忍者ブログ
数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
[70]  [69]  [68]  [67]  [66]  [65]  [64]  [63]  [62]  [61]  [60
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 (桂と陽子とノゾミ)



 註・言い訳がましいですが、書くことから離れていたせいかうまく書けないので短いです。 ご容赦ください。

拍手


 揺れる車内。
 ガタンゴトンと線路の音が聞こえるとつい外を見てしまう。
 あの赤い風景がそこに見えるような気がして…

「どしたん? はとちゃん。 なんかあった?」
「ううん、なんでもないよ、陽子ちゃん」
 でも今いる電車はあの時とは全然違う、周りには多くのお客さんがいて人の息吹がある。 それに時間帯も違う。 まだ日は高い。
 今わたしは陽子ちゃんと街へお買い物へと向かう電車の中。
「もうすぐ夏だよねー」
 そう言って陽子ちゃんは手でひらひらと扇ぐ。 車内なのでそんな暑くはないけど、気持ち的なものなのかもしれない。
「そうだね、最近少し暑くなってきたもんね」
「こりゃーあれよ。 地球温暖化ってやつよね。 はとちゃんもエコロジーしなきゃダメよー?」
「わたしは普段からエコロジーには気をつけてるよ?」
 冷暖房は控えめ、電気水道も控えめに。 ついでに車内なので携帯電話はマナーモード。
「ふっ」
「陽子ちゃん、何かな? その『あんたはやっぱり甘ちゃんね』みたいな笑いは何かな?」
「あんたはやっぱり甘ちゃんね」
「わ。 陽子ちゃんやっぱりひねりなし」
 以前にもした掛け合いだけど、陽子ちゃんの態度はやっぱり変わっていなかった。
「と言うか、そこでそういうこと言われるのがわからないんだけど?」
「はとちゃんみたいなおボケの気をつけてるなんてたかがしれてる、って言いたいのよ」
 それは冤罪に当たりませんか?
「そういう先入観で勝手に人を決め付けるのはよくないよ、陽子ちゃん」
「でもあながち間違っていないのではなくて?」
 不意に肩口から声がかかる。
「そんなことないよっ。 わたしはちゃんと気をつけてるよっ」
「どしたん、はとちゃん? 私何も言ってないんですけど?」
「全く。 本当桂は私に恥をかかせるのね。 しっかりしなさいな」
「うう…」

 肩口からかかった声の主はノゾミちゃん。 ふわふわと宙に浮いている。 とは言え風船とかではなくて、その正体はなんと『鬼』なのである。
 去年の夏にいろいろあって、今はわたしの携帯のストラップに『憑いている』のである。

 それはいいのだけれども、いろいろ口うるさく、わたしの都合お構いなしなのはいかがなものかと。

「(ノ、ノゾミちゃんっ。 声かけるなら鈴を鳴らしてって言ったでしょ?)」
「鳴らしたわよ? 桂が気づかなかっただけではなくて?」
 ちなみにノゾミちゃんは鬼なだけあって、普通の人には姿は見えず声も聞こえないらしい。 でもそれってつまりわたしがおかしな独り言を言ってるように見えるということなのです。
「(だって鳴ってないよ?)」
「そんなの知らないわよ。 私はちゃんと鳴らしたわ、桂がぼんやりしてるからいけないのよ」
「はとちゃん、何ぶつぶつ言ってるの? なんか電波来ちゃった?」
 陽子ちゃん、確かに放っておいて悪いとは思うんだけど、それってひどくないですか?
「でんぱって何かしら?」
「(…説明したくないです)」

「はとちゃん」
「何かな、陽子ちゃん」
 急に真面目な顔をして陽子ちゃんがわたしを見る。
「ママさんがいなくなってつらいのはわかるけど、電波を受け取るようになっちゃダメよっ。 つらいことがあるならなんでも相談してくれていいからっ」
「…」
「もちろん私じゃ大して役には立たないかもしれないけど、それでも私たち友達じゃないっ」
 言ってることは嬉しいけど、感謝できないのはなぜなんでしょうか。
「陽子ちゃん、こんな人もいっぱいいる所で電波とか言うのってひどくない?」
「でんぱというのは悪いものなの?」
「そうじゃないけど、この場合は悪い意味で言われてるんだよ」
 って、うっかりそのままノゾミちゃんに言葉を返してしまった。
「はとちゃんっ、しっかりしてっ!」
 そう言うと陽子ちゃんがわたしの肩を持って揺さぶる。
「よ、陽子ちゃんっ。 大丈夫だからやめてやめて」
 首が前後に揺らされてくらくらする。
「桂、どうかしたの?」
「(ノゾミちゃんのせいでしょーっ)」
「私が何をしたと言うの? 桂が気をつけてないのがいけないではなくて?」
「そうだけど、わかってるんだったらもうちょっと気をつかってよーっ」
「はとちゃーんっ。 帰ってきてーっ」



 結局車内でプチ騒ぎを起こし恥ずかしくていたたまれなくなったので、お買い物を中止して帰ることにしました。
「本当大丈夫? はとちゃん」
「大丈夫だよ、陽子ちゃん。 と言うか誤解だから本当に」
「誤解なのかしら?」
「誤解だよっ!」
 …あ。
「…はとちゃん」
「…えっと、今日は調子が悪いので帰るよ。 明日は大丈夫だって本当心配かけてごめんね、陽子ちゃん」
「全く仕様がない子ね、桂は」
「…」

 友達にいらない誤解を与えた、そんな悲しい一日でした。

 一人になった帰り道、
「それで、でんぱって何かしら?」
「…説明したくないです」



(終)
PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
メルフォ
カウンター
プロフィール
HN:
あらた
性別:
非公開
忍者ブログ [PR]