エレンディア、君が何と言おうと、僕はこれを使うよ。 どうしても止めたいなら僕を倒すしかないね」
「そうやって耳を塞いで済まそうなんて私は許さない。 エステルはどうして私と一緒に冒険してるか、巫女たちはどうして巫女なのか、そして私たちは何のために日々を生きているか。 見て見ぬふりは許さない」
私は背中に背負った斧を取り出す。
「フフフ、やる気じゃないか、エレンディアっ。 いいよ、僕と踊ろうっ」
「ルルアンタ、フェティ、先に行ってっ。 エステル達を助けてきてっ」
シャリから目を離さず私は叫ぶ。 シャリの目が見開かれる。
「でもっ、エレンディア!」
「いいから行ってっ!」
「そんなことはさせないよっ!」
「それはこっちも同じよっ!」
わずかに動いたシャリに合わせて、私はシャリの懐に飛び込み斧を振る。
「っ!?」
不意をついての一撃だったつもりだが、シャリはすかさず障壁を張って私の斧をはじく。
「二人とも早く行ってっ!」
「…エレンディア、別に一人でがんばる必要は無いさ。 ちゃんと皆一度に相手してあげるよ」
「あら、私の話はまだ終わってないわよ? あなたと戦うつもりもまだないわ」
「フフ…フフフ…アハハハハ、本当エレンディアは楽しいね。 でもそうさ、僕は君の言う通り人の話は聞かないんだ」
「くっ、また…」
再び何かする様子のシャリに私は間合いを詰めようと飛び込む。 が、何か空気の膜みたいな物にぶつかり速度を落とす。
…これは…さっきの障壁!?
「全部終わったあとで、ちゃんと彼女たちも送ってあげるし、先に逝って待っててよ」
まずいっ…聞いたことのない呪文…魔力が高まっていくのが感じられる……大きなのが、来るっ!
「デモリッシュ」
強大な闇が溢れ出す。 闇が覆い尽くす。 むせ返るような地獄の波動が私達を襲う。
「きゃああああっ」
「ああああっ」
「きゃあああっ」
「やれやれっと。 やっと、おとなしくしてくれる気になったみたいだね」
シャリが虚空を渡り私の傍らに立つ。 と同時にラドラスが大きく揺れる。
「ん? この振動、外から!? 来たね…」
次の瞬間、衝撃が間近を襲う。 部屋に風穴が開けられる。
「お出ましだね…。 竜王…」
『虚無の子よ、ここはお前の世界ではない…。 この世界は汝を望まぬ…。 己があるべき場所へと帰るがよい…』
「やんなっちゃうな、もう。 子供の遊びに出てきてほしくないね」
やれやれとばかりに手をあげ、シャリは風穴を覗く
「それにあいかわらずだよね、竜王。 この世界のために巫女たちや無限のソウルを殺すのかい?」
『笑止な。 他人の心配をしてみせるか? 汝は虚無の子。 ただのうつろな人形に過ぎぬのだ』
「違う! シャリは人形なんかじゃないっ!」
傷が痛む。 口の中に血の味がする。 体が動かない。 傍でルルアンタとフェティも倒れている。 それでも声を出した。
「…まだ、私が話してるっ。 邪魔しないでっ!」
「…? ハハハ、何言ってるんだい? エレンディア、僕はあれの言う通りの人形なんだよ。 かなえられなかった望みが僕を生んだんだ」
痛みに顔をしかめながら、私はシャリを真っ直ぐに見つめる。 シャリの目に私の目は写らないの?
「望み…僕の、願い…?」
戸惑いをわずかに見せて、シャリは姿を消す。
だめだった…。 あの子に世界を知って欲しかった。 例えあの子とは敵対し相容れなくても、ただ自分だけで生きているつもりなのは考え直して欲しかった。
この世界が望んでない? 人形? そんなことはどうでもいい。 今、存在している以上、この世界のものなのだ。 世界とともにあるんだっ。
もう体は動かない。 気力もついえ、言葉も出ない。
エステル…エステル…。 ごめん、助けに来たはずなのに、私じゃ力不足だったみたい。 ルルアンタとフェティも巻き込んじゃってごめん。 みんな、みんなごめん…。
『…エレンディア。 無限のソウルを持つ者よ…。 我が再び戦う力を授けてやろう』
体に力が注がれる。 暗くなりかけていた目の前が明るくなる。
「う、うう…」
シャリの台詞じゃないけど、さっきまで私達もろとも消し去ろうとしていたのが何のつもりだか。 高みで話す点ではシャリと変わらない。
「う、ううぅ…」
「な、なんだっての…よ…」
二人も回復してくれたらしい。 こんな時までフェティは憎まれ口だ。
シャリも竜王も気に入らないけど、今は助かる。 ありがたくこの力使わせてもらう。 私が失いかけたものを取り戻すため。
『では、さらばだ。 無限のソウルを持つ者よ』
「…ありがとう」
ラドラスが揺れる。 もう長くはもたない。 急がなければ、私は今度こそ何もかも失ってしまう。
私達は出口へと振り返り、走り出した。
走る、走る、揺れ動くラドラスを疾風の如く駆ける。
見覚えのある場所へ出る。 砂漠の民が案内に立つ転送機の場所。
「動力の間に繋がってるのはどこっ?」
「えっ!? あ、えーと、一番端のものですっ」
「ありがとっ!」
無人の野を行くが如く、私は走る。 邪魔立てするゴーレムを無視してただ真っ直ぐに走る。
そして私はたどり着いた。
「エステルっ!」
いた。 みんな、四人の巫女がいた。 ただし何か捕らえられているように拘束されている。 そして部屋の中心には何やらおかしなものもある。
『動力部、不要生命体、混入。 自動排除反応……動作開始。 排除終了条件……生命活動停止』
斧を構える。
「ねえねえっ、エレンディアっ。 あれ壊しちゃって平気なのぉっ?」
「わからない…けどっ、あれを壊さないとエステル達を助けられないじゃないっ。 助けてから考えるわよっ!」
「壊したと同時にこれ落ちないでしょうねえっ! 落ちたらあんた責任取りなさいよっ!」
「私にできる範囲で責任取るわよっ!」
おそらく防衛用の設置物と思われる物を壊すと、エステル達の拘束が解け、四人が倒れ伏している。
「エステルっ!」
私の声にエステルが反応する。 ゆっくりと起き上がると頭を振り、私の方を見たと思うと駆け寄ってくる。
「エレンディア…。 エレンディア! エレンディア! エレンディアっ!!」
「エステルっ!!」
私も思わずエステルに向かって駆け出す。 そして私達は抱き合った。 私の肩に顔をくっつけてエステルは泣きそうな声で言う。
「さすがに…今回は、ものすっごく恐かったよーっ」
「うん…うん、本当に…よかった」
私も少し泣きそうだった。
「ボク、ここでラドラスに魔力吸い取られて…、もうダメかと…あ!!」
大きな声を出してエステルが顔を上げる。
「みんな! 大丈夫!?」
「そなたに心配されるほど弱くはないわ、地の巫女よ」
エアがそう言いながらゆっくりと立ち上がる。 次いでフレアとイークレムンもよろよろと立ち上がる。
その時、辺りが大きく揺れた。
「ラドラスが…落ちる…。 このままじゃ、ボク達、ラドラスの皆、それに他にもたくさん被害が出る…。 エア、つらいとは思うけどっ…」
「ふっ、気軽に言うてくれるわ。 よかろう、制御の間へと転送しようぞ」
エアの強大な魔力で私達は制御の間へと飛ぶ。 着くなりエステルが叫ぶ。
「みんなっ、ボクに魔力を貸してっ! それでみんな脱出してっ。 あとはボクがラドラスを操って砂漠へ沈めるっ!」
「何言ってるのっ!? それじゃあエステルはどうなるのっ!?」
「よいのです。 エレンディア様」
「何がいいのよっ、イークレムンっ! 何もよくないわよっ! 全然よくないっ!」
巫女達は黙って首を振る。 エステルは制御を始め出す。
「よーしっ、いくよっ!」
「私の言うこと聞きなさいよっ!」
「……………。 これ、結構集中しなきゃいけないんだ。 悪いけど、出て行ってくれる?」
私の方をわずかに見てエステルが言う。 だけど、
「エステルっ!」
「このままじゃボクもエレンディアも…ううん、それだけじゃない。 もっと多くの人が被害に合うんだよ」
「わかるけど…でも、じゃあエステルはどうなるのっ!?」
「エレンディア…」
顔も知らない人なんかどうなったっていい、とまでは言わない。 けれど目の前で知っている好きな人に死なれたくはない。 まだ生きている彼女を目の前にして死なせるわけにはいかない。
「エアっ、あなたの魔力でどうにかできない? 何か他に手はない?」
「…エレンディア、ラドラスは地の巫女であるボクにしか動かせないんだよ」
だがエステルは淡々と無情な言葉を語る。 それでも私は諦められない。
「な、ならっ。 落ちる寸前に脱出する私達の所に呼び出すとかはっ!」
「そんなこと…」
「わかった。 やってみよう、エレンディア」
エステルが何か言おうとした所、エアが口を挟む。
「本当っ!? できるのっ?」
「エア………。 うん、任せたよっ」
エステルの言葉を聞いて、みんな出て行く。 仕方なしに私も歩き出す。 でも…、
「っ!?」
エステルの背中に手をつく。
「…エステル。 死んだら許さないから…。 まだ…お別れはしないから、ね…」
頬を涙が伝う。 エアはああ言ったが、どうしようもない不安が私の中に渦巻いている。
「絶対…絶対、生きるのよ。 私、あなたのこと好きなんだから、まだまだ一緒に冒険したいんだから…」
「…」
そして制御の間を出る。 三人の巫女の力で私達は外へと脱出する。 転送の瞬間、制御の間から小さな声が聞こえた。
「…さよなら…エレンディア」
一気に血の気が引く。
「エステルっ!!」
消える視界に向かって手を伸ばす。 姿も見えないエステルを掴もうと。
「エステルーーーっ!!」
広い砂漠で私達はそれを見ていた。 それはスローモーションのようにゆっくりと、そこかしこ崩壊しながら落ちてきた。
残骸が降り注ぐ中、私はただ呆然とそれを見つめていた。
「すまぬが、魔力を使い果たした。 もはや先程の策はできぬ」
砂漠に出るなり、エアは言った。 話し出した瞬間になってやっと気づいた、私を外へ出すために言ったのだ。 最初からできないことだったのだ。
凄まじい轟音とともにラドラスが砂漠に沈む。 私の目からは涙が溢れ出し止まらなかった。
「…エステル……」
ただじっと見つめていた。 騙したエアが許せない、かっこつけて強がって意地はったエステルも許せない、でも…何より結局不甲斐ないだけだった自分が一番…許せない。
「…うっ……ううっ、うっ……」
「エレンディア様、エステルさんは…」
「言わずともよい、水の巫女よ。 エレンディアならばよい答えを見つけるであろう」
…聞き流しそうになった言葉が引っかかる。
「よい…答え…?」
「それは自分で見つけるとよい。 何が正しいかは誰にも分からぬ」
まだ涙は止まらない。 でも何かが私の頭に訴えている。
「そろそろ我らは元の場所へと帰る。 さらばだ、エレンディア。 礼を言う。 そなたのおかげでわらわにも未来が楽しめそうだ」
そう言うとエアは皆を転送する。 私達も。 最後に見えたエアの笑みは本物の笑みであった。
気づくとリベルダムの正門前だった。
「エレンディア…」
いまだ涙を流し呆然と佇む私をルルアンタが心配そうに見上げる。
「…」
フェティはただ黙って立っている。
そして、私は気づいた。 そう、私は気づいた。 涙は止まった。
「行くわよっ」
「え? エレンディア、どこに行くのぉ?」
「ラドラスよっ!」
「何をっ!? 今見てたでしょっ! …その…沈んだ、のを…」
私は二人に振り返り言う。
「見たわ。 だけど…まだ、エステルが死んだって見たわけじゃないっ。 崩れたラドラスで助けを求めてるかもしれないっ。 だから…だから、行くわ、私はっ」
希望。 そして、僅かな希望へと向かう勇気。 これが私が気づいた答え。 正しいかはわからない。
だけど、ただ絶望しても何も動かない。 動いて絶望するかもしれない。 でも、いつか新たに動き出せる。 逃げては何も動かない。
さっきシャリに言いたかった言葉がそのまま自分に返ってくるとは思わなかった。
「…うん、わかった。 行こぉ、エレンディア」
ルルアンタが私を見てやさしく微笑む。
「…行けばいいんでしょっ。 行ってあげるわよっ」
フェティも仕方なさそうに答える。
「ええ、エステルを………連れ帰る。 絶対…生きてるっ」
生きてる。 エステルは生きてる。
勇気を振り絞り、私はラドラスに希望を探しに出た。
照りつける太陽に体中の水分が奪われていく。 砂に足を取られながらも私達はラドラスへとたどり着いた。
砂漠の民達も疲労の影が色濃い。 エステルの部屋へと足を伸ばす。 当然誰もいない。 ささやかながらかわいく部屋造りしてあったこの部屋も今は墜落のショックでぐちゃぐちゃになってしまっている。
「エステル、これ見たら泣いちゃいそうね」
誰にもともなく一人呟き、知らず私は片付け始める。 その内、他の部屋を探していたルルアンタとフェティがやってきた。
「エレンディア何してるのぉ?」
「うん…。 片付けてるの。 エステル、いつもきれいにしてたから…こんなぐちゃぐちゃじゃかわいそうだなって」
「…。 うん、ルルアンタも手伝うのぉ!」
そう言ってルルアンタが近くの本を拾い片付けを手伝ってくれる。
「ア、アタクシはやらないわよっ」
「うん。 別に無理してやってもらわなくていいわよ」
「…。 だ、だいたい、そんなことする暇があるなら、ゴーレムをなんとかしなさいよっ」
「ゴーレム?」
「なんだかゴーレムがうようよいる部屋があるのよっ。 うっとうしくて仕方ないわっ」
「ゴーレム…」
そんな部屋………あっ!? 精霊神の座所っ!
