数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
「社長ーっ! しゃあちょうーーっ!!」
「…」
「たいへんっ、たいへんっスよーっ!」
「…相変わらず無駄に暑苦しいな、真田は」
「第一声からそれっスか…」
「で、なんだ? 何かあったか?」
「そうなんスよ、たいへんっスよ社長っ!」
「わかってる、皆まで言うな真田」
「さすが社長っ、もう知ってたんスねっ!」
「まさか市ヶ谷が1年も経たずに自分の団体から出て行くとはなー…。 いやあれは驚いたよ」
「何の話してるんスかーーーっ!!」
「…2人とも初めてレッスルで戯言を書くのにつかみから漫才にするのはやめていただけないでしょうか?」
「で、なんだっけ?」
「はい。 今の団体の状況的に新日本女子からマイティ祐希子を引き抜くのがよろしいかと」
「結局霧子さんもやってるじゃないスかーっ!」
「…で、なんだっけ?」
「えっとねぇ…レッスルのサントラが発売されるんだってよー」
「そうなのか! いやー、前から欲しい欲しいとは思ってたんだが…」
「真鍋さん、社長や他の方が信じそうな嘘はやめてください」
「はいはいー」
「嘘なのかよっ! 欲しい人間に期待させるようなことはやめろよっ!」
「レッスル2の発売が決定したんスよ!」
「いやいくら俺でもそう連続で騙せると思うな、真田」
「いえこちらは本当です」
「何ーっ! バカなっ!?」
「…どうして『バカなっ!?』なのでしょうか?」
「だってキャラデザの(以下自粛)」
「ところで以前の戯言でカウンターが1500と言っているのですが、あれは1000の間違いです。 こっそり直そうかとも思ったのですが今日気づいたので今更意味がないため、ここでお詫びします」
「霧子さん何言ってるんスか?」
「と言うかぁ、話がすり変わってるんですけどぉ?」
「諸般の事情によりこれ以上続けると問題ありそうなので切ります」
「有能な秘書に支えられて団体はあるということがわかるな、みんな?」
「…で、無能な社長が……」
「…」
「ところで、この情報ってかなり遅くないのぉ?」
「お前本当嫌なとこばっかつっこむな」
「まあ社長の自業自得とも言えますが」
「すでに外国人キャラデザの方と新加入外国人キャラが決まってるっスね」
「次は追加技か…」
「私はぁ…シュバインとかいいと思うなー」
「ビーナスもよろしいのではないでしょうか」
「アイコノクラズムもいいと思うっスよ」
「…君達、その特定選手に偏った技選択はやめないかい?」
「でも実際どんな技がいいんでしょうね?」
「やっぱぁ、個性が欲しいじゃな~い?」
「熱い技であればなんでも構わないっスよ、自分は!」
「個性って言うかだな、基本的にはどの技というよりは増えてくれればなんでもいいと思うがな、俺は」
「ええー、社長ってば冷たーい」
「いやサバイバーは過去シリーズに比べ少なかったかのように感じるんだ。 実際どうだったかはわからないんだが」
「わからない? …お調べには?」
「…」
「いや調べてからいいましょうよ、社長…」
「ここで絶対採用されない技を出してみるとかどうだろう?」
「それ何がしたいんスか…?」
「例えばどんな技でしょうか?」
「ファイヤバードスプラッシュとか」
「キン肉バスターとかはぁ?」
「おおっ、そんな感じだ真鍋っ」
「…」
「…」
「いや本当そのバカを見る目は勘弁してください、2人とも…」
「最初のってなんで絶対採用されないのぉ、社長?」
「あの技は4分割できないだろ、普通に考えて」
「真鍋が言ってるはどうしてっスか?」
「え、だって著作権が…」
「まあ発売がいつになるかはわからないけど楽しみだな」
「初めての戯言をこんな適当に…」
「き、霧子さん落ち着くっスよっ!」
「えーっと、じゃああたしはこれでーっ」
「ま、待てっ。 お前だけ逃げるな、真鍋っ! 俺も連れてけっ!」
「社長っ!!」
(終)
註・いや本当いろんな意味ですいませんな出来ですね、これは。
「…」
「たいへんっ、たいへんっスよーっ!」
「…相変わらず無駄に暑苦しいな、真田は」
「第一声からそれっスか…」
「で、なんだ? 何かあったか?」
「そうなんスよ、たいへんっスよ社長っ!」
「わかってる、皆まで言うな真田」
「さすが社長っ、もう知ってたんスねっ!」
「まさか市ヶ谷が1年も経たずに自分の団体から出て行くとはなー…。 いやあれは驚いたよ」
「何の話してるんスかーーーっ!!」
「…2人とも初めてレッスルで戯言を書くのにつかみから漫才にするのはやめていただけないでしょうか?」
「で、なんだっけ?」
「はい。 今の団体の状況的に新日本女子からマイティ祐希子を引き抜くのがよろしいかと」
「結局霧子さんもやってるじゃないスかーっ!」
「…で、なんだっけ?」
「えっとねぇ…レッスルのサントラが発売されるんだってよー」
「そうなのか! いやー、前から欲しい欲しいとは思ってたんだが…」
「真鍋さん、社長や他の方が信じそうな嘘はやめてください」
「はいはいー」
「嘘なのかよっ! 欲しい人間に期待させるようなことはやめろよっ!」
「レッスル2の発売が決定したんスよ!」
「いやいくら俺でもそう連続で騙せると思うな、真田」
「いえこちらは本当です」
「何ーっ! バカなっ!?」
「…どうして『バカなっ!?』なのでしょうか?」
「だってキャラデザの(以下自粛)」
「ところで以前の戯言でカウンターが1500と言っているのですが、あれは1000の間違いです。 こっそり直そうかとも思ったのですが今日気づいたので今更意味がないため、ここでお詫びします」
「霧子さん何言ってるんスか?」
「と言うかぁ、話がすり変わってるんですけどぉ?」
「諸般の事情によりこれ以上続けると問題ありそうなので切ります」
「有能な秘書に支えられて団体はあるということがわかるな、みんな?」
「…で、無能な社長が……」
「…」
「ところで、この情報ってかなり遅くないのぉ?」
「お前本当嫌なとこばっかつっこむな」
「まあ社長の自業自得とも言えますが」
「すでに外国人キャラデザの方と新加入外国人キャラが決まってるっスね」
「次は追加技か…」
「私はぁ…シュバインとかいいと思うなー」
「ビーナスもよろしいのではないでしょうか」
「アイコノクラズムもいいと思うっスよ」
「…君達、その特定選手に偏った技選択はやめないかい?」
「でも実際どんな技がいいんでしょうね?」
「やっぱぁ、個性が欲しいじゃな~い?」
「熱い技であればなんでも構わないっスよ、自分は!」
「個性って言うかだな、基本的にはどの技というよりは増えてくれればなんでもいいと思うがな、俺は」
「ええー、社長ってば冷たーい」
「いやサバイバーは過去シリーズに比べ少なかったかのように感じるんだ。 実際どうだったかはわからないんだが」
「わからない? …お調べには?」
「…」
「いや調べてからいいましょうよ、社長…」
「ここで絶対採用されない技を出してみるとかどうだろう?」
「それ何がしたいんスか…?」
「例えばどんな技でしょうか?」
「ファイヤバードスプラッシュとか」
「キン肉バスターとかはぁ?」
「おおっ、そんな感じだ真鍋っ」
「…」
「…」
「いや本当そのバカを見る目は勘弁してください、2人とも…」
「最初のってなんで絶対採用されないのぉ、社長?」
「あの技は4分割できないだろ、普通に考えて」
「真鍋が言ってるはどうしてっスか?」
「え、だって著作権が…」
「まあ発売がいつになるかはわからないけど楽しみだな」
「初めての戯言をこんな適当に…」
「き、霧子さん落ち着くっスよっ!」
「えーっと、じゃああたしはこれでーっ」
「ま、待てっ。 お前だけ逃げるな、真鍋っ! 俺も連れてけっ!」
「社長っ!!」
(終)
註・いや本当いろんな意味ですいませんな出来ですね、これは。
「お盆も近いですね…」
「あん? 先月盆は過ぎてるじゃないさね」
「ああ、なるほど。 桂さんは7月に盆を祭ったのですか」
「ああ、そうだよ」
「ではなぜ未だお帰りに…」
「…」
「まあこう暑いとなかなか創作活動もできないわけでして」
「そんなのはただの言い訳だろう。 8月って言ったら創作活動してる人間が集まることがあるじゃないさね」
「そうなのですか?」
「サクヤさんがなんでそんなことを知ってるのかはさておき、まあ暑いというのは確かに言い訳になってませんね」
「そうだろうさ。 桂はいったいどうしちまったんだい?」
「まあそれについてはこれまで話したこととなんら変わりはないのではないでしょうか」
「はあ…情けないねぇ…。 自分で続けると言っておいてこのざまかい」
「い、いやでもしかし、特に期待されてる方もいないのでは?」
「烏月…。 あんた恐ろしいことを簡単に言うねえ…」
「実際どうなのかはさておき、先ほど気づいたのですがカウンターが1500を回っているのですようー」
「へえ、案外人が来てるんだねえ」
「確かに驚くべき数字ですね」
「ですねー。 てんで更新してないのに来てくださっているとは」
「…」
「…」
「予定では新たに新団体を立ち上げそっち中心で書きつつ、それ関係の戯言を始めるはずだったのですけども」
「すればいいじゃないさ」
「…」
「ああ、例のMMOですか」
「まあいつの間にやらそちらで上級者の末席あたりに入ってるらしいですからねー」
「…」
「…」
「楽しんでいるのか、と問われるとあまり楽しくないことばかりなようですが」
「…なんでそんなのやってるんだい?」
「惰性でしょうか?」
「そんなものかもしれませんねー。 最近ではブックマークの巡回も滞ってる有様で…」
「あそこにも足を運んでないのかい?」
「ええ…」
「そりゃいけないねえ…」
「あそことは?」
「個人のサイトなので控えてください、烏月さん」
「まあ桂は昔からハマると何かきっかけがない限りはずーっとだからねえ」
「まあそのようで」
「まだしばらくは今の状態ということなのでしょうか?」
「そうかもしれないね」
「違うかもしれませんし」
「つまりは開店休業ということなのでしょうか?」
「…」
「…烏月さん、時に真実はあまりにも残酷です。 もう少し遠慮して発言してください……」
「それで、桂。 あなたいつまでこうしてるつもりなの?」
「…たまには旅もいいもんだよ、ノゾミちゃん?」
「たまにはいいかもしれないけれど、こんなにするものではないのではなくて?」
「はい…努力してみます…」
(終)
「あん? 先月盆は過ぎてるじゃないさね」
「ああ、なるほど。 桂さんは7月に盆を祭ったのですか」
「ああ、そうだよ」
「ではなぜ未だお帰りに…」
「…」
「まあこう暑いとなかなか創作活動もできないわけでして」
「そんなのはただの言い訳だろう。 8月って言ったら創作活動してる人間が集まることがあるじゃないさね」
「そうなのですか?」
「サクヤさんがなんでそんなことを知ってるのかはさておき、まあ暑いというのは確かに言い訳になってませんね」
「そうだろうさ。 桂はいったいどうしちまったんだい?」
「まあそれについてはこれまで話したこととなんら変わりはないのではないでしょうか」
「はあ…情けないねぇ…。 自分で続けると言っておいてこのざまかい」
「い、いやでもしかし、特に期待されてる方もいないのでは?」
「烏月…。 あんた恐ろしいことを簡単に言うねえ…」
「実際どうなのかはさておき、先ほど気づいたのですがカウンターが1500を回っているのですようー」
「へえ、案外人が来てるんだねえ」
「確かに驚くべき数字ですね」
「ですねー。 てんで更新してないのに来てくださっているとは」
「…」
「…」
「予定では新たに新団体を立ち上げそっち中心で書きつつ、それ関係の戯言を始めるはずだったのですけども」
「すればいいじゃないさ」
「…」
「ああ、例のMMOですか」
「まあいつの間にやらそちらで上級者の末席あたりに入ってるらしいですからねー」
「…」
「…」
「楽しんでいるのか、と問われるとあまり楽しくないことばかりなようですが」
「…なんでそんなのやってるんだい?」
「惰性でしょうか?」
「そんなものかもしれませんねー。 最近ではブックマークの巡回も滞ってる有様で…」
「あそこにも足を運んでないのかい?」
「ええ…」
「そりゃいけないねえ…」
