数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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「うー、さっぱりしたー」
「ほんとほんと、気持ちいいーっ」
練習を終えてシャワーを浴びてきたようで、選手達がはしゃいでいる。 その様子は実に年相応で、場は明るく華やかである。 この時間の彼女達の色気を垣間見れる立場は社長の特権と言っていいだろう。
「あー、腹減ったー。 さっさと食堂行こうぜ、うっちー」
「もうっ。 やめてよ、それ」
「今夜は何かなー?」
洗い髪の色気もそこそこに、食欲へと転じる。 まあアレだ。 彼女達の中に私は見えてないのかもしれない。
「社長ー。 今日のメニュー知ってるー?」
気付くと目の前に優香が立っていた。 シャンプーの香りが漂い、子供っぽい彼女すら色っぽく見える。
「え? いやそういうのは把握してないな…」
不意に話し掛けられたものだから頭がついていかない。 いかんいかん、なんかあてられてしまっている。
とは言え、食堂のメニューなんて………そう言えば。
「メニューは知らんが、さっき祐希子がシャワーから出てきて、鼻歌歌いながらスキップで食堂に行ったぞ」
「…」
「…」
「…」
皆一様に沈黙する。 気持ちはわかる。 私もおそらく同じ気持ちだ。
「カレーか」
「カレーね」
「カレーっスねー」
「…カレー…」
「カレーだろうなー」
別にカレーに不満はないだろう。 ただ…そもそも皆の分が残っているのかあやしい。
「おい社長、こいつ気絶してるぞ」
「葛城、仮にも先輩に対してこいつというのはどうなんだ。 それに報告してないで起こしてやれ」
「…まあいいだろ」
かったるそうに葛城が優香を起こす。
「ううぅ…カレーはイヤ…」
どうも優香はカレーにトラウマを持ってしまったきらいがある。 気持ちはわからんでもないが。
「はあ…。 あの人際限無いからなあ…。 どうする? うっちー」
「そうねえ…どこか食べに行くしかないわね」
一様に困っている選手達を見て、私はふと思った。
「お前達自分で作ったりしないのか?」
「あー、アタシ無理」
「休みの日ならともかく、練習後は…」
「カップめんくらいなら」
「おにぎりならよく作るっスよ?」
「買えばいいじゃないか」
なんか微妙な返事が多い。 仕方ない、たまにはいいか。
「じゃあ、皆に飯を奢ろうっ。 今日は特別だ」
「おっ、社長マジかよっ! サンキュー」
「ありがとうございます」
「やったーっ。 何食べるんですかー?」
「ありがとうございますっ!」
「…よろしく頼む」
「…ん? 遥は今遠征中でいないのは当然だが…みことはどこだ?」
辺りを見回すが、みことの姿はない。
「えー? みことちゃんシャワーは一緒だったよ?」
「彼女髪長くて洗うのに時間かかるから、まだなんじゃない?」
「アタシも長いけど?」
「あなたはもっと気を使いなさいってば」
「いやみことは風呂行ってるから遅いですよ」
真田がわいわいと騒ぐ皆に向かって言う。
「そうなのか?」
「ええ。 いつも軽くシャワー浴びてから風呂に入るんスよ。 風呂が好きらしくて、長湯なんです」
「私練習後はお風呂使わないなー」
「誰も聞いてないと思うが」
「うーん…となると困ったな。 遅いなら尚の事飯が無くなる可能性が高いしな…。 ただ…皆待てるか?」
「無理。 腹減った」
「正直私もつらいです」
「お腹すいたーっ」
「はあ、きついっスね」
「自分でなんとかするだろ」
何気に言う事のきつい葛城が気になるが、皆の気持ちもわからんでもない。 とは言え、一人だけ置いていくのは…。 あ、そうだ。
「じゃあ、葛城。 社長室に井上クンがまだいるはずだから、彼女に言付けを頼んできてくれ。 みことが夕食に困るようならよろしく頼む、と」
「わかった」
「で、何食うかか…。 あんま無茶言わなければ何でもいいぞ」
「肉」
「パスタくらいで充分ですけど」
「ハンバーグっ」
「和食がいいっス」
「…お前ら悪意を感じるくらいバラバラだな…。 少し皆で話し合って決めてくれ。 ちょっと食堂見てくる」
食堂の入り口まで来た所で気付く。 確かに今日はカレーらしい、匂いがする。 覗きこむと一人かっこむ姿が見える。
「おっかわりー♪」