「精霊神なら、エステルがどこにいるかわかるかもしれないわっ!」
私は立ち上がる。
「行くわよっ!」
「うんっ」
「エステルっ!?」
ゴーレムをかいくぐりたどり着くと、そこには座所に祀られているかのように宙に横たわり、微動だにしないエステルの姿があった。
「エステルっ? エステルっ!?」
『…来たか。 無限のソウルを持つ者よ。 我は待っておった』
辺りに声が響く。 地の精霊神、グラジェオン。 前に一度エステルと声を聞いた。
「エステルは…どうなったのっ? ………死ん…で…しまっ……た、の?」
口にするのもつらい、返事を聞くのも怖い。 だけど聞くためにここに来た。
『地の巫女、エステルは、空中都市崩壊による魔法力場の嵐より世界を守るため、この地にて、自ら封印になっている』
「…それって…人柱、ってこと…?」
『生命活動はしている。 ただしその全ては封印のための魔力に注がれている』
生きてる。 …生きてるっ。 嬉しくて涙が出る。 だけど、
「でも、一生このままってことなのっ?」
『…。 エステルを救う方法、なきにしもあらず。 我が力が完全に復活したならば力場の乱れ、収めてしんぜよう』
「どうすればいいのっ?」
『巨人パンタ・レイを倒すがよい。 さすればエステルは封印に縛られる必要なし。 汝とともに再び旅だつこともできよう』
「わかった。 やるわ」
考えなかったわけじゃない。 だけど、二つ返事で決断した。 目の前に救える命があるのに、放っておけるわけがなかったからだ。
『よし。 ならば、汝を精霊の座へと導かん』
「行くわよっ。 二人ともっ」
「うんっ」
「仕方ないから、やってあげるわよっ」
私達はそれぞれ武器を構え、立ちふさがる巨人に向かって駆け出した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
激戦の末、巨人を打ち破る。 辺りに濃い魔力がたち込めてくる。 次の瞬間、私達は再び座所へと転送された。
『よくぞ、巨人パンタ・レイを倒した。 これで、我の力を妨げる者はない。 礼を言うぞ、無限のソウルを持つ者よ』
「…はぁっ、あなたの…ため、じゃない。 私のため、よ」
『これでエステルも解放されよう。 目覚めるがよい、地の巫女よ…』
まばゆい光が辺りを照らす。 そして、次の瞬間にはエステルが立っていた。
ぼんやりと首をめぐらし、私と目が合う。
「エレンディア…。 どうして…?」
『ではさらばだ。 無限のソウルを持つ者よ…』
強大な魔力により再び転送される。 目を開くと、座所への道の入り口付近だった。
「エステルっ」
近づこうとした私にエステルがこわばった顔で問い掛ける。
「どうしてパンタ・レイを倒したの?」
「…エステルを…あなたを助けるためよっ」
「ボクを助ける…ため…?」
驚いた顔をしたと思うとエステルはがっくりと肩を落とす。
「エレンディア、キミはボクを助けるべきじゃなかったんだ。 ボクは巫女として完全に覚醒し全てを知った。 そう、エアのように」
そして悲しげな目で私を見る。
「キミは…利用されていたんだ。 地の精霊神グラジェオンにね。 闇の聖母神ティラを封じる巨人が邪魔だったグラジェオンの策略にね」
「…」
「…せっかくボクが、封じていたのに…。 悲しみと怒りと憎しみで闇に落ちたティラの封じを…キミは解いてしまったんだ…」
エステルがぎりっと奥歯を噛みしめ俯く。
「キミはボクを助けるべきじゃ、なかったのに…。 だのに…」
「…嫌よ」
「…エレンディア?」
「…どうして助けられる大切な人を放っておけるのよ。 そんなの…私は嫌よっ!」
エステルはうっすら涙を浮かべながら、怒りの表情へと変わる。
「世界中の人たちの命がかかってるんだよっ! エレンディアはボク一人のために世界中の人たちを不幸にするのかいっ!?」
「世界はあなたのものじゃないでしょうっ!? なんであなただけが世界のために犠牲になるのよっ!!」
エステルの叫びに私も叫ぶ。
「あなたも…世界中の人たちの一人なのよっ! 世界中の人たちで立ち向かうべきことを勝手に一人で背負わないでよっ! 勝手に…諦めてるんじゃないわよっ!!」
「そんなこと言ったって、あの時ラドラスを動かせたのはボクだけなんだよっ!? ボクがやるしかないじゃないかっ! そういうことだってあるんだよっ!!」
「…そう、かもしれない。 でも今エステルを救えたのも私だけなのっ。 だから助けたのよっ、同じじゃないっ!!」
「…っ」
エステルが泣きながら私に抱きついてくる。
「バカだよ…。 本当にバカだよ、キミは…」
私も泣きながらエステルを抱き返す。
「生きててよかった…。 また会えて…本当に、よかった…」
「ゴメン…。 ゴメン…。 本当はうれしいです。 ゴメン…。 ありがとう…」
胸の中でエステルが呟く。 腕に感じるエステルのやわらかく暖かい感触。 もう会えないかもしれないと泣いたのは無駄になってくれた。
「大好きよ、エステル…。 会いたかった…」
だから私もエステルの首もとに顔をうずめ、泣きながら呟いた。
「ううぅ…あああぁぁ」
「うっうぅ…うぅぅ…」
二人抱き合ってしばらく泣き続けた。
何が大切な人と別れをもたらすかはわからない。 けれど思いはけっして別れない。 絆はけして離さない。
切れ掛かった絆を再び繋ぎとめた私は涙とともに誓った。
(終)
私は宿屋へと駆け戻る。
「ルルアンタっ、フェティっ。 出るわよっ、今すぐっ!」
「はあ? 何言ってるのよ、あんた」
「どうしたのぉ? エレンディア」
息を切らせたまま私は叫ぶ。
「いいから出るわよっ! 速くっ!」
「…わかったのぉ」
「なんだって言うのよ…」
私の言葉にルルアンタが出発の準備を始める。 フェティも不満そうに準備しだす。
「フェティちゃん、ごめんなさいなのぉ」
「…どうして、あなたが謝るのよ」
「エレンディアの代わりなの」
「だったらあの女に言わせなさいよっ。 あんたに言われても意味ないわよ」
「まだっ?」
「もうすぐなのぉ」
「ったく…」
「エステルちゃん、またシャリにさらわれたのぉ?」
リベルダムへと向かう街道を駆けつつ私は事情を話す。 ギルドで聞いた話をそのまま二人に伝えた。
「これだから下等生物は嫌なのよ。 お互いに足を引っ張り合って生きているのね」
「そんなことはどうでもいいじゃないのよっ。 今はエステルを助けに行かなきゃっ!」
いつもなら流せるフェティの憎まれ口が苛立たしい。
「…わかったわよっ。 だからこうしてアタクシまで急いでるんでしょっ」
「二人とも喧嘩しちゃダメなのぉ」
ルルアンタがおろおろして言う。
…いけない。 ルルアンタまで困らせて。 こういう時こそ落ち着いて行動しなくてはいけないのに、感情的になっている。
「…ごめん、ルルアンタ。 でも、私…心配で…。 フェティも…ごめん…」
「…あーっ、もういいわよっ。 とにかく急げばいいんでしょっ?」
「またあの洞窟なのぉ?」
「…ううん。 今、エステルの水晶が示しているのは………ラドラス、よ」
『招かれざる客が来たようだね。 彼女を追ってきたのかな?』
ラドラスに入ると同時に声が響く。 聞いたことのある声。
「シャリっ! どういうつもりっ? エステルはどこっ?」
『アハハッ、そんなにいきりたたないでよ。 今日は特別な日なんだからさ』
相変わらずシャリはからかうような喋り方をしてこちらを苛立たせる。
『だから、招かれざる客だけど特別に、歴史の目撃者にしてあげるよ』
何? 何を言ってるの? なんなの、この子はっ!?
『今、いにしえの魔道文明の大いなる遺産、空中都市ラドラスが、四人の巫女の力でよみがえり、大空へと飛び立つのさ!!』
シャリの謳いあげるような高らかな声とともに足場が揺れる。 縦に横に大きく、私達は立っているのがやっとだ。
そして、転送機を使った時のような浮遊感、いやそれよりももっと直接的な浮遊感を感じる。 …まさか……本当に、飛んでる…の?
『この空中都市ラドラスってね、こう見えて実はものすごく大掛かりな兵器なんだよ。 それこそ、これひとつでこの大陸が沈んじゃうくらいのね』
…そうなの? エステルや砂漠の民が細々と暮らしていたここが? でも確かに他に類を見ない技術だとは思っていたけど…兵器?
『…そうだ! それやっちゃおう!』
…え?
