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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (桂×サクヤ)

 ぎりぎりまでハロウィンネタを考えてたけど出なかったので、もっと後に出そうと思ってたものを…季節先取りすぎかも…

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「雪…」
 サクヤさんの呟いた声で窓の外を見る。 寒い寒いと思っていたら、ちらほらと雪が舞っていた。
「わあ、初雪だね」
 なんか得したような気分で笑顔を浮かべサクヤさんを見ると、遠くを見るような目で呟いた。
「雪は…」

 幼い頃に父を亡くし少し前に母を亡くした天外孤独の私、羽藤桂は母の親友であまつさえ祖母とも親交のあった浅間サクヤさんの助力で相続を片付けていた。 ちょうど夏休みに入っていたこともあり、相続権のある父の実家へと経観塚を訪れ、私が知らないでいたたくさんのことを知ることになった。
 およそ人に話しても理解できないであろう、私の現実。 「鬼」、「贄の血」、「忘れていた過去の一部」…他でもないサクヤさん自身「鬼」と呼ばれる存在であったのだ。 比喩で鬼ではなく、存在が「鬼」

 古の鬼神「主」との壮絶なる戦いの果て、数多の時を生きるサクヤさんと刹那の日々であろうとも過ごしていく日々を私は選んだ。 その初めての冬。

「サクヤ、さん…?」
「…あ? あ、ああ、なんだい桂? 何か言ったかい?」
「今何を言おうとしたの?」
 何のことを言われたのだかわからない、と言った顔を浮かべるサクヤさん。 どうやら無意識の呟きだったのかもしれない。 だけど私にはその続きはなんとなくわかる気がする。

 あの夏に私はサクヤさんの過去を見た。 私の血を吸ったサクヤさんと私の意識が混ざり合ったのかどうか、正確なところはわからないけれど、サクヤさんの悲しい「時」を私は見た。
「…お婆ちゃんと会った時のことなのかな?」
「っ!」
 日本人離れしたサクヤさんの綺麗な顔が歪む。
 「人」に裏切られ「鬼」であるサクヤさんは仲間を失い自身も体も心も傷ついて死を迎えようとしていた。 雪に埋もれ冷たくなる身に温もりが与えられた。 それが遥か昔にサクヤさんが慕っていた長者様の娘さんの面影を残す縁者、お婆ちゃんとの出会い。
「そう…なのかも、ね…。 あたしは何考えてたか自分でわからないけども………雪は、嫌い、かな…」
「なんで?」
「なんで、って…。 桂…あんたはあたしの過去を見たんだろう? まあそりゃ見たと経験したじゃ違うだろうけども…」
 頭をかきながら私の方に向き直りあぐらをかく。 傍目にはモデルのような美人なのに、どうもおじさんくさいのがもったいない。
「違うよ、お婆ちゃんと会ったのは嫌な思い出なの?」
「…ああ…笑子さん…。 そう…そうだね、桂。 あたしが間違ってたか…」
 瞳を潤ませ虚空を見る。 その目はお婆ちゃんを映しているのだろう。


「…って、そうは言うけどね、桂っ。 あたしはあん時死にかけで仲間も何もかも失ってんだよ、笑子さんとの出会いだけでチャラになんかできるわけないさねっ」
「…ああ、それもそうだよね。 ごめんね、サクヤさん」
 私の方が間違っていた。 悲しいことの方が記憶には残るものなのだ。
「私にはそういう出会い、ってなかったから…。 だから大切な人と出会えたことが嬉しいかな、って思っちゃったんだね…」
 申し訳ない気分になる。 そう思ったら外を舞う雪が悲しいものに見えてきた。
 すると、いつの間にか近くに寄っていたサクヤさんの手が私の頭に乗せられる。
「いや。 桂は悪くないよ。 確かに難しいけどそういうことなんだよ、本当は」
「え?」
「悲しい思い出を嬉しい思い出で消してしまえばいいのさ。 思い出を幸せに塗り替えて…」
 けれどそう言って外を見るサクヤさんの顔はまだ憂いていて。 だから私は、
「外行こうっ、サクヤさんっ」
 乗せられた手を取って立ち上がる。
「桂?」
「夕食のお買い物もあるし、一緒に行こうっ」
「あ、ああ…。 待ちな、今クロカンの準備するから…」
「ううん、歩いて。 歩いて一緒に行こうっ」
 小さくよっこらせなんて呟いて立ち上がるサクヤさんの手を持ったまま、私は力説する。
「はあ? 雪も降ってる中荷物抱えて歩くってのかい? 桂は。 今更雪が楽しい年でもないだろうに…」
 コートを片手にし、まだ離さない私の手を上下に振る。 ちょっと強めのサクヤさんの手の振りにがくんがくんと首を揺らされたが、私は手を離さず言った。
「雪を…楽しい思い出にしよう、サクヤさんっ」
「桂…」


 コートを羽織二人外へ出る。 ちらほらと舞う雪の中、傘もささず二人手を繋いで歩き出す。
 微笑を浮かべ、お互いを見つめまた笑う。
「帰る頃に大雪になってたらどうするかねえ…」
「二人とも雪だるまになって帰ればいいよっ」
「はっ。 その発想が桂らしいよ」

 雪を歩く私たち。 ともに歩ける時間はサクヤさんにとって刹那の時かもしれない。 だけど、だからこそ刹那を無限に変えるほどの時を。

「ああ、でも桂は雪だるまにはなれないかねえ」
「どうして?」
 胸元を覗き込み唇の端を上げて笑う。
「その胸じゃ雪が滑り落ちていくってもんさね」
「そっ! そりゃサクヤさんに比べたらの話でしょーっ! そ、それに本当に雪だるまになんかなるわけないじゃないっ」
「自分で言ったことじゃないさ、あははは」

 笑顔で。 笑顔を残して。 幸せな時間を過ごして。

「お、お母さんはそれなりだったもんっ。 わ、私だって…」
「ふふふ、そうだね。 桂もまだまだこれからさね」

 会えて幸せだったことを精一杯、あなたに届けたい。 いつか別れが訪れるとしても。


 あなたといる時間は私の幸せな時間だと。




(終)
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