「あそことは?」
「個人のサイトなので控えてください、烏月さん」
「まあ桂は昔からハマると何かきっかけがない限りはずーっとだからねえ」
「まあそのようで」
「まだしばらくは今の状態ということなのでしょうか?」
「そうかもしれないね」
「違うかもしれませんし」
「つまりは開店休業ということなのでしょうか?」
「…」
「…烏月さん、時に真実はあまりにも残酷です。 もう少し遠慮して発言してください……」
「それで、桂。 あなたいつまでこうしてるつもりなの?」
「…たまには旅もいいもんだよ、ノゾミちゃん?」
「たまにはいいかもしれないけれど、こんなにするものではないのではなくて?」
「はい…努力してみます…」
(終)
『お盆なのでお父さんとお母さんのお墓参りに行ってきます。 一人で大丈夫なので心配しないでください。 そのまましばらく一人で考えたいと思います』
「…」
「…」
「…なんだい? これは」
「見ての通りだと思いますが」
「桂、確かついこの間まで風邪ひいて寝込んでなかったかい?」
「そうですね」
「で、治ったらこれかい?」
「…かなり気にしてましたから」
「…」
「…」
「つまり…逃げたんだね?」
「有体に言えばそうなるかと」
「まったくしょうがないねえ、桂は。 もうちょっと軽くやれないもんなのかねえ…」
「先月末の小話以来、どうにもアイデアが浮かばない、と苦しんでましたから」
「何が原因かねえ…」
「さあ…。 ただ桂さんは繊細な人ですから、いろいろと考えすぎているのかもしれません」
「いえいえ、そんなことないですよ?」
「…」
「…」
「どうかしましたか?」
「あんた、どこから…ああ、まあいいさね。 どうせ返事はわかってるから」
「…そうですね」
「何か奥歯に物の挟まったような言い方ですけど、まあいいとして。 おねーさんがアイデアに詰まっている理由は案外簡単ですようー」
「ほう…。 どういうことだい? 葛」
「まず第一に純粋に忙しいから、ということ」
「まあそうですね。 確かに最近桂さんはいろいろと動き回ってました」
「次に、チャットが創作の邪魔になってる、ということ」
「ちゃっと? それはいったいなんだい?」
「…フリーのライターがそれで大丈夫なんですか?」
「余計な心配は無用だよ。 あたしはあたしで十分やれているさね」
「…あの、葛様。 私もよくわからないのですが」
「…。 二人とも自分で調べてください」
「…つまりまだMMOはやっていたんだね」
「そうですねー」
「それが最大の原因なんじゃないかい?」
「当たらずとも遠からじ、ですかね。 結局は作品から離れてることが一番かと」
「でも理由がわかってるなら解決は楽ですね」
「いやいや、そうとも言えませんようー」
「なぜですか?」
「わかっててやらないからだろうさ。 そうだろ? 葛」
「はいです。 どうもお仲間ができて『飽きたらやめよう』という当初の予定がしづらくなったよー、なんておねーさんは言ってましたね」
「そんなんでよく先月のアレは書けたねえ」
「まああれは完成まで2ヶ月かかってますよ? 実際は」
「…まあかなり時期外れな感もありましたしね……」
「烏月さん、それは禁句です」
「で、桂はいつになったら帰ってくるんだい?」
「それは私も知りたいところですが」
「さあ…。 今本当におねーさん煮詰まってるのでどうか長い目で見てもらえますかね?」
「しかし、桂一人にしておくのは危ないだろうさ。 いつどこでどんな危ない目に遭うかもわからないんだよ?」
「そうですね。 私が桂さんの危機を守ろうにも居場所がわからなければそれもできないですし…」
「どこかの刃物バカに任せるかは別として、烏月の言う通りさね」
「…どこかの刃物バカとは誰のことでしょう、サクヤさん」
「まあまあ二人とも落ち着いて」
「けどっ」
「しかしっ」
「大丈夫ですよ、おねーさんの居場所はちゃんと押さえてますから。 何かあればすぐ若杉でフォローしますから」
「…やっぱりかい」
「…ですね」
「………あ。 い、今のはひとりごとです。 それではーっ」
「待ちなっ、葛っ。 桂の居場所を言ってから行きなーっ」
「葛さまっ」
「わたしは何も知らないですようーっ」
「だったら逃げるんじゃないよーっ」
(終)
「…」
「…」
「…なんだい? これは」
「見ての通りだと思いますが」
「桂、確かついこの間まで風邪ひいて寝込んでなかったかい?」
「そうですね」
「で、治ったらこれかい?」
「…かなり気にしてましたから」
「…」
「…」
「つまり…逃げたんだね?」
「有体に言えばそうなるかと」
「まったくしょうがないねえ、桂は。 もうちょっと軽くやれないもんなのかねえ…」
「先月末の小話以来、どうにもアイデアが浮かばない、と苦しんでましたから」
「何が原因かねえ…」
「さあ…。 ただ桂さんは繊細な人ですから、いろいろと考えすぎているのかもしれません」
「いえいえ、そんなことないですよ?」
「…」
「…」
「どうかしましたか?」
「あんた、どこから…ああ、まあいいさね。 どうせ返事はわかってるから」
「…そうですね」
「何か奥歯に物の挟まったような言い方ですけど、まあいいとして。 おねーさんがアイデアに詰まっている理由は案外簡単ですようー」
「ほう…。 どういうことだい? 葛」
「まず第一に純粋に忙しいから、ということ」
「まあそうですね。 確かに最近桂さんはいろいろと動き回ってました」
「次に、チャットが創作の邪魔になってる、ということ」
「ちゃっと? それはいったいなんだい?」
「…フリーのライターがそれで大丈夫なんですか?」
「余計な心配は無用だよ。 あたしはあたしで十分やれているさね」
「…あの、葛様。 私もよくわからないのですが」
「…。 二人とも自分で調べてください」
「…つまりまだMMOはやっていたんだね」
「そうですねー」
「それが最大の原因なんじゃないかい?」
「当たらずとも遠からじ、ですかね。 結局は作品から離れてることが一番かと」
「でも理由がわかってるなら解決は楽ですね」
「いやいや、そうとも言えませんようー」
「なぜですか?」
「わかっててやらないからだろうさ。 そうだろ? 葛」
「はいです。 どうもお仲間ができて『飽きたらやめよう』という当初の予定がしづらくなったよー、なんておねーさんは言ってましたね」
「そんなんでよく先月のアレは書けたねえ」
「まああれは完成まで2ヶ月かかってますよ? 実際は」
「…まあかなり時期外れな感もありましたしね……」
「烏月さん、それは禁句です」
「で、桂はいつになったら帰ってくるんだい?」
「それは私も知りたいところですが」
「さあ…。 今本当におねーさん煮詰まってるのでどうか長い目で見てもらえますかね?」
「しかし、桂一人にしておくのは危ないだろうさ。 いつどこでどんな危ない目に遭うかもわからないんだよ?」
「そうですね。 私が桂さんの危機を守ろうにも居場所がわからなければそれもできないですし…」
「どこかの刃物バカに任せるかは別として、烏月の言う通りさね」
「…どこかの刃物バカとは誰のことでしょう、サクヤさん」
「まあまあ二人とも落ち着いて」
「けどっ」
「しかしっ」
「大丈夫ですよ、おねーさんの居場所はちゃんと押さえてますから。 何かあればすぐ若杉でフォローしますから」
「…やっぱりかい」
「…ですね」
「………あ。 い、今のはひとりごとです。 それではーっ」
「待ちなっ、葛っ。 桂の居場所を言ってから行きなーっ」
「葛さまっ」
「わたしは何も知らないですようーっ」
「だったら逃げるんじゃないよーっ」
(終)
「こういうのはどうじゃ?」
多くの混乱を越え世界が再び平和に向かって歩みだし始めた頃、各国の首脳陣の集まる中でマシロ女王が言い出した。
彼女はこの短い中で成長し、最近では幼くつたないながらも女王としての責を理解し勤めているようだ。
「それはいいですね。 校長はどう思われますか?」
ヴィントブルーム王国と並び復興が進んでいるエアリーズ共和国のユキノ大統領が後押しをする。
「そうですね…。 いくつか難しい部分はありますが、賛同はできます」
「では決定じゃっ! さっそく準備にかかるといいっ。 協力は惜しまんぞ!」
「と言うわけで、皆に集まってもらったわけだが」
ガルデローベ学園そばに造られた建造物の一室に五人。
ガルデローベ学園長にして五柱の一人、『氷雪の銀水晶』ナツキ・クルーガーが四人を前にして言う。
「はあ? なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?」
この中では一番年少にあたる新任、『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャンが不平をあげる。
「ま、立場上そうなるのは必然ですね」
即座に切り返したのは、言われたナツキではなく『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー。
「そうねぇー。 しょうがないんじゃないのー。 あたしも気は進まないんだけどー」
続けて口をそろえるは『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス。
「なんでよ」
「我々五柱は各国に対し、中立の立場であることは以前と変わっていないからだ。 この計画の性質から言って、我々以外に適任な人材はいないと思う」
「はあ? つーかこれって何するわけ?」
態度からしてだるそうにナオが言う。
「お前、話を聞いてなかったのか?」
ナツキが顔をしかめる。
「あんたの堅苦しい説明は聞いてると疲れてくんのよ。 もっと簡単に話してくれない?」
「つまりここは情報発信基地になるわけどす」
微笑を浮かべいつの間にかナオの横に立っているのは、『嬌嫣の紫水晶』シズル・ヴィオーラ。
「情報発信?」
「ガルデローベの技術を各国にも提供するのが目的。 すでに各国に送った端末でこちらからの情報を受け取ることはできるようになった」
「受信だけねー。 でまあ、そういう重要な内容だから、ある程度責任ある立場でないといけないからあたし達なわけ」
「アスワドはんの協力もあって全ての国に通信できるようになっとります」
ナオ以外は理解している模様。 それぞれが解説を繋いでいく。
「それでここから各国が利用できそうな技術を伝える、ということだ」
「つっても、あたし何も知らないわよ。 何を伝えろっての」
「それについてはヨウコとアスワドの面々が考慮してくれてる。 この発信はだいたい月に一回で行う予定だが、その都度どの情報を送るかは連絡が来るから問題はない」
「月一ねー。 それでもわざわざここに来るのはめんどいわよねー」
薄笑みを浮かべながらマーヤがナツキの方を向いて言う。
「また、これはエアリーズ共和国のユキノ大統領の提唱で、公共連絡になることも決定している」
「どういう意味ですか?」
「つまり、国家首脳陣にだけ伝わる連絡ではなく、国全体への送信となるということだ」
「はあ?」
「要するに、月一で我々の声が世界中に流れるというわけですね」
「…げっ。 冗談でしょ?」
露骨に嫌そうな顔をしてナオがナツキを見るが、ナツキは小さく首を振る。
「それにこの計画はすでに決定事項だ。 このように専門の施設も用意された以上、我々に拒否することは許されない」
「そういうわけで、今回の内容はこれになる。 各自目を通してくれ」
そう言ってナツキは四人に紙を渡す。 それぞれ目を通し始める。
「放送は一週間後を予定している。 それでは皆頼む」
そう言い残し立ち去ろうとするナツキにナオが口を出す。
「これ、誰が喋るのよ」
「皆で決めてくれればいい。 特別誰と決めているわけではない」
「…なんか自分が入ってないみたいな物言いじゃない? あんたはどうなのよ」
「すまないが、私は学園の方で仕事があるのでこれには参加できない。 今後においては善処するつもりだ。 では後はよろしく頼む」
「ちょっと待ちなよ。 何勝手なこと言ってんのさ。 そんな自分勝手許されると思ってんの?」
「まあまあ。 ナツキは学園の仕事だけでなく、各国との折衝もあるさかい。 堪忍しておくれやす」
ナオがナツキに詰め寄ろうとした所、シズルが間に割ってはいる。
「止めなくていいのですか?」