まるでいたずらを考えた子供のように無邪気にはしゃぐ声、だけどそれは、世界の終わりを伝える宣言。
…バカなこと言わないで。 そんなこと許されないし、許さない。 あの子が何を考えているのかわからないけど、そんなことはさせないっ。
『あ、もし、僕にご意見ご感想があるならこの都市の制御の間まで来てよ。 …って、言わなくても君はここまで来るか。 じゃ、今、そこと、この制御の間を直結するよ。 さ、こっちに来なよ、エレンディア』
「言われなくても行くわよっ!」
考えるよりも先に体が動く。 仲間を待たずに私は部屋を飛び出していた。
「やあ、エレンディア。 こんな所にまで君と一緒なんて、もうこれは、運命的な何かを感じるね」
「シャリ…エステルはどこっ!? それに、他の三人もいるのねっ、どこにいるのっ!」
部屋を見回すが姿は見えない。
「今、彼女たちには、この都市の底にある動力の間で動力になってもらってるよ」
動力? …この巨大なラドラスを彼女たちの魔力だけで動かしているの? …いや、今はそれどころじゃないっ。
すかさず私は部屋の出口へと振り返る。
「行かせないよ。 言ったでしょ? 君は招かれざる客だって。 …僕はこれを使ってやるんだ。 それをジャマするのはほっとけないな」
振り返る。 酷薄な笑みを浮かべるシャリと目が合う。 その目は昏く濁っている。
「あなたは…いつもそうね」
「…? 何を言ってるんだい? エレンディア」
「いつも楽しそうに、好き勝手に話して…でも誰とも話してはいない。 誰かと話そうとしていない」
怪訝そうな顔を浮かべる。
「あなたの話を聞いてくれる人がいないの? 私は聞いてるわよ?」
「…」
シャリの顔が不快な色を浮かべる。 だけど私は言葉を続ける。
「ただ話しているだけ、言葉を並べるだけでは何も変わらないし、変えられない。 あなたが何でこんなことをするのかわからない、そしてどんな理由があっても私は許さないけど…」
片時もシャリと視線を離さずに私は強く言い放つ。
「話していかなきゃ何も変わりはしないのよっ! 一人遊びもいいかげんにしなさいっ!」
「…」
昏い目のまま、シャリは宙に浮き私を見下ろしている。 だが、やがていつもの如く薄笑みを浮かべると言った。
「エレンディア、君が何と言おうと、僕はこれを使うよ。 どうしても止めたいなら僕を倒すしかないね」
「そうやって耳を塞いで済まそうなんて私は許さない。 エステルはどうして私と一緒に冒険してるか、巫女たちはどうして巫女なのか、そして私たちは何のために日々を生きているか。 見て見ぬふりは許さない」
私は背中に背負った斧を取り出す。
「フフフ、やる気じゃないか、エレンディアっ。 いいよ、僕と踊ろうっ」
「ルルアンタ、フェティ、先に行ってっ。 エステル達を助けてきてっ」
シャリから目を離さず私は叫ぶ。 シャリの目が見開かれる。
「でもっ、エレンディア!」
「いいから行ってっ!」
「そんなことはさせないよっ!」
「それはこっちも同じよっ!」
わずかに動いたシャリに合わせて、私はシャリの懐に飛び込み斧を振る。
「っ!?」
不意をついての一撃だったつもりだが、シャリはすかさず障壁を張って私の斧をはじく。
「二人とも早く行ってっ!」
「…エレンディア、別に一人でがんばる必要は無いさ。 ちゃんと皆一度に相手してあげるよ」
「あら、私の話はまだ終わってないわよ? あなたと戦うつもりもまだないわ」
「フフ…フフフ…アハハハハ、本当エレンディアは楽しいね。 でもそうさ、僕は君の言う通り人の話は聞かないんだ」
「くっ、また…」
再び何かする様子のシャリに私は間合いを詰めようと飛び込む。 が、何か空気の膜みたいな物にぶつかり速度を落とす。
…これは…さっきの障壁!?
「全部終わったあとで、ちゃんと彼女たちも送ってあげるし、先に逝って待っててよ」
まずいっ…聞いたことのない呪文…魔力が高まっていくのが感じられる……大きなのが、来るっ!
「デモリッシュ」
強大な闇が溢れ出す。 闇が覆い尽くす。 むせ返るような地獄の波動が私達を襲う。
「きゃああああっ」
「ああああっ」
「きゃあああっ」
「やれやれっと。 やっと、おとなしくしてくれる気になったみたいだね」
シャリが虚空を渡り私の傍らに立つ。 と同時にラドラスが大きく揺れる。
「ん? この振動、外から!? 来たね…」
次の瞬間、衝撃が間近を襲う。 部屋に風穴が開けられる。
「お出ましだね…。 竜王…」
『虚無の子よ、ここはお前の世界ではない…。 この世界は汝を望まぬ…。 己があるべき場所へと帰るがよい…』
「やんなっちゃうな、もう。 子供の遊びに出てきてほしくないね」
やれやれとばかりに手をあげ、シャリは風穴を覗く
「それにあいかわらずだよね、竜王。 この世界のために巫女たちや無限のソウルを殺すのかい?」
『笑止な。 他人の心配をしてみせるか? 汝は虚無の子。 ただのうつろな人形に過ぎぬのだ』
「違う! シャリは人形なんかじゃないっ!」
傷が痛む。 口の中に血の味がする。 体が動かない。 傍でルルアンタとフェティも倒れている。 それでも声を出した。
「…まだ、私が話してるっ。 邪魔しないでっ!」
「…? ハハハ、何言ってるんだい? エレンディア、僕はあれの言う通りの人形なんだよ。 かなえられなかった望みが僕を生んだんだ」
痛みに顔をしかめながら、私はシャリを真っ直ぐに見つめる。 シャリの目に私の目は写らないの?
「望み…僕の、願い…?」
戸惑いをわずかに見せて、シャリは姿を消す。
だめだった…。 あの子に世界を知って欲しかった。 例えあの子とは敵対し相容れなくても、ただ自分だけで生きているつもりなのは考え直して欲しかった。
この世界が望んでない? 人形? そんなことはどうでもいい。 今、存在している以上、この世界のものなのだ。 世界とともにあるんだっ。
もう体は動かない。 気力もついえ、言葉も出ない。
エステル…エステル…。 ごめん、助けに来たはずなのに、私じゃ力不足だったみたい。 ルルアンタとフェティも巻き込んじゃってごめん。 みんな、みんなごめん…。
『…エレンディア。 無限のソウルを持つ者よ…。 我が再び戦う力を授けてやろう』
体に力が注がれる。 暗くなりかけていた目の前が明るくなる。
「う、うう…」
シャリの台詞じゃないけど、さっきまで私達もろとも消し去ろうとしていたのが何のつもりだか。 高みで話す点ではシャリと変わらない。
「う、ううぅ…」
「な、なんだっての…よ…」
二人も回復してくれたらしい。 こんな時までフェティは憎まれ口だ。
シャリも竜王も気に入らないけど、今は助かる。 ありがたくこの力使わせてもらう。 私が失いかけたものを取り戻すため。
『では、さらばだ。 無限のソウルを持つ者よ』
「…ありがとう」
ラドラスが揺れる。 もう長くはもたない。 急がなければ、私は今度こそ何もかも失ってしまう。
私達は出口へと振り返り、走り出した。
走る、走る、揺れ動くラドラスを疾風の如く駆ける。
見覚えのある場所へ出る。 砂漠の民が案内に立つ転送機の場所。
「動力の間に繋がってるのはどこっ?」
「えっ!? あ、えーと、一番端のものですっ」
「ありがとっ!」
無人の野を行くが如く、私は走る。 邪魔立てするゴーレムを無視してただ真っ直ぐに走る。
そして私はたどり着いた。
「エステルっ!」
いた。 みんな、四人の巫女がいた。 ただし何か捕らえられているように拘束されている。 そして部屋の中心には何やらおかしなものもある。
『動力部、不要生命体、混入。 自動排除反応……動作開始。 排除終了条件……生命活動停止』
斧を構える。
「ねえねえっ、エレンディアっ。 あれ壊しちゃって平気なのぉっ?」
「わからない…けどっ、あれを壊さないとエステル達を助けられないじゃないっ。 助けてから考えるわよっ!」
「壊したと同時にこれ落ちないでしょうねえっ! 落ちたらあんた責任取りなさいよっ!」
「私にできる範囲で責任取るわよっ!」
おそらく防衛用の設置物と思われる物を壊すと、エステル達の拘束が解け、四人が倒れ伏している。
「エステルっ!」
私の声にエステルが反応する。 ゆっくりと起き上がると頭を振り、私の方を見たと思うと駆け寄ってくる。
「エレンディア…。 エレンディア! エレンディア! エレンディアっ!!」
「エステルっ!!」
私も思わずエステルに向かって駆け出す。 そして私達は抱き合った。 私の肩に顔をくっつけてエステルは泣きそうな声で言う。
「さすがに…今回は、ものすっごく恐かったよーっ」
「うん…うん、本当に…よかった」
私も少し泣きそうだった。
「ボク、ここでラドラスに魔力吸い取られて…、もうダメかと…あ!!」
大きな声を出してエステルが顔を上げる。
「みんな! 大丈夫!?」
「そなたに心配されるほど弱くはないわ、地の巫女よ」
エアがそう言いながらゆっくりと立ち上がる。 次いでフレアとイークレムンもよろよろと立ち上がる。
その時、辺りが大きく揺れた。
「ラドラスが…落ちる…。 このままじゃ、ボク達、ラドラスの皆、それに他にもたくさん被害が出る…。 エア、つらいとは思うけどっ…」
「ふっ、気軽に言うてくれるわ。 よかろう、制御の間へと転送しようぞ」
エアの強大な魔力で私達は制御の間へと飛ぶ。 着くなりエステルが叫ぶ。
「みんなっ、ボクに魔力を貸してっ! それでみんな脱出してっ。 あとはボクがラドラスを操って砂漠へ沈めるっ!」
「何言ってるのっ!? それじゃあエステルはどうなるのっ!?」
「よいのです。 エレンディア様」
「何がいいのよっ、イークレムンっ! 何もよくないわよっ! 全然よくないっ!」
巫女達は黙って首を振る。 エステルは制御を始め出す。
「よーしっ、いくよっ!」
「私の言うこと聞きなさいよっ!」
「……………。 これ、結構集中しなきゃいけないんだ。 悪いけど、出て行ってくれる?」
私の方をわずかに見てエステルが言う。 だけど、
「エステルっ!」
「このままじゃボクもエレンディアも…ううん、それだけじゃない。 もっと多くの人が被害に合うんだよ」
「わかるけど…でも、じゃあエステルはどうなるのっ!?」
「エレンディア…」
顔も知らない人なんかどうなったっていい、とまでは言わない。 けれど目の前で知っている好きな人に死なれたくはない。 まだ生きている彼女を目の前にして死なせるわけにはいかない。
「エアっ、あなたの魔力でどうにかできない? 何か他に手はない?」
「…エレンディア、ラドラスは地の巫女であるボクにしか動かせないんだよ」
だがエステルは淡々と無情な言葉を語る。 それでも私は諦められない。
「な、ならっ。 落ちる寸前に脱出する私達の所に呼び出すとかはっ!」
「そんなこと…」
「わかった。 やってみよう、エレンディア」
エステルが何か言おうとした所、エアが口を挟む。
