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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (海とつばき)

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「えー? 海ってばバレー部なのにスキーできないのー?」
「いやバレー関係無いし」
「だっていっつも体動かしてるじゃん」
「いや本当関係無いし」
「じゃあ行ったら? スキー教室」
「うーん…。 でも、あたし家でいろいろあるから…」
「だったら尚の事行った方が気が楽なんじゃない?」
「うーん…」
「海が行くと言うのなら私が協力しよう」
「いやそれは悪いし………って、いつからいたーっ!」
 あたしの名前は後藤海。 バレー部所属の期待の星…自称。 輝け乙女な女子高生。
 それはさておき、横から口を挟んできたのは東城つばき。 誰もが認める美少女、おまけにお嬢で成績優秀、普通に見ればパーフェクトレディー。
「初めからいつものように海をストーキングしていたぞ」
 ただし口を開かなければ。
「いいから自分の教室に帰れ」
「せっかく転がることしか出来ない海のために、協力しようという私になんという言い草だ」
 いまいち理解できないが、少し前に屋上に呼び出されて行ったらキスをされた。 それ以降あたしに付きまとい、先日は告白までされたが、あたしは微妙に困惑中。
「いや別に協力しなくていいから」
「先日の礼代わりに私が連れて行ってやろう」
「だから別にいいって」



「はい、じゃあバスから降りたら整列してー」
 なぜか来ている。
「人が多いな」
「そうなの? あたしは来たこと無いからよくわからないけど」
「うむ。 私のゲレンデではじいと護衛の者しかいなかったが」
「…それはあんたのプライベートゲレンデだろうが」
「それ以外のゲレンデに行ったことはなかったのでな」
「大体東城さん滑れるの?」
「ジャンプはやったことないが」
 普通はやるのか、ジャンプ? でもまあ、滑れるみたいだ。
「とりあえず宿に行きます。 荷物を置いて、30分後にまたここに集合してください」
 先生の指示に従い皆がぞろぞろと動き出す。 ついていこうとすると、腕を掴まれた。
「何?」
「私達の宿舎はそちらではない」
「どうして?」
「部屋割りによると私と海は別なのだ」
「知ってる」
「愛し合う者同士が離れ離れになるのもどうかと思ったので、別に宿を取っておいたのだ」
「待て」
「もうすぐじいが迎えに来るだろう」
 無視して皆の後について行こうとするが、彼女が腕を掴んで離さない。
「離して」
「どうしてだ」
「まず学校のスキー教室に来てるから先生に従うため。 次にあたしは部屋割りに不満は無いため。 なにより愛し合ってないから」
「ふむ」
「わかったら手離してよ」
「しかし海。 行っても部屋は無いぞ」
「…どうして」
「すでにキャンセルしている。 無理に行った所で荷物から離れたらじいが荷物を運ぶ事になっているしな」
「かえるっ!」
「今は冬眠してるだろう」
「違うっ! 家に帰るって言ってんのっ!」
「無駄だ。 そんな金は持ってきてないだろう。 そもそもどうやって帰るつもりだ」
「あんた…確信犯か…」
「その用法は間違っているな。 海はヌけているようで本当にヌけているのだな」
「ふざけるなーっ!」

 叫んだところで状況は変わらない。 行き場の無い以上仕方なし、彼女の取ったという宿に行く。
「…」
「どうかしたか、海? そう間抜け面で眺めても何も見つかりはしないと思うが」
「東城さんってお嬢よね」
「自分でそう言ったことはないが、そう言われたことはあるな」
「なのになんでこんな所なわけ?」
 どう見てもボロな旅館。 シーズン最中なのに駐車場はガラガラ。 傍目に見ても客が入ってない。
「うむ。 できるだけ狭い部屋の方がいいと思ってじいに頼んだらここになった。 心配いらない、厨房にはじいがスタッフを入れているそうだ」
 何気なく人聞きの悪いことを言っているがとりあえず流しておいて、
「へ? 東城さん所のお抱えシェフかなんか?」
「よくわからんが、じいがそう言っていたから大丈夫だろう」
「へえー、じゃあここに泊まってる人達はラッキーね」
「どうしてだ?」
「え? だっておいしい物食べれるんでしょ?」
「私達の部屋のためのスタッフだから、他の部屋には関係ない話だと思うが」
「あんた、いい性格してるよね…」



 荷物を置いて、外に出る。
「うー、寒っ」
「そうか、なら私があたためてあげよう」
「だからいやらしーオヤジみたいな言い方しないで」
 客が少ないせいか滑っている人も少ない。 まあ練習する身のあたしにはありがたい気もする。
「…じゃああんたが教えてくれるの?」
「構わないが…その分のお礼はしてもらえると考えていいか?」
「あんたがここに連れてきたんだから責任を取れって言ってんのっ」
 あたしがそう言うと、彼女はため息をつきやれやれと首を振りながら言う。
「仕方がない。 教えてあげよう」
「あんたがそういう態度を取れることが不思議でならないんだけど」



