数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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小さな建物。 過去に毎日通った道。 感慨に耽りながら目の前の扉を開く。
狭い建物の中はいくつかの机、書類棚、ロッカー…そして一人の女性。
「久しぶり、霧子くん」
「お久しぶりです、社長」
動き出した時間に自分の心がどうしようもないほどわくわくと高鳴っているのを感じる。
「さて、早速動きたいところだが、WCWWの現状はどういう状態なんだ?」
「はあ…。 それなのですが…」
過去頂点に立ったとは思えない没落ぶり。 シェアは消え去りおよそ地元以外の支持も碌々なく、選手はちょうど私が来る前にまた去ったようで現在1名。 シェアも選手もないために施設は売り払い、コーチも去った、と。
「これはまた…。 もはや1からの出直しと言っていいな…」
「そう、なりますね…」
「残っている1名というのは?」
「ロイヤル北条さんです。 彼女もやめるところだったのですが、私が間に合って説得して留まってもらっています」
「この状態でよく説得できたもんだな…」
「彼女は昔のWCWWを見てた選手なんです。 社長が戻られる、と言って留まってもらったんですよ」
「おやおや、それは見込まれたものだ。 これは返り咲かないといけないな」
「もとよりそのおつもりでしょう?」
「だな」
そう言って二人で笑いあう。
「幸い異動の間にコーチを学んだから、私がコーチもできる。 社長としての仕事もあるので本業のコーチのように複数は教えきれないが、今はこの力が生かせるというのは嬉しいもんだな」
そうして私の女プロ界への殴りこみの時間が再び幕を開けたのだった。
早々に必要だったのは人員。 会長は口を出さないとは言っていたが、やはり結果は出していってこそのフロント。 ただし口を出さない、の一言を盾に早期ではなく長期的プランを練る。
主に新人を集め、数年後の結果を見据えるわけだ。
新人テスト、スカウト等を行い若手を集める。 さらに海外との提携も行った。 新人たちには荷が重い相手ではあるが、若手ではロイヤルの相手はできない。
「ふむ。 社長、就任早々と矢継ぎ早にいろいろと行っておりますが…、うちの経営事情は必ずしもよろしい状態ではなかったと思いましたが?」
「ん? ロイヤル、そこはフロントの仕事さ。 選手はそこまで気にしなくてもいいさ」
「そうですが…またフロント交代、などなられても困りますし。 私には個人的にスポンサーがついておりますので、些少ながら支援していただけますけど?」
「気持ちだけもらっとく…と、言いたいとこだが、ここは甘えておこう。 近いうちに紹介してくれ。 スケジュールは合わせるようにする。 このお礼は数年後、とさせてもらうがね」
「わかりました。 期待してますよ、社長」
さらに新人を集め、見所を感じたマッキー上戸、ラッキー内田の二人を海外へと修行に出させる。 世界のレベルを肌で感じて戻った時身になってることを信じて。
「社長、まだ経営もおぼつかないのに二人を海外へ送るのは…。 よろしいのですか?」
「大丈夫。 あの二人は立派になって帰ってくるさ」
「では行ってまいります」
「社長、あっちで問題起こしたらあたしどうすればいいんだ?」
「問題を起こすなっ!」
「戻ってくる頃にはあなたはヒール転向かしらね」
「なんだと? 喧嘩売るなら買うぜ? 内田」
「行く前から問題起こすなっての…」
ロイヤルを軸に残った選手たちでドサ回りのごとく認知度を高めていく。 営業をしているうちに気づいた。 ロイヤルはなかなか華があっていい、問題はその力をどう世間にアピールするか、だ。 現状提携海外もうちの規模からトップ選手は相手にもしてくれない。 およそ戦えばロイヤルの実力に驚くのだろうが…。
そしてまたたく間に時が流れていく。
「社長、12月です」
「ああ、カレンダーなら見たよ」
「お忘れですか?」
「ん? …あ、ああ。 EXか…」
「はい。 新日本女子よりうちにも出場枠を用意してる、と連絡が来ましたがいかが致しますか?」
「うーん…。 ロイヤルの実力を見せるいい場ではあるのだが…。 いかんせん、彼女はシングルの選手だからなー…。 タッグの経験もないし、急造タッグで参加というのもあちらに失礼だ。 今年は見送ろう」
「そうですね…。 ではそのように」
今は力をつける段階、若手たちが一人前になった時こそうちが表舞台に立つ時だ。 未来を見据えてただ今は地道に行こう…。