「本当っ!? できるのっ?」
「エア………。 うん、任せたよっ」
エステルの言葉を聞いて、みんな出て行く。 仕方なしに私も歩き出す。 でも…、
「っ!?」
エステルの背中に手をつく。
「…エステル。 死んだら許さないから…。 まだ…お別れはしないから、ね…」
頬を涙が伝う。 エアはああ言ったが、どうしようもない不安が私の中に渦巻いている。
「絶対…絶対、生きるのよ。 私、あなたのこと好きなんだから、まだまだ一緒に冒険したいんだから…」
「…」
そして制御の間を出る。 三人の巫女の力で私達は外へと脱出する。 転送の瞬間、制御の間から小さな声が聞こえた。
「…さよなら…エレンディア」
一気に血の気が引く。
「エステルっ!!」
消える視界に向かって手を伸ばす。 姿も見えないエステルを掴もうと。
「エステルーーーっ!!」
広い砂漠で私達はそれを見ていた。 それはスローモーションのようにゆっくりと、そこかしこ崩壊しながら落ちてきた。
残骸が降り注ぐ中、私はただ呆然とそれを見つめていた。
「すまぬが、魔力を使い果たした。 もはや先程の策はできぬ」
砂漠に出るなり、エアは言った。 話し出した瞬間になってやっと気づいた、私を外へ出すために言ったのだ。 最初からできないことだったのだ。
凄まじい轟音とともにラドラスが砂漠に沈む。 私の目からは涙が溢れ出し止まらなかった。
「…エステル……」
ただじっと見つめていた。 騙したエアが許せない、かっこつけて強がって意地はったエステルも許せない、でも…何より結局不甲斐ないだけだった自分が一番…許せない。
「…うっ……ううっ、うっ……」
「エレンディア様、エステルさんは…」
「言わずともよい、水の巫女よ。 エレンディアならばよい答えを見つけるであろう」
…聞き流しそうになった言葉が引っかかる。
「よい…答え…?」
「それは自分で見つけるとよい。 何が正しいかは誰にも分からぬ」
まだ涙は止まらない。 でも何かが私の頭に訴えている。
「そろそろ我らは元の場所へと帰る。 さらばだ、エレンディア。 礼を言う。 そなたのおかげでわらわにも未来が楽しめそうだ」
そう言うとエアは皆を転送する。 私達も。 最後に見えたエアの笑みは本物の笑みであった。
気づくとリベルダムの正門前だった。
「エレンディア…」
いまだ涙を流し呆然と佇む私をルルアンタが心配そうに見上げる。
「…」
フェティはただ黙って立っている。
そして、私は気づいた。 そう、私は気づいた。 涙は止まった。
「行くわよっ」
「え? エレンディア、どこに行くのぉ?」
「ラドラスよっ!」
「何をっ!? 今見てたでしょっ! …その…沈んだ、のを…」
私は二人に振り返り言う。
「見たわ。 だけど…まだ、エステルが死んだって見たわけじゃないっ。 崩れたラドラスで助けを求めてるかもしれないっ。 だから…だから、行くわ、私はっ」
希望。 そして、僅かな希望へと向かう勇気。 これが私が気づいた答え。 正しいかはわからない。
だけど、ただ絶望しても何も動かない。 動いて絶望するかもしれない。 でも、いつか新たに動き出せる。 逃げては何も動かない。
さっきシャリに言いたかった言葉がそのまま自分に返ってくるとは思わなかった。
「…うん、わかった。 行こぉ、エレンディア」
ルルアンタが私を見てやさしく微笑む。
「…行けばいいんでしょっ。 行ってあげるわよっ」
フェティも仕方なさそうに答える。
「ええ、エステルを………連れ帰る。 絶対…生きてるっ」
生きてる。 エステルは生きてる。
勇気を振り絞り、私はラドラスに希望を探しに出た。
照りつける太陽に体中の水分が奪われていく。 砂に足を取られながらも私達はラドラスへとたどり着いた。
砂漠の民達も疲労の影が色濃い。 エステルの部屋へと足を伸ばす。 当然誰もいない。 ささやかながらかわいく部屋造りしてあったこの部屋も今は墜落のショックでぐちゃぐちゃになってしまっている。
「エステル、これ見たら泣いちゃいそうね」
誰にもともなく一人呟き、知らず私は片付け始める。 その内、他の部屋を探していたルルアンタとフェティがやってきた。
「エレンディア何してるのぉ?」
「うん…。 片付けてるの。 エステル、いつもきれいにしてたから…こんなぐちゃぐちゃじゃかわいそうだなって」
「…。 うん、ルルアンタも手伝うのぉ!」
そう言ってルルアンタが近くの本を拾い片付けを手伝ってくれる。
「ア、アタクシはやらないわよっ」
「うん。 別に無理してやってもらわなくていいわよ」
「…。 だ、だいたい、そんなことする暇があるなら、ゴーレムをなんとかしなさいよっ」
「ゴーレム?」
「なんだかゴーレムがうようよいる部屋があるのよっ。 うっとうしくて仕方ないわっ」
「ゴーレム…」
そんな部屋………あっ!? 精霊神の座所っ!
「精霊神なら、エステルがどこにいるかわかるかもしれないわっ!」
私は立ち上がる。
「行くわよっ!」
「うんっ」
「エステルっ!?」
ゴーレムをかいくぐりたどり着くと、そこには座所に祀られているかのように宙に横たわり、微動だにしないエステルの姿があった。
「エステルっ? エステルっ!?」
『…来たか。 無限のソウルを持つ者よ。 我は待っておった』
辺りに声が響く。 地の精霊神、グラジェオン。 前に一度エステルと声を聞いた。
「エステルは…どうなったのっ? ………死ん…で…しまっ……た、の?」
口にするのもつらい、返事を聞くのも怖い。 だけど聞くためにここに来た。
『地の巫女、エステルは、空中都市崩壊による魔法力場の嵐より世界を守るため、この地にて、自ら封印になっている』
「…それって…人柱、ってこと…?」
『生命活動はしている。 ただしその全ては封印のための魔力に注がれている』
生きてる。 …生きてるっ。 嬉しくて涙が出る。 だけど、
「でも、一生このままってことなのっ?」
『…。 エステルを救う方法、なきにしもあらず。 我が力が完全に復活したならば力場の乱れ、収めてしんぜよう』
「どうすればいいのっ?」
『巨人パンタ・レイを倒すがよい。 さすればエステルは封印に縛られる必要なし。 汝とともに再び旅だつこともできよう』
「わかった。 やるわ」
考えなかったわけじゃない。 だけど、二つ返事で決断した。 目の前に救える命があるのに、放っておけるわけがなかったからだ。
『よし。 ならば、汝を精霊の座へと導かん』
「行くわよっ。 二人ともっ」
「うんっ」
「仕方ないから、やってあげるわよっ」
私達はそれぞれ武器を構え、立ちふさがる巨人に向かって駆け出した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
激戦の末、巨人を打ち破る。 辺りに濃い魔力がたち込めてくる。 次の瞬間、私達は再び座所へと転送された。
『よくぞ、巨人パンタ・レイを倒した。 これで、我の力を妨げる者はない。 礼を言うぞ、無限のソウルを持つ者よ』
「…はぁっ、あなたの…ため、じゃない。 私のため、よ」
『これでエステルも解放されよう。 目覚めるがよい、地の巫女よ…』
まばゆい光が辺りを照らす。 そして、次の瞬間にはエステルが立っていた。
ぼんやりと首をめぐらし、私と目が合う。
「エレンディア…。 どうして…?」
『ではさらばだ。 無限のソウルを持つ者よ…』
強大な魔力により再び転送される。 目を開くと、座所への道の入り口付近だった。
「エステルっ」
近づこうとした私にエステルがこわばった顔で問い掛ける。
「どうしてパンタ・レイを倒したの?」
「…エステルを…あなたを助けるためよっ」
「ボクを助ける…ため…?」
驚いた顔をしたと思うとエステルはがっくりと肩を落とす。
「エレンディア、キミはボクを助けるべきじゃなかったんだ。 ボクは巫女として完全に覚醒し全てを知った。 そう、エアのように」
そして悲しげな目で私を見る。
「キミは…利用されていたんだ。 地の精霊神グラジェオンにね。 闇の聖母神ティラを封じる巨人が邪魔だったグラジェオンの策略にね」
「…」
「…せっかくボクが、封じていたのに…。 悲しみと怒りと憎しみで闇に落ちたティラの封じを…キミは解いてしまったんだ…」
エステルがぎりっと奥歯を噛みしめ俯く。
「キミはボクを助けるべきじゃ、なかったのに…。 だのに…」
「…嫌よ」
「…エレンディア?」
「…どうして助けられる大切な人を放っておけるのよ。 そんなの…私は嫌よっ!」
エステルはうっすら涙を浮かべながら、怒りの表情へと変わる。
「世界中の人たちの命がかかってるんだよっ! エレンディアはボク一人のために世界中の人たちを不幸にするのかいっ!?」
「世界はあなたのものじゃないでしょうっ!? なんであなただけが世界のために犠牲になるのよっ!!」
エステルの叫びに私も叫ぶ。
「あなたも…世界中の人たちの一人なのよっ! 世界中の人たちで立ち向かうべきことを勝手に一人で背負わないでよっ! 勝手に…諦めてるんじゃないわよっ!!」
「そんなこと言ったって、あの時ラドラスを動かせたのはボクだけなんだよっ!? ボクがやるしかないじゃないかっ! そういうことだってあるんだよっ!!」
「…そう、かもしれない。 でも今エステルを救えたのも私だけなのっ。 だから助けたのよっ、同じじゃないっ!!」
「…っ」
エステルが泣きながら私に抱きついてくる。
「バカだよ…。 本当にバカだよ、キミは…」
私も泣きながらエステルを抱き返す。
「生きててよかった…。 また会えて…本当に、よかった…」
「ゴメン…。 ゴメン…。 本当はうれしいです。 ゴメン…。 ありがとう…」
胸の中でエステルが呟く。 腕に感じるエステルのやわらかく暖かい感触。 もう会えないかもしれないと泣いたのは無駄になってくれた。
「大好きよ、エステル…。 会いたかった…」
だから私もエステルの首もとに顔をうずめ、泣きながら呟いた。
「ううぅ…あああぁぁ」
「うっうぅ…うぅぅ…」
二人抱き合ってしばらく泣き続けた。
何が大切な人と別れをもたらすかはわからない。 けれど思いはけっして別れない。 絆はけして離さない。
切れ掛かった絆を再び繋ぎとめた私は涙とともに誓った。
(終)
「よかったなのぉ」
「ねえー。 二週間もたずに終了かと思っちゃったわ」
「どうかしたんですかー?」
「あ、ユーリス。 なんか0時あたりからしばらくインできなかったのよ。 これはこの前書いたばかりのことが本当になったのかと思って、もうドキドキしたわー」
「したのぉ」
「そうですか。 これで私も大活躍できますね♪」
「…いや…ユーリスは出ないから」
「なんでですかーっ!」
「…え、だって、全然連れてってないし」
「うう…エレンディアさんってばひどいかもっ。 あ…もしかして私の魔力に嫉妬して!?」
「…」
「…」
