数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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シュパッと風を切る音、衝撃。
…なるほど、これは痛い。 自分で言った事とは言え痛いものは痛い。 そもそもちゃんと鍛えている烏月さんが倒れ、起きなかった一撃なわけで、わたしに至っては何をか言わんや。
「桂さんっ」
駆け寄ってくる心配そうな顔の烏月さん。 ああ、そんなつらそうな顔をしないで。 烏月さんのおかげでわたしは大丈夫なんだから。
「う…ううぅっ、い、痛っ、あっ」
「大丈夫かい、桂さんっ」
烏月さんがわたしを抱き上げてくれる。 烏月さんは今にも泣き出しそうな顔を浮かべていて。 …だから、痛いけどわたしは言わなければならない。
「う、ぅう、烏月、さ、ん」
重くてなかなか上がらない腕を持ち上げ、烏月さんの手に重ねる。
「あり、が、とう」
言えた。
「桂さん…」
とりあえず言えた。 末期の台詞みたいになっちゃったけど、これが精一杯。 ごめんね、あとは起きてからいっぱい言うから、今はとりあえず休ませて…。
「それにしても烏月さん、本当にありがとうっ」
あれから羽様の屋敷で目覚めた後、わたしは烏月さんにずっとお礼を言っていた。
「桂さん、さっきからそればかりだよ。 それに桂さんのためだけではなく、私のためでもあったのだから当然のことをしただけだよ」
「…でも、あの『鬼切り』を立て続けに2回もやるのは大変だったでしょう?」
「うん?」
ケイくんの中にいた時に体験している。 体力・気力がごっそりと抜け落ちる感覚。
「凄い疲れるでしょう? それなのにわたしのために…」
「さっきから言っている通り、私のためでもあったのだからつらくはなかったよ。 むしろ桂さんの方が心配だった」
「どうして?」
「桂さんのような普通の人に『鬼切り』を振るって大丈夫なのか、と。 鬼だけを切るとわかっていても、少し不安だった」
「平気。 烏月さんを信じてたから」
「…ありがとう」
目を細めて嬉しそうに言う烏月さん。
いけない、お礼を言うのはわたしの方なのに、なぜかお礼を言われている。 いつも通りと言うか、情けない自分の会話能力。
これからは一人で頑張っていかなければならない身なのだから、もっとしっかりしなければ…。
「桂さん?」
「は、はいっ?」
考えてるそばからこの始末。 お母さん、不肖の娘をどうか見守っていてください。
「さて…話はつきないけれど、そろそろもう一つの約束を果たそうか」
気を遣ってくれたのか、烏月さんは話を変える。
「もう一つの約束?」
なんだったっけ?
「ああ。 ここからでは聞こえないけれど、そろそろ町の方では祭囃子が聞こえる時間じゃないかな」
「あっ、お祭りっ」
外はもう日も暮れかかっている時間。 言われてみれば今日お祭りがあると聞いていた。
「とは言え、サクヤさんもまだ動けないし。 私も顔を出しづらい立場ではあるのだがね」
「どうして?」
「いや、太刀を持って動くのに便利だと思って、祭りの関係者と言っているんでね。 いささか申し訳ないかと」
「いいんじゃないかな? オハシラサマを奉ってきた、と言えばさ」
部屋の入り口から声がかかる。 見るとケイくんが立っていた。
「行ってきなよ。 サクヤさんは僕とゆー…オハシラサマで診ているから」
「だが…」
「君は行きたいよね?」
とケイくんはわたしの方を見て言う。 その目は、わたしに頷いてと言ってるように見えた。 …もしかしたらわたしが行きたいだけだったのかもしれない。
サクヤさんも心配だけど、さっき聞いた話だとあとは休養が必要なだけで心配ないらしいし。 烏月さんとはもうすぐお別れだし…。
「うんっ。 じゃあお言葉に甘えて、行ってこようかな」
「桂さん?」
「なんだったら今夜は旅館に泊まってくるといい。 帰りにバスはなくなっているだろうし、サクヤさんは車を出せないからね」
「うん、わかった」
烏月さんはじっとケイくんを見つめて言った。
「いいのか?」
「…ああ」
