数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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訪れた夜のとばり、見え始めた煌く数多の星、その中に薄く光る青い宝玉。
「ノゾミちゃんっ! これっ、これならっ!?」
「…桂」
「これだったら平気なんじゃないのかなっ!? ねえっ!」
流れる涙もいとわずに、必死にわたしに問いかけてくる。
目の前で振られる宝玉に目を向ける。 確かに呪力を、そして『力』を感じる。 けれど…、
「…あなたわかっているの? 鬼を永らえさせて…」
「ノゾミちゃんは鬼なんかじゃないよっ!」
強い否定に驚く。
「ううん、鬼かもしれないけど…鬼じゃないっ。 だって、だってっ…」
何を言っているのかわからない。 だけど、心地よかった。 凄く心地よかった。
「桂」
「消えちゃだめだよっ。 ノゾミちゃんっ」
「…わかったわ」
もう充分だったけど、充分な時を過ごしたけど、まだ消えられない理由はできた。
こんなにも誰かに懇願されたことはなかった。
こんなにも望まれたことはなかった。
わたしは初めて必要とされた。
わたしが『人』として生きていた時、わたしが『鬼』として過ごしてきた時、わたしが求め続けたのはただ、ただひたすら『自由』であった。
だけど、ずっと一人だったからわからなかった。 親の顔を知らず、妹の顔も知らず、主様もミカゲも相槌しかくれなかったからわからなかった。
自分以外の感情をぶつけられることを
こんなにも愉快なこととは、こんなにも………幸せな気持ちになることだとは。
だからわたしは消えるわけにはいかない。 わたしはまだ満足していないのだから。
浅はかで愚鈍な、けれどいとおしく暖かいこの娘がわたしを必要とするのだから。
その時を共に過ごそう。
依り代となる宝玉に意識を延ばし、魂を送る。 依って立つ力場に崩れかかっていた魂が安定を取り戻していく。
そして、中にあった『力』は魂へと運ばれ、わたしは…現世に残った。
「ノゾミちゃんっ!?」
桂からすればわたしの姿は消え失せたようにしか見えないことを忘れていた。 泣き喚く桂にあわてて声をかける。
『落ちつきなさいな、桂っ。 わたしはちゃんといるわっ』
「…ノゾミ、ちゃん?」
『全くもう、ちゃんと人の話はお聞きなさいな。 わたしはわかったと言ったでしょう?』
「うう…ごめんなさい…」
『今現身を出すから』
そう言って力を具現化していく。
「ノゾミちゃんっ!」
形になったと同時に桂が抱きついてくる。 触れられている場所が暖かい。 桂の髪、桂の手、桂の身体…全てが心地よい。
ゆっくりとわたしも桂に触れる。 ゆっくりと桂の背中に手を回す。 抱きしめる。
今まで血を貰う時に人を抱いた事はあった。 だけど違う、そしてなぜかわかる。 わたしは、今、初めて、人を抱きしめた、と。
暖かい、暖かい、暖かい…温もりが魂に染みてゆく。
「ノゾミちゃん…」
「桂…」
しばらくそうしていたが、しなければならないこともある。 それにわたしには時間ができた。 また抱きしめる事はできる。 名残惜しい気持ちはあったが、桂の体からゆっくり離れる。
「桂、わたしが依ったせいで宝玉の力が無くなってしまったわ。 すぐに『力』をこめなければいけないの。 わかるわね?」
「あ、うん。 わたしの血が必要なんだね、うん、いいよ、吸って?」
「いいこね。 大丈夫、痛くはしないわ」
首筋へと顔を近づける。 桂の甘い香りが鼻をくすぐる。 その瞬間を恐れ緊張する桂の頬に手を回す。
「…大丈夫よ」
そのわたしの手に桂が手を重ねる。 もう片方の手で肩を掴む。 そして白くやわらかい肌に歯を立てた。
「んっ」
ほんのわずかな滴から、溢れるような『力』が宝玉に流れていく。
…うん、もう充分。
そっと歯を離す。 わずかに傷ついた肌を舐める、『力』をこめて。
「ひゃっ」
やってみるのは初めてだが、うまく傷を消せた。
「あれ? もういいの?」
「ええ、もう充分よ。 別に『力』はまだ入るのだけれど、今はこんなところでいいでしょう」
「大丈夫? なんだったらもっと吸っても…」
「あなたさっきわたしとミカゲに吸われた事をわかっていて? わたしのことより少しは自分のことも心配なさいなっ」
「あ、そっか」
「全く仕様のない子ね」
「…だって、ノゾミちゃんさっきまで消えそうだったわけだし。 わたし心配で…」
桂の言葉がわたしに響く。 温もりを与える。 だけど、わたしはどうすれば、どう応えるべきなのかよくわからない。
「もう大丈夫よ。 心配ならいらないわ」
うまく伝えられない。 もどかしい気分ではあるが、いずれできるようになるだろう。 時を経て、多くを語り合ううちにわかるだろう。 そう、思う。
そうなれば今度はわたしが桂に温もりを与える事ができるだろう。 そう考えると楽しかった。
