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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (19年目)

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 先日の興行でのフレイアの理沙子へのキスが雑誌に載って結構な騒ぎになった。

 私やフレイアを知っている者であるならばわかると思うのだが、あれは別に愛情を意味するものではない。 まぁ親愛はあるであろうが、自分らしさを取り戻すための悪戯だろう。 が、まぁその時も予想できていたが同性愛と受け取りいろいろなところが取り上げることになる
 ここまでならたいした問題ではなかったのだが…いや問題あったかな? 山ほど来たインタビューに対してフレイアの答えが煽りになった。

「あれはそんな気でしたことではありませんわ。 女王としての挨拶ですわね。 …まぁ、理沙子さんならお相手してもよろしいですけど」


「…本当あの子ったら…」
 理沙子が疲れた顔をして団体ビルに来る。 最近はひたすらマスコミやファンに追い掛け回されているらしい。
「ああ、理沙子。 ご苦労さん…。 いやでもしょうがないってのもあるだろう。 フレイアのキャラクター的にも、な」
「それで追い掛け回される身にもなってください、社長。 ファンの子にまで『私も理沙子様になら~』とか言われる始末ですよ?」
 ため息をつきながら更衣室へと向かおうとする。 その後ろ姿に、
「それは前からでは…」
 つい言ってしまった。 だが実際こう言っているファンを見たことはある。
「社長」
「いやでもね。 こういうのは熱が冷めるのを待つしかないでしょう、実際」
「引退間近でこんなことになるなんて…」
 そう言って深いため息をつく。
「で、だね、理沙子くん。 実は今ジムに行くのもやめた方がいいんだ」
「は? …ジムにまで何か来てるんですか?」
「えーっと、それについてとフレイアについてとどっちを聞きたい?」
「両方ですね。 あの子がどうかしました?」
「そこをどっちかに…」
「両方話してください、社長?」
 笑顔で理沙子が迫る。 この笑顔に何度負けてきたか…霧子くんといい怖いからやめてくれないだろうか


 少々マスコミやファンが過熱し始めた頃にフレイアを呼んで聞いてみた
「なんであんなこと言ったんだ? フレイア」
「あら、社長にもわからないことがありまして?」
 嬉しそうに笑顔を向ける。 考えてることを言い当てるとすぐ不機嫌になるが、逆だとこのように嬉しそうにする。 フレイアは見た目のイメージに比べ案外子供っぽいところがある。
「キスはまぁ…悪戯のようなものだろうけど、こんな騒ぎにすることはなかったんじゃないのか? お前も追い掛け回されてるだろう」
 少し不機嫌な顔になる。 キスのことを言い当てたからか? と思ったらそんなことではなかった。
「そうですわね、キスは別にたいしたことではありませんわ。 けれど本当におわかりになりませんの?」
 真面目な顔になってフレイアが言葉を続ける。
「正直うちは理沙子さんが全てでしたわ。 結局この前の試合もぎりぎりで新女王なんて恥ずかしくて名乗れません」
「いやそんなことは…」
「最近JWIが勢いあります。 ベルトも奪い返しにこれないというのにですわ。 実際いらっしゃっても私が対戦するには値しませんけれど」
「は? JWI?」
 確かにJWIは最近凄く力をつけている。 しばらく前にフロントではかなりの戦いがあった。 TWWAとの契約問題や新人選手の争奪などなど…
「なぜ力をつけているか、簡単なことです。 向こうはゴールデンでテレビ放送していてうちはしてないからですわ」
「いやそれは…」
「別にテレビ放送をしてほしいということではありませんわ、社長。 私もまだ芸能活動よりはこちらの方がやりがいがありますし、私ならいつでもそちらは行かれますから」
「たいした自信だな…」
 とは言え事実ではある。 これまでも何冊か写真集が発売され相当の売り上げを出しているし、しばらく前の映画も好評だった。
「それはともかく、理沙子さんが抜ければその影響力ははかりしれませんわ。 ずっと大賞を取り続けてきた『リングの女王』、先日のあんな試合では理沙子さんの評価を上げただけで私はむしろ評価を下げましてよ」
 意外に冷静に見ているフレイアに驚く。 どうも私はいまだ新人気分で見ていたかもしれない、思わず苦笑した。
「『女王』が消えて勢いの落ちたところをテレビ放送に乗ってJWIに持って行かれかねません。 ですのでうちに目を向けさせるためにちょっと煽らせていただいただけですわ」
「フレイア、お前…」
「まだまだ私の相手としては不足ですけれど、祐希子さんや桜井さんが着実に力をつけています。 うちは理沙子さんがいなくなってもこれまで以上の試合をしてみせます、そのためにはテレビ放送していない分この程度の話題作りはあった方がよろしいかと」
 新女王、か…頼もしいな
「ま、とは言え理沙子さんには少々ご迷惑になって申し訳ありませんけど…。 まぁ女王としての最後の仕事と思っていただくしかないですわね」
「はははっ、まぁ理沙子なら平気だろう。 今までだって『お姉さまーっ』って言われてたんだしな」
「まぁ社長ったら。 私だって言われてますわよ?」
「お前のは男にだろ。 理沙子は女の子にだからな」


