数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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過去女子プロレスブームというものがあった。
世間がリングに立つ少女たちを天使と呼び、マスコミにおいても映画や写真集など天使たちの姿を見ないことはなかった。
その火付け役となったのが新日本女子プロレスという団体とそこでリングの女王として女プロ界の代表とも言える存在だったパンサー理沙子。
後を追うようにして天使ではなく戦士でありたい選手、筆頭にサンダー龍子置いて集めたサバイバル路線のWARSが立ち上げ、世間を賑わせていた。
当時私はとある巨大コンツェルン傘下の企業で働いていたのだが、どういう過程かはわからなかったが、大抜擢により新興団体の経営を任された。 世間を賑わす市場をほうっておくわけにはいかなかったのは当然で、他にも新興団体はあったと思う。 会社は違うが同コンツェルン傘下の会社からも人材は送られてきた。 私には社長という地位、彼女は秘書。 お互い大抜擢なのは変わらなかったと思う。
かくして業界に殴りこみといった感じで四苦八苦しながらも、数年後業界トップの位置まで上り詰めたが、そこでその手腕を買われ今度は男子の方へと移動を要請された。 拒んだものの再三の要請にも疲れ、団体に変化も必要かと思うようになって結局異動した。 秘書の彼女も本社へと戻ったらしい。
だがその結果、私のせいか新社長のせいか選手の大量離脱を招き、折りしも女プロの人気自体が落ちてきていた。 WCWWは名前だけを残すインディー団体へと落ちていった。
その事実に私はフロントにいる自信を失い、またもっと選手理解を深めたいと男子プロレスにおいてコーチ業へと異動した。
日々選手たちと触れあい、指導することで当時わからなかったことが少しわかるようになった、そう感じるようになっていた。
そんなある日のことだった。
いつものようにジムへと向かう途中で、目の前にリムジンが止まった。 ドアが開く。
「どうぞ」
中から少女の声が聞こえてきた。 唐突な出来事に戸惑ったものの思い当たるものがあった。
「…会長…です、か?」
「ご存知なら話は早そうです。 どうぞお乗りくださいー」
幼いとは聞いていたが、想像以上に幼かった。 けれど年齢に似つかわしくない強引さ、威圧感に負けリムジンへと乗る。
「では出してください」
走り出すリムジン。
「どこへ行くのですか?」
「それについては話終わってから、にいたしましょうー。 まずはお詫びを」
「お詫び?」
まだあどけない少女は大きな目をこちらに向ける。 その目は会長としての威厳に満ちている。
「まあ、私のとこにまでなかなか話というのは回ってこないせいで、今のような状態になっているわけでして。 あなたの異動はコンツェルンの意思ではなかったのですよ」
「なんですって?」
「簡単に言うならば身内人事というやつです。 当然すでに責務を払っていただきましたが」
確かに正直不思議ではあった。 男子への異動は業界トップになって早々の話で、タイミングとして理解しがたかった。
「あなたとしては不本意でこちらへの不信・不満もあるかと思いますが、再び戻り再生へと協力していただけないでしょうか?」
そういうと目の前の少女は深々と頭を下げる。
「あ、いやいや頭を上げてください、会長。 …けれどそのお話は受けることができません」
「ええ、ここで二つ返事で受ける方ならお任せできませんねー」
顔を上げるとにこっと笑う。
「…試したわけですか?」
「そうではありませんようー。 ただ仰いたいことは少なからずわかるつもりです。 今のコーチの件などですね?」
「そうです。 私にはすでに担当している選手たちがいます。 彼らを見放すのであれば私は前と同じことをすることになるからです」
「その件につきましては、あなたを通さず失礼ではありましたが、すでに選手のみなさんに話だけはさせていただきました」
「…」
「またコーチの後任としてすでに3人ほど確保させていただいてます」
「私には戻る場所がない、ということですか?」
彼女が私を見る。 強い光を放つ目で。
「そうではありません。 けれど、失礼を承知で言わせていただきますが、確保しているのはあなたより実績のあるコーチです。 選手たちには問題ありません。 またあなたはすでに社長として実績を上げている。 適所にて活躍していただきたい、との願いです」
ムッとはするものの、確かに私はコーチとしてまだ一流というわけではない。 上の人間として言ってることは間違いでもないだろう。
「当然こちらからも最大限のバックアップはさせていただきます。 あなたとしても不満な点があるのはわかりますが、戻ってやってみたいこともあるかと思ったのであなたに初めに話をしています」
「?」
「こちらとしてはとばっちりで異動し不満があるであろうあなたでなくても、他の人選の候補もあります。 けれどあなたもまだ団体に対しての愛着はあるかと思いまして」
「…」
確かに、ある。
「ちなみに秘書の方には承諾をいただきましたよ?」
「霧子くんが?」
「ええ、あなたが戻られるだろう、と」
「…」
ふいに運転席との間のガラスがノックされ開く。
「会長、到着いたしました」
「ありがとうございます。 では少々息抜きを致しませんか?」
いつの間にかリムジンは停車していたらしい。 乗りなれていないため気づかなかった。
…息抜き?
