忍者ブログ
数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
[66]  [65]  [64]  [63]  [62]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57]  [56
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 (ラッキー内田視点)

拍手


「こぉれでっ、終わりだぁーーーっ!」

「1っ、2ぅっ………3ぃっ!」
 試合の終わりを告げるゴングは揺れるような大歓声とともに私の耳に届いた。 それと同時に私とモーガンのリング外での攻防も終わりを告げる。



「優勝おめでとうございます。 長い死闘でしたがいかがでしたか?」
「あっはははっ、楽勝よっ」
 こういう時、私はどう喋ればいいのかわからない。 未だに慣れない。
「去年は2位でしたが、見事今年は勝ち取りましたね」
「まあな。 去年の借りはきっちり返してやったよっ」
「最後の技はなんでしょうか? フィッシャーマンバスターのようでしたが」
「あれは今日初披露の新技、ヘラクレスバスターだ。 覚えとけっ」
「ラッキー選手、今日の優勝の感想を」
「今日の結果にはとりあえず満足してます。 今後に繋げたいと思います」
 団体の垣根を越えての戦い、WWCAのカオスがいなかったのはもの足りないが、私達の力をアピールはできた。
「あっははは、硬いなうっちーは」
「ちょっと、それやめてよっ!」
「ま、アタシ達に勝てるチームはいねぇってこった。 勝てる気ならいつでも来いってな」
「では今年のExリーグ優勝おめでとうございます、マッキー選手、ラッキー選手」
「おいおい、アタシらはチームで呼びな、ジューシーペアだっ」
 そう言い捨て私の肩を掴んで会見を切る。
「さっさと帰ろうぜ。 社長にこれ見せてやんねーとなっ?」
「…あ、うん…」

「でもうっちーよぉ、もっと威勢よくいこうぜー。 優勝したんだしよー」
 控え室に戻る途中、彼女は私に不満そうに言ってきた。
「ちょっとその呼び方やめてってば」
「なんだよ、普段そう呼んでもなんも言わねーくせによ」
「仕事場ではやめてよ」
「なんで?」
 それは…、それは…、
「…だってその内あなたと私でやるかもしれないのよ? 馴れ合いにはしたくないから」
「はあーん。 わかったよ、呼ばねーよ」
「あ、べ、別にプライベートだったら構わないのだけど…」
「はあ? よくわかんねーなー、うっちーは」
「………そう、ね」



 私がWCWWという新興の小さなプロレス団体に入団した時の同期に彼女はいた。
 背が高くスタイルがよくて、長い髪を燃えるような赤い色に染めていた。 見た目以上に猛々しい彼女を最初は敬遠していたが、その真っ直ぐで一所懸命な所は好感が持てた。
 同期は6人いたが、1人は海外へ去っていった。 皆それぞれ情熱を持って上を目指す毎日を過ごしていた。 そんな中である日彼女が私に話しかけてきた。
『お前は器用でいいなー。 アタシにも分けてくれよ』
『あなたは力で押していくのが武器でしょ。 そんな必要無いわよ』
『そうだけどさ、お前とならできることもあると思ってよ』
『何よ』
『組むんだよ。 アタシは力で押す、押せない相手はお前が巧みにけりをつける。 お前に押せない相手はアタシがねじ伏せる。 最強だぜ?』
 なるほど、と思った。 組む事で自分だけでは届かない上が見える。
『でも、あなたのフォローということなら優香でもいいんじゃないの?』
『はあ? なんで優香が出てくんだ? お前に言ってんじゃねーか』
『そうじゃなくて、別に私でなくても…』
『アタシはお前に言ってんだってばっ』
 ひどく真剣な目で私に熱く語る。
『だからなんで私なの?』
 そう言うと、彼女は少し考え込み出した。 うーん、と小さく唸る。 あまり見た事の無いその表情は滑稽で、だけどかわいいと思った。
『うーん…そうだなー…。 憧れかなー?』
『はあ?』
『ほらアタシは力押しのスタイルじゃねーか。 もちろん性に合ってるんだけどよ、この前お前の試合見てた時思ったんだ。 お前、かっこいいなって』
『…』
『攻撃の引出しは多いし、リズムも自在に変えてさ。 アタシにはできない芸当だから、すげー見入っちまった』
『そ、それは私のスタイルだから…』
『そうだろうさ。 でな、アタシがお前に憧れたって、それはできないし、できたらアタシはアタシじゃなくなる。 だったら一緒にやったらいいと思ってよ』
 言わんとすることはわかった。 だけど、
『私なんかでいいの? 私より強くて上手い人なんかたくさんいるわよ。 私なんかまだ新人なわけだし…』
『んな事言ったらアタシも新人だっての。 アタシもお前もまだまだ強くなる。 組んだら相棒には負けられないしな? だからさらに強くなる』
 そう言って彼女はニッと笑う。
 元々別に断る理由はなかった。 ただ不安なだけだった。 彼女の期待に応えられるか自信が無かった。 でも私にとってもいい話だと思った。 だから、
『…いいわ、わかったわ』
『本当かよっ』
 心底嬉しそうに笑うと彼女は私の肩を掴み抱き寄せる。 目の前に近付いた彼女はとても満足そうな笑みを浮かべている。
『まるで口説かれてるみたいね』
『口説いたんだよっ』
 そう言って私の肩に置いた手に力を込めてくる。 なんか不思議な感じだった。