「………わかった。 では行く事にしよう」
「じゃあ行こうっ、烏月さん」
勢いよく立ちあがるわたしに、烏月さんが優しい笑顔で言う。
「それじゃあ桂さん、着替えようか」
「えっ? …あっ!?」
なるほど、約束…しました。
ーーー
「うわー、綺麗ー」
探してみたらお婆ちゃんかお母さんが着てた物と思われる浴衣が出てきたので、烏月さんにも着てもらった。 わたしだけ浴衣というのも寂しいし、何より烏月さんの浴衣姿を見たかった。
綺麗なんだろうな、とは思っていたけど、想像以上に綺麗だった。
わたしの着ている浴衣と同じ物のようだけど、着こなした感じがあって多少青みが増している。
長く艶やかな黒髪をアップに纏め、襟足からのぞくうなじは同性のわたしから見ても凄く色っぽい。 普段から姿勢がいい事も合わさって、わたしと同じ年代とは思えない艶っぽさである。
「烏月さん、本当に綺麗ー」
「そんな…。 桂さんの方が綺麗だよ」
いえいえ、馬子にも衣装なわたしとは違います。 正に眼福。
「じゃあ行こうっ」
「ああ」
サクヤさんの部屋へ行くと、サクヤさんは眠っていて、ケイくんが水を換えていた。
「…やあ二人とも見違えたね。 とてもきれいだ」
「あ、あはは…。 ユ、ユメイさんは?」
「今の時間はまだ、ね」
「あ、そうか」
「行ってらっしゃい。 楽しんでくるといい」
「うん。 ごめんね、任せちゃって」
「いや、気にしないで。 いろいろ迷惑かけた罪ほろぼし…にもならないな」
「そんなことないよっ」
「まあこっちのことは任せて、早く行ってきな」
「うん。 ありがと、ケイくん」
「…」
そして二人でカラコロとつっかけつつバス停へと向かった。
(続く)
…なるほど、これは痛い。 自分で言った事とは言え痛いものは痛い。 そもそもちゃんと鍛えている烏月さんが倒れ、起きなかった一撃なわけで、わたしに至っては何をか言わんや。
「桂さんっ」
駆け寄ってくる心配そうな顔の烏月さん。 ああ、そんなつらそうな顔をしないで。 烏月さんのおかげでわたしは大丈夫なんだから。
「う…ううぅっ、い、痛っ、あっ」
「大丈夫かい、桂さんっ」
烏月さんがわたしを抱き上げてくれる。 烏月さんは今にも泣き出しそうな顔を浮かべていて。 …だから、痛いけどわたしは言わなければならない。
「う、ぅう、烏月、さ、ん」
重くてなかなか上がらない腕を持ち上げ、烏月さんの手に重ねる。
「あり、が、とう」
言えた。
「桂さん…」
とりあえず言えた。 末期の台詞みたいになっちゃったけど、これが精一杯。 ごめんね、あとは起きてからいっぱい言うから、今はとりあえず休ませて…。
「それにしても烏月さん、本当にありがとうっ」
あれから羽様の屋敷で目覚めた後、わたしは烏月さんにずっとお礼を言っていた。
「桂さん、さっきからそればかりだよ。 それに桂さんのためだけではなく、私のためでもあったのだから当然のことをしただけだよ」
「…でも、あの『鬼切り』を立て続けに2回もやるのは大変だったでしょう?」
「うん?」
ケイくんの中にいた時に体験している。 体力・気力がごっそりと抜け落ちる感覚。
「凄い疲れるでしょう? それなのにわたしのために…」
「さっきから言っている通り、私のためでもあったのだからつらくはなかったよ。 むしろ桂さんの方が心配だった」
「どうして?」
「桂さんのような普通の人に『鬼切り』を振るって大丈夫なのか、と。 鬼だけを切るとわかっていても、少し不安だった」
「平気。 烏月さんを信じてたから」
「…ありがとう」
目を細めて嬉しそうに言う烏月さん。
いけない、お礼を言うのはわたしの方なのに、なぜかお礼を言われている。 いつも通りと言うか、情けない自分の会話能力。
これからは一人で頑張っていかなければならない身なのだから、もっとしっかりしなければ…。
「桂さん?」
「は、はいっ?」
考えてるそばからこの始末。 お母さん、不肖の娘をどうか見守っていてください。
「さて…話はつきないけれど、そろそろもう一つの約束を果たそうか」
気を遣ってくれたのか、烏月さんは話を変える。
「もう一つの約束?」
なんだったっけ?