「では海。 まずは軽く滑ってみようか」
「…」
「どうした、海?」
「…」
「黙っているとキスするがいいか?」
「いいわけあるかーっ」
「いつもより勢いが無いな。 寒いのか?」
「…」
 どうしてスキーができなくてスキー教室に来ているあたしがこんな高い所にいるのでしょうか。
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、それは聞いたな」
「…下へ降りたいんだけど」
「だから軽く滑ってみようと言っている」
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、だから私が海に教えると約束したではないか」
 誰かこの女に人の話を理解する術を教えてください。
 吹きすさぶ風は冷たく、ただでさえ人の少ないゲレンデでこの高さには人の気配はなし。 風の音とリフトの機械音以外の音はなし。
「どうした? 滑らなければ教えようもないが」
「もっとこう…基本的な事を安全な場所で教えよう、という気はなかったのっ?」
「ふむ…。 しかし、人が少ないとは言え人のいる場所で練習するのは危ないと思ったのでな」
「滑れないやつがこんな高い場所にいる方がかえって危ないわよっ!」
「言われてみればそうだな」
 誰か助けてください。
「ともかく滑るしか戻る術はないのだから、滑ってみたらどうだ」
 言うや否や、あたしを突き飛ばす。
「ぎゃーっ」
「海、いきなりそのスピードは危ないと思うが」
「あんたが押したんでしょうがーっ!」



 気がつくと彼女に抱きかかえられていた。
「あれ? いったいどうして…?」
 寒い。
「うむ。 海は気絶していたのだ。 それを私が介抱しているというわけだ。 場所はよくわからん」
「…」
 辺りを見回すと一面の銀世界。 人の姿どころか声もなし、リフトの姿どころか明かりすらなし。
「…まさか……あたし達遭難したってこと?」
「そういう可能性もある」
「ちょ、ちょっとっ。 何そんな冷静なのよっ? たいへんじゃないっ!」
 あたしは事態に驚き起き上がる。
「明るい内に戻らなくちゃっ」
 そう言って立ち上がるが、彼女は座ったまま動かない。
「何してるのよ、ほらっ」
 手を引っ張って立たせようとすると顔をしかめる。
「えっ!? どうしたのっ?」
「いや…少々足を痛めてな。 動けないのだ」
 もしかしてあたしのせい? 気絶した時に何か?
「で、でもこのままじゃ…」
「ふむ。 では海だけでも先に戻るといい。 おそらくあちらの方向に行けば宿に着くはずだ」
 そう言って方向を指差す。
「そ…そんなこと、できるわけないじゃないっ。 バカなこと言わないでよっ!」
 あたしが言い放つと彼女は驚いた顔を浮かべる。
「どこか休める場所は…」
 辺りを見回すと休めそうな窪みが見つかった。
「少し我慢してよね」
 そう言ってあたしは彼女を抱き上げ、そこへ向かって歩く。
「海は意外に力があるのだな」
「…ダイエットしなさいよ」
「そうか? 海よりは無いと思うが」
「…いいから黙ってろ」

 寒さに耐えるため、寄り添って座る。
「大丈夫? 寒くない?」
「そう思うのなら今私が考えていることをしてくれ」
「調子にのるなーっ」

 辺りが薄暗くなってくる。 寒さも増してきた。 状況は極めて深刻。 いつしかあたし達は抱き合っていた。
「…ここで死んじゃうのかな…」
「なぜだ」
「だって、雪山で遭難して凍死ってよく聞くじゃない」
「ふむ」
「スキー教室なんて来るんじゃなかった…」
 だんだんと眠くなって、瞼が下りてくる。
 遠くから何か音が聞こえる気がしてきた。 なんか車みたい音。
 すると、彼女があたしから離れた。
「どうしたの?」
 ぼんやりとあたしは彼女の方を見る。
「どうやらじいが迎えに来たようだ」
「よかったわね…」
 って、え!?
「助けが来たのっ!?」
 飛び起きるとスノーモービルだかなんだかの明かりがこちらに近づいてくる。 彼女がそれに向かって手を振っている。 …って、
「あんた足はっ!?」
「うむ。 痺れならもう取れた」
「はい!?」
「海が気がつくまで膝枕をしていたら痺れて立てなかったのだが、もう平気だ。 海のおかげだ」
「…」
「それではそろそろ宿に戻るとしよう、海」
「…」
「どうした? まだ足りなかったか? なら続きは宿でにしよう、ここでは体に障るぞ」
「ふざけるなーっっっ!!」

 もうスキー教室なんか絶対来ない。 あたしはより深みに堕ちてしまった、そんな気がした。



(終)
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