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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (19年目)

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 カンカンカンッ

 新日本ドーム満員札止め。 駆け付けた大勢のファンの歓声が鳴り響く、それに混じってすすり泣く声も結構な数聞こえてくる。 ファンにはわかっているのだ、これが彼女の最後の挑戦であったことが


 10代後半頃からリングに上がっていた。 その頃と言うとジャスティスとライジン、シャイニングに恵理の四つ巴の戦い真っ最中であった。 一段階上手の彼女らにただ負け続けながらも腐らず黙々と練習を続けていた
 やがて恵理が引退し、シャイニングがフリー宣言をして離脱。 ジャスティスとライジンの二人にかろうじて食い下がると言ったその戦いぶりにファンが沸いた。 健闘ぶりが評価されたのかまだ二人の下でありながらもプロレス大賞を受賞する。 これが彼女の何かの転機になったのであろうか、ここから彼女の伝説は始まることとなる

 誰もがどうしても勝てなく最長在位となったジャスティスのWCWWヘビー級王座を奪取。 一般的な評価値では負けていて通常興行では結構負けているにもかかわらずタイトルマッチで負けない。 後の話にはなるが、ジャスティスの在位記録を大幅に塗り替えることとなる。 タイトル奪取を境界線にジャスティスもライジンも見てわかるほど衰え始め、入れ替わりにJrたちが劇的に台頭してくる。 しかし彼女なりのこだわりだったのであろう、Jrにヘビーのベルトは渡さないと勝ち続ける
 すでにJrでありながら彼女と同等に力をつけていたJr勢は幾度となく挑戦するも敵わず。 そんな彼女たちも引退するものも出て新たな世代が上がってくる…それが今日のリングでもあった
 ここまで、実に10年連続のプロレス大賞受賞である

 時には負け続け我慢の時間だった。 時には相手のいない時期もあった。 時には熾烈すぎる激闘の日々であった。 そして6冠王者へと上り詰めそのことごとくを防衛し続け、誰言うともなく「リングの女王」として君臨した
 その強さ無双にして驕らず、常に自分と戦い、またファンへの感謝も忘れず。 まさに手本にして唯一の存在

 パンサー理沙子。 彼女が何よりも重いと言った団体のベルトを取られて、今回が2回目の挑戦。 29歳の彼女にとって、自分への最後の挑戦だったことは誰の目にも明らかだった
 サイドロープにもたれフレイアが勝ち名乗りを受けるのを見上げている。 その目はゴールを迎えていた。 ファンの多くは彼女との別れがついに来たのだと泣いているのであろう

 するとフレイアがマイクを取った
『理沙子さん』
 理沙子には珍しく退場すらせずぼんやりとしていた。 あっという顔をしてリングを出ようとする
『理沙子さん、勝手に終わらないでいただけます?』
 ゆっくりと理沙子が振り返る
『まだあなたの腰には残ってるものがありましてよ。 例えその価値が今日のベルトに値しなくとも、それには価値があることをお忘れじゃなくて?』
 そう言ってフレイアが理沙子に手を伸ばす。 もちろん今ここに他のベルトがあるわけではない。 フレイアの意図がわからず理沙子が考えているとフレイアが腕を引っ張り彼女を立たせる
『まだ、まだあなたのゴールはここではないですわ。 区切りではあるでしょう。 私はずっとあなたの背中を見続け追いかけてきた。 そして今日の試合も決して楽ではなかった、結局ぎりぎりの勝利ですわ』
 自嘲するように軽くフレイアが笑う
『私こんなことを言うキャラじゃありませんことよ? フフッ。 …確かに今日あなたからバトンは受け取りました。 残りがいつまでかはわかりませんけれど、渡したバトンに間違いはなかったかこのリングで見ていってくださいな』
 そう言うと彼女の手を取り勝ち名乗りのように上げる。 驚いた顔の理沙子に、さらにフレイアは顔を近づけキスをした
『新女王からキスを差し上げましてよ、フフフッ』
 
「はははっ」
 思わず声に出して笑っていた。 いろいろとフレイアらしい理沙子へのリスペクトだ。 最後のキスは彼女流の照れ隠しだろう
 もう年齢も年齢だ、理沙子も近いうちに引退を口にするだろう。 それでも、そうそれでもまだ今日ではない。 そういうことだ

 キスをされた理沙子は顔を赤らめながらも笑っていた。 ドームの大スクリーンに彼女のはちきれんばかりの眩い笑顔と溢れだした涙が映し出されていた…

 つられる様にフレイアも笑う、私も会場のファンも。 そして同様に涙を浮かべる。 偉大なリングの女王の雄姿にリスペクトして



 後日、予想できていたことではあるが、フレイアと理沙子のキスのシーンが雑誌などに載り大騒動を巻き起こすことになる。 が、それはまた別の話…



(終)
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