「え…っと?」
「どうぞ?」
降りるとそこは、およそ6000人ほど収容のドーム。 目の前には人の列とダフ屋。 そして新日本女子の看板。
「これは…」
「チケットはありますので」
歓声の中、ファンに手を振り花道を歩くパンサー理沙子の姿。 リングには次世代を担うと呼ばれているマイティ祐希子。
「活気あるものですねー。 会場で見るのは初めてですよー」
「ずるいやり方しますね…あなたは…」
「たはは、バレバレですよねー。 けれど一番効果的かと思いましてー」
会長の言う通り、心が奪われてしまっている。 もっと大きな舞台に立つ彼女達の姿が脳裏に見える。 閉まったはずの思い出も駆け抜ける。
「返事は今でなくとも結構ですようー。 また後日に伺いますから」
「霧子くんまでやる気になってて、ここに立ったら、断りようがないじゃないですか…。 やりますよ、やればいいんでしょう」
「ふふ、今度は潰れない限りは横槍は来ませんのでー」
「はは、それは随分とご親切なことで」
リングを舞う天使たちに目を奪われたまま、私の決意は固まった。 戻ろう、ここへ…この世界へ。
Wakasugi Corporation Woman Wrestling 略称WCWW
新たな旅立ちのことで私はすでに頭がいっぱいになっていた…
(終)
世間がリングに立つ少女たちを天使と呼び、マスコミにおいても映画や写真集など天使たちの姿を見ないことはなかった。
その火付け役となったのが新日本女子プロレスという団体とそこでリングの女王として女プロ界の代表とも言える存在だったパンサー理沙子。
後を追うようにして天使ではなく戦士でありたい選手、筆頭にサンダー龍子置いて集めたサバイバル路線のWARSが立ち上げ、世間を賑わせていた。
当時私はとある巨大コンツェルン傘下の企業で働いていたのだが、どういう過程かはわからなかったが、大抜擢により新興団体の経営を任された。 世間を賑わす市場をほうっておくわけにはいかなかったのは当然で、他にも新興団体はあったと思う。 会社は違うが同コンツェルン傘下の会社からも人材は送られてきた。 私には社長という地位、彼女は秘書。 お互い大抜擢なのは変わらなかったと思う。
かくして業界に殴りこみといった感じで四苦八苦しながらも、数年後業界トップの位置まで上り詰めたが、そこでその手腕を買われ今度は男子の方へと移動を要請された。 拒んだものの再三の要請にも疲れ、団体に変化も必要かと思うようになって結局異動した。 秘書の彼女も本社へと戻ったらしい。
だがその結果、私のせいか新社長のせいか選手の大量離脱を招き、折りしも女プロの人気自体が落ちてきていた。 WCWWは名前だけを残すインディー団体へと落ちていった。
その事実に私はフロントにいる自信を失い、またもっと選手理解を深めたいと男子プロレスにおいてコーチ業へと異動した。
日々選手たちと触れあい、指導することで当時わからなかったことが少しわかるようになった、そう感じるようになっていた。
そんなある日のことだった。
いつものようにジムへと向かう途中で、目の前にリムジンが止まった。 ドアが開く。
「どうぞ」
中から少女の声が聞こえてきた。 唐突な出来事に戸惑ったものの思い当たるものがあった。
「…会長…です、か?」
「ご存知なら話は早そうです。 どうぞお乗りくださいー」
幼いとは聞いていたが、想像以上に幼かった。 けれど年齢に似つかわしくない強引さ、威圧感に負けリムジンへと乗る。
「では出してください」
走り出すリムジン。
「どこへ行くのですか?」
「それについては話終わってから、にいたしましょうー。 まずはお詫びを」
「お詫び?」
まだあどけない少女は大きな目をこちらに向ける。 その目は会長としての威厳に満ちている。
「まあ、私のとこにまでなかなか話というのは回ってこないせいで、今のような状態になっているわけでして。 あなたの異動はコンツェルンの意思ではなかったのですよ」
「なんですって?」