幸せそうだ。 ほうっておこう。
戻ってみると誰もいない。
「あれ?」
辺りを見回すがどう見てもいない。
「あいつらどこ行ったんだ?」
一人戸惑っていると、井上クンがやってくる。
「あら社長。 まだいらっしゃったんですか?」
「ああ。 皆で食事に行こうと思ったんだが…いなくなった」
「はあ?」
「ふう…」
そこにみことがやってくる。 上気した顔が艶っぽいが、今はそんなことどうでもいい。
「ああ、みこと。 今から皆で食事に行くんだが、お前も来るよな?」
「はあ。 私は別に食堂で構いませんが?」
「いやー…今日のメニューはカレーでなー…」
「なるほど」
もはやカレーで話が通じるようになっているのは果たしていいことなのだろうか。
「井上クンもどうだい?」
「まあ別に構いませんが…どこに行かれるのでしょうか?」
「それが皆バラバラだもんで、皆で決めてくれと言って私が少し外したらいなくなってたんだ」
「ジムは見ましたか?」
みことが口を挟む。
「なんでジムを?」
「はあ。 マッキーさんがいますから…」
「…あー…そっか…」
「へへっ…うっちーとは言え…譲れねえ、ぜ…」
「…全く…何でこんな…」
「ううっ…ま、まだまだ……」
「ううぅ…ハンバーグぅ…」
「…条件が…悪すぎるっ…」
リング上では無駄に激しい戦いが繰り広げられていた。
「おい、お前ら」
「あ? …社長、待ってな…今、ケリを…つけるから、よ」
「いや、話し合いで、と言ったじゃないか。 もうやめろ」
「…不本意では…ありますが…こうなった以上は、やめられません…」
「えーっと…」
「絶対…ハンバーグぅっ……」
「…白いご飯に…味噌汁…」
練習後の疲れた体にも関わらず実戦並みの…いや正に実戦か。 どうにも話を聞く気は無いらしい。
「えっと…井上クンどうしようか?」
こめかみに手をあて呆れ顔の彼女は私を含めた全員に言った。
「…各自出前じゃ駄目なんですか?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「………そういう手もあるね」
リングの上の5人がその場に崩れ落ちた。
余談になるが、食堂のカレーは予想通り残らなかった。 今度から食堂の人員を増やす事にしようと思う。
(終)
「ほんとほんと、気持ちいいーっ」
練習を終えてシャワーを浴びてきたようで、選手達がはしゃいでいる。 その様子は実に年相応で、場は明るく華やかである。 この時間の彼女達の色気を垣間見れる立場は社長の特権と言っていいだろう。
「あー、腹減ったー。 さっさと食堂行こうぜ、うっちー」
「もうっ。 やめてよ、それ」
「今夜は何かなー?」
洗い髪の色気もそこそこに、食欲へと転じる。 まあアレだ。 彼女達の中に私は見えてないのかもしれない。
「社長ー。 今日のメニュー知ってるー?」
気付くと目の前に優香が立っていた。 シャンプーの香りが漂い、子供っぽい彼女すら色っぽく見える。
「え? いやそういうのは把握してないな…」
不意に話し掛けられたものだから頭がついていかない。 いかんいかん、なんかあてられてしまっている。
とは言え、食堂のメニューなんて………そう言えば。
「メニューは知らんが、さっき祐希子がシャワーから出てきて、鼻歌歌いながらスキップで食堂に行ったぞ」
「…」
「…」
「…」
皆一様に沈黙する。 気持ちはわかる。 私もおそらく同じ気持ちだ。
「カレーか」
「カレーね」
「カレーっスねー」
「…カレー…」
「カレーだろうなー」
別にカレーに不満はないだろう。 ただ…そもそも皆の分が残っているのかあやしい。
「おい社長、こいつ気絶してるぞ」
「葛城、仮にも先輩に対してこいつというのはどうなんだ。 それに報告してないで起こしてやれ」
「…まあいいだろ」
かったるそうに葛城が優香を起こす。
「ううぅ…カレーはイヤ…」
どうも優香はカレーにトラウマを持ってしまったきらいがある。 気持ちはわからんでもないが。
「はあ…。 あの人際限無いからなあ…。 どうする? うっちー」
「そうねえ…どこか食べに行くしかないわね」
一様に困っている選手達を見て、私はふと思った。
「お前達自分で作ったりしないのか?」
「あー、アタシ無理」
「休みの日ならともかく、練習後は…」
「カップめんくらいなら」
「おにぎりならよく作るっスよ?」
「買えばいいじゃないか」
