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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (ルルアンタED 旅先 エレンディア)

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「では、ふたりの新たな旅立ちを祝して。  手始めに、まずどこに転送しましょうか?」
 ルルアンタと私はお互いに目を交わす。 決まってる、あそこだ。 二人で転送機へと駆け出す。
 転送機に立ち、私達は手を繋ぐ。
「それでは、二人ともお別れですね。 自由な旅を」

 オルファウスさんの転送機で猫屋敷から飛んだ場所はここだった。
 ロストールとノーブルを結ぶ街道の途中の林の中。 ひっそりと石が積み上げられている。

「お父さん。 久しぶり」
「フリントさん、久しぶりなの」
「こーら、ルルアンタ。 フリントさんじゃないでしょ、お父さん」
「…うん。 お父さん…久しぶり、なの」
 そしてささやかな墓をきれいにする。
「その、お父さん。 私、お父さんみたいにはなれないみたい」
「…」
「旅商人できるほどの商才はないわ、私。 そして、スパイみたいな真似もできない」
 正面から墓を見つめ、私は一言一句はっきりと口にする。
「私達を養い育て、守ってくれたお父さんには心から感謝してるし、尊敬もしてる。 でもお父さんのようにはなれないし、なりたくない」
「…エレンディア」
「私は私でありたい。 そうすることに決めました。 しばらくは会えなくなるけど、ごめんなさい」
 お墓の前にお酒を置く。
「ふふっ、聞いてお父さん。 このお酒はね、私とルルアンタで採ってきたタレモルゲの汽水でできてるのよ? ね、ルルアンタ?」
「そうなの、酒場で作ってもらったのっ」
「こうやってルルアンタと二人で冒険者としてがんばっていきます。 心配かもしれないけど、私達を見守っててください」
 そう言って祈りをささげる。 隣ではルルアンタも同じように祈りをささげてる。
「それじゃお父さん、私達行くね」
「お父さん、バイバイ」
「行こうか、ルルアンタ」
「うんっ」
 二人手を繋ぎ歩き出す。

「さて、と。 とりあえずは報告もしたし…。 どこ行こうか?」
「うーん…。 エレンディアはどこ行きたいの?」
「そうねえ…」



「久しぶりっ、ヒルダリア」
「こんにちはっ」
「あら、あなた達。 本当久しぶりね。 元気だった?」
「ええ、もちろん。 ね、ルルアンタ」
「うんっ。 ヒルダリアお姉さんは元気?」
「ふふ、元気よ」
 クスリと笑い、ヒルダリアがルルアンタの頭を優しく撫でる。 ルルアンタは笑顔で私達を見上げてる。
「船、頼んでいいかしら?」
「ええ、もちろん。 気にせず言って」
「どこ行くの? エレンディア」
「いい所、よ」



「うわぁ…。 凄い、きれいー。 凄いねー、エレンディアーっ」
 しぶきの群島の端、輝く世界を望める場所。 かつてザギヴを救う時にオルファウスさんに連れてきてもらった場所だ。
 あの時はルルアンタはいなかった。 だから連れてきてあげたかった。
「ね。 凄いよねー。 世界ってこんなにきれいだったんだねー…」
「エレンディア、どうしてこんな場所知ってるのぉ?」
「うん。 あのね、ルルアンタがいなかった時に知った場所なんだよ。 だからルルアンタにも教えてあげたかったんだ」
「そうなんだー。 うん、ルルアンタ教えてくれて嬉しいよっ」
 満面の笑みでルルアンタは私を見る。 その笑顔が何より嬉しい。
「これからどうするか…。 ここでゆっくり考えましょう、この素敵な景色の前で」
「うんっ、そうするの」
 二人、高台に腰掛け、瑪瑙色に輝く海を見つめる。

 遠く海を見つめながら私は思う。 バイアシオンを出て行くべきか。
 オルファウスさんも言っていた。 今の私は皆の脅威でもある。 ルルアンタがいなければ私は私が怖い、居場所がわからない。
 私を知らない世界へ行くべきなのだろうか。
「エレンディア?」
 ルルアンタが私の顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめん。 ぼーっとしてた」
「エレンディア。 エレンディアがつらかったら、どこか遠くに行く?」
「!?」
「エレンディア震えてるの。 でも、皆はエレンディアのこと好きだよ? ルルアンタもオルファウスさんもぶさいくな猫ちゃんも今まで出会った皆も」
「…」
「皆お友達なの。 皆エレンディアの味方なの。 心配ないの、エレンディアが困ってたら、今までエレンディアが助けてくれたみたいに皆も助けてくれるのっ」
「あ…」
 涙が浮かぶ。 溢れそうになる。
「エレンディアだって女の子なの。 かわいいの。 皆助けてくれるよ?」
「こ、こんな…斧振り回す女の子…を?」
「かわいいの」
「…神様だって…倒しちゃ…うん…だよ?」
「関係ないの」
「私…たぶん…大陸…で一番…強いん…だよ?」
「でも泣き虫なの。 大丈夫、ルルアンタがいるよ」
 そう言ってルルアンタは立ち上がり、私の頭を抱きしめる。 涙が溢れ出す。
「遠くに行っても行かなくても、ルルアンタも皆もエレンディアの味方だよぉ。 一人じゃないよ」
「うん…うんっ」
 私もルルアンタを抱きしめる。

 ネメアさんのような気分だった。 一人高みに着き孤高の存在。 畏怖の象徴。 だけど、私はネメアさんにはなれない。 人の目が怖かった。
 だけど、ルルアンタはそれをわかってくれていた。 皆もわかってくれていると言う。 正直それはわからない。
 でも、ルルアンタはわかってくれている。 嬉しい。 ただ、嬉しい。

「…怖、かった…私が…」
「怖くないの。 エレンディアはかわいいの」
 ルルアンタは優しい笑顔で私を見ながら、私の頭を撫でる。
「私が…お姉ちゃん、なのに…ね」
「お姉ちゃんだって、偉い人だって、ルルアンタだって、誰だって、つらい時はあるの。 気にしなくてもいいんだよぉ」
「そう、だよね…」
「そうなの」
 ありがとう、傍にいてくれて。 ありがとう、私の大切な妹。
 顔を上げルルアンタの頬にキスをする。
「エレンディア、甘えんぼさんなの」
 ルルアンタは笑顔でそう言う。
「…うん。 今日は…甘えさせて」
「うん、いいよぉ」

 日が落ちても、私はルルアンタに抱かれ動けずにいた。 その温もりに身を任せながら、私は強くなれる気がした。

 お互いを守る。 私はあなたを、あなたは私を。 いかなる時も傍らに。

 私は強くなれる気がした。 ルルアンタのために。 ルルアンタと共に。



(終)
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