私はジムで選手たちに指導しながら、輝く未来絵図を描いていた…。
(終)
狭い建物の中はいくつかの机、書類棚、ロッカー…そして一人の女性。
「久しぶり、霧子くん」
「お久しぶりです、社長」
動き出した時間に自分の心がどうしようもないほどわくわくと高鳴っているのを感じる。
「さて、早速動きたいところだが、WCWWの現状はどういう状態なんだ?」
「はあ…。 それなのですが…」
過去頂点に立ったとは思えない没落ぶり。 シェアは消え去りおよそ地元以外の支持も碌々なく、選手はちょうど私が来る前にまた去ったようで現在1名。 シェアも選手もないために施設は売り払い、コーチも去った、と。
「これはまた…。 もはや1からの出直しと言っていいな…」
「そう、なりますね…」
「残っている1名というのは?」
「ロイヤル北条さんです。 彼女もやめるところだったのですが、私が間に合って説得して留まってもらっています」
「この状態でよく説得できたもんだな…」
「彼女は昔のWCWWを見てた選手なんです。 社長が戻られる、と言って留まってもらったんですよ」
「おやおや、それは見込まれたものだ。 これは返り咲かないといけないな」
「もとよりそのおつもりでしょう?」
「だな」
そう言って二人で笑いあう。
「幸い異動の間にコーチを学んだから、私がコーチもできる。 社長としての仕事もあるので本業のコーチのように複数は教えきれないが、今はこの力が生かせるというのは嬉しいもんだな」
そうして私の女プロ界への殴りこみの時間が再び幕を開けたのだった。
早々に必要だったのは人員。 会長は口を出さないとは言っていたが、やはり結果は出していってこそのフロント。 ただし口を出さない、の一言を盾に早期ではなく長期的プランを練る。
主に新人を集め、数年後の結果を見据えるわけだ。
新人テスト、スカウト等を行い若手を集める。 さらに海外との提携も行った。 新人たちには荷が重い相手ではあるが、若手ではロイヤルの相手はできない。
「ふむ。 社長、就任早々と矢継ぎ早にいろいろと行っておりますが…、うちの経営事情は必ずしもよろしい状態ではなかったと思いましたが?」
「ん? ロイヤル、そこはフロントの仕事さ。 選手はそこまで気にしなくてもいいさ」
「そうですが…またフロント交代、などなられても困りますし。 私には個人的にスポンサーがついておりますので、些少ながら支援していただけますけど?」
「気持ちだけもらっとく…と、言いたいとこだが、ここは甘えておこう。 近いうちに紹介してくれ。 スケジュールは合わせるようにする。 このお礼は数年後、とさせてもらうがね」
「わかりました。 期待してますよ、社長」
さらに新人を集め、見所を感じたマッキー上戸、ラッキー内田の二人を海外へと修行に出させる。 世界のレベルを肌で感じて戻った時身になってることを信じて。
「社長、まだ経営もおぼつかないのに二人を海外へ送るのは…。 よろしいのですか?」
「大丈夫。 あの二人は立派になって帰ってくるさ」
「では行ってまいります」
「社長、あっちで問題起こしたらあたしどうすればいいんだ?」
「問題を起こすなっ!」
「戻ってくる頃にはあなたはヒール転向かしらね」
「なんだと? 喧嘩売るなら買うぜ? 内田」
「行く前から問題起こすなっての…」
ロイヤルを軸に残った選手たちでドサ回りのごとく認知度を高めていく。 営業をしているうちに気づいた。 ロイヤルはなかなか華があっていい、問題はその力をどう世間にアピールするか、だ。 現状提携海外もうちの規模からトップ選手は相手にもしてくれない。 およそ戦えばロイヤルの実力に驚くのだろうが…。
そしてまたたく間に時が流れていく。
「社長、12月です」
「ああ、カレンダーなら見たよ」
「お忘れですか?」
「ん? …あ、ああ。 EXか…」
「はい。 新日本女子よりうちにも出場枠を用意してる、と連絡が来ましたがいかが致しますか?」
「うーん…。 ロイヤルの実力を見せるいい場ではあるのだが…。 いかんせん、彼女はシングルの選手だからなー…。 タッグの経験もないし、急造タッグで参加というのもあちらに失礼だ。 今年は見送ろう」
「そうですね…。 ではそのように」
今は力をつける段階、若手たちが一人前になった時こそうちが表舞台に立つ時だ。 未来を見据えてただ今は地道に行こう…。
私はジムで選手たちに指導しながら、輝く未来絵図を描いていた…。
(終)
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