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 (桂と葛)

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 葛ちゃんがわたしのクラスメートになって、しばらく経ったある日の事。

「はとちゃーん、帰ろー」
「あ、うん」
 自分の机でぼんやりとしていたら、陽子ちゃんが声をかけてきた。 横にはお凛さんもいる。
「あれ? 子供いないね?」
「あ、うん。 葛ちゃんは先に帰ったんだけど…。 陽子ちゃん、葛ちゃん、だってば。 まだそんな呼び方して…」
「いーのよ。 子供で充分でしょ。 誰がどー見たって子供なんだし」

 数分前、

「では桂おねーさん、申し訳ありませんが、今日もお先に失礼させていただきますね」
 授業が終わったと同時に帰る準備をしている葛ちゃんが言う。
「今日も? 昨日も一緒に帰ってないよね? どうかしたの?」
「現在の