「私の方がかわいいから嫉妬してたりして!? きゃっ、私って罪な女♪」
「…ルルアンタ、あっち行くわよ」
「わかったのぉ」
「あら、ユーリスは?」
「あっちで夢見たままよ」
「まだなんか一人で言ってるのぉ」
「ルルアンタ、気づかれちゃうから小声で」
「…でもかわいそうなのぉ」
「まああの子と関わる側の方がかわいそうな気もするけど…」
「そうよー。 ザギヴの言う通り。 あの子といると心労が絶えないわ」
「じゃあなんで出したのぉ?」
「勝手に出てきたのよ。 実際あまり使ってないから扱いにくいのよね」
「そうなの?」
「魔法使いはたいていフェティかナッジ、あとはエステルだからねー。 私が使ってもいいし」
「エレンディアはパーティに変わりばえがないのぉ」
「私もいつもいる気がするわね」
「あらん、私ザギヴのこと好きだもん♪」
「ふふ、ありがとう。 嬉しいわ」
「ルルアンタは?」
「もちろん好きよ。 でもルルアンタには時々代わってもらってるわね」
「そうなのぉ。 さびしいのぉ」
「ごめんねー。 でも完全にいつも同じパーティってわけにもいかないから、ね」
「うう…しかたないのぉ」
「そういうことね。 エステルも外れることあるから仕方ないんじゃない?」
「ルルアンタ、エレンディアが呼んでくれるまでぶさいくな猫さんとお話してるのぉ」
「うん。 待っててね」
「で、まあインできなかったからー…」
「どうしてたの?」
「書いてたわ」
「それなのに戯言なの? 書いた物を出さないの?」
「まあ、いつも書いてもすぐには出さないわよ。 ちょっと見直す、って言うと聞こえがいいけど、自分だけで楽しむの」
「ああ…。 元々そういう理由で書いてるのよね」
「そう。 自分が読んで楽しいものを書いてるだけなのよ。 だから人に見せるのは、前と合わせてひと月以上になるけど、やっぱり恥ずかしいわね」
「恥ずかしいなら見せなければいいでしょっ。 これだから下等生物は…」
「いきなり出てきて何よ、フェティ」
「さっき知ったのよっ。 あなた、アタクシでクリアしてないじゃないっ!」
「あれ? そうだったっけ?」
「いつもいつも最後の最後でオルファウスなんかと交代で…」
「…えっと…あなた、そういうこと言って平気なの?」
「立場とかそういうものはいいのかしら?」
「知らないわよっ。 森から出て行ったまま帰ってこないやつにとやかく言われる筋合いはないわよっ」
「そうですね。 私は別に構いませんよ。 フェティさん」
「ぎゃーっ!」
「あ、フェティっ!」
「行ってしまったわね」
「おやおや。 これは失礼しました。 私のことを話しているようだったので」
「…魔力の強い人達って、こうやって出たり消えたりするから嫌よね」
「ふふふ、以後気をつけるようにしますね。 それでは」
「でもどうしてフェティはクリアしてないの?」
「いや…他の子を狙ってたり、狙った時は好感度が足りてなかったりで…」
「あら、それはかわいそうね」
「そんなことないわよー。 ナッジよりは全然いいわよ」
「…あの子、たいてい亡くなっているわよね」
「ヴァンなんかたいてい寝たきりよねー」
「…嫌いなの?」
「そんなことないわよ? でもまあ優先順位的には低いのは認めるけど」
「猫屋敷に行かなければいいだけなのに…」
「しょうがないじゃない。 行く用があるんだから」
「まあそんなことはさておいて、そろそろ更新頻度を落とそうかなって」
「まだ始めて二週間なのに?」
「そう言うけどさ…。 こんなペースで書けないって。 無理よ、無理っ。 そんな時間無いわよっ」
「まあそうだけど…」
「シャリもクリアして、今度はお兄様でいこうと思うしー…。 昨日帰りにゲーム買ったしー…」
「あら久しぶりね。 レッスル以来じゃない?」
「うん、そう。 でも正直言うと、買わなくてもやるものには困ってないわ」
「ならどうして? 何を買ったの?」
「うーん…。 理由も買った物もとりあえず秘密」
「何よそれ。 全くあなたは…。 もしかして更新頻度を落とすのって…」
「あ、いや。 もちろんそれも理由だけど、本当こんなペースで書く時間は無いのよ。 他のいろんなサイトさんだってそんなハイペースじゃないでしょ?」
「人は人。 私は私。 じゃなかったかしら?」
「う…。 ま、まあ出来るだけは書くから…」
「そう言えばお兄様って…。 彼?」
「うん。 今回は助けられたけどねー」
「今までずっと失敗してたわよね」
「まあ、理由もわかったし。 今度はそうはいかないわっ」
「ふっ。 全ては徒労。 急ごう。 私は全てに徒労を教えねばならぬ。 貴様の努力、新たに買ったゲーム、そして日々の生活、書いた小話。 全ては徒労と教えねばならぬ。 私は円卓の騎士、あざ笑う…」
「あんたは出てくるなーーーっ!!」
(終)
「ねえー。 二週間もたずに終了かと思っちゃったわ」
「どうかしたんですかー?」
「あ、ユーリス。 なんか0時あたりからしばらくインできなかったのよ。 これはこの前書いたばかりのことが本当になったのかと思って、もうドキドキしたわー」
「したのぉ」
「そうですか。 これで私も大活躍できますね♪」
「…いや…ユーリスは出ないから」
「なんでですかーっ!」
「…え、だって、全然連れてってないし」
「うう…エレンディアさんってばひどいかもっ。 あ…もしかして私の魔力に嫉妬して!?」
「…」
「…」
「私の方がかわいいから嫉妬してたりして!? きゃっ、私って罪な女♪」
「…ルルアンタ、あっち行くわよ」
「わかったのぉ」
「あら、ユーリスは?」
「あっちで夢見たままよ」
「まだなんか一人で言ってるのぉ」
「ルルアンタ、気づかれちゃうから小声で」
「…でもかわいそうなのぉ」
「まああの子と関わる側の方がかわいそうな気もするけど…」
「そうよー。 ザギヴの言う通り。 あの子といると心労が絶えないわ」
「じゃあなんで出したのぉ?」
「勝手に出てきたのよ。 実際あまり使ってないから扱いにくいのよね」
「そうなの?」
「魔法使いはたいていフェティかナッジ、あとはエステルだからねー。 私が使ってもいいし」
「エレンディアはパーティに変わりばえがないのぉ」
「私もいつもいる気がするわね」
「あらん、私ザギヴのこと好きだもん♪」
「ふふ、ありがとう。 嬉しいわ」
「ルルアンタは?」
「もちろん好きよ。 でもルルアンタには時々代わってもらってるわね」
「そうなのぉ。 さびしいのぉ」
「ごめんねー。 でも完全にいつも同じパーティってわけにもいかないから、ね」
「うう…しかたないのぉ」
「そういうことね。 エステルも外れることあるから仕方ないんじゃない?」
「ルルアンタ、エレンディアが呼んでくれるまでぶさいくな猫さんとお話してるのぉ」
「うん。 待っててね」
「で、まあインできなかったからー…」
「どうしてたの?」
「書いてたわ」
「それなのに戯言なの? 書いた物を出さないの?」
「まあ、いつも書いてもすぐには出さないわよ。 ちょっと見直す、って言うと聞こえがいいけど、自分だけで楽しむの」
「ああ…。 元々そういう理由で書いてるのよね」
「そう。 自分が読んで楽しいものを書いてるだけなのよ。 だから人に見せるのは、前と合わせてひと月以上になるけど、やっぱり恥ずかしいわね」
「恥ずかしいなら見せなければいいでしょっ。 これだから下等生物は…」
「いきなり出てきて何よ、フェティ」
「さっき知ったのよっ。 あなた、アタクシでクリアしてないじゃないっ!」
「あれ? そうだったっけ?」
「いつもいつも最後の最後でオルファウスなんかと交代で…」
「…えっと…あなた、そういうこと言って平気なの?」
「立場とかそういうものはいいのかしら?」
「知らないわよっ。 森から出て行ったまま帰ってこないやつにとやかく言われる筋合いはないわよっ」
「そうですね。 私は別に構いませんよ。 フェティさん」
「ぎゃーっ!」
「あ、フェティっ!」
「行ってしまったわね」
「おやおや。 これは失礼しました。 私のことを話しているようだったので」
「…魔力の強い人達って、こうやって出たり消えたりするから嫌よね」
「ふふふ、以後気をつけるようにしますね。 それでは」
「でもどうしてフェティはクリアしてないの?」
「いや…他の子を狙ってたり、狙った時は好感度が足りてなかったりで…」
「あら、それはかわいそうね」
「そんなことないわよー。 ナッジよりは全然いいわよ」
「…あの子、たいてい亡くなっているわよね」
「ヴァンなんかたいてい寝たきりよねー」
「…嫌いなの?」
「そんなことないわよ? でもまあ優先順位的には低いのは認めるけど」
「猫屋敷に行かなければいいだけなのに…」
「しょうがないじゃない。 行く用があるんだから」
「まあそんなことはさておいて、そろそろ更新頻度を落とそうかなって」
「まだ始めて二週間なのに?」
「そう言うけどさ…。 こんなペースで書けないって。 無理よ、無理っ。 そんな時間無いわよっ」
「まあそうだけど…」
「シャリもクリアして、今度はお兄様でいこうと思うしー…。 昨日帰りにゲーム買ったしー…」
「あら久しぶりね。 レッスル以来じゃない?」
「うん、そう。 でも正直言うと、買わなくてもやるものには困ってないわ」
「ならどうして? 何を買ったの?」
「うーん…。 理由も買った物もとりあえず秘密」
「何よそれ。 全くあなたは…。 もしかして更新頻度を落とすのって…」
「あ、いや。 もちろんそれも理由だけど、本当こんなペースで書く時間は無いのよ。 他のいろんなサイトさんだってそんなハイペースじゃないでしょ?」
「人は人。 私は私。 じゃなかったかしら?」
「う…。 ま、まあ出来るだけは書くから…」
「そう言えばお兄様って…。 彼?」
「うん。 今回は助けられたけどねー」
「今までずっと失敗してたわよね」
「まあ、理由もわかったし。 今度はそうはいかないわっ」
「ふっ。 全ては徒労。 急ごう。 私は全てに徒労を教えねばならぬ。 貴様の努力、新たに買ったゲーム、そして日々の生活、書いた小話。 全ては徒労と教えねばならぬ。 私は円卓の騎士、あざ笑う…」
「あんたは出てくるなーーーっ!!」
(終)
「ひっ、人違いじゃないですか?」
「わたし、尻尾の出てる知り合いなんて、人違いするほど多くないんだけど?」
「えっ!? 尻尾出てます!?」
「出てないよ」
「……え?」
「尻尾を出したな、葛ちゃん」
「たはは、これは一本とられました」
後ろから抱きしめたまま、葛の首に桂は額をつける。
「ひどいよ、葛ちゃん…」
「桂おねーさん?」
つい先程まで忘れていた、いや忘れさせられていた少女を強く抱きしめる。
「でも思い出せた…もう忘れない、忘れないよ葛ちゃん」
「たはは…桂おねーさんのためだったのですが…」
「嘘だよっ。 …そんなの嘘だよ」
「えっ?」