サラがマーヤを見て尋ねる。 しかし彼女は薄笑みを浮かべながら楽しそうに答える。
「そう思うならあんたが止めればー? 楽しそうじゃない」
「全く…。 マーヤお姉さまは相変わらず趣味が悪いですね」
そう言ってサラはため息をついた。
「どいてよ、あたしは学園長様に話があるんだけど?」
「少し落ち着かれたらどうでっしゃろ? ナツキかて悪気はないんやし」
「ハッ、どうだか。 こんな勝手に話決められて黙ってなんかいらないわよ。 自分は高みの見物なんて、冗談じゃない。 口だけ学園長にはついていけないね」
怒りの表情でナオが言うと、シズルの顔に昏い影がさす。
「あー…」
「新任は考えが足りないわねー。 この前までここの生徒でしょうにー」
「外野うるさいわね、何か言いたいわけ?」
ナオは後ろを振り向き二人に言う。
「あんた、『嬌嫣の紫水晶』を知らないわけ?」
マーヤがナオに言うと同時に、
「…マテリアライズ」
シズルの静かな声が狭い一室に響く。 ジェムが輝き、紫のローブがシズルの身に纏われる。
「…そうどすなぁ…新任さんに五柱のあり方を指導せえへんといかんなぁ…」
薄笑みを浮かべシズルがゆっくりと口を開く。 だが目は昏い影がさしたままだ。
「マテリアライズっ」
その顔に畏怖を感じたナオも慌ててローブを着用する。
「ここではまずいと思いますが」
「そうねー。 ちょっとマズいわねー」
身の危険を感じローブを纏った二人が勝手なことを口にする。
「…そうどすなぁ…ここではナツキに迷惑がかかるかもしれまへんなぁ…。 …ほな…場所変えましょかぁ…」
言うやシズルが手に持った薙刀を振る。
ガズッ、という音とともに壁が崩れ去り、シズルが外へ出る。 唖然とする三人。
「あー…。 これは本当にマズいわねー。 なんか完全にスイッチ入っちゃってるじゃない」
「私、学園長を呼んできます。 それまでマーヤお姉さまお願いします」
壁に開いた穴から声が飛んでくる。
「…さあ…指導の時間どすえ…」
「う、うわっ!?」
声と同時に飛んできたシズルの蛇腹剣にナオが引きずりだされる。
「あたしじゃ無理だから、はやく頼むわねー」
「はい」
「ちょっとあんた…本気?」
先頃の混乱期の反省から、オトメはまだ各国にいるものの、基本的にオトメの軍事行為は厳禁になっている。
「…これは後進の指導ですから…」
「…そう…なら、あたしも手加減しないよっ」
「あの自信はどこからくるのかなー。 無駄だっての。 …それにしても嬌嫣の紫水晶がああも簡単にキレちゃうとはなー」
ナオが構え直す、と同時にシズルが動く。 右手の薙刀を水平に構えたかと思うと、薙ぐかのようにナオの右手方向へと高速で飛ぶ。
「くっ!?」
あわてて爪を振り回し、糸を繰り薙刀の刃を絡ませて止める。 しかし、シズルは刃を止められるや蛇腹に伸ばしナオを振り飛ばす。
「うあっ!」
糸を伸ばし近くの木に絡ませ体勢を立て直す。 そこにシズルの蛇腹剣が飛んでくる。
「そう何度も食らわないってのっ」
蛇腹の伸びた部分を糸で絡み取る。 そしてお互い力を出して動きが取れなくなる。
「くくく…」
「…」
無表情でシズルは片手で堪え、空いた手を懐へと伸ばす。
「ちょ、ちょっとっ! マズいって、嬌嫣の紫水晶っ。 それは本当にマズいってのっ!」
様子を伺ってたマーヤが飛び出しシズルの手を掴む。 ゆっくりとシズルがマーヤを見る。
「…」
「落ち着きなさいっての。 それやっちゃったら学園長も本当に困るわよっ」
「っ!」
シズルの動きが止まる。
「何をしているっ!」
ちょうどその時ナツキの声が飛んできた。
「いったいどういうことだ?」
四人を前にしてナツキが厳しい表情で問う。
「ちょーっと、新任の指導が行き過ぎちゃってねー」
「…何が指導だっての。 殺る気全開だったじゃないのっ」
「あー、あんたはちょっと黙ってて」
マーヤがナオを押しやり、サラが合わせて引っ張る。
「ちょっとっ。 何すんのっ、あんたらっ!」
「シズル、どういうことだっ?」
「ナツキ…」
肩を落とし、シズルは俯き加減にナツキを許しを乞うように見る。 その様子を見ながらマーヤがナツキに向かって言う。
「あー…、学園長。 嬌嫣の紫水晶の事情聴取はそっちでやってもらえるー? こっちで破絃の尖晶石についてはやるから」
「しかし…」
「一緒にやっててまた揉めたら意味ないでしょー。 基本、謹慎の方向で片つけといて。 つまり、この企画から嬌嫣の紫水晶を外して」
「それは…」
「こっちでなんとかするからさ。 そっちはなんとかお願いねん♪」
ため息をついてマーヤを見る。
「おもしろがって見てたんですね、『怜踊の蛍石』ともあろう方が。 どうしてあなたはそう…」
「だから悪かったってぇん。 だからそっちはよろしく」
「…仕方ないですね…」
「ちょっと。 あたしは納得できないんだけど」
ナツキに連れられシズルが去った後、マーヤとサラを睨んでナオが言う。
「あんたねぇ…。 嬌嫣の紫水晶の前で学園長に絡むんじゃないわよ、ここの生徒でしょうが」
「調べによると、この子は学園長としばらく一緒に動いていたらしいですわね。 学園長とエアリーズまで行き、その後カルデア、黒い谷を経て、ヴィントブルームに帰還」
「はぁん。 それで学園長にあーゆー態度がとれるわけか」
「元々の性格もあるでしょうけど」
「それがなんだってのよ」
自分の言葉を無視された上に目の前で自分について話されているのは気分がよくない。 不機嫌にナオが口を出す。
「で、嬌嫣の紫水晶はそれも気に入らないわけね」
「おそらく」
「ちょっとっ。 無視してんじゃないよっ」
「うるさいわねぇ。 あんたはあたしに貸しがあるんだから、黙ってなっての」
ひらひら手を振ってマーヤはナオの方すら見ずに返事をする。
「はあ? あたしが、いつあんたに貸しを作ったっての?」
「さっきよ。 あんた、あたしが嬌嫣の紫水晶止めなかったら死んでるわよ」
「あん? 別にそこまで追い詰められてなかったわよ」
「バカねぇ…。 あの時嬌嫣の紫水晶はスレイブ召還しようとしたのよ? どうやったら対処できんのよ」
「な、なんでスレイブなんか召還できんのよっ」
「アスワドにでも貰ったんじゃない? それに召還しなくても嬌嫣の紫水晶には勝てないわよ」
「…そこまで大事になってたんですか?」
呆れたようにサラが言う。 マーヤはため息をつきながら頷く。
「ま、最初の一手から殺る気だったからねぇ…。 これは当分あの二人はここに呼ばないことにするしかないわねー」
「…仕方ないですね…」
と、サラは何か考えついたかのように笑みを浮かべる。
「では代わりを用意しましょう。 少し連絡してきます」
そう言って部屋を出て行く。
「よく理解できないんだけど」
「まあつまり、あたしら三人でこれやらなきゃいけなくなったから、銀河の藍玉が学園長と嬌嫣の紫水晶の代わりになるのを呼ぶってさ」
「なんで三人でやんの。 あいつらにだってやる義務があんでしょっ」
「あんた嬌嫣の紫水晶に目ぇつけられといて、よくまだそんな口きけるわねー。 生憎あたしはそんな修羅場にいたくないんで却下」
「…」
「マーヤお姉さま、何か連絡が来てますよ」
「んー?」
戻ってきたサラがマーヤに手紙を渡す。 それを受け取り見ている内に、サラが目を見開く。
「ごっめーん。 あたし一旦帰るわー」
「は?」
「うん、すぐ戻るからー。 後よろしくー」
言うやいなやマーヤが出て行く。
「ちょっと待ちなよ、あんたっ。 あんたも止めなくていいの!?」
ナオがサラに問うもサラは動じずあっさりと答える。
「マーヤお姉さまは人の言うこと聞きませんから。 それにだいたい理由はわかりますし」
「何だっての」
「今マーヤお姉さまはカルデアに駐留しているらしいんですが、そこでオトメの監視をしているらしくて」
「あ、あー…アカネか…」
少し前に久しぶりに会ったアカネの様子が思い出される。
てっきり男と逃げ切ったと思っていたが、いまだオトメであった彼女。 あの微笑みをたやさなかった彼女は存外荒んでいた。
「ここに来る際に影武者を置いてきた、とさっき言ってましたから、それがバレたのでしょう」
「…アカネ苦労してんのね」
「…」
「今日が放送日というわけですけど…」
「あたしとあんたの二人でどうすんのよ」
シズルが壊した壁の修復は済んだものの、人は減ったまま当日を迎えてしまった。
「おかしいわね…。 私の方は来るはずなんだけど」
サラが呟くと同時にこの施設のスタッフが飛び込んでくる。
「『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー様、エアリーズより使者がいらっしゃってます」
「ああ、来たようね。 ここに通してください」
「はっ」
「何?」
「五柱の代理を呼んだのよ」
「…」
「…チエじゃない、何やってんの?」
入ってきたのはナオの学生時代同級であったチエ・ハラードであった。
「ええ…、エアリーズ共和国ユキノ・クリサント大統領のお言葉を。 『銀河の藍玉のご意向ですが、現状アーミテージ准将には外交及び国防の任があり、そのような大役は務まりかねます。 代理としてチエ・ハラード少尉が受けさせていただきます』」
「はあ? チエ、あんたもたいへんねー…」
「…私、ハルカお姉さまに直接連絡したのですけど?」
「つまり、勢い込んで出て行こうとしたアーミテージ准将をユキノ大統領が発見し、事の次第を聞いてこうなったと」
淡々と答えるチエ。 サラの目が妖しく光る。
「随分と勝手なことされますね、大統領閣下も。 これは公的命令のつもりでしたが。 そもそも現在の状況で国防のためとは…」
「まあ、連合会議になっても勝てる目算はありそうですが」
「…すでに手を打ってますか。 さすがに一筋縄ではいかない方ですね。 いいでしょう、直接話します」
「って、ちょっとあんたっ」
ナオの声を無視してサラが出て行く。 後にはナオとチエだけが残る。
「どうなってんのこれ…」
「ま、いろいろ、ね。 アーミテージ准将は人気者だから。 それよりシズルお姉さまとやりあったんだって? 無茶するね、君は」
「…そんなつもりじゃなかったけどさ、なりゆきよ。 …で、何。 あんたやるの?」
「一応国家命令だしね。 ま、仕方ないさ。 むしろ渡りに舟だったかな?」
「はあ? 何が楽しくてこんなのやんのよ?」
呆れた顔でチエを見てナオが言う。
「いや、別にこれがやりたいわけではないけど。 ヴィントブルームに来るのは嫌じゃなかったんでね」
「どうしてよ」
「かわいい後輩達に会いたかったしね」
そう言って昔のようにどこからか取り出した青い薔薇をナオに差し出してウインクする。
「はっ。 相変わらずお盛んね」
差し出された薔薇を軽く払ってナオはそっぽを向く。 払われたチエは機嫌を悪くするでもなく笑い、窓の外に見えるヴィントブルーム城を見つめる。
「すいません。 『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャン様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様の使いがいらっしゃってますが」
「はあ?」
「おやおや、アカネもかわいそうに」
哀れむようにチエが言うと同時に『清恋の孔雀石』アカネ・ソワールがむくれ顔で部屋に入ってくる。
「…」
「アカネじゃない。 どうしたの?」
「聞くのは野暮ってもんだよ、ナオ。 建前上は『怜踊の蛍石』様に都合ができたので代理で使わされたって所…ま、つまりは私と同じようなものかな。 アカネは正式に五柱代理ではあるけど」
「…で、本音は面倒だし邪魔も出来て、一石二鳥ってとこ? 大したタマね、あの人も」
「まあ、マーヤお姉さまはああいう人だから。 とは言え、本当になんらかの事情が出来たのも事実だろうね。 仮にも五柱がそれだけで職務放棄は出来ないだろうから」
黙って立っていたアカネだったが、ぶるぶる震えたかと思うと叫んだ。
「私が何したって言うのよーっ。 もうなんでーっ!」
「したじゃない、あんた」
「うん…しょうがないんじゃないかな」
「何がしょうがないのよーっ。 うう…カズくん…」
今度は座り込んでしまう。
「なーにー? アカネってばそんなにエッチしたかったのー?」
