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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (2年目~3年目)

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「うりゃあーっ」
「くっ、せいっ」

「…」
 正直言葉がない。 長く海外遠征に出していたマッキー上戸・ラッキー内田をそろそろデビューさせたい、と思って呼び戻し、ジムでどれだけ力をつけたか見させてもらったのだが…。
 まさかこんなに力をつけていたとは…。
「ふふ、これは…私も完璧に打ちのめす、とはいかなそうですね…」
 隣で見ていたロイヤルもその言葉以上にあせりを感じる。 それもそうだろう、ほぼ同じレベルになっている。 およそロイヤルも苦戦は必至であろう。
 小会場でのメインを考えていたが、こうなってくると話は違う。 業界やファンへのサプライズを起こせば、一気に流れがうちに来る。 これはフロントの勝負どころ、か…。

「霧子くん、GWAのフロントにアポを取ってくれ。 日が決まったら連絡を、私はこれからアメリカに行ってくる」
「え、社長? カードや会場は?」
「戻り次第すぐに行う。 とりあえず来月はフロントとして勝負することになった。 あと宣伝の手配も頼むよ」
 私の言葉に霧子くんも緊張する。
「わかりました。 早急に手配します」


 翌月寸前のスポーツ新聞にこのことは掲載された。
『デビュー戦がタイトルマッチ! WCWWの隠し玉がGWAタッグタイトル戦』

 負けてもおよそ問題はない。 が、問題は負け方だろう。 これがマスコミやファンの考えるところに違いない。 しかし…


 カンカンカンッ!
『3カウントっ! デビュー戦の新人二人がなんとGWAタッグベルト戴冠ーっ!』
 大方の予想を覆すデビュータイトル戦勝利。 当然この勢いでこの年のEXにも参加。 残念ながら3位に終わったが、まだデビューしたばかりにも関わらずパンサーやサンダーと渡り合い、他団体・ファンに鮮烈なものを与えたことだろう。
 事実ここからうちは一気にファンが増えていく。

 この二人の快進撃によりロイヤルや他の選手の知名度も相対的に上がり、それまでドサ周り的であった興行が、3倍以上の集客に至りフロントの勝負は大成功となった、と言えよう。
 中堅どころとして活躍してたコスレスラー富沢、ヒールらしさが売りの村上には写真集やCDなどの芸能界からの声もかかりだす。 そしてさらに別のファン層がつき、完全に流れを手に入れた。
 上手くいきだすといい流れは続くもので、翌年早々にラッキーがGWAヘビーのベルトを奪う。

 そして夏。 これが最大の流れと言えるだろう。 あきらかに業界内で乗りに乗っていたうちを潰そうと考えたのだろう。 出る杭をうつのは常套手段だ。
「社長っ」
 珍しく霧子くんがあせりの表情を浮かべやってくる。
「どうしたんだい?」
「それが…先ほど新女から電話があって…」
「うん? EXはまだ先だろうに…」
「いえ…。 パンサー理沙子のアジアヘビー級ベルトに挑戦しないか、と…」
「なんだって!?」
「ジューシーペア参戦要請です…」
「なるほど…わざわざ今売り出し中のジューシーを挑戦者にして叩き潰そう、しょせんうちは新女以下、というアピールか…」
「…まあ、そうでしょうね。 断っておいた方がいいでしょうか?」
「すでに引けないよ、霧子くん。 こんなネタ、あちらさんがマスコミに流してないわけもないだろう。 おそらく数日以内に来るよ」
「そう、ですね…。 ではどう致しますか?」
「とりあえず二人を呼んでくれ」

「なんだい? 社長ー。 また海外とか冗談はやめてくれよな?」
「ちょっとあなた、いいかげんまず話を聞くってこと覚えなさいよ」
「それがだな…」
 先ほど霧子くんと話した予想を含めて二人に話す。
「おーおー。 バカにされたもんだね、あたしら」
「それで社長はどうお考えなのですか?」
「こんなもん引いたらうちはこの業界でやっていけない。 当然受ける」
「そうこなくっちゃなっ、社長っ!」
 得たり、とばかりに喜ぶマッキー。 実にこいつはわかりやすい。
「いいか、これはただの軍団抗争じゃあない。 ある意味うちの勝負どころになる。 ポイントはシングルだ。 どっちが出る?」
 まあ普段の二人を見る限り予想はつくが…。
「んー…じゃあここはうっちーに任すか」
「え?」
「お?」
 予想だにしなかったマッキーの言葉にラッキーも私も驚きを隠せない。
「珍しいな…。 絶対自分、と言うかと思ったが…」
「私も…そう、思ったんだけど…」
 するとマッキーがニヤリと笑う。
「ああ、うちのファンだって向こうさんだってそう思うだろうさ。 だからうっちーじゃねえか」
「ふむ」
「みんなあたしが出ると思ってるからあたし対策してるつーの。 実際問題今のあたしじゃちょいきつい。 ただの引き立て役にされかねねー。 その点うっちーなら予想外な上にテクニシャンだからな、そうはならねー」
 思わず私も笑みを浮かべる。
「おもしろい。 本気で奪うつもりだな?」
「当たり前だろっ。 バカにしてる向こうさんの鼻へし折ってやらねーとなっ」
「私、が…」
「なんだよ、うっちー。 いけんだろ? 本当はあたしがやりたいんだぜ?」
 そう言ってマッキーがとん、とラッキーの肩をつく。 振り返るラッキーの目が変わっていた。
「ええっ」
「よしっ、お前たち。 時間は短いが特訓といくかっ。 やれるだけのことはやっておこうっ!」
「おうよっ!」
「はいっ!」

 そして翌月の代々木体育センター。 8000人の観客の前でその瞬間が訪れた。 第4代アジアヘビー級王者、ラッキー内田の誕生だ。

 うちだけでなく、業界全体にジューシーペア旋風が巻き起こっていったのだった。



(終)
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