即座にはっきりと否定され、葛は戸惑い首を後ろに回す。 すると、半泣きの顔が睨んでいた。
「どうして嘘なんですか?」
「それが本当だったら、葛ちゃんを思い出せてこんなに嬉しいわけないもの。 泣きたいくらいに嬉しいわけないものっ」
「桂おねーさん…」
「葛ちゃんだって、忘れたくなかったんだよね? だからここにいるんだよね?」
「…あ…」
葛は戸惑いを隠せなかった。 そう、逢いたかったのだ。
「いいんだよ、葛ちゃん。 わたしも葛ちゃんに逢いたかったよ」
桂の言葉に葛が顔を上げる。 くりくりとした大きなその目には桂同様涙が浮かんでいる。
「だから、だから逢いたい人を忘れさせるなんて、そんなひどい事しないで、葛ちゃんっ」
そう言って桂は笑顔を向ける。 笑顔の端から涙がこぼれる。
「~っ、桂おねーさんっ」
葛もまた涙を流しながら、自分より年上の少女の控えめな胸に正面から抱きついた。
ーーー
お互い真っ赤になった目で向き合う。
「でもですね、本当にわたしに関わると碌な事になりませんよ?」
「葛ちゃん」
「はい?」
「わたしはね、後悔してる事はたくさんあるの。 だからね、わたしはずっとそういうふうに生きてるんだから、後悔するかもしれない予約が今更ひとつぐらい入ったって、全然構わないよ」
「…」
少々呆気にとられた顔で桂を見ていた葛の顔が笑顔へと変わる。
「ふふふ、桂おねーさんには敵いませんね」
並木道で抱き合う二人。 観客はいない、二人だけのステージ。 けれどまだ幕は降りない、ハッピーエンドは未来へのプロローグだから。
「…やっぱり桂おねーさんは心配です。 とてつもなく甘すぎです」
ため息混じりに葛が呟く。
「そうかな?」
「やれやれですねー」
と、またため息をひとつ。 けれどすぐ笑顔になって、
「でもその無用心さが桂おねーさんのいい所なんですよねっ」
と嬉しそうに言った。
ーーー
若杉の頭首のまま、全てを背負って葛は桂と暮らす事を決めた。
誰の反対も許さなかった。
葛は言った。
「何も問題はありません。 結果で示しましょう」
かくして、若杉財閥会長にして鬼切頭、若杉葛は羽島桂と小さな安アパートで暮らし始めた。
ーーー
「ただいまー」
冬も近付き寒さが一段と厳しくなり始めたとある日のこと。
買い物袋を両手に下げて、桂が家に帰ってきた。
「おかえりなさい、桂おねーさん」
奥からかわいい甲高い声が飛んでくる。
「ううー、寒かったー」
「ご苦労様でした」
さっきまで向き合っていたパソコンと書類の束から目を離し、桂を見つめる。
「わたしが言うべき事じゃないかもしれないけど…葛ちゃん、こんの詰めすぎはよくないよ?」
「わかってますよ、桂おねーさん。 気をつけますね」
微笑を浮かべて葛が応える。
「でも桂おねーさんも体には気をつけてくださいね。 リップクリームを塗った方がいいですよ」
言われて舌で唇を舐める。 この寒さでやられたらしい。
「あはは、そうだね。 気をつけます」
そしてお互い笑いあう。
「じゃあ、夕飯の支度するね。 くれぐれも程ほどに」
「はい、わかりました」
ーーー
深夜、声が聞こえた気がして、桂は目を覚ます。
「はい、ご苦労様です。 詳細は彼に伝えておいてください」
「…葛ちゃん?」
窓際、月明かりに照らされて葛が携帯電話を掛けていた。
「…桂おねーさん。 起こしちゃいました?」
体だけ起こして、桂は少し怒り気味に言う。
「起こしちゃいました?じゃないよ、葛ちゃんっ。 そんなに…そんなに頑張らないとダメなの? 葛ちゃんがそんなに頑張らないとわたしとは暮らせないの? こんな時間まで葛ちゃんが起きてなきゃいけないなんて、わたしつらいよっ!」
最後の方は涙声になっていた。
「ねえ、わたしに何か手伝えない? 何でも手伝うから。 だから葛ちゃんあんまり無理しないで…お願いだから…」
黙って聞いていた葛は優しい笑顔を浮かべ桂に近付く。 桂の布団にまたがり膝をつく。 目線はほぼ同じ高さ。
「残念ながら、桂おねーさんに手伝える事は何もありません」
「でもっ」
葛の言葉につい涙がこぼれる。 わかっていた、自分が手伝えるわけが無いと。 でもわかっているからこそつらかった。
「桂おねーさん」
優しい笑顔のまま、葛は桂を正面から見つめる。 しかし、もはや止まらなくなった涙のせいで桂は返事すらできない。
「わたしはつらいと思った事は無いですよ。 幸せですから」
「しあ…わ…せ?」
戸惑う桂に小さく頷いて言葉を続ける。
「だって好きな人と一緒に暮らしているんですから。 これを幸せと言わずに何と言うんですか」
「でも…」
喋ろうとする桂の唇に人差し指が置かれる。
「わたしは桂おねーさんが好きです。 大好きです」
「あ…」
桂の口が小さく動く。
桂の唇の上に置いていた指を離し、桂の耳もとの髪を梳きながら、葛は言葉を紡ぐ。
「その髪が好きです。 さらさらと風に流れるやわらかく美しい髪が好きです」
すでに泣き止んだ桂の涙の跡を拭いながら
「その瞳が好きです。 どこにいてもわたしを見つけてくれる綺麗な瞳が好きです」
首に両手を回し、抱きつきながら
「その声が好きです。 優しく甘い、心を虜にする声が好きです」
そのまま首筋にキスをしながら
「その匂いが好きです。 どんな花も敵わない、甘くとろける匂いが好きです」
「ぅんっ」
胸元にキスをしながら
「その体が好きです。 ぎゅっとしたら折れてしまいそうな繊細で華奢な体が好きです」
「あっ」
「そして…その血が好きです。 連綿と紡がれる運命と力を秘めていながら、誰よりも暖かいその血も…好きです」
そう言って葛はうっとりとした顔を上げる。
「え?」
「桂おねーさんも人の事ばかりは言えませんよ。 リップ塗らなかったんですね?」
「え? え?」
「切れちゃってますよ、く・ち・び・る」
そう言ったかと思うと葛は顔を一気に近づけて、桂の下唇をついばむ。
「ん、んんっ」
次いで上唇を同じようについばむ。 そしてそのままキスをする。
「ぅんん…」
桂の唇を舌でなぞる。 優しく、そして柔らかく。 そしてまたキスをする。
「好きです、桂おねーさん。 誰よりも何よりも」
「…わたしも好きだよ。 葛ちゃん、大好き…」
そして今度は桂の方から葛の唇を求める。
「…ぅん、だから、桂おねーさんのための努力は惜しみません。 例え桂おねーさんを不安にしてもです」
強い目で葛が口にする。
「そうなんだ…」
「ごめんなさいです、桂おねーさん」
「でも、ね」
「?」
ぐっ、と葛を抱き寄せる。
「こんなに体冷えきって…こういう無理をしないで欲しいんだけどな」
抱きしめたまま倒れこむ。
「さあ寝よう、葛ちゃん…」
「ええ、このままで…」
片方の布団は主不在のまま、ひとつ布団で抱き合って二人は眠る。 夢の中まで抱きしめて。
朝が来て、また夜が来て、繰り返す日常が幸せ。
艱難辛苦を乗り越えて、二人を繋ぐ赤い糸。
(終)
ータイトル命名 葉崎紅弥様ー 多謝
「わたし、尻尾の出てる知り合いなんて、人違いするほど多くないんだけど?」
「えっ!? 尻尾出てます!?」
「出てないよ」
「……え?」
「尻尾を出したな、葛ちゃん」
「たはは、これは一本とられました」
後ろから抱きしめたまま、葛の首に桂は額をつける。
「ひどいよ、葛ちゃん…」
「桂おねーさん?」
つい先程まで忘れていた、いや忘れさせられていた少女を強く抱きしめる。
「でも思い出せた…もう忘れない、忘れないよ葛ちゃん」
「たはは…桂おねーさんのためだったのですが…」
「嘘だよっ。 …そんなの嘘だよ」
「えっ?」
即座にはっきりと否定され、葛は戸惑い首を後ろに回す。 すると、半泣きの顔が睨んでいた。
「どうして嘘なんですか?」
「それが本当だったら、葛ちゃんを思い出せてこんなに嬉しいわけないもの。 泣きたいくらいに嬉しいわけないものっ」
「桂おねーさん…」
「葛ちゃんだって、忘れたくなかったんだよね? だからここにいるんだよね?」
「…あ…」
葛は戸惑いを隠せなかった。 そう、逢いたかったのだ。
「いいんだよ、葛ちゃん。 わたしも葛ちゃんに逢いたかったよ」
桂の言葉に葛が顔を上げる。 くりくりとした大きなその目には桂同様涙が浮かんでいる。
「だから、だから逢いたい人を忘れさせるなんて、そんなひどい事しないで、葛ちゃんっ」
そう言って桂は笑顔を向ける。 笑顔の端から涙がこぼれる。
「~っ、桂おねーさんっ」
葛もまた涙を流しながら、自分より年上の少女の控えめな胸に正面から抱きついた。
ーーー
お互い真っ赤になった目で向き合う。
「でもですね、本当にわたしに関わると碌な事になりませんよ?」
「葛ちゃん」
「はい?」
「わたしはね、後悔してる事はたくさんあるの。 だからね、わたしはずっとそういうふうに生きてるんだから、後悔するかもしれない予約が今更ひとつぐらい入ったって、全然構わないよ」
「…」
少々呆気にとられた顔で桂を見ていた葛の顔が笑顔へと変わる。
「ふふふ、桂おねーさんには敵いませんね」
並木道で抱き合う二人。 観客はいない、二人だけのステージ。 けれどまだ幕は降りない、ハッピーエンドは未来へのプロローグだから。
「…やっぱり桂おねーさんは心配です。 とてつもなく甘すぎです」
ため息混じりに葛が呟く。
「そうかな?」
「やれやれですねー」
と、またため息をひとつ。 けれどすぐ笑顔になって、
「でもその無用心さが桂おねーさんのいい所なんですよねっ」
と嬉しそうに言った。
ーーー
若杉の頭首のまま、全てを背負って葛は桂と暮らす事を決めた。
誰の反対も許さなかった。
葛は言った。
「何も問題はありません。 結果で示しましょう」
かくして、若杉財閥会長にして鬼切頭、若杉葛は羽島桂と小さな安アパートで暮らし始めた。
ーーー
「ただいまー」
冬も近付き寒さが一段と厳しくなり始めたとある日のこと。
買い物袋を両手に下げて、桂が家に帰ってきた。
「おかえりなさい、桂おねーさん」
奥からかわいい甲高い声が飛んでくる。
「ううー、寒かったー」
「ご苦労様でした」
さっきまで向き合っていたパソコンと書類の束から目を離し、桂を見つめる。
「わたしが言うべき事じゃないかもしれないけど…葛ちゃん、こんの詰めすぎはよくないよ?」
「わかってますよ、桂おねーさん。 気をつけますね」
微笑を浮かべて葛が応える。
「でも桂おねーさんも体には気をつけてくださいね。 リップクリームを塗った方がいいですよ」
言われて舌で唇を舐める。 この寒さでやられたらしい。
「あはは、そうだね。 気をつけます」
そしてお互い笑いあう。
「じゃあ、夕飯の支度するね。 くれぐれも程ほどに」
「はい、わかりました」
ーーー
深夜、声が聞こえた気がして、桂は目を覚ます。
「はい、ご苦労様です。 詳細は彼に伝えておいてください」
「…葛ちゃん?」
窓際、月明かりに照らされて葛が携帯電話を掛けていた。
