「な、何をしておるっ!?」
「何って…見ての通りあたしの踊りを披露してただけよ?」
「なんと汚らわしい…そのようなものは踊りではないっ。 恥を知れっ」
「なんですってっ? あなたが踊りの何を知ってるって言うのよっ。 あたしはこれでも踊り子としてそれなりにご飯食ってきてるんだよっ。 恥を知るのはあんたの方さっ」
「そのような汚らわしい踊りを踊りなどと申すものかっ。 どこのいかがわしい所で踊ってきたかは知らぬが、ノルガルドに連なるものであればそのようなものは踊りではないわっ」
「はっ。 お城でドレス着てくるくる回ってるようなのしか知らないお姫様にとやかく言われる謂れはないわよっ。 そもそも仕方なく騎士なんかやってるんであって好きでやってるわけじゃないわよっ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて…そう声を大きく騒いだりしたら他の騎士も来て、ますます騒ぎが大きくなりますよ?」
「エライネは黙っているがいい。 わらわは今この下賎な女と話しておる」
「ちょっとあんた、黙って聞いてりゃ仮にも仲間のことを下賎ってどういうつもりだよ」
「そうよっ。 自分の無知を棚に上げて自分がさも高尚なとこにいるつもりでいるの? バカじゃないの?」
「ああああ、バネッサさんまでー」
「仲間に対して下賎だの汚らわしいだの口にするのと組んで戦ってられないじゃないかっ。 コルチナに謝りなっ」
「くだらぬっ。 わらわが謝る道理がないわっ。 お主らこそ恥を知るがよいっ」
「ああああっ、ちょっとみんなやめてくださいよーっ」
「ははーん、わかったわ。 姫だのとか言われてても相手にしてくれる男もいなくて拗ねてるわけね」
「なるほどね、ただの嫉妬なわけだ。 ああ、みっともない。 どっちが恥を知れ、だかね」
「…我がノルガルドにこのような騎士はいらぬっ! こんな浅ましい女どもを騎士として連れていた方が、我がノルガルドの恥だっ!」
「はいはい。 あたしの踊りで相手してくれる人もいない自分のことを思い出して腹が立ったわけね。 欲求不満なんじゃないの? あははは」
「まったく気位ばかり高くて物を知らない姫とかいるんじゃこの国も長くはないわね」
「って、二人とも行こうとしないでくださいよーっ。 ブランガーネ姫も落ち着いてくださいってばーっ」
「…そうだな。 敵に騎士が増えれば厄介である以上、ここで片付けておく方が正しいであろう」
「あんたの腕は認めるけど、あたし達二人を一人で相手できると思ってるなら頭が悪いとしか言えないわね」
「ま、こういうバカな姫さえいなくなれば少しはこの国もまともになるんじゃないの?」
「きゃーっ、本当どっちもやめてくださいってばーーーっ」
「いったい何の騒ぎ?」
「ああーん、フェテシア様助けてくださいー」
(エライネに連れられブランガーネは別室へ)
「…なるほど」
「あたし達は絶対に悪くはないわよっ」
「ああ、あれじゃ一緒には戦えないね」
「はぁ…。 姫にも困ったものだな…。 まあ姫は箱入りで男よりも男たろうとしてるせいで刺激が強すぎたのだろうが…」
「あの程度の踊りで刺激が強いってどんな箱入りなのよっ」
「お姫様はわかってるけど差別意識が高すぎてうんざりするし」
「まあ姫は男であれば王になっていた身分だから」
「でも女でしょうっ。 王でもないしっ。 どうであれさっきのことに謝ってもらわないと気がすまないわよっ」
「とりあえず私からも少し言ってくるのではやまったことはしないで、お願い」
「ちゃんとしっかり言ってよねっ」
「でもコルチナの踊りはいいね。 あたしも酒場でいろんな踊り子は見たけどその年でそれだけ踊れる子を見たのは初めてだよ」
「ありがとっ。 なんならバネッサも踊ってみる? あたしが教えるわよっ」
「え、ええっ!? む、無理だよっ、あたしはっ」
「さすがにその格好だと無理があるわよねー…。 このカーテンでいっかな」
「ちょ、ちょっとーっ」
「女は子を生む道具ではないっ、あのようないかがわしい踊りは下卑た輩が喜ぶだけのものであろうっ」
「姫、それは違います。 彼女はその身を理解した上で女としての魅力を武器にして、かつ自分の望む道を生きているのです」
「下卑た輩どもに媚びることをそのように言いつくろっても何にもならぬわっ」
「…ブランガーネ様。 ではブランガーネ様は男ですか? 女とはなんですか?」
「くだらぬっ。 男も女もないっ。 力あるものが剣を持ち力無きものを守るだけでそのようなことはこのこととは何ら関係がないではないかっ」
「彼女らは幸い力がある者ですが、力のない貧乏な出生の女はどう生きればよいのですか?」
「それはその者が考えることであろうっ」
「そうです。 考えて彼女は自分も見る者も楽しめる踊りを生業として生きてきたのです。 姫は勝手に『その者が考えて生きていること』を否定したのです」
「っ!?」
「それは女だからという理由で王になれなかったブランガーネ様が憎むことと同じことになるのではないでしょうか? ましてや彼女にしたって王宮であのような踊りは踊りますまい。 ブランガーネ様が好きになれないのであれば見なければよいだけのこと、今回は明らかにブランガーネ様が間違っておられます。 どうかご理解ください」
「-っ。 か、仮にそうであってもそれに乗じてわらわを愚弄しおったことは許されることではないわっ」
「その点については私から彼女らに言っておきます。 ですから先ほどの件は謝罪の一言をお願いいたします」
「…。 確かにわらわも言い過ぎたこともあったやもしれぬ。 けれど今後あのような踊りは許さぬ。 規律をもって戦をしておる中乱れが生じる」
「…先ほどは女同士でだったのでしょう。 構わないじゃないですか。 そうでしょ? エライネ」
「ええ、はい…。 でも…」
「何?」
「たまーに他の騎士の方のいるところでも踊ってますよ…」
「あぁ…まあそうでしょうね…」
「断じて許さぬっ!」
「えっと…ブランガーネ様には言ってきたけど…って、何やってるの? あなた達…」
「きゃーっ!」
「バネッサに踊りを教えてあげてたんだけど?」
「…その格好は?」
「だって鎧着てて踊れないでしょ?」
「だからいいって言ったじゃないのっ」
「お、お主ら…男に媚びるにはあきたらず女同士などと…は、恥を知れーーーーーーーっ!!」
「誰が女同士よっ!」
「これはコルチナが無理やりであたしは関係ないっ!」
「ああああ、フェテシア様ーっ」
「もう手に負えないわよ…」
(終)
てかオチてない…いや本当すいません…