「…あの子も自覚できてきてたんですね……。 そんなに団体のことが考えられるように…」
 理沙子が嬉しそうに瞳を潤ませる。
「ああ、正直私もまだまだと勝手に見ていたが、もう十分団体の柱として自覚持ってたんだな。 ま、女王の最後のライバルだしな?」
「ふふふっ」
 理沙子が笑いながら流れそうになっていた涙を拭う。
「それはそれとして社長? 私は女の子、ってのはどういう意味かしら? 男性ファンだって私にもいますよ?」
 そう言ってまた笑顔になる。 どうしてこのタイプは笑顔で怒るんだ。 霧子くんで慣れた、と言いたいところだが霧子くんも理沙子もいまだ慣れない…。
「それはだな…」


 正直フロント側にも連日取材の電話対応などでげんなり気味ではある。 まぁこれも仕事と諦めて対応しているものの、疲れているのは事実。 そんな中コーチはいい気分転換だ、とジムへと向かう。
 と、練習時間だと言うのに選手たちがいない。 見回すと端のベンチにみんな集まって話している。
「おーい、お前たちっ、もう練習時間だぞ。 ストレッチもしないで何をしてる」
 言いながら近づくと祐希子を中心に件の記事をみんなで見ている。

「理沙子さんならお相手してもよろしいですわ、だぁってっ!」
「んー、でも理沙子さんとフレイアなら美人同士で結構ありかも?」
「ええーっ!? 小縞さんっ、そんなことないですよーっ」
 祐希子が声をあげて反論する。
「だいたいですね、理沙子さんの美人とフレイアさんの美人は違いますよっ」
「うきゅ? どう違うのさね?」
「そ、それはー…理沙子さんはお姉さまでフレイアさんは女王様?」
「女王対女王になっちゃう?」
「そうじゃなくてそうじゃなくてっ。 理沙子さんはそんなフレイアさんみたいにやらしい感じではないですよっ」
「…くだらん」
 いい加減付き合いきれないといった感じで突き放した桜井だったが
「何よ桜井っ! フレイアさんみたいなモデル体型だからって調子に乗るなーっ」
「意味がわから…ちょ、や、やめろっ! どこ触ってるっ!?」
「私だってキスくらいできるんだからーっ」
「え、ちょ、まっ、やめ…っ」
「おおー」
「いあいあソニちゃん、おおー、じゃないから…」
 あれ、どうしようこれ。 なんかもう止めようがない感じに…。
「ぷはっ。 そうよっ、ソニックっ! あなただって小縞さんに勝ってキスしないとダメだよっ! そうじゃないといつまで経っても上には行かれないよっ!?」
 キスというよりは呼吸を奪われたという感じで桜井がその場に崩れ落ちる。 かわいそうに…。
「ちょちょちょちょっとっ! 祐希子何言ってるのっ!?」
「むー。 だったら私はフレイアさんよりいっぱいキスするのさねっ」
「ちょっとちょっとちょっとっ! 何言ってるのっ、ソニちゃんっ!?」
 小縞が物凄い勢いで窮地に陥っている。 それも間違いなくとばっちりだ。
「あー、えーと、君たちー…」
「うううーっ。 こうなったら私だってフレイアさんよりもっと強烈なキスを…っ。 そうだ! 次のWARSヘビーは私が対戦できるはずっ!!」
 まあ、祐希子は理沙子に憧れてうちに入ったから刺激が強かったかな…。 ぼんやり現実逃避気味にそんなことを考えていた。
「なら私は小縞さんからWCWWJr取ったらにするさね!」
「えええーっ!?」
 小縞ももう25でそろそろソニックを倒すのはきつそうだなー…。
「あっ、社長っ! 次! 次の理沙子さんの3冠は私が挑戦するわよっ!」
「いやお前、それは…」
 言いかけたところで胸倉を掴まれる。
「わ・た・し・が・や・り・ま・すっ!!」
「はい」


「…という状態でな」
「という状態でな、じゃないでしょっ、社長っ!!」
 普通に怒られた。 笑顔で怒られるのも怖いが結局怒られると怖い。
「いやだってお前、祐希子目が怖いんだもん…。 それに実際桜井か祐希子の予定だったろ…お前も言ってたじゃないか…」
「そんなおかしな状態で試合できますかっ!」
「えー…いちおーその後物凄い勢いで試合に向けて練習はしていますが…」
「社長っ!!」



 その後東海・関西チャンピオンシリーズでJWIとWARSは防衛した理沙子であったが、寿総合文化ホールにてNJWPを祐希子に奪われ強烈なキスを受けることとなる。

 ちなみに小縞はこれを受けてか、すでに全盛期を過ぎてきびしい中ソニックがこの件を忘れる1年後までWCWWJrを防衛し続けた。


 まったくもって何がモチベーションになるかなんてわからんものだと考えさせられた、と後に引退した理沙子に言ったらいつもの笑顔でひっぱたかれた。



(終)
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