「…桂おねーさん。 起こしちゃいました?」
体だけ起こして、桂は少し怒り気味に言う。
「起こしちゃいました?じゃないよ、葛ちゃんっ。 そんなに…そんなに頑張らないとダメなの? 葛ちゃんがそんなに頑張らないとわたしとは暮らせないの? こんな時間まで葛ちゃんが起きてなきゃいけないなんて、わたしつらいよっ!」
最後の方は涙声になっていた。
「ねえ、わたしに何か手伝えない? 何でも手伝うから。 だから葛ちゃんあんまり無理しないで…お願いだから…」
黙って聞いていた葛は優しい笑顔を浮かべ桂に近付く。 桂の布団にまたがり膝をつく。 目線はほぼ同じ高さ。
「残念ながら、桂おねーさんに手伝える事は何もありません」
「でもっ」
葛の言葉につい涙がこぼれる。 わかっていた、自分が手伝えるわけが無いと。 でもわかっているからこそつらかった。
「桂おねーさん」
優しい笑顔のまま、葛は桂を正面から見つめる。 しかし、もはや止まらなくなった涙のせいで桂は返事すらできない。
「わたしはつらいと思った事は無いですよ。 幸せですから」
「しあ…わ…せ?」
戸惑う桂に小さく頷いて言葉を続ける。
「だって好きな人と一緒に暮らしているんですから。 これを幸せと言わずに何と言うんですか」
「でも…」
喋ろうとする桂の唇に人差し指が置かれる。
「わたしは桂おねーさんが好きです。 大好きです」
「あ…」
桂の口が小さく動く。
桂の唇の上に置いていた指を離し、桂の耳もとの髪を梳きながら、葛は言葉を紡ぐ。
「その髪が好きです。 さらさらと風に流れるやわらかく美しい髪が好きです」
すでに泣き止んだ桂の涙の跡を拭いながら
「その瞳が好きです。 どこにいてもわたしを見つけてくれる綺麗な瞳が好きです」
首に両手を回し、抱きつきながら
「その声が好きです。 優しく甘い、心を虜にする声が好きです」
そのまま首筋にキスをしながら
「その匂いが好きです。 どんな花も敵わない、甘くとろける匂いが好きです」
「ぅんっ」
胸元にキスをしながら
「その体が好きです。 ぎゅっとしたら折れてしまいそうな繊細で華奢な体が好きです」
「あっ」
「そして…その血が好きです。 連綿と紡がれる運命と力を秘めていながら、誰よりも暖かいその血も…好きです」
そう言って葛はうっとりとした顔を上げる。
「え?」
「桂おねーさんも人の事ばかりは言えませんよ。 リップ塗らなかったんですね?」
「え? え?」
「切れちゃってますよ、く・ち・び・る」
そう言ったかと思うと葛は顔を一気に近づけて、桂の下唇をついばむ。
「ん、んんっ」
次いで上唇を同じようについばむ。 そしてそのままキスをする。
「ぅんん…」
桂の唇を舌でなぞる。 優しく、そして柔らかく。 そしてまたキスをする。
「好きです、桂おねーさん。 誰よりも何よりも」
「…わたしも好きだよ。 葛ちゃん、大好き…」
そして今度は桂の方から葛の唇を求める。
「…ぅん、だから、桂おねーさんのための努力は惜しみません。 例え桂おねーさんを不安にしてもです」
強い目で葛が口にする。
「そうなんだ…」
「ごめんなさいです、桂おねーさん」
「でも、ね」
「?」
ぐっ、と葛を抱き寄せる。
「こんなに体冷えきって…こういう無理をしないで欲しいんだけどな」
抱きしめたまま倒れこむ。
「さあ寝よう、葛ちゃん…」
「ええ、このままで…」
片方の布団は主不在のまま、ひとつ布団で抱き合って二人は眠る。 夢の中まで抱きしめて。
朝が来て、また夜が来て、繰り返す日常が幸せ。
艱難辛苦を乗り越えて、二人を繋ぐ赤い糸。
(終)
ータイトル命名 葉崎紅弥様ー 多謝
「えー? 海ってばバレー部なのにスキーできないのー?」
「いやバレー関係無いし」
「だっていっつも体動かしてるじゃん」
「いや本当関係無いし」
「じゃあ行ったら? スキー教室」
「うーん…。 でも、あたし家でいろいろあるから…」
「だったら尚の事行った方が気が楽なんじゃない?」
「うーん…」
「海が行くと言うのなら私が協力しよう」
「いやそれは悪いし………って、いつからいたーっ!」
あたしの名前は後藤海。 バレー部所属の期待の星…自称。 輝け乙女な女子高生。
それはさておき、横から口を挟んできたのは東城つばき。 誰もが認める美少女、おまけにお嬢で成績優秀、普通に見ればパーフェクトレディー。
「初めからいつものように海をストーキングしていたぞ」
ただし口を開かなければ。
「いいから自分の教室に帰れ」
「せっかく転がることしか出来ない海のために、協力しようという私になんという言い草だ」
いまいち理解できないが、少し前に屋上に呼び出されて行ったらキスをされた。 それ以降あたしに付きまとい、先日は告白までされたが、あたしは微妙に困惑中。
「いや別に協力しなくていいから」
「先日の礼代わりに私が連れて行ってやろう」
「だから別にいいって」
「はい、じゃあバスから降りたら整列してー」
なぜか来ている。
「人が多いな」
「そうなの? あたしは来たこと無いからよくわからないけど」
「うむ。 私のゲレンデではじいと護衛の者しかいなかったが」
「…それはあんたのプライベートゲレンデだろうが」
「それ以外のゲレンデに行ったことはなかったのでな」
「大体東城さん滑れるの?」
「ジャンプはやったことないが」
普通はやるのか、ジャンプ? でもまあ、滑れるみたいだ。
「とりあえず宿に行きます。 荷物を置いて、30分後にまたここに集合してください」
先生の指示に従い皆がぞろぞろと動き出す。 ついていこうとすると、腕を掴まれた。
「何?」
「私達の宿舎はそちらではない」
「どうして?」
「部屋割りによると私と海は別なのだ」
「知ってる」
「愛し合う者同士が離れ離れになるのもどうかと思ったので、別に宿を取っておいたのだ」
「待て」
「もうすぐじいが迎えに来るだろう」
無視して皆の後について行こうとするが、彼女が腕を掴んで離さない。
「離して」
「どうしてだ」
「まず学校のスキー教室に来てるから先生に従うため。 次にあたしは部屋割りに不満は無いため。 なにより愛し合ってないから」
「ふむ」
「わかったら手離してよ」
「しかし海。 行っても部屋は無いぞ」
「…どうして」
「すでにキャンセルしている。 無理に行った所で荷物から離れたらじいが荷物を運ぶ事になっているしな」
「かえるっ!」
「今は冬眠してるだろう」
「違うっ! 家に帰るって言ってんのっ!」
「無駄だ。 そんな金は持ってきてないだろう。 そもそもどうやって帰るつもりだ」
「あんた…確信犯か…」
「その用法は間違っているな。 海はヌけているようで本当にヌけているのだな」
「ふざけるなーっ!」
叫んだところで状況は変わらない。 行き場の無い以上仕方なし、彼女の取ったという宿に行く。
「…」
「どうかしたか、海? そう間抜け面で眺めても何も見つかりはしないと思うが」
「東城さんってお嬢よね」
「自分でそう言ったことはないが、そう言われたことはあるな」
「なのになんでこんな所なわけ?」
どう見てもボロな旅館。 シーズン最中なのに駐車場はガラガラ。 傍目に見ても客が入ってない。
「うむ。 できるだけ狭い部屋の方がいいと思ってじいに頼んだらここになった。 心配いらない、厨房にはじいがスタッフを入れているそうだ」
何気なく人聞きの悪いことを言っているがとりあえず流しておいて、
「へ? 東城さん所のお抱えシェフかなんか?」
「よくわからんが、じいがそう言っていたから大丈夫だろう」
「へえー、じゃあここに泊まってる人達はラッキーね」
「どうしてだ?」
「え? だっておいしい物食べれるんでしょ?」
「私達の部屋のためのスタッフだから、他の部屋には関係ない話だと思うが」
「あんた、いい性格してるよね…」
荷物を置いて、外に出る。
「うー、寒っ」
「そうか、なら私があたためてあげよう」
「だからいやらしーオヤジみたいな言い方しないで」
客が少ないせいか滑っている人も少ない。 まあ練習する身のあたしにはありがたい気もする。
「…じゃああんたが教えてくれるの?」
「構わないが…その分のお礼はしてもらえると考えていいか?」
「あんたがここに連れてきたんだから責任を取れって言ってんのっ」
あたしがそう言うと、彼女はため息をつきやれやれと首を振りながら言う。
「仕方がない。 教えてあげよう」
「あんたがそういう態度を取れることが不思議でならないんだけど」
「では海。 まずは軽く滑ってみようか」
「…」
「どうした、海?」
「…」
「黙っているとキスするがいいか?」
「いいわけあるかーっ」
「いつもより勢いが無いな。 寒いのか?」
「…」
どうしてスキーができなくてスキー教室に来ているあたしがこんな高い所にいるのでしょうか。
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、それは聞いたな」
「…下へ降りたいんだけど」
「だから軽く滑ってみようと言っている」
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、だから私が海に教えると約束したではないか」
誰かこの女に人の話を理解する術を教えてください。
吹きすさぶ風は冷たく、ただでさえ人の少ないゲレンデでこの高さには人の気配はなし。 風の音とリフトの機械音以外の音はなし。
「どうした? 滑らなければ教えようもないが」
「もっとこう…基本的な事を安全な場所で教えよう、という気はなかったのっ?」
「ふむ…。 しかし、人が少ないとは言え人のいる場所で練習するのは危ないと思ったのでな」
「滑れないやつがこんな高い場所にいる方がかえって危ないわよっ!」
「言われてみればそうだな」
誰か助けてください。
「ともかく滑るしか戻る術はないのだから、滑ってみたらどうだ」
言うや否や、あたしを突き飛ばす。
「ぎゃーっ」
「海、いきなりそのスピードは危ないと思うが」
「あんたが押したんでしょうがーっ!」
気がつくと彼女に抱きかかえられていた。
「あれ? いったいどうして…?」
寒い。
「うむ。 海は気絶していたのだ。 それを私が介抱しているというわけだ。 場所はよくわからん」
「…」
辺りを見回すと一面の銀世界。 人の姿どころか声もなし、リフトの姿どころか明かりすらなし。
「…まさか……あたし達遭難したってこと?」
「そういう可能性もある」
「ちょ、ちょっとっ。 何そんな冷静なのよっ? たいへんじゃないっ!」
あたしは事態に驚き起き上がる。
「明るい内に戻らなくちゃっ」
そう言って立ち上がるが、彼女は座ったまま動かない。
「何してるのよ、ほらっ」
手を引っ張って立たせようとすると顔をしかめる。
「えっ!? どうしたのっ?」
「いや…少々足を痛めてな。 動けないのだ」
もしかしてあたしのせい? 気絶した時に何か?