笑いながらナオが言うとアカネは顔を赤くして手を振りながら言い訳する。
「ち、違うわよっ! わ、私はただ、カズくんと…」
「したかったんだよね」
「うう…」
チエの身もふたも無い一言にアカネは俯く。
「アカネ・ソワール様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様よりメッセージが届いてます」
「へ?」
アカネが顔を上げて、スタッフから手紙を受け取る。 開いて目を通す。
「…」
アカネの肩が震え出す。 その背中越しに二人が覗き込む。
「なになに…。 『ちゃーんとあたしの代わりを務めないとカズくんにハーレム勧めちゃうわよー♪』」
「『そういうわけでよろしくー♪ 同級生の『破絃の尖晶石』と仲良くがんばってねー』か…」
アカネは肩を震わせたまま俯いていて表情は見えない。
「本当性格悪いわねー」
「…そうだね。 アカネもたいへんだな…」
「あのー…。 もう時間なのですが…」
困った顔でスタッフが声かける。 ナオとチエが顔を見合わせる。
「えっと…私はまだ何をするか具体的にわかってないんだけど。 だいたいはわかってるけど、何を話すかは…」
「それよりアカネが使い物になんないんだけど」
「でも実際時間ぎりぎりなんです。 世界的に今日の放送は注目を集めていますから、中止や延期はできないんですけど…」
「とりあえず資料をくれるかい? なんとかやってみるよ」
やれやれといった感じではあるがチエが姿勢を正してスタッフに指示する。 切り替えの速さは昔と変わらない、いやむしろ昔以上かもしれない。
「あ、あたしが持ってるわ。 はい。 …結局五柱はあたし一人じゃない」
「それじゃ、メインはナオに任せるよ。 精一杯フォローはさせてもらうからさ」
「はあ…。 とんだ貧乏くじよ。 五柱に指名されてからこっち、碌な目にあってないわ」
「ぼやかないぼやかない。 ほらアカネも。 いい加減あきらめて手伝って」
「…」
ゆっくりとアカネが立ち上がる。
「それでは放送開始しますっ」
スタッフがそう言い合図を送る。 それを見てうんざりした顔でナオがマイクに向かって口を開く。
「えー…。 では、ガルデローベ学園より全国へ…」
「何がハーレムよーっ! ふざけないでよーっ!!」
記念すべき第一回放送を飾ったのはアカネの大絶叫であった。
後日計画は見直しが決定され、いまだ再開のめどは立っていない。
(終)
註・すいません、シズルの方言間違ってるかもしれません。 あしからず。
多くの混乱を越え世界が再び平和に向かって歩みだし始めた頃、各国の首脳陣の集まる中でマシロ女王が言い出した。
彼女はこの短い中で成長し、最近では幼くつたないながらも女王としての責を理解し勤めているようだ。
「それはいいですね。 校長はどう思われますか?」
ヴィントブルーム王国と並び復興が進んでいるエアリーズ共和国のユキノ大統領が後押しをする。
「そうですね…。 いくつか難しい部分はありますが、賛同はできます」
「では決定じゃっ! さっそく準備にかかるといいっ。 協力は惜しまんぞ!」
「と言うわけで、皆に集まってもらったわけだが」
ガルデローベ学園そばに造られた建造物の一室に五人。
ガルデローベ学園長にして五柱の一人、『氷雪の銀水晶』ナツキ・クルーガーが四人を前にして言う。
「はあ? なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?」
この中では一番年少にあたる新任、『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャンが不平をあげる。
「ま、立場上そうなるのは必然ですね」
即座に切り返したのは、言われたナツキではなく『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー。
「そうねぇー。 しょうがないんじゃないのー。 あたしも気は進まないんだけどー」
続けて口をそろえるは『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス。
「なんでよ」
「我々五柱は各国に対し、中立の立場であることは以前と変わっていないからだ。 この計画の性質から言って、我々以外に適任な人材はいないと思う」
「はあ? つーかこれって何するわけ?」
態度からしてだるそうにナオが言う。
「お前、話を聞いてなかったのか?」
ナツキが顔をしかめる。
「あんたの堅苦しい説明は聞いてると疲れてくんのよ。 もっと簡単に話してくれない?」
「つまりここは情報発信基地になるわけどす」
微笑を浮かべいつの間にかナオの横に立っているのは、『嬌嫣の紫水晶』シズル・ヴィオーラ。
「情報発信?」
「ガルデローベの技術を各国にも提供するのが目的。 すでに各国に送った端末でこちらからの情報を受け取ることはできるようになった」
「受信だけねー。 でまあ、そういう重要な内容だから、ある程度責任ある立場でないといけないからあたし達なわけ」
「アスワドはんの協力もあって全ての国に通信できるようになっとります」
ナオ以外は理解している模様。 それぞれが解説を繋いでいく。
「それでここから各国が利用できそうな技術を伝える、ということだ」
「つっても、あたし何も知らないわよ。 何を伝えろっての」
「それについてはヨウコとアスワドの面々が考慮してくれてる。 この発信はだいたい月に一回で行う予定だが、その都度どの情報を送るかは連絡が来るから問題はない」
「月一ねー。 それでもわざわざここに来るのはめんどいわよねー」
薄笑みを浮かべながらマーヤがナツキの方を向いて言う。
「また、これはエアリーズ共和国のユキノ大統領の提唱で、公共連絡になることも決定している」
「どういう意味ですか?」
「つまり、国家首脳陣にだけ伝わる連絡ではなく、国全体への送信となるということだ」
「はあ?」
「要するに、月一で我々の声が世界中に流れるというわけですね」
「…げっ。 冗談でしょ?」
露骨に嫌そうな顔をしてナオがナツキを見るが、ナツキは小さく首を振る。
「それにこの計画はすでに決定事項だ。 このように専門の施設も用意された以上、我々に拒否することは許されない」
「そういうわけで、今回の内容はこれになる。 各自目を通してくれ」
そう言ってナツキは四人に紙を渡す。 それぞれ目を通し始める。
「放送は一週間後を予定している。 それでは皆頼む」
そう言い残し立ち去ろうとするナツキにナオが口を出す。
「これ、誰が喋るのよ」
「皆で決めてくれればいい。 特別誰と決めているわけではない」
「…なんか自分が入ってないみたいな物言いじゃない? あんたはどうなのよ」
「すまないが、私は学園の方で仕事があるのでこれには参加できない。 今後においては善処するつもりだ。 では後はよろしく頼む」
「ちょっと待ちなよ。 何勝手なこと言ってんのさ。 そんな自分勝手許されると思ってんの?」
「まあまあ。 ナツキは学園の仕事だけでなく、各国との折衝もあるさかい。 堪忍しておくれやす」
ナオがナツキに詰め寄ろうとした所、シズルが間に割ってはいる。
「止めなくていいのですか?」
サラがマーヤを見て尋ねる。 しかし彼女は薄笑みを浮かべながら楽しそうに答える。
「そう思うならあんたが止めればー? 楽しそうじゃない」
「全く…。 マーヤお姉さまは相変わらず趣味が悪いですね」
そう言ってサラはため息をついた。
「どいてよ、あたしは学園長様に話があるんだけど?」
「少し落ち着かれたらどうでっしゃろ? ナツキかて悪気はないんやし」
「ハッ、どうだか。 こんな勝手に話決められて黙ってなんかいらないわよ。 自分は高みの見物なんて、冗談じゃない。 口だけ学園長にはついていけないね」
怒りの表情でナオが言うと、シズルの顔に昏い影がさす。
「あー…」
「新任は考えが足りないわねー。 この前までここの生徒でしょうにー」
「外野うるさいわね、何か言いたいわけ?」
ナオは後ろを振り向き二人に言う。
「あんた、『嬌嫣の紫水晶』を知らないわけ?」
マーヤがナオに言うと同時に、
「…マテリアライズ」
シズルの静かな声が狭い一室に響く。 ジェムが輝き、紫のローブがシズルの身に纏われる。
「…そうどすなぁ…新任さんに五柱のあり方を指導せえへんといかんなぁ…」
薄笑みを浮かべシズルがゆっくりと口を開く。 だが目は昏い影がさしたままだ。
「マテリアライズっ」
その顔に畏怖を感じたナオも慌ててローブを着用する。
「ここではまずいと思いますが」
「そうねー。 ちょっとマズいわねー」
身の危険を感じローブを纏った二人が勝手なことを口にする。
「…そうどすなぁ…ここではナツキに迷惑がかかるかもしれまへんなぁ…。 …ほな…場所変えましょかぁ…」
言うやシズルが手に持った薙刀を振る。
ガズッ、という音とともに壁が崩れ去り、シズルが外へ出る。 唖然とする三人。
「あー…。 これは本当にマズいわねー。 なんか完全にスイッチ入っちゃってるじゃない」
「私、学園長を呼んできます。 それまでマーヤお姉さまお願いします」
壁に開いた穴から声が飛んでくる。
「…さあ…指導の時間どすえ…」
「う、うわっ!?」
声と同時に飛んできたシズルの蛇腹剣にナオが引きずりだされる。
「あたしじゃ無理だから、はやく頼むわねー」
「はい」
「ちょっとあんた…本気?」
先頃の混乱期の反省から、オトメはまだ各国にいるものの、基本的にオトメの軍事行為は厳禁になっている。
「…これは後進の指導ですから…」
「…そう…なら、あたしも手加減しないよっ」
「あの自信はどこからくるのかなー。 無駄だっての。 …それにしても嬌嫣の紫水晶がああも簡単にキレちゃうとはなー」
ナオが構え直す、と同時にシズルが動く。 右手の薙刀を水平に構えたかと思うと、薙ぐかのようにナオの右手方向へと高速で飛ぶ。
「くっ!?」
あわてて爪を振り回し、糸を繰り薙刀の刃を絡ませて止める。 しかし、シズルは刃を止められるや蛇腹に伸ばしナオを振り飛ばす。
「うあっ!」
糸を伸ばし近くの木に絡ませ体勢を立て直す。 そこにシズルの蛇腹剣が飛んでくる。
「そう何度も食らわないってのっ」
蛇腹の伸びた部分を糸で絡み取る。 そしてお互い力を出して動きが取れなくなる。
「くくく…」
「…」
無表情でシズルは片手で堪え、空いた手を懐へと伸ばす。
「ちょ、ちょっとっ! マズいって、嬌嫣の紫水晶っ。 それは本当にマズいってのっ!」
様子を伺ってたマーヤが飛び出しシズルの手を掴む。 ゆっくりとシズルがマーヤを見る。
「…」
「落ち着きなさいっての。 それやっちゃったら学園長も本当に困るわよっ」
「っ!」
シズルの動きが止まる。
「何をしているっ!」
ちょうどその時ナツキの声が飛んできた。
「いったいどういうことだ?」
四人を前にしてナツキが厳しい表情で問う。
「ちょーっと、新任の指導が行き過ぎちゃってねー」
「…何が指導だっての。 殺る気全開だったじゃないのっ」
「あー、あんたはちょっと黙ってて」
マーヤがナオを押しやり、サラが合わせて引っ張る。
「ちょっとっ。 何すんのっ、あんたらっ!」
「シズル、どういうことだっ?」
「ナツキ…」
肩を落とし、シズルは俯き加減にナツキを許しを乞うように見る。 その様子を見ながらマーヤがナツキに向かって言う。
「あー…、学園長。 嬌嫣の紫水晶の事情聴取はそっちでやってもらえるー? こっちで破絃の尖晶石についてはやるから」
「しかし…」
「一緒にやっててまた揉めたら意味ないでしょー。 基本、謹慎の方向で片つけといて。 つまり、この企画から嬌嫣の紫水晶を外して」
「それは…」
「こっちでなんとかするからさ。 そっちはなんとかお願いねん♪」
ため息をついてマーヤを見る。
「おもしろがって見てたんですね、『怜踊の蛍石』ともあろう方が。 どうしてあなたはそう…」
「だから悪かったってぇん。 だからそっちはよろしく」
「…仕方ないですね…」
「ちょっと。 あたしは納得できないんだけど」
ナツキに連れられシズルが去った後、マーヤとサラを睨んでナオが言う。
「あんたねぇ…。 嬌嫣の紫水晶の前で学園長に絡むんじゃないわよ、ここの生徒でしょうが」
「調べによると、この子は学園長としばらく一緒に動いていたらしいですわね。 学園長とエアリーズまで行き、その後カルデア、黒い谷を経て、ヴィントブルームに帰還」