 それからは私達はチームとしての練習をしつつ、実際に試合を重ねた。 けれど、もちろん私達がまだ弱いということを差し引いても、勝てない日々が続いた。
 何戦かした頃に気付いた。 彼女がフォールを取られる事が多い。 初めは彼女の力が足りないと思っていたが、チームである事を忘れていた。
 
 私が彼女を助けてやれていなかったのだ。
 だから彼女ばかりフォールされていたのだ。 私は助けられていたから平気だったのだ。 
 私はパートナーとして最低だった。 恥かしくて情けなかった。 自分で自分が許せなかった。

 休日の朝、私は寮の彼女の部屋へ行った。 まだ眠そうな顔で出迎えた彼女に私は切り出した。
『マッキーっ』
『おぉ? どうした? …って、お前なんだよ。 何…泣きそうになってんだよ』
『ごめんなさい…私はパートナー失格だわ…。 あなたの期待に応えられそうに…ない…。 今まで足を引っ張って、ごめんなさい…』
『何言ってんだ? なんだよ突然、意味わかんねーぞ?』
『ずっと…ずっと、私のせいで負け続けて…本当にごめんなさい…。 チームは解散しましょう…』
『何バカ言ってんだ? 本当どうかしてるぞ、お前』
『だって…だってっ!』
『あんなあ…何でそんなこと言い出したのかわかんねーけど、チーム組んだからってそんなすぐ結果なんか出やしねーえって。 気にすんなよ』
 頭を掻きながら彼女は言う。 そんなことはわかっている、けれど私が言いたいのはそんなことではない。
『私と組んであなたは何も得ていないじゃないっ。 私はあなたの足を引っ張っているだけっ! こんなの…あなたにも私にも…いいことないわよっ』
 もう涙は止まらなかった。 すると、彼女はため息をついてこう言った。
『そうだな…形だけ組んでもしょうがなかったかもな…。 お前の負担にもなってたかもしんねー。 考えてなかったよ』
『ごめんなさい…』
『で、だ。 じゃあ改めて組みなおそう。 今度はちゃんとお互いを理解しよう。 それならお前もやりやすくなんだろ』
『え?』
『お前が何を気にしてんだかわかんねーけどよ。 確かにアタシ達はお互いの理解が足りてなかったよ。 ちゃんとチームになんなきゃな』
『わ、私は…』
 そうじゃない。 私はあなたの役に立ってない。
『アタシはお前と組んでたい。 それは最初言った時から変わってない。 今は確かに結果が出てないけど、絶対出せると信じてる』
『で、でもっ』
『いやもちろんお前がどうしても嫌だってんならあきらめるけどよ。 …ダメか?』
『…いいの?』
『アタシが聞いてんだっての。 いいに決まってんだろ。 お前が…、そうだな、仲間にお前はねーな。 内田が必要だよ』
 私を真っ直ぐに見つめそう彼女は言った。
『あ…あり、が、とう…』
『おいおい、泣くなよー。 なんで泣くんだ? わっかんねーなー』
 許された。 いや彼女の中では私は罪すら無かった。 そしてその上彼女は私が必要だと言う。 ならばせめて、今までの分以上に彼女の期待に応えたい。
 そしてそうする事が私が私を許せるたった一つの方法だった。

『じゃあさっそく、チームの親睦を深める事にするかっ』
『え?』
『飯でも食いに行こうぜ。 お互いを知ってなんぼよ』
『え、ええ』
『地元だろ? いい店紹介しろよなっ』
 私の手を取り立たせながら、彼女は笑ってそう言う。
『あ…え、ええっ、どこにでも連れて行くわよっ』
 立ちあがり彼女の部屋を2人で出て行く。