「で、でもこのままじゃ…」
「ふむ。 では海だけでも先に戻るといい。 おそらくあちらの方向に行けば宿に着くはずだ」
そう言って方向を指差す。
「そ…そんなこと、できるわけないじゃないっ。 バカなこと言わないでよっ!」
あたしが言い放つと彼女は驚いた顔を浮かべる。
「どこか休める場所は…」
辺りを見回すと休めそうな窪みが見つかった。
「少し我慢してよね」
そう言ってあたしは彼女を抱き上げ、そこへ向かって歩く。
「海は意外に力があるのだな」
「…ダイエットしなさいよ」
「そうか? 海よりは無いと思うが」
「…いいから黙ってろ」
寒さに耐えるため、寄り添って座る。
「大丈夫? 寒くない?」
「そう思うのなら今私が考えていることをしてくれ」
「調子にのるなーっ」
辺りが薄暗くなってくる。 寒さも増してきた。 状況は極めて深刻。 いつしかあたし達は抱き合っていた。
「…ここで死んじゃうのかな…」
「なぜだ」
「だって、雪山で遭難して凍死ってよく聞くじゃない」
「ふむ」
「スキー教室なんて来るんじゃなかった…」
だんだんと眠くなって、瞼が下りてくる。
遠くから何か音が聞こえる気がしてきた。 なんか車みたい音。
すると、彼女があたしから離れた。
「どうしたの?」
ぼんやりとあたしは彼女の方を見る。
「どうやらじいが迎えに来たようだ」
「よかったわね…」
って、え!?
「助けが来たのっ!?」
飛び起きるとスノーモービルだかなんだかの明かりがこちらに近づいてくる。 彼女がそれに向かって手を振っている。 …って、
「あんた足はっ!?」
「うむ。 痺れならもう取れた」
「はい!?」
「海が気がつくまで膝枕をしていたら痺れて立てなかったのだが、もう平気だ。 海のおかげだ」
「…」
「それではそろそろ宿に戻るとしよう、海」
「…」
「どうした? まだ足りなかったか? なら続きは宿でにしよう、ここでは体に障るぞ」
「ふざけるなーっっっ!!」
もうスキー教室なんか絶対来ない。 あたしはより深みに堕ちてしまった、そんな気がした。
(終)
「いやバレー関係無いし」
「だっていっつも体動かしてるじゃん」
「いや本当関係無いし」
「じゃあ行ったら? スキー教室」
「うーん…。 でも、あたし家でいろいろあるから…」
「だったら尚の事行った方が気が楽なんじゃない?」
「うーん…」
「海が行くと言うのなら私が協力しよう」
「いやそれは悪いし………って、いつからいたーっ!」
あたしの名前は後藤海。 バレー部所属の期待の星…自称。 輝け乙女な女子高生。
それはさておき、横から口を挟んできたのは東城つばき。 誰もが認める美少女、おまけにお嬢で成績優秀、普通に見ればパーフェクトレディー。
「初めからいつものように海をストーキングしていたぞ」
ただし口を開かなければ。
「いいから自分の教室に帰れ」
「せっかく転がることしか出来ない海のために、協力しようという私になんという言い草だ」
いまいち理解できないが、少し前に屋上に呼び出されて行ったらキスをされた。 それ以降あたしに付きまとい、先日は告白までされたが、あたしは微妙に困惑中。
「いや別に協力しなくていいから」
「先日の礼代わりに私が連れて行ってやろう」
「だから別にいいって」
「はい、じゃあバスから降りたら整列してー」
なぜか来ている。
「人が多いな」
「そうなの? あたしは来たこと無いからよくわからないけど」
「うむ。 私のゲレンデではじいと護衛の者しかいなかったが」
「…それはあんたのプライベートゲレンデだろうが」
「それ以外のゲレンデに行ったことはなかったのでな」
「大体東城さん滑れるの?」
「ジャンプはやったことないが」
普通はやるのか、ジャンプ? でもまあ、滑れるみたいだ。
「とりあえず宿に行きます。 荷物を置いて、30分後にまたここに集合してください」
先生の指示に従い皆がぞろぞろと動き出す。 ついていこうとすると、腕を掴まれた。
「何?」
「私達の宿舎はそちらではない」
「どうして?」
「部屋割りによると私と海は別なのだ」
「知ってる」
「愛し合う者同士が離れ離れになるのもどうかと思ったので、別に宿を取っておいたのだ」
「待て」
「もうすぐじいが迎えに来るだろう」
無視して皆の後について行こうとするが、彼女が腕を掴んで離さない。
「離して」
「どうしてだ」
「まず学校のスキー教室に来てるから先生に従うため。 次にあたしは部屋割りに不満は無いため。 なにより愛し合ってないから」
「ふむ」
「わかったら手離してよ」
「しかし海。 行っても部屋は無いぞ」
「…どうして」
「すでにキャンセルしている。 無理に行った所で荷物から離れたらじいが荷物を運ぶ事になっているしな」
「かえるっ!」
「今は冬眠してるだろう」
「違うっ! 家に帰るって言ってんのっ!」
「無駄だ。 そんな金は持ってきてないだろう。 そもそもどうやって帰るつもりだ」
「あんた…確信犯か…」
「その用法は間違っているな。 海はヌけているようで本当にヌけているのだな」
「ふざけるなーっ!」
叫んだところで状況は変わらない。 行き場の無い以上仕方なし、彼女の取ったという宿に行く。
「…」
「どうかしたか、海? そう間抜け面で眺めても何も見つかりはしないと思うが」
「東城さんってお嬢よね」
「自分でそう言ったことはないが、そう言われたことはあるな」
「なのになんでこんな所なわけ?」
どう見てもボロな旅館。 シーズン最中なのに駐車場はガラガラ。 傍目に見ても客が入ってない。
「うむ。 できるだけ狭い部屋の方がいいと思ってじいに頼んだらここになった。 心配いらない、厨房にはじいがスタッフを入れているそうだ」
何気なく人聞きの悪いことを言っているがとりあえず流しておいて、
「へ? 東城さん所のお抱えシェフかなんか?」
「よくわからんが、じいがそう言っていたから大丈夫だろう」
「へえー、じゃあここに泊まってる人達はラッキーね」
「どうしてだ?」
「え? だっておいしい物食べれるんでしょ?」
「私達の部屋のためのスタッフだから、他の部屋には関係ない話だと思うが」
「あんた、いい性格してるよね…」
荷物を置いて、外に出る。
「うー、寒っ」
「そうか、なら私があたためてあげよう」
「だからいやらしーオヤジみたいな言い方しないで」
客が少ないせいか滑っている人も少ない。 まあ練習する身のあたしにはありがたい気もする。
「…じゃああんたが教えてくれるの?」
「構わないが…その分のお礼はしてもらえると考えていいか?」
「あんたがここに連れてきたんだから責任を取れって言ってんのっ」
あたしがそう言うと、彼女はため息をつきやれやれと首を振りながら言う。
「仕方がない。 教えてあげよう」
「あんたがそういう態度を取れることが不思議でならないんだけど」
「では海。 まずは軽く滑ってみようか」
「…」
「どうした、海?」
「…」
「黙っているとキスするがいいか?」
「いいわけあるかーっ」
「いつもより勢いが無いな。 寒いのか?」
「…」
どうしてスキーができなくてスキー教室に来ているあたしがこんな高い所にいるのでしょうか。
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、それは聞いたな」
「…下へ降りたいんだけど」
「だから軽く滑ってみようと言っている」
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、だから私が海に教えると約束したではないか」
誰かこの女に人の話を理解する術を教えてください。
吹きすさぶ風は冷たく、ただでさえ人の少ないゲレンデでこの高さには人の気配はなし。 風の音とリフトの機械音以外の音はなし。
「どうした? 滑らなければ教えようもないが」
「もっとこう…基本的な事を安全な場所で教えよう、という気はなかったのっ?」
「ふむ…。 しかし、人が少ないとは言え人のいる場所で練習するのは危ないと思ったのでな」
「滑れないやつがこんな高い場所にいる方がかえって危ないわよっ!」
「言われてみればそうだな」
誰か助けてください。
「ともかく滑るしか戻る術はないのだから、滑ってみたらどうだ」
言うや否や、あたしを突き飛ばす。
「ぎゃーっ」
「海、いきなりそのスピードは危ないと思うが」
「あんたが押したんでしょうがーっ!」
気がつくと彼女に抱きかかえられていた。
「あれ? いったいどうして…?」
寒い。
「うむ。 海は気絶していたのだ。 それを私が介抱しているというわけだ。 場所はよくわからん」
「…」
辺りを見回すと一面の銀世界。 人の姿どころか声もなし、リフトの姿どころか明かりすらなし。
「…まさか……あたし達遭難したってこと?」
「そういう可能性もある」
「ちょ、ちょっとっ。 何そんな冷静なのよっ? たいへんじゃないっ!」
あたしは事態に驚き起き上がる。
「明るい内に戻らなくちゃっ」
そう言って立ち上がるが、彼女は座ったまま動かない。
「何してるのよ、ほらっ」
手を引っ張って立たせようとすると顔をしかめる。
「えっ!? どうしたのっ?」
「いや…少々足を痛めてな。 動けないのだ」
もしかしてあたしのせい? 気絶した時に何か?
「で、でもこのままじゃ…」
「ふむ。 では海だけでも先に戻るといい。 おそらくあちらの方向に行けば宿に着くはずだ」
そう言って方向を指差す。
「そ…そんなこと、できるわけないじゃないっ。 バカなこと言わないでよっ!」
あたしが言い放つと彼女は驚いた顔を浮かべる。
「どこか休める場所は…」
辺りを見回すと休めそうな窪みが見つかった。
「少し我慢してよね」
そう言ってあたしは彼女を抱き上げ、そこへ向かって歩く。
「海は意外に力があるのだな」
「…ダイエットしなさいよ」
「そうか? 海よりは無いと思うが」
「…いいから黙ってろ」
寒さに耐えるため、寄り添って座る。
「大丈夫? 寒くない?」
「そう思うのなら今私が考えていることをしてくれ」
「調子にのるなーっ」
辺りが薄暗くなってくる。 寒さも増してきた。 状況は極めて深刻。 いつしかあたし達は抱き合っていた。
「…ここで死んじゃうのかな…」
「なぜだ」
「だって、雪山で遭難して凍死ってよく聞くじゃない」
「ふむ」
「スキー教室なんて来るんじゃなかった…」
だんだんと眠くなって、瞼が下りてくる。
遠くから何か音が聞こえる気がしてきた。 なんか車みたい音。
すると、彼女があたしから離れた。
「どうしたの?」
ぼんやりとあたしは彼女の方を見る。
「どうやらじいが迎えに来たようだ」
「よかったわね…」
って、え!?
「助けが来たのっ!?」
飛び起きるとスノーモービルだかなんだかの明かりがこちらに近づいてくる。 彼女がそれに向かって手を振っている。 …って、
「あんた足はっ!?」
「うむ。 痺れならもう取れた」
「はい!?」
「海が気がつくまで膝枕をしていたら痺れて立てなかったのだが、もう平気だ。 海のおかげだ」
「…」
「それではそろそろ宿に戻るとしよう、海」
「…」
「どうした? まだ足りなかったか? なら続きは宿でにしよう、ここでは体に障るぞ」
「ふざけるなーっっっ!!」
もうスキー教室なんか絶対来ない。 あたしはより深みに堕ちてしまった、そんな気がした。
(終)
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