なんか微妙な返事が多い。 仕方ない、たまにはいいか。
「じゃあ、皆に飯を奢ろうっ。 今日は特別だ」
「おっ、社長マジかよっ! サンキュー」
「ありがとうございます」
「やったーっ。 何食べるんですかー?」
「ありがとうございますっ!」
「…よろしく頼む」
「…ん? 遥は今遠征中でいないのは当然だが…みことはどこだ?」
辺りを見回すが、みことの姿はない。
「えー? みことちゃんシャワーは一緒だったよ?」
「彼女髪長くて洗うのに時間かかるから、まだなんじゃない?」
「アタシも長いけど?」
「あなたはもっと気を使いなさいってば」
「いやみことは風呂行ってるから遅いですよ」
真田がわいわいと騒ぐ皆に向かって言う。
「そうなのか?」
「ええ。 いつも軽くシャワー浴びてから風呂に入るんスよ。 風呂が好きらしくて、長湯なんです」
「私練習後はお風呂使わないなー」
「誰も聞いてないと思うが」
「うーん…となると困ったな。 遅いなら尚の事飯が無くなる可能性が高いしな…。 ただ…皆待てるか?」
「無理。 腹減った」
「正直私もつらいです」
「お腹すいたーっ」
「はあ、きついっスね」
「自分でなんとかするだろ」
何気に言う事のきつい葛城が気になるが、皆の気持ちもわからんでもない。 とは言え、一人だけ置いていくのは…。 あ、そうだ。
「じゃあ、葛城。 社長室に井上クンがまだいるはずだから、彼女に言付けを頼んできてくれ。 みことが夕食に困るようならよろしく頼む、と」
「わかった」
「で、何食うかか…。 あんま無茶言わなければ何でもいいぞ」
「肉」
「パスタくらいで充分ですけど」
「ハンバーグっ」
「和食がいいっス」
「…お前ら悪意を感じるくらいバラバラだな…。 少し皆で話し合って決めてくれ。 ちょっと食堂見てくる」
食堂の入り口まで来た所で気付く。 確かに今日はカレーらしい、匂いがする。 覗きこむと一人かっこむ姿が見える。
「おっかわりー♪」
幸せそうだ。 ほうっておこう。
戻ってみると誰もいない。
「あれ?」
辺りを見回すがどう見てもいない。
「あいつらどこ行ったんだ?」
一人戸惑っていると、井上クンがやってくる。
「あら社長。 まだいらっしゃったんですか?」
「ああ。 皆で食事に行こうと思ったんだが…いなくなった」
「はあ?」
「ふう…」
そこにみことがやってくる。 上気した顔が艶っぽいが、今はそんなことどうでもいい。
「ああ、みこと。 今から皆で食事に行くんだが、お前も来るよな?」
「はあ。 私は別に食堂で構いませんが?」
「いやー…今日のメニューはカレーでなー…」
「なるほど」
もはやカレーで話が通じるようになっているのは果たしていいことなのだろうか。
「井上クンもどうだい?」
「まあ別に構いませんが…どこに行かれるのでしょうか?」
「それが皆バラバラだもんで、皆で決めてくれと言って私が少し外したらいなくなってたんだ」
「ジムは見ましたか?」
みことが口を挟む。
「なんでジムを?」
「はあ。 マッキーさんがいますから…」
「…あー…そっか…」
「へへっ…うっちーとは言え…譲れねえ、ぜ…」
「…全く…何でこんな…」
「ううっ…ま、まだまだ……」
「ううぅ…ハンバーグぅ…」
「…条件が…悪すぎるっ…」
リング上では無駄に激しい戦いが繰り広げられていた。
「おい、お前ら」
「あ? …社長、待ってな…今、ケリを…つけるから、よ」
「いや、話し合いで、と言ったじゃないか。 もうやめろ」
「…不本意では…ありますが…こうなった以上は、やめられません…」
「えーっと…」
「絶対…ハンバーグぅっ……」
「…白いご飯に…味噌汁…」
練習後の疲れた体にも関わらず実戦並みの…いや正に実戦か。 どうにも話を聞く気は無いらしい。
「えっと…井上クンどうしようか?」
こめかみに手をあて呆れ顔の彼女は私を含めた全員に言った。
「…各自出前じゃ駄目なんですか?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「………そういう手もあるね」
リングの上の5人がその場に崩れ落ちた。
余談になるが、食堂のカレーは予想通り残らなかった。 今度から食堂の人員を増やす事にしようと思う。
(終)
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