わたしはノゾミ。 果てなく続く新たな望みは今桂とともにある。
(終)
「ノゾミちゃんっ! これっ、これならっ!?」
「…桂」
「これだったら平気なんじゃないのかなっ!? ねえっ!」
流れる涙もいとわずに、必死にわたしに問いかけてくる。
目の前で振られる宝玉に目を向ける。 確かに呪力を、そして『力』を感じる。 けれど…、
「…あなたわかっているの? 鬼を永らえさせて…」
「ノゾミちゃんは鬼なんかじゃないよっ!」
強い否定に驚く。
「ううん、鬼かもしれないけど…鬼じゃないっ。 だって、だってっ…」
何を言っているのかわからない。 だけど、心地よかった。 凄く心地よかった。
「桂」
「消えちゃだめだよっ。 ノゾミちゃんっ」
「…わかったわ」
もう充分だったけど、充分な時を過ごしたけど、まだ消えられない理由はできた。
こんなにも誰かに懇願されたことはなかった。
こんなにも望まれたことはなかった。
わたしは初めて必要とされた。
わたしが『人』として生きていた時、わたしが『鬼』として過ごしてきた時、わたしが求め続けたのはただ、ただひたすら『自由』であった。
だけど、ずっと一人だったからわからなかった。 親の顔を知らず、妹の顔も知らず、主様もミカゲも相槌しかくれなかったからわからなかった。
自分以外の感情をぶつけられることを
こんなにも愉快なこととは、こんなにも………幸せな気持ちになることだとは。
だからわたしは消えるわけにはいかない。 わたしはまだ満足していないのだから。
浅はかで愚鈍な、けれどいとおしく暖かいこの娘がわたしを必要とするのだから。
その時を共に過ごそう。
依り代となる宝玉に意識を延ばし、魂を送る。 依って立つ力場に崩れかかっていた魂が安定を取り戻していく。
そして、中にあった『力』は魂へと運ばれ、わたしは…現世に残った。
「ノゾミちゃんっ!?」
桂からすればわたしの姿は消え失せたようにしか見えないことを忘れていた。 泣き喚く桂にあわてて声をかける。
『落ちつきなさいな、桂っ。 わたしはちゃんといるわっ』
「…ノゾミ、ちゃん?」
『全くもう、ちゃんと人の話はお聞きなさいな。 わたしはわかったと言ったでしょう?』
「うう…ごめんなさい…」
『今現身を出すから』
そう言って力を具現化していく。
「ノゾミちゃんっ!」
形になったと同時に桂が抱きついてくる。 触れられている場所が暖かい。 桂の髪、桂の手、桂の身体…全てが心地よい。
ゆっくりとわたしも桂に触れる。 ゆっくりと桂の背中に手を回す。 抱きしめる。
今まで血を貰う時に人を抱いた事はあった。 だけど違う、そしてなぜかわかる。 わたしは、今、初めて、人を抱きしめた、と。
暖かい、暖かい、暖かい…温もりが魂に染みてゆく。
「ノゾミちゃん…」
「桂…」
しばらくそうしていたが、しなければならないこともある。 それにわたしには時間ができた。 また抱きしめる事はできる。 名残惜しい気持ちはあったが、桂の体からゆっくり離れる。
「桂、わたしが依ったせいで宝玉の力が無くなってしまったわ。 すぐに『力』をこめなければいけないの。 わかるわね?」
「あ、うん。 わたしの血が必要なんだね、うん、いいよ、吸って?」
「いいこね。 大丈夫、痛くはしないわ」
首筋へと顔を近づける。 桂の甘い香りが鼻をくすぐる。 その瞬間を恐れ緊張する桂の頬に手を回す。
「…大丈夫よ」
そのわたしの手に桂が手を重ねる。 もう片方の手で肩を掴む。 そして白くやわらかい肌に歯を立てた。
「んっ」
ほんのわずかな滴から、溢れるような『力』が宝玉に流れていく。
…うん、もう充分。
そっと歯を離す。 わずかに傷ついた肌を舐める、『力』をこめて。
「ひゃっ」
やってみるのは初めてだが、うまく傷を消せた。
「あれ? もういいの?」
「ええ、もう充分よ。 別に『力』はまだ入るのだけれど、今はこんなところでいいでしょう」
「大丈夫? なんだったらもっと吸っても…」
「あなたさっきわたしとミカゲに吸われた事をわかっていて? わたしのことより少しは自分のことも心配なさいなっ」
「あ、そっか」
「全く仕様のない子ね」
「…だって、ノゾミちゃんさっきまで消えそうだったわけだし。 わたし心配で…」
桂の言葉がわたしに響く。 温もりを与える。 だけど、わたしはどうすれば、どう応えるべきなのかよくわからない。
「もう大丈夫よ。 心配ならいらないわ」
うまく伝えられない。 もどかしい気分ではあるが、いずれできるようになるだろう。 時を経て、多くを語り合ううちにわかるだろう。 そう、思う。
そうなれば今度はわたしが桂に温もりを与える事ができるだろう。 そう考えると楽しかった。
わたしはノゾミ。 果てなく続く新たな望みは今桂とともにある。
(終)
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