「簡単に言うならば身内人事というやつです。 当然すでに責務を払っていただきましたが」
確かに正直不思議ではあった。 男子への異動は業界トップになって早々の話で、タイミングとして理解しがたかった。
「あなたとしては不本意でこちらへの不信・不満もあるかと思いますが、再び戻り再生へと協力していただけないでしょうか?」
そういうと目の前の少女は深々と頭を下げる。
「あ、いやいや頭を上げてください、会長。 …けれどそのお話は受けることができません」
「ええ、ここで二つ返事で受ける方ならお任せできませんねー」
顔を上げるとにこっと笑う。
「…試したわけですか?」
「そうではありませんようー。 ただ仰いたいことは少なからずわかるつもりです。 今のコーチの件などですね?」
「そうです。 私にはすでに担当している選手たちがいます。 彼らを見放すのであれば私は前と同じことをすることになるからです」
「その件につきましては、あなたを通さず失礼ではありましたが、すでに選手のみなさんに話だけはさせていただきました」
「…」
「またコーチの後任としてすでに3人ほど確保させていただいてます」
「私には戻る場所がない、ということですか?」
彼女が私を見る。 強い光を放つ目で。
「そうではありません。 けれど、失礼を承知で言わせていただきますが、確保しているのはあなたより実績のあるコーチです。 選手たちには問題ありません。 またあなたはすでに社長として実績を上げている。 適所にて活躍していただきたい、との願いです」
ムッとはするものの、確かに私はコーチとしてまだ一流というわけではない。 上の人間として言ってることは間違いでもないだろう。
「当然こちらからも最大限のバックアップはさせていただきます。 あなたとしても不満な点があるのはわかりますが、戻ってやってみたいこともあるかと思ったのであなたに初めに話をしています」
「?」
「こちらとしてはとばっちりで異動し不満があるであろうあなたでなくても、他の人選の候補もあります。 けれどあなたもまだ団体に対しての愛着はあるかと思いまして」
「…」
確かに、ある。
「ちなみに秘書の方には承諾をいただきましたよ?」
「霧子くんが?」
「ええ、あなたが戻られるだろう、と」
「…」
ふいに運転席との間のガラスがノックされ開く。
「会長、到着いたしました」
「ありがとうございます。 では少々息抜きを致しませんか?」
いつの間にかリムジンは停車していたらしい。 乗りなれていないため気づかなかった。
…息抜き?
「え…っと?」
「どうぞ?」
降りるとそこは、およそ6000人ほど収容のドーム。 目の前には人の列とダフ屋。 そして新日本女子の看板。
「これは…」
「チケットはありますので」
歓声の中、ファンに手を振り花道を歩くパンサー理沙子の姿。 リングには次世代を担うと呼ばれているマイティ祐希子。
「活気あるものですねー。 会場で見るのは初めてですよー」
「ずるいやり方しますね…あなたは…」
「たはは、バレバレですよねー。 けれど一番効果的かと思いましてー」
会長の言う通り、心が奪われてしまっている。 もっと大きな舞台に立つ彼女達の姿が脳裏に見える。 閉まったはずの思い出も駆け抜ける。
「返事は今でなくとも結構ですようー。 また後日に伺いますから」
「霧子くんまでやる気になってて、ここに立ったら、断りようがないじゃないですか…。 やりますよ、やればいいんでしょう」
「ふふ、今度は潰れない限りは横槍は来ませんのでー」
「はは、それは随分とご親切なことで」
リングを舞う天使たちに目を奪われたまま、私の決意は固まった。 戻ろう、ここへ…この世界へ。
Wakasugi Corporation Woman Wrestling 略称WCWW
新たな旅立ちのことで私はすでに頭がいっぱいになっていた…
(終)
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