「はぁん。 それで学園長にあーゆー態度がとれるわけか」
「元々の性格もあるでしょうけど」
「それがなんだってのよ」
自分の言葉を無視された上に目の前で自分について話されているのは気分がよくない。 不機嫌にナオが口を出す。
「で、嬌嫣の紫水晶はそれも気に入らないわけね」
「おそらく」
「ちょっとっ。 無視してんじゃないよっ」
「うるさいわねぇ。 あんたはあたしに貸しがあるんだから、黙ってなっての」
ひらひら手を振ってマーヤはナオの方すら見ずに返事をする。
「はあ? あたしが、いつあんたに貸しを作ったっての?」
「さっきよ。 あんた、あたしが嬌嫣の紫水晶止めなかったら死んでるわよ」
「あん? 別にそこまで追い詰められてなかったわよ」
「バカねぇ…。 あの時嬌嫣の紫水晶はスレイブ召還しようとしたのよ? どうやったら対処できんのよ」
「な、なんでスレイブなんか召還できんのよっ」
「アスワドにでも貰ったんじゃない? それに召還しなくても嬌嫣の紫水晶には勝てないわよ」
「…そこまで大事になってたんですか?」
呆れたようにサラが言う。 マーヤはため息をつきながら頷く。
「ま、最初の一手から殺る気だったからねぇ…。 これは当分あの二人はここに呼ばないことにするしかないわねー」
「…仕方ないですね…」
と、サラは何か考えついたかのように笑みを浮かべる。
「では代わりを用意しましょう。 少し連絡してきます」
そう言って部屋を出て行く。
「よく理解できないんだけど」
「まあつまり、あたしら三人でこれやらなきゃいけなくなったから、銀河の藍玉が学園長と嬌嫣の紫水晶の代わりになるのを呼ぶってさ」
「なんで三人でやんの。 あいつらにだってやる義務があんでしょっ」
「あんた嬌嫣の紫水晶に目ぇつけられといて、よくまだそんな口きけるわねー。 生憎あたしはそんな修羅場にいたくないんで却下」
「…」
「マーヤお姉さま、何か連絡が来てますよ」
「んー?」
戻ってきたサラがマーヤに手紙を渡す。 それを受け取り見ている内に、サラが目を見開く。
「ごっめーん。 あたし一旦帰るわー」
「は?」
「うん、すぐ戻るからー。 後よろしくー」
言うやいなやマーヤが出て行く。
「ちょっと待ちなよ、あんたっ。 あんたも止めなくていいの!?」
ナオがサラに問うもサラは動じずあっさりと答える。
「マーヤお姉さまは人の言うこと聞きませんから。 それにだいたい理由はわかりますし」
「何だっての」
「今マーヤお姉さまはカルデアに駐留しているらしいんですが、そこでオトメの監視をしているらしくて」
「あ、あー…アカネか…」
少し前に久しぶりに会ったアカネの様子が思い出される。
てっきり男と逃げ切ったと思っていたが、いまだオトメであった彼女。 あの微笑みをたやさなかった彼女は存外荒んでいた。
「ここに来る際に影武者を置いてきた、とさっき言ってましたから、それがバレたのでしょう」
「…アカネ苦労してんのね」
「…」
「今日が放送日というわけですけど…」
「あたしとあんたの二人でどうすんのよ」
シズルが壊した壁の修復は済んだものの、人は減ったまま当日を迎えてしまった。
「おかしいわね…。 私の方は来るはずなんだけど」
サラが呟くと同時にこの施設のスタッフが飛び込んでくる。
「『銀河の藍玉』サラ・ギャラガー様、エアリーズより使者がいらっしゃってます」
「ああ、来たようね。 ここに通してください」
「はっ」
「何?」
「五柱の代理を呼んだのよ」
「…」
「…チエじゃない、何やってんの?」
入ってきたのはナオの学生時代同級であったチエ・ハラードであった。
「ええ…、エアリーズ共和国ユキノ・クリサント大統領のお言葉を。 『銀河の藍玉のご意向ですが、現状アーミテージ准将には外交及び国防の任があり、そのような大役は務まりかねます。 代理としてチエ・ハラード少尉が受けさせていただきます』」
「はあ? チエ、あんたもたいへんねー…」
「…私、ハルカお姉さまに直接連絡したのですけど?」
「つまり、勢い込んで出て行こうとしたアーミテージ准将をユキノ大統領が発見し、事の次第を聞いてこうなったと」
淡々と答えるチエ。 サラの目が妖しく光る。
「随分と勝手なことされますね、大統領閣下も。 これは公的命令のつもりでしたが。 そもそも現在の状況で国防のためとは…」
「まあ、連合会議になっても勝てる目算はありそうですが」
「…すでに手を打ってますか。 さすがに一筋縄ではいかない方ですね。 いいでしょう、直接話します」
「って、ちょっとあんたっ」
ナオの声を無視してサラが出て行く。 後にはナオとチエだけが残る。
「どうなってんのこれ…」
「ま、いろいろ、ね。 アーミテージ准将は人気者だから。 それよりシズルお姉さまとやりあったんだって? 無茶するね、君は」
「…そんなつもりじゃなかったけどさ、なりゆきよ。 …で、何。 あんたやるの?」
「一応国家命令だしね。 ま、仕方ないさ。 むしろ渡りに舟だったかな?」
「はあ? 何が楽しくてこんなのやんのよ?」
呆れた顔でチエを見てナオが言う。
「いや、別にこれがやりたいわけではないけど。 ヴィントブルームに来るのは嫌じゃなかったんでね」
「どうしてよ」
「かわいい後輩達に会いたかったしね」
そう言って昔のようにどこからか取り出した青い薔薇をナオに差し出してウインクする。
「はっ。 相変わらずお盛んね」
差し出された薔薇を軽く払ってナオはそっぽを向く。 払われたチエは機嫌を悪くするでもなく笑い、窓の外に見えるヴィントブルーム城を見つめる。
「すいません。 『破絃の尖晶石』ジュリエット・ナオ・チャン様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様の使いがいらっしゃってますが」
「はあ?」
「おやおや、アカネもかわいそうに」
哀れむようにチエが言うと同時に『清恋の孔雀石』アカネ・ソワールがむくれ顔で部屋に入ってくる。
「…」
「アカネじゃない。 どうしたの?」
「聞くのは野暮ってもんだよ、ナオ。 建前上は『怜踊の蛍石』様に都合ができたので代理で使わされたって所…ま、つまりは私と同じようなものかな。 アカネは正式に五柱代理ではあるけど」
「…で、本音は面倒だし邪魔も出来て、一石二鳥ってとこ? 大したタマね、あの人も」
「まあ、マーヤお姉さまはああいう人だから。 とは言え、本当になんらかの事情が出来たのも事実だろうね。 仮にも五柱がそれだけで職務放棄は出来ないだろうから」
黙って立っていたアカネだったが、ぶるぶる震えたかと思うと叫んだ。
「私が何したって言うのよーっ。 もうなんでーっ!」
「したじゃない、あんた」
「うん…しょうがないんじゃないかな」
「何がしょうがないのよーっ。 うう…カズくん…」
今度は座り込んでしまう。
「なーにー? アカネってばそんなにエッチしたかったのー?」
笑いながらナオが言うとアカネは顔を赤くして手を振りながら言い訳する。
「ち、違うわよっ! わ、私はただ、カズくんと…」
「したかったんだよね」
「うう…」
チエの身もふたも無い一言にアカネは俯く。
「アカネ・ソワール様、『怜踊の蛍石』マーヤ・ブライス様よりメッセージが届いてます」
「へ?」
アカネが顔を上げて、スタッフから手紙を受け取る。 開いて目を通す。
「…」
アカネの肩が震え出す。 その背中越しに二人が覗き込む。
「なになに…。 『ちゃーんとあたしの代わりを務めないとカズくんにハーレム勧めちゃうわよー♪』」
「『そういうわけでよろしくー♪ 同級生の『破絃の尖晶石』と仲良くがんばってねー』か…」
アカネは肩を震わせたまま俯いていて表情は見えない。
「本当性格悪いわねー」
「…そうだね。 アカネもたいへんだな…」
「あのー…。 もう時間なのですが…」
困った顔でスタッフが声かける。 ナオとチエが顔を見合わせる。
「えっと…私はまだ何をするか具体的にわかってないんだけど。 だいたいはわかってるけど、何を話すかは…」
「それよりアカネが使い物になんないんだけど」
「でも実際時間ぎりぎりなんです。 世界的に今日の放送は注目を集めていますから、中止や延期はできないんですけど…」
「とりあえず資料をくれるかい? なんとかやってみるよ」
やれやれといった感じではあるがチエが姿勢を正してスタッフに指示する。 切り替えの速さは昔と変わらない、いやむしろ昔以上かもしれない。
「あ、あたしが持ってるわ。 はい。 …結局五柱はあたし一人じゃない」
「それじゃ、メインはナオに任せるよ。 精一杯フォローはさせてもらうからさ」
「はあ…。 とんだ貧乏くじよ。 五柱に指名されてからこっち、碌な目にあってないわ」
「ぼやかないぼやかない。 ほらアカネも。 いい加減あきらめて手伝って」
「…」
ゆっくりとアカネが立ち上がる。
「それでは放送開始しますっ」
スタッフがそう言い合図を送る。 それを見てうんざりした顔でナオがマイクに向かって口を開く。
「えー…。 では、ガルデローベ学園より全国へ…」
「何がハーレムよーっ! ふざけないでよーっ!!」
記念すべき第一回放送を飾ったのはアカネの大絶叫であった。
後日計画は見直しが決定され、いまだ再開のめどは立っていない。
(終)
註・すいません、シズルの方言間違ってるかもしれません。 あしからず。
「エレンディア、またゲーム?」
「いやあのね、強くなって少し楽しくなってきちゃって…」
「まあまあアイリーン。 そんなこと言ったって私らだってゲームなんだからさ」
「そ、それはそうですけどっ」
「そうだよ。 そんな目くじら立てないでよ」
「でもエレンディアはやりすぎ」
「…」
「今弓使いなんだけどさ」
「それがどうかした? 別のゲームの話をされても私たちにはわからないし関係ないわよ」
「いや私考えてみるとバイアシオンで弓を使った覚えがないなーって思ったんだよね」
「ふーん。 そうなの?」
「ああレルラ=ロントンが一緒だからかしら」
「…」
「一緒じゃないみたいよ、アイリーン」
「それならオイフェかしら」
「………」
「…やっぱり違うみたいね」
「いやだって大抵ハイグライドもロングショットも習得するじゃない?」
「うん、そうだね」
「そうすると弓の意味ってない気もして…。 それに弓の強い武器って手に入るのがかなり後の方だし」
「まあ武器は好みの問題だから。 あたしは鎌だし」
「私はオッシ先生仕込みの剣ね」
「私は斧」
「…」
「…」
「なによっ、好みでしょっ。 いいじゃないのっ」
「あー、まー、うん、そうだね」
「そ、そうね。 いいんじゃない?」
「…なんか気に入らない返事ね」
「それにさ、なんかスタート次第で武器って決まっちゃう感じしない?」
「? 言ってる意味がわからないんだけど」
「ほら王城とか黄金畑だと剣に決定かな? とかさ」
「そう? 気にすることないんじゃない?」
「じゃあアイリーンは彼氏が弓でもいいの?」
「あ、あいつは彼氏なんかじゃっ」
「ほらほらアイリーン。 すぐ乗せられないの。 そんなこと言ってたら全て剣じゃない?」
「そんなことないわよ。 旅先とかだったら比較的自由かな」
「ミイスは?」
「あ、あれなら弓でもいいかな。 セラがいるから」
「田舎町なら?」
「…」
「どうかした?」
「…エレンディアは僕らと一緒に旅って1回しかやってないんだよね」
「そうなんだ? どうして?」
「…だって男の子限定だし。 それにその…」
「エレンディアは僕が嫌いなんだよ」
「ち、違うわよっ。 そうじゃないけどっ」
「だったらどうしてっ」
「コーンスの角って高く売れるんだってねー」
「本当っ!?」
「エレンディアっ!」
「…ごめんなさい」
「まあスタート格差はあるよね」
「そうかもね」
「私アトレイアが好きだから、旅先が一番多いのよね」
「別に旅先じゃなくてもいいんじゃないの?」
「あと黄金畑とか」
「…無視のようですね」
「黄金畑は不便だったりもしない?」
「お義兄さまが素敵だったりもするけど、ついアトレイアがほっとけなくて、いまだに吸血シーン見てないのよね」
「…無視なわけだ」
「だからいつも悩むのよね。 青竜軍にも入りたいけど、そうしたらお義兄さまがっ、って」
「でもあまりレムオンを連れてる所も見たことないわよね? アイリーン」