「ああ。 ここからでは聞こえないけれど、そろそろ町の方では祭囃子が聞こえる時間じゃないかな」
「あっ、お祭りっ」
外はもう日も暮れかかっている時間。 言われてみれば今日お祭りがあると聞いていた。
「とは言え、サクヤさんもまだ動けないし。 私も顔を出しづらい立場ではあるのだがね」
「どうして?」
「いや、太刀を持って動くのに便利だと思って、祭りの関係者と言っているんでね。 いささか申し訳ないかと」
「いいんじゃないかな? オハシラサマを奉ってきた、と言えばさ」
部屋の入り口から声がかかる。 見るとケイくんが立っていた。
「行ってきなよ。 サクヤさんは僕とゆー…オハシラサマで診ているから」
「だが…」
「君は行きたいよね?」
とケイくんはわたしの方を見て言う。 その目は、わたしに頷いてと言ってるように見えた。 …もしかしたらわたしが行きたいだけだったのかもしれない。
サクヤさんも心配だけど、さっき聞いた話だとあとは休養が必要なだけで心配ないらしいし。 烏月さんとはもうすぐお別れだし…。
「うんっ。 じゃあお言葉に甘えて、行ってこようかな」
「桂さん?」
「なんだったら今夜は旅館に泊まってくるといい。 帰りにバスはなくなっているだろうし、サクヤさんは車を出せないからね」
「うん、わかった」
烏月さんはじっとケイくんを見つめて言った。
「いいのか?」
「…ああ」
「………わかった。 では行く事にしよう」
「じゃあ行こうっ、烏月さん」
勢いよく立ちあがるわたしに、烏月さんが優しい笑顔で言う。
「それじゃあ桂さん、着替えようか」
「えっ? …あっ!?」
なるほど、約束…しました。
ーーー
「うわー、綺麗ー」
探してみたらお婆ちゃんかお母さんが着てた物と思われる浴衣が出てきたので、烏月さんにも着てもらった。 わたしだけ浴衣というのも寂しいし、何より烏月さんの浴衣姿を見たかった。
綺麗なんだろうな、とは思っていたけど、想像以上に綺麗だった。
わたしの着ている浴衣と同じ物のようだけど、着こなした感じがあって多少青みが増している。
長く艶やかな黒髪をアップに纏め、襟足からのぞくうなじは同性のわたしから見ても凄く色っぽい。 普段から姿勢がいい事も合わさって、わたしと同じ年代とは思えない艶っぽさである。
「烏月さん、本当に綺麗ー」
「そんな…。 桂さんの方が綺麗だよ」
いえいえ、馬子にも衣装なわたしとは違います。 正に眼福。
「じゃあ行こうっ」
「ああ」
サクヤさんの部屋へ行くと、サクヤさんは眠っていて、ケイくんが水を換えていた。
「…やあ二人とも見違えたね。 とてもきれいだ」
「あ、あはは…。 ユ、ユメイさんは?」
「今の時間はまだ、ね」
「あ、そうか」
「行ってらっしゃい。 楽しんでくるといい」
「うん。 ごめんね、任せちゃって」
「いや、気にしないで。 いろいろ迷惑かけた罪ほろぼし…にもならないな」
「そんなことないよっ」
「まあこっちのことは任せて、早く行ってきな」
「うん。 ありがと、ケイくん」
「…」
そして二人でカラコロとつっかけつつバス停へと向かった。
(続く)
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