 私の中の迷いはもう完全に消えていた。 彼女を信じてともに行く。 彼女が信じてくれる自分も信じる。

 この時やっと、私は彼女とチームが組めたのだ。



 それからというもの私達は一緒にいる時間が多くなった。 仕事だけでなくプライベートにおいてもともに過ごした。

 短気でがさつで…だけどそんな自分を気にしてる。 男の子のような無邪気さで、女のかわいさを内包している。 ぶっきらぼうな話しぶりの中に本音を隠せない不器用さが伺える。
 彼女のいろんな面が理解できてきて、私は彼女といる時間に安らぎを覚えるようになっていった。
 もちろん喧嘩やぶつかり合いも何度となくした。 けれど、仲違いをすることは無かった。 それはお互いを認め合っていたから。

『お前達、今月新女がExリーグというのを開催するらしいんだが、参加するか?』
 入団して初めての冬が差し迫ってきた頃、社長に呼び出された私達はこんなことを言われた。
『なんだそりゃ、社長?』
『なんでも各団体からタッグを出して最強を決める、だそうだ。 WARSや太平洋にも打診が行ったそうで、どうやらIWWFやEWAも噛んでくるみたいだな』
『おう、そりゃ楽しいじゃねえか。 なあうっちー?』
 この頃には彼女は私を『お前』でも『内田』でもなく、こう呼ぶようになっていた。
『そうね。 でもそんな大きなイベント、私達でよろしいのですか?』
 団体のトップを張っているのは夏に移籍入団したマイティ祐希子。 2番手につけているのは同期の伊達遥であった。
『うん…祐希子は先月からの休養で、今月のうちの興行には間に合いそうだが、これには無理みたいなんだ。 遥も今月には帰国するだろうが、まだ遠征中だしな』
 言われてみれば状況はそうであった。
『でもあいつらが出れないからお前達ではない。 お前達ずっと組んでやって来たじゃないか。 力もついてきた。 結果を出す時じゃないか?』
『へへっ、言ってくれるねえ、社長』
『やれるだろう。 うちの力を見せてきてやれ。 新たなファンを連れて帰ってきなっ』
『任せなっ、社長っ。 いっちょやるかっ、うっちーっ』
『そうね。 やらせていただきます』

 結果はIWWFのモーガン・ダダーン組の優勝で終わった。 私達は新女のパンサー理沙子・ボンバー来島組と同点2位であった。
 マスコミやファンから多くの賞賛を受け、社長も誉めてくれたが、私達は不本意だった。 私達は本気で優勝を狙いにいっていたのだ。

『ちっ。 決め手に欠いたかな…。 新技を覚える必要があったな』
『そうね、それにもっと合体技を利用すべきだったかもしれなかったわ』
『ああ。 まあ、まだまだだったな。 モーガンは強えよ、確かに』
『今は確かに。 でも…』
『ああ、次は勝つ。 必ず勝つ』

 既に私達はお互いの呼吸がわかっている。 彼女を見ている時間が長いからわかる。 彼女のタイミングが理解できる。 彼女といればどんな相手とも戦える。



 そして2年目の春、私達はWWCAタッグ王者となった。

『へへっ。 これはアタシ達の伝説の始まりの印だな。 最強チーム、ジューシーペアの第1章よっ』
 私達のチーム名はジューシーペア。 彼女が命名した。 正直異論もあったが、このチームは彼女が作ったものだから、彼女の意思を尊重した。
 嬉しそうにベルトを抱え、彼女は私の肩に手を回す。 その手に私は自分の手を絡ませる。
『ええ、これが私達の始まりね』

 充実した時間の中、ある日私は気付いてしまった。

 ソロで戦った時か、それぞれが海外遠征に出た時なのか、別の選手と組んだ時か、どの時が契機かはわからない。 いやその全てが契機だったのかもしれない。

 私は彼女と過ごさない、過ごせない日々が苦痛になっていることに気付いた。

『よう、うっちー。 飯食いに行こうぜ』
『あー、今日も疲れた…。 さっさとシャワー浴びに行こうぜ』
『いや待てよ、昨日の場合はよ…』
『お前どうしてそうイヤミばっか言うかなー』
『はあ? そんなのガラじゃねーよ』

 いろんな時を過ごす中、私の中に常に彼女がいる。

『ちょっとまた肉なの? たまには違う物にして』
『そうね、早くさっぱりしましょう』
『あそこは私にタッチした方が…』
『あなたはもうちょっと頭を使いなさいよ』
『いいじゃない、たまには』