「そう言えばそうですね」
「いつもザギヴとエステルがいるわよね。 あと一人がいろいろで」
「ザギヴのセクシーさとエステルのラブリーさがわからないの?」
「あら、セクシーなら負けてないわよ」
「あのカルラ様、くだらないことで張り合うのは…」
「ここは譲れないのよっ」
「お義兄さまはあのままで一緒に旅したかったのよね。 エステルみたいに選択させて欲しかった…」
「別に変わらないじゃない」
「全然違うでしょっ!」
「そんなムキにならなくても…」
「ここは譲れないのよっ」
「…ちょっと真似しないでくれる?」
「…なんか中身のない話ね」
「いやたまにはゲーム語りっぽいのもいいかなって」
「なってるかしら?」
「それじゃ久しぶりにアトレイアに会いに行ってくるわねっ」
「…やっぱり僕には会いに来てくれないんだね……」
(終)
「いやあのね、強くなって少し楽しくなってきちゃって…」
「まあまあアイリーン。 そんなこと言ったって私らだってゲームなんだからさ」
「そ、それはそうですけどっ」
「そうだよ。 そんな目くじら立てないでよ」
「でもエレンディアはやりすぎ」
「…」
「今弓使いなんだけどさ」
「それがどうかした? 別のゲームの話をされても私たちにはわからないし関係ないわよ」
「いや私考えてみるとバイアシオンで弓を使った覚えがないなーって思ったんだよね」
「ふーん。 そうなの?」
「ああレルラ=ロントンが一緒だからかしら」
「…」
「一緒じゃないみたいよ、アイリーン」
「それならオイフェかしら」
「………」
「…やっぱり違うみたいね」
「いやだって大抵ハイグライドもロングショットも習得するじゃない?」
「うん、そうだね」
「そうすると弓の意味ってない気もして…。 それに弓の強い武器って手に入るのがかなり後の方だし」
「まあ武器は好みの問題だから。 あたしは鎌だし」
「私はオッシ先生仕込みの剣ね」
「私は斧」
「…」
「…」
「なによっ、好みでしょっ。 いいじゃないのっ」
「あー、まー、うん、そうだね」
「そ、そうね。 いいんじゃない?」
「…なんか気に入らない返事ね」
「それにさ、なんかスタート次第で武器って決まっちゃう感じしない?」
「? 言ってる意味がわからないんだけど」
「ほら王城とか黄金畑だと剣に決定かな? とかさ」
「そう? 気にすることないんじゃない?」
「じゃあアイリーンは彼氏が弓でもいいの?」
「あ、あいつは彼氏なんかじゃっ」
「ほらほらアイリーン。 すぐ乗せられないの。 そんなこと言ってたら全て剣じゃない?」
「そんなことないわよ。 旅先とかだったら比較的自由かな」
「ミイスは?」
「あ、あれなら弓でもいいかな。 セラがいるから」
「田舎町なら?」
「…」
「どうかした?」
「…エレンディアは僕らと一緒に旅って1回しかやってないんだよね」
「そうなんだ? どうして?」
「…だって男の子限定だし。 それにその…」
「エレンディアは僕が嫌いなんだよ」
「ち、違うわよっ。 そうじゃないけどっ」
「だったらどうしてっ」
「コーンスの角って高く売れるんだってねー」
「本当っ!?」
「エレンディアっ!」
「…ごめんなさい」
「まあスタート格差はあるよね」
「そうかもね」
「私アトレイアが好きだから、旅先が一番多いのよね」
「別に旅先じゃなくてもいいんじゃないの?」
「あと黄金畑とか」
「…無視のようですね」
「黄金畑は不便だったりもしない?」
「お義兄さまが素敵だったりもするけど、ついアトレイアがほっとけなくて、いまだに吸血シーン見てないのよね」
「…無視なわけだ」
「だからいつも悩むのよね。 青竜軍にも入りたいけど、そうしたらお義兄さまがっ、って」
「でもあまりレムオンを連れてる所も見たことないわよね? アイリーン」
「そう言えばそうですね」
「いつもザギヴとエステルがいるわよね。 あと一人がいろいろで」
「ザギヴのセクシーさとエステルのラブリーさがわからないの?」
「あら、セクシーなら負けてないわよ」
「あのカルラ様、くだらないことで張り合うのは…」
「ここは譲れないのよっ」
「お義兄さまはあのままで一緒に旅したかったのよね。 エステルみたいに選択させて欲しかった…」
「別に変わらないじゃない」
「全然違うでしょっ!」
「そんなムキにならなくても…」
「ここは譲れないのよっ」
「…ちょっと真似しないでくれる?」
「…なんか中身のない話ね」
「いやたまにはゲーム語りっぽいのもいいかなって」
「なってるかしら?」
「それじゃ久しぶりにアトレイアに会いに行ってくるわねっ」
「…やっぱり僕には会いに来てくれないんだね……」
(終)
揺れる車内。
ガタンゴトンと線路の音が聞こえるとつい外を見てしまう。
あの赤い風景がそこに見えるような気がして…
「どしたん? はとちゃん。 なんかあった?」
「ううん、なんでもないよ、陽子ちゃん」
でも今いる電車はあの時とは全然違う、周りには多くのお客さんがいて人の息吹がある。 それに時間帯も違う。 まだ日は高い。
今わたしは陽子ちゃんと街へお買い物へと向かう電車の中。
「もうすぐ夏だよねー」
そう言って陽子ちゃんは手でひらひらと扇ぐ。 車内なのでそんな暑くはないけど、気持ち的なものなのかもしれない。
「そうだね、最近少し暑くなってきたもんね」
「こりゃーあれよ。 地球温暖化ってやつよね。 はとちゃんもエコロジーしなきゃダメよー?」
「わたしは普段からエコロジーには気をつけてるよ?」
冷暖房は控えめ、電気水道も控えめに。 ついでに車内なので携帯電話はマナーモード。
「ふっ」
「陽子ちゃん、何かな? その『あんたはやっぱり甘ちゃんね』みたいな笑いは何かな?」
「あんたはやっぱり甘ちゃんね」
「わ。 陽子ちゃんやっぱりひねりなし」
以前にもした掛け合いだけど、陽子ちゃんの態度はやっぱり変わっていなかった。
「と言うか、そこでそういうこと言われるのがわからないんだけど?」
「はとちゃんみたいなおボケの気をつけてるなんてたかがしれてる、って言いたいのよ」
それは冤罪に当たりませんか?
「そういう先入観で勝手に人を決め付けるのはよくないよ、陽子ちゃん」
「でもあながち間違っていないのではなくて?」
不意に肩口から声がかかる。
「そんなことないよっ。 わたしはちゃんと気をつけてるよっ」
「どしたん、はとちゃん? 私何も言ってないんですけど?」
「全く。 本当桂は私に恥をかかせるのね。 しっかりしなさいな」
「うう…」
肩口からかかった声の主はノゾミちゃん。 ふわふわと宙に浮いている。 とは言え風船とかではなくて、その正体はなんと『鬼』なのである。
去年の夏にいろいろあって、今はわたしの携帯のストラップに『憑いている』のである。
それはいいのだけれども、いろいろ口うるさく、わたしの都合お構いなしなのはいかがなものかと。
「(ノ、ノゾミちゃんっ。 声かけるなら鈴を鳴らしてって言ったでしょ?)」
「鳴らしたわよ? 桂が気づかなかっただけではなくて?」
ちなみにノゾミちゃんは鬼なだけあって、普通の人には姿は見えず声も聞こえないらしい。 でもそれってつまりわたしがおかしな独り言を言ってるように見えるということなのです。
「(だって鳴ってないよ?)」
「そんなの知らないわよ。 私はちゃんと鳴らしたわ、桂がぼんやりしてるからいけないのよ」
「はとちゃん、何ぶつぶつ言ってるの? なんか電波来ちゃった?」
陽子ちゃん、確かに放っておいて悪いとは思うんだけど、それってひどくないですか?
「でんぱって何かしら?」
「(…説明したくないです)」
「はとちゃん」
「何かな、陽子ちゃん」
急に真面目な顔をして陽子ちゃんがわたしを見る。
「ママさんがいなくなってつらいのはわかるけど、電波を受け取るようになっちゃダメよっ。 つらいことがあるならなんでも相談してくれていいからっ」
「…」
「もちろん私じゃ大して役には立たないかもしれないけど、それでも私たち友達じゃないっ」
言ってることは嬉しいけど、感謝できないのはなぜなんでしょうか。
「陽子ちゃん、こんな人もいっぱいいる所で電波とか言うのってひどくない?」
「でんぱというのは悪いものなの?」
「そうじゃないけど、この場合は悪い意味で言われてるんだよ」
って、うっかりそのままノゾミちゃんに言葉を返してしまった。
「はとちゃんっ、しっかりしてっ!」
そう言うと陽子ちゃんがわたしの肩を持って揺さぶる。
「よ、陽子ちゃんっ。 大丈夫だからやめてやめて」
首が前後に揺らされてくらくらする。
「桂、どうかしたの?」
「(ノゾミちゃんのせいでしょーっ)」
「私が何をしたと言うの? 桂が気をつけてないのがいけないではなくて?」
「そうだけど、わかってるんだったらもうちょっと気をつかってよーっ」
「はとちゃーんっ。 帰ってきてーっ」
結局車内でプチ騒ぎを起こし恥ずかしくていたたまれなくなったので、お買い物を中止して帰ることにしました。
「本当大丈夫? はとちゃん」
「大丈夫だよ、陽子ちゃん。 と言うか誤解だから本当に」
「誤解なのかしら?」
「誤解だよっ!」
…あ。
「…はとちゃん」
「…えっと、今日は調子が悪いので帰るよ。 明日は大丈夫だって本当心配かけてごめんね、陽子ちゃん」
「全く仕様がない子ね、桂は」
「…」
友達にいらない誤解を与えた、そんな悲しい一日でした。
一人になった帰り道、
「それで、でんぱって何かしら?」
「…説明したくないです」
(終)
ガタンゴトンと線路の音が聞こえるとつい外を見てしまう。
あの赤い風景がそこに見えるような気がして…
「どしたん? はとちゃん。 なんかあった?」
「ううん、なんでもないよ、陽子ちゃん」
でも今いる電車はあの時とは全然違う、周りには多くのお客さんがいて人の息吹がある。 それに時間帯も違う。 まだ日は高い。
今わたしは陽子ちゃんと街へお買い物へと向かう電車の中。
「もうすぐ夏だよねー」
そう言って陽子ちゃんは手でひらひらと扇ぐ。 車内なのでそんな暑くはないけど、気持ち的なものなのかもしれない。
「そうだね、最近少し暑くなってきたもんね」
「こりゃーあれよ。 地球温暖化ってやつよね。 はとちゃんもエコロジーしなきゃダメよー?」
「わたしは普段からエコロジーには気をつけてるよ?」
冷暖房は控えめ、電気水道も控えめに。 ついでに車内なので携帯電話はマナーモード。
「ふっ」
「陽子ちゃん、何かな? その『あんたはやっぱり甘ちゃんね』みたいな笑いは何かな?」
「あんたはやっぱり甘ちゃんね」
「わ。 陽子ちゃんやっぱりひねりなし」
以前にもした掛け合いだけど、陽子ちゃんの態度はやっぱり変わっていなかった。
「と言うか、そこでそういうこと言われるのがわからないんだけど?」
「はとちゃんみたいなおボケの気をつけてるなんてたかがしれてる、って言いたいのよ」
それは冤罪に当たりませんか?
「そういう先入観で勝手に人を決め付けるのはよくないよ、陽子ちゃん」
「でもあながち間違っていないのではなくて?」
不意に肩口から声がかかる。
「そんなことないよっ。 わたしはちゃんと気をつけてるよっ」
「どしたん、はとちゃん? 私何も言ってないんですけど?」
「全く。 本当桂は私に恥をかかせるのね。 しっかりしなさいな」
「うう…」
肩口からかかった声の主はノゾミちゃん。 ふわふわと宙に浮いている。 とは言え風船とかではなくて、その正体はなんと『鬼』なのである。
去年の夏にいろいろあって、今はわたしの携帯のストラップに『憑いている』のである。
それはいいのだけれども、いろいろ口うるさく、わたしの都合お構いなしなのはいかがなものかと。
「(ノ、ノゾミちゃんっ。 声かけるなら鈴を鳴らしてって言ったでしょ?)」
「鳴らしたわよ? 桂が気づかなかっただけではなくて?」
ちなみにノゾミちゃんは鬼なだけあって、普通の人には姿は見えず声も聞こえないらしい。 でもそれってつまりわたしがおかしな独り言を言ってるように見えるということなのです。
「(だって鳴ってないよ?)」
「そんなの知らないわよ。 私はちゃんと鳴らしたわ、桂がぼんやりしてるからいけないのよ」
「はとちゃん、何ぶつぶつ言ってるの? なんか電波来ちゃった?」
陽子ちゃん、確かに放っておいて悪いとは思うんだけど、それってひどくないですか?
「でんぱって何かしら?」
「(…説明したくないです)」
「はとちゃん」
「何かな、陽子ちゃん」
急に真面目な顔をして陽子ちゃんがわたしを見る。
「ママさんがいなくなってつらいのはわかるけど、電波を受け取るようになっちゃダメよっ。 つらいことがあるならなんでも相談してくれていいからっ」
「…」
「もちろん私じゃ大して役には立たないかもしれないけど、それでも私たち友達じゃないっ」
言ってることは嬉しいけど、感謝できないのはなぜなんでしょうか。
「陽子ちゃん、こんな人もいっぱいいる所で電波とか言うのってひどくない?」
「でんぱというのは悪いものなの?」
「そうじゃないけど、この場合は悪い意味で言われてるんだよ」
って、うっかりそのままノゾミちゃんに言葉を返してしまった。
「はとちゃんっ、しっかりしてっ!」
そう言うと陽子ちゃんがわたしの肩を持って揺さぶる。
「よ、陽子ちゃんっ。 大丈夫だからやめてやめて」
首が前後に揺らされてくらくらする。
「桂、どうかしたの?」
「(ノゾミちゃんのせいでしょーっ)」
「私が何をしたと言うの? 桂が気をつけてないのがいけないではなくて?」
「そうだけど、わかってるんだったらもうちょっと気をつかってよーっ」
「はとちゃーんっ。 帰ってきてーっ」
結局車内でプチ騒ぎを起こし恥ずかしくていたたまれなくなったので、お買い物を中止して帰ることにしました。
「本当大丈夫? はとちゃん」
「大丈夫だよ、陽子ちゃん。 と言うか誤解だから本当に」
「誤解なのかしら?」
「誤解だよっ!」
…あ。
「…はとちゃん」
「…えっと、今日は調子が悪いので帰るよ。 明日は大丈夫だって本当心配かけてごめんね、陽子ちゃん」
「全く仕様がない子ね、桂は」
「…」
友達にいらない誤解を与えた、そんな悲しい一日でした。
一人になった帰り道、
「それで、でんぱって何かしら?」
「…説明したくないです」
(終)
「なんか急に気温が上がった感じがするわねー」
「そうですね、エレンディアさん」
「…」
「どうかしましたか?」
「ノエル、プレートアーマーは蒸れない?」
「えっ…その、少しつらいですけど」
「どうするの?」
「よく水浴びしてますから大丈夫ですよ」
「…」
「何かまだ?」
「レイヴンはどうしてるのかなって…」
「周囲を見張っててくれてますけど?」
「いや見張りがむしろ…」
「そんなことはしないっ!」
「うわっ」
「あ、レイヴン」
「やあノエル。 ちゃんと付き合う人間は選ぶべきだと前から言ってるじゃないか」
「…それどういう意味?」
「そっくりそのままお返ししたいね」
「ふ、二人とも落ち着いて…」
「私はノエルの身の安全のために言ってるのよ。 どこに狼さんがいるかはわからないものねー」
「僕もノエルのために言ってあげているのさ。 勝手な憶測で人を覗きよばわりするような友達はどうかとね」
「さあどうかしら?」
「一緒に旅もしてないくせに何をわかったような口の聞き方をしてるんだい、エレンディア。 君はそんな人間だとは思わなかったよ」
「じゃあ言わせてもらうけど、なんで今の話を聞いてたのよ?」
「そ、それはレイヴンは周囲に気を配っているからで…」
「ノエル、あなたは優しいのね。 でもね女同士の話に聞き耳をたてるなんてどうかと思った方がいいわよ?」
「え、えっと…」
「さあレイヴン? …って、いないっ!?」
「レ、レイヴンは今日は来てませんよっ、エレンディアさんっ」
「…」
「エレンディアさん、何言ってるんですか?」
「…いいリーダーね、ノエル」
「…」
「でも私暑いのは結構平気なんですよ」
「話を変えたわね」
「そ、そんなことないですよ。 今日のエレンディアさん変ですよっ?」
「でも水浴びするにも竜骨の砂漠みたいな場所だとどうにもならないでしょ?」
「あ、でもあそこの奥に地下水脈があってそこで水浴びをしたらいいってレイヴンが」
「ほほー、水場へと誘うのね。 レイヴンが」
「違うっ!!」
「ダメっ、レイヴンっ」
「あらー、いるじゃないレイヴンー」
「…ノエル、本当に付き合う人間は選んだ方がいい」
「でもエレンディアさんいつもはこんなこと言わないんだけど…」
「エレンディアさっき間違ってデータの上書きしちゃったのー」
「…」
「…」
「…ルルアンタ、ちょっとこっちに来なさい」
「エレンディア、目が怖いの」
「いいから来なさいっ」
「うっぷん晴らしに絡まれたと言うわけか…」
「そうみたいですね…」
「エレンディアが自分でやったことなのーっ」
「本当のことだから腹が立つってわかりなさいっ!」
(終)
註・レイヴン好きな人ごめんなさい。
「そうですね、エレンディアさん」
「…」
「どうかしましたか?」
「ノエル、プレートアーマーは蒸れない?」
「えっ…その、少しつらいですけど」
「どうするの?」
「よく水浴びしてますから大丈夫ですよ」
「…」
「何かまだ?」
「レイヴンはどうしてるのかなって…」
「周囲を見張っててくれてますけど?」
「いや見張りがむしろ…」
「そんなことはしないっ!」
「うわっ」
「あ、レイヴン」
「やあノエル。 ちゃんと付き合う人間は選ぶべきだと前から言ってるじゃないか」
「…それどういう意味?」
「そっくりそのままお返ししたいね」
「ふ、二人とも落ち着いて…」
「私はノエルの身の安全のために言ってるのよ。 どこに狼さんがいるかはわからないものねー」
「僕もノエルのために言ってあげているのさ。 勝手な憶測で人を覗きよばわりするような友達はどうかとね」
「さあどうかしら?」
「一緒に旅もしてないくせに何をわかったような口の聞き方をしてるんだい、エレンディア。 君はそんな人間だとは思わなかったよ」
「じゃあ言わせてもらうけど、なんで今の話を聞いてたのよ?」
「そ、それはレイヴンは周囲に気を配っているからで…」
「ノエル、あなたは優しいのね。 でもね女同士の話に聞き耳をたてるなんてどうかと思った方がいいわよ?」
「え、えっと…」
「さあレイヴン? …って、いないっ!?」
「レ、レイヴンは今日は来てませんよっ、エレンディアさんっ」
「…」
「エレンディアさん、何言ってるんですか?」
「…いいリーダーね、ノエル」
「…」
「でも私暑いのは結構平気なんですよ」
「話を変えたわね」
「そ、そんなことないですよ。 今日のエレンディアさん変ですよっ?」
「でも水浴びするにも竜骨の砂漠みたいな場所だとどうにもならないでしょ?」
「あ、でもあそこの奥に地下水脈があってそこで水浴びをしたらいいってレイヴンが」
「ほほー、水場へと誘うのね。 レイヴンが」
「違うっ!!」
「ダメっ、レイヴンっ」
「あらー、いるじゃないレイヴンー」
「…ノエル、本当に付き合う人間は選んだ方がいい」
「でもエレンディアさんいつもはこんなこと言わないんだけど…」
「エレンディアさっき間違ってデータの上書きしちゃったのー」
「…」
「…」
「…ルルアンタ、ちょっとこっちに来なさい」
「エレンディア、目が怖いの」
「いいから来なさいっ」
「うっぷん晴らしに絡まれたと言うわけか…」
「そうみたいですね…」
「エレンディアが自分でやったことなのーっ」
「本当のことだから腹が立つってわかりなさいっ!」
(終)
註・レイヴン好きな人ごめんなさい。
「………さんっ」
「…」
「…おねーさんっ」
「…」
「桂おねーさんっ!」
「わっ、つ、葛ちゃんっ。 突然大きな声で呼ばないでよ。 凄いびっくりしたんだよ?」
「さっきから何度も呼びましたよ?」
「あれ?」
「先日アイデアが出ないとか言いながらもPCに向かってるからお邪魔しないようにと思っていたのですが…」
「うん」
「…おねーさんゲームしてるだけじゃないですか」
「そ、そんなことないよ?」
「いろいろお忙しいとは思いますけど、ちゃんと続けるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「でもゲームばかりしてるじゃないですか。 書かないとダメですようー」
「うん、わかってるんだけど、アイデアがなかなか…。 それで気晴らしに少しやってるだけだよ」
「あら、いつも熱心にやっているのではなくて?」
「そうなんですか?」
「ええ、考えてる様子なんてなくってよ」
「ノ、ノゾミちゃんっ。 しーっ」
「…おねーさん」
「話すお友達ができたとか言って、私とも満足に話していないわ」
「え、えっと、それは…」
「観月の娘や鬼切りの娘が来た時も同じだったわね」
「ノゾミちゃん。 しーっ、しーっ」
「おねーさんっ」
「うう、ごめんなさい…」
「全く困ったものですねー」
「で、でもっ。 なんかもうすぐ終わるってうわさもあるから、それまでだよ」
「もうすぐっていつ頃なんですか?」
「来年って言ってたわね」
「ノゾミちゃんっ。 しーっ」
「おねーさんっ!」
「ううう、ごめんなさい…」
「仕方ないですねー。 とりあえずサバイバーの残りでも出したらいかがですか?」
「えっと、それが…」
「どうかしましたか?」
「どれがどの団体の話かわからないそうよ。 タイトルも覚えていないみたいね」
「…」
「…どういう管理をしてるんですか、おねーさんは?」
「でも一応かなり遅いペースだけど一本書いてるから…月末には書ける、かな?」
「無理じゃないの? 一日一行程度じゃないの」
「それに月末まで更新なしなんですか?」
「…。 えっと戯言だけでもがんばりたいと思います…」
「もうそんなこといいわ。 私がいるのだからちゃんと私と話しなさいな」
「そうですねー。 鬼と話すのはともかくとして、もっとわたしと外に出るようにしましょう、おねーさん」
「あら、幾ばくも生きてない小娘の分際で私をないがしろにするつもり?」
「これでも鬼切りの頭を務めていますので、鬼との交流は歓迎しかねますねー」
「なんですってっ」
「わたしも個人的にノゾミさんには遺恨があるんですよねー」
「なんでいつもみんな喧嘩するのかな?」
「仕様ですー」
「…」
(終)
「…」
「…おねーさんっ」
「…」
「桂おねーさんっ!」
「わっ、つ、葛ちゃんっ。 突然大きな声で呼ばないでよ。 凄いびっくりしたんだよ?」
「さっきから何度も呼びましたよ?」
「あれ?」
「先日アイデアが出ないとか言いながらもPCに向かってるからお邪魔しないようにと思っていたのですが…」
「うん」
「…おねーさんゲームしてるだけじゃないですか」
「そ、そんなことないよ?」
「いろいろお忙しいとは思いますけど、ちゃんと続けるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「でもゲームばかりしてるじゃないですか。 書かないとダメですようー」
「うん、わかってるんだけど、アイデアがなかなか…。 それで気晴らしに少しやってるだけだよ」
「あら、いつも熱心にやっているのではなくて?」
「そうなんですか?」
「ええ、考えてる様子なんてなくってよ」
「ノ、ノゾミちゃんっ。 しーっ」
「…おねーさん」
「話すお友達ができたとか言って、私とも満足に話していないわ」
「え、えっと、それは…」
「観月の娘や鬼切りの娘が来た時も同じだったわね」
「ノゾミちゃん。 しーっ、しーっ」
「おねーさんっ」
「うう、ごめんなさい…」
「全く困ったものですねー」
「で、でもっ。 なんかもうすぐ終わるってうわさもあるから、それまでだよ」
「もうすぐっていつ頃なんですか?」
「来年って言ってたわね」
「ノゾミちゃんっ。 しーっ」
「おねーさんっ!」
「ううう、ごめんなさい…」
「仕方ないですねー。 とりあえずサバイバーの残りでも出したらいかがですか?」
「えっと、それが…」
「どうかしましたか?」
「どれがどの団体の話かわからないそうよ。 タイトルも覚えていないみたいね」
「…」
「…どういう管理をしてるんですか、おねーさんは?」
「でも一応かなり遅いペースだけど一本書いてるから…月末には書ける、かな?」
「無理じゃないの? 一日一行程度じゃないの」
「それに月末まで更新なしなんですか?」
「…。 えっと戯言だけでもがんばりたいと思います…」
「もうそんなこといいわ。 私がいるのだからちゃんと私と話しなさいな」
「そうですねー。 鬼と話すのはともかくとして、もっとわたしと外に出るようにしましょう、おねーさん」
「あら、幾ばくも生きてない小娘の分際で私をないがしろにするつもり?」
「これでも鬼切りの頭を務めていますので、鬼との交流は歓迎しかねますねー」
「なんですってっ」
「わたしも個人的にノゾミさんには遺恨があるんですよねー」
「なんでいつもみんな喧嘩するのかな?」
「仕様ですー」
「…」
(終)
「うー、さっぱりしたー」
「ほんとほんと、気持ちいいーっ」
練習を終えてシャワーを浴びてきたようで、選手達がはしゃいでいる。 その様子は実に年相応で、場は明るく華やかである。 この時間の彼女達の色気を垣間見れる立場は社長の特権と言っていいだろう。
「あー、腹減ったー。 さっさと食堂行こうぜ、うっちー」
「もうっ。 やめてよ、それ」
「今夜は何かなー?」
洗い髪の色気もそこそこに、食欲へと転じる。 まあアレだ。 彼女達の中に私は見えてないのかもしれない。
「社長ー。 今日のメニュー知ってるー?」
気付くと目の前に優香が立っていた。 シャンプーの香りが漂い、子供っぽい彼女すら色っぽく見える。
「え? いやそういうのは把握してないな…」
不意に話し掛けられたものだから頭がついていかない。 いかんいかん、なんかあてられてしまっている。
とは言え、食堂のメニューなんて………そう言えば。
「メニューは知らんが、さっき祐希子がシャワーから出てきて、鼻歌歌いながらスキップで食堂に行ったぞ」
「…」
「…」
「…」
皆一様に沈黙する。 気持ちはわかる。 私もおそらく同じ気持ちだ。
「カレーか」
「カレーね」
「カレーっスねー」
「…カレー…」
「カレーだろうなー」
別にカレーに不満はないだろう。 ただ…そもそも皆の分が残っているのかあやしい。
「おい社長、こいつ気絶してるぞ」
「葛城、仮にも先輩に対してこいつというのはどうなんだ。 それに報告してないで起こしてやれ」
「…まあいいだろ」
かったるそうに葛城が優香を起こす。
「ううぅ…カレーはイヤ…」
どうも優香はカレーにトラウマを持ってしまったきらいがある。 気持ちはわからんでもないが。
「はあ…。 あの人際限無いからなあ…。 どうする? うっちー」
「そうねえ…どこか食べに行くしかないわね」
一様に困っている選手達を見て、私はふと思った。
「お前達自分で作ったりしないのか?」
「あー、アタシ無理」
「休みの日ならともかく、練習後は…」
「カップめんくらいなら」
「おにぎりならよく作るっスよ?」
「買えばいいじゃないか」
なんか微妙な返事が多い。 仕方ない、たまにはいいか。
「じゃあ、皆に飯を奢ろうっ。 今日は特別だ」
「おっ、社長マジかよっ! サンキュー」
「ありがとうございます」
「やったーっ。 何食べるんですかー?」
「ありがとうございますっ!」
「…よろしく頼む」
「…ん? 遥は今遠征中でいないのは当然だが…みことはどこだ?」
辺りを見回すが、みことの姿はない。
「えー? みことちゃんシャワーは一緒だったよ?」
「彼女髪長くて洗うのに時間かかるから、まだなんじゃない?」
「アタシも長いけど?」
「あなたはもっと気を使いなさいってば」
「いやみことは風呂行ってるから遅いですよ」
真田がわいわいと騒ぐ皆に向かって言う。
「そうなのか?」
「ええ。 いつも軽くシャワー浴びてから風呂に入るんスよ。 風呂が好きらしくて、長湯なんです」
「私練習後はお風呂使わないなー」
「誰も聞いてないと思うが」
「うーん…となると困ったな。 遅いなら尚の事飯が無くなる可能性が高いしな…。 ただ…皆待てるか?」
「無理。 腹減った」
「正直私もつらいです」
「お腹すいたーっ」
「はあ、きついっスね」
「自分でなんとかするだろ」
何気に言う事のきつい葛城が気になるが、皆の気持ちもわからんでもない。 とは言え、一人だけ置いていくのは…。 あ、そうだ。
「じゃあ、葛城。 社長室に井上クンがまだいるはずだから、彼女に言付けを頼んできてくれ。 みことが夕食に困るようならよろしく頼む、と」
「わかった」
「で、何食うかか…。 あんま無茶言わなければ何でもいいぞ」
「肉」
「パスタくらいで充分ですけど」
「ハンバーグっ」
「和食がいいっス」
「…お前ら悪意を感じるくらいバラバラだな…。 少し皆で話し合って決めてくれ。 ちょっと食堂見てくる」
食堂の入り口まで来た所で気付く。 確かに今日はカレーらしい、匂いがする。 覗きこむと一人かっこむ姿が見える。
「おっかわりー♪」
幸せそうだ。 ほうっておこう。
戻ってみると誰もいない。
「あれ?」
辺りを見回すがどう見てもいない。
「あいつらどこ行ったんだ?」
一人戸惑っていると、井上クンがやってくる。
「あら社長。 まだいらっしゃったんですか?」
「ああ。 皆で食事に行こうと思ったんだが…いなくなった」
「はあ?」
「ふう…」
そこにみことがやってくる。 上気した顔が艶っぽいが、今はそんなことどうでもいい。
「ああ、みこと。 今から皆で食事に行くんだが、お前も来るよな?」
「はあ。 私は別に食堂で構いませんが?」
「いやー…今日のメニューはカレーでなー…」
「なるほど」
もはやカレーで話が通じるようになっているのは果たしていいことなのだろうか。
「井上クンもどうだい?」
「まあ別に構いませんが…どこに行かれるのでしょうか?」
「それが皆バラバラだもんで、皆で決めてくれと言って私が少し外したらいなくなってたんだ」
「ジムは見ましたか?」
みことが口を挟む。
「なんでジムを?」
「はあ。 マッキーさんがいますから…」
「…あー…そっか…」
「へへっ…うっちーとは言え…譲れねえ、ぜ…」
「…全く…何でこんな…」
「ううっ…ま、まだまだ……」
「ううぅ…ハンバーグぅ…」
「…条件が…悪すぎるっ…」
リング上では無駄に激しい戦いが繰り広げられていた。
「おい、お前ら」
「あ? …社長、待ってな…今、ケリを…つけるから、よ」
「いや、話し合いで、と言ったじゃないか。 もうやめろ」
「…不本意では…ありますが…こうなった以上は、やめられません…」
「えーっと…」
「絶対…ハンバーグぅっ……」
「…白いご飯に…味噌汁…」
練習後の疲れた体にも関わらず実戦並みの…いや正に実戦か。 どうにも話を聞く気は無いらしい。
「えっと…井上クンどうしようか?」
こめかみに手をあて呆れ顔の彼女は私を含めた全員に言った。
「…各自出前じゃ駄目なんですか?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「………そういう手もあるね」
リングの上の5人がその場に崩れ落ちた。
余談になるが、食堂のカレーは予想通り残らなかった。 今度から食堂の人員を増やす事にしようと思う。
(終)
「ほんとほんと、気持ちいいーっ」
練習を終えてシャワーを浴びてきたようで、選手達がはしゃいでいる。 その様子は実に年相応で、場は明るく華やかである。 この時間の彼女達の色気を垣間見れる立場は社長の特権と言っていいだろう。
「あー、腹減ったー。 さっさと食堂行こうぜ、うっちー」
「もうっ。 やめてよ、それ」
「今夜は何かなー?」
洗い髪の色気もそこそこに、食欲へと転じる。 まあアレだ。 彼女達の中に私は見えてないのかもしれない。
「社長ー。 今日のメニュー知ってるー?」
気付くと目の前に優香が立っていた。 シャンプーの香りが漂い、子供っぽい彼女すら色っぽく見える。
「え? いやそういうのは把握してないな…」
不意に話し掛けられたものだから頭がついていかない。 いかんいかん、なんかあてられてしまっている。
とは言え、食堂のメニューなんて………そう言えば。
「メニューは知らんが、さっき祐希子がシャワーから出てきて、鼻歌歌いながらスキップで食堂に行ったぞ」
「…」
「…」
「…」
皆一様に沈黙する。 気持ちはわかる。 私もおそらく同じ気持ちだ。
「カレーか」
「カレーね」
「カレーっスねー」
「…カレー…」
「カレーだろうなー」
別にカレーに不満はないだろう。 ただ…そもそも皆の分が残っているのかあやしい。
「おい社長、こいつ気絶してるぞ」
「葛城、仮にも先輩に対してこいつというのはどうなんだ。 それに報告してないで起こしてやれ」
「…まあいいだろ」
かったるそうに葛城が優香を起こす。
「ううぅ…カレーはイヤ…」
どうも優香はカレーにトラウマを持ってしまったきらいがある。 気持ちはわからんでもないが。
「はあ…。 あの人際限無いからなあ…。 どうする? うっちー」
「そうねえ…どこか食べに行くしかないわね」
一様に困っている選手達を見て、私はふと思った。
「お前達自分で作ったりしないのか?」
「あー、アタシ無理」
「休みの日ならともかく、練習後は…」
「カップめんくらいなら」
「おにぎりならよく作るっスよ?」
「買えばいいじゃないか」
なんか微妙な返事が多い。 仕方ない、たまにはいいか。
「じゃあ、皆に飯を奢ろうっ。 今日は特別だ」
「おっ、社長マジかよっ! サンキュー」
「ありがとうございます」
「やったーっ。 何食べるんですかー?」
「ありがとうございますっ!」
「…よろしく頼む」
「…ん? 遥は今遠征中でいないのは当然だが…みことはどこだ?」
辺りを見回すが、みことの姿はない。
「えー? みことちゃんシャワーは一緒だったよ?」
「彼女髪長くて洗うのに時間かかるから、まだなんじゃない?」
「アタシも長いけど?」
「あなたはもっと気を使いなさいってば」
「いやみことは風呂行ってるから遅いですよ」
真田がわいわいと騒ぐ皆に向かって言う。
「そうなのか?」
「ええ。 いつも軽くシャワー浴びてから風呂に入るんスよ。 風呂が好きらしくて、長湯なんです」
「私練習後はお風呂使わないなー」
「誰も聞いてないと思うが」
「うーん…となると困ったな。 遅いなら尚の事飯が無くなる可能性が高いしな…。 ただ…皆待てるか?」
「無理。 腹減った」
「正直私もつらいです」
「お腹すいたーっ」
「はあ、きついっスね」
「自分でなんとかするだろ」
何気に言う事のきつい葛城が気になるが、皆の気持ちもわからんでもない。 とは言え、一人だけ置いていくのは…。 あ、そうだ。
「じゃあ、葛城。 社長室に井上クンがまだいるはずだから、彼女に言付けを頼んできてくれ。 みことが夕食に困るようならよろしく頼む、と」
「わかった」
「で、何食うかか…。 あんま無茶言わなければ何でもいいぞ」
「肉」
「パスタくらいで充分ですけど」
「ハンバーグっ」
「和食がいいっス」
「…お前ら悪意を感じるくらいバラバラだな…。 少し皆で話し合って決めてくれ。 ちょっと食堂見てくる」
食堂の入り口まで来た所で気付く。 確かに今日はカレーらしい、匂いがする。 覗きこむと一人かっこむ姿が見える。
「おっかわりー♪」
幸せそうだ。 ほうっておこう。
戻ってみると誰もいない。
「あれ?」
辺りを見回すがどう見てもいない。
「あいつらどこ行ったんだ?」
一人戸惑っていると、井上クンがやってくる。
「あら社長。 まだいらっしゃったんですか?」
「ああ。 皆で食事に行こうと思ったんだが…いなくなった」
「はあ?」
「ふう…」
そこにみことがやってくる。 上気した顔が艶っぽいが、今はそんなことどうでもいい。
「ああ、みこと。 今から皆で食事に行くんだが、お前も来るよな?」
「はあ。 私は別に食堂で構いませんが?」
「いやー…今日のメニューはカレーでなー…」
「なるほど」
もはやカレーで話が通じるようになっているのは果たしていいことなのだろうか。
「井上クンもどうだい?」
「まあ別に構いませんが…どこに行かれるのでしょうか?」
「それが皆バラバラだもんで、皆で決めてくれと言って私が少し外したらいなくなってたんだ」
「ジムは見ましたか?」
みことが口を挟む。
「なんでジムを?」
「はあ。 マッキーさんがいますから…」
「…あー…そっか…」
「へへっ…うっちーとは言え…譲れねえ、ぜ…」
「…全く…何でこんな…」
「ううっ…ま、まだまだ……」
「ううぅ…ハンバーグぅ…」
「…条件が…悪すぎるっ…」
リング上では無駄に激しい戦いが繰り広げられていた。
「おい、お前ら」
「あ? …社長、待ってな…今、ケリを…つけるから、よ」
「いや、話し合いで、と言ったじゃないか。 もうやめろ」
「…不本意では…ありますが…こうなった以上は、やめられません…」
「えーっと…」
「絶対…ハンバーグぅっ……」
「…白いご飯に…味噌汁…」
練習後の疲れた体にも関わらず実戦並みの…いや正に実戦か。 どうにも話を聞く気は無いらしい。
「えっと…井上クンどうしようか?」
こめかみに手をあて呆れ顔の彼女は私を含めた全員に言った。
「…各自出前じゃ駄目なんですか?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「………そういう手もあるね」
リングの上の5人がその場に崩れ落ちた。
余談になるが、食堂のカレーは予想通り残らなかった。 今度から食堂の人員を増やす事にしようと思う。
(終)
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