 彼女のいない時間では私は空虚で、死んでいるも同然になる。

 彼女の笑った顔、怒った顔、困った顔…様々な表情がいつもそばにある。 それが当たり前。
 彼女の笑い声、怒鳴り声、弱気な声…様々な声が聞こえる場所にいる。 それが全て。
 彼女が私の前に、傍に、いても、いなくても、私の中に常に彼女がいる。

 私は…彼女をいつしか愛していた。



 気付くべきではなかった。 気付いてはいけなかった。 だけど…気付いてしまった今、気付かなかった頃には戻れなかった。

 途端に私は彼女といるのが怖くなった。 気付かれるのが怖かった。 でも感情は彼女から離れる事を拒んだ。
 一緒にいたいけどいられない。 離れなければいけないけれど離れられない。 どうしたらいいのかわからなかった。
 ただつらい日々を過ごしていた。



『なんかよー、最近うっちーおかしくないか?』
『えっ!?』
『試合中もそうだけどよー、フリーの日とかでもぼんやりしてるしよー』
『そ、そんなこと…』
『ごまかすなよ。 アタシにはわかるんだぜ? パートナーだからよ』
『あ…』
 そう、私だけが見てるわけではない。 彼女も私を見てくれている。 そんな当たり前の事を気付いていなかった。
『なんでも言ってみ? このアタシが相談にのってやるからよっ…つっても男の話とかは厳しいかもしんねーけど…』
『…フ…フフフ、そうね。 パートナーにはわかるわよね』
『当たり前だろ…って、お前何泣いてんだよっ!?』
『フフ、ウフフ…ありがとう…』
『おいおい、なんだ? 本当に男か? なんだよ振られたのか? どうした?』
『違…う…わよ。 違う…。 ちょっと…嬉しくて…』
『嬉しい? 何が?』
『ウフフ…ひみつ…ウフフ』
 私と彼女では見てる目線はおそらく違うだろう。 でもお互いにお互いを見てる。 完全な一方通行ではない。 ならばそれでいい。 私の中に閉まっておけばそれでいい。

 時には我慢できない時があっても、時には想いはちきれそうになっても、もう堪えられる。
 私はあなたの傍にいられるのだから。
 あなたの心に私はいるのだから。

 私は夢であなたとの逢瀬を過ごす。 眠れない夜に涙することがあっても、私は幸せでいられる。 幸せでいることにする。

 あなたの特別である限り、ずっと。



「へへっ、社長喜ぶぜ? アタシ達は遂に最強になったんだ」
「ええ。 これからもずっと、ね」
 Exリーグ優勝のトロフィーを抱え喜ぶ彼女を私は見つめる。
「そうさ、アタシ達が最強なんだっ」
「ええっ」
 空いた手をいつものように私の肩に回す。 私はその手に自分の手を重ね、力強く頷く。

 団体事務所へと向かう道すがら、私はささやかな望みを願う。
「お腹…空かない?」
「ああ、もうたまんねーよ。 だからさっさと帰ろうぜ?」
「どこかで…食べていきましょうよ、祝勝会兼ねて」
「いやでも帰んねーとマズいだろ。 祝勝会だって準備してくれてんだろーしよ?」
「…ええ…そう、よね…」
 ささやかな望みは現実にはささやかではない。 わかっていたけれど気付かないふりをしていた。
「らしくねーなー。 いつもと逆だろ? それはアタシが言う台詞じゃないかよ」
「そう…そう、よね」
「でも、ま、いっか。 たまにはな。 初優勝だしよ、大目に見てくれんだろ」
「えっ?」
「行こうぜっ。 今日は派手にやるぞーっ」
「…い、いいの?」
「んだよ、うっちーが言い出しっぺだろーが。 今更引くなよ」
 肩に回した手に力を入れられ私は彼女に引き寄せられる。
「ど派手にいくからな、覚悟しとけよっ」
 そう言って頭をぶつける。 額と額が合わさって、彼女の顔がすぐ近くにある。 彼女の体温を感じる。
「ええっ!」
 こみ上げる嬉しさを満面の笑みに変えて応える。

 2人だけで過ごす宴。 あなたと過ごすこの夜。 今日の日に与えられた特権。

 この幸せが何よりの祝福だった。



 あなたが私を必要とする限り、私があなたの特別でいる限り、私はあなたの傍らに立つ。

 あなたへの想い、自分への誓い。 これが、私があなたと組む理由。 



(終)
PR
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
メルフォ
カウンター
プロフィール
HN:
あらた
性別:
非公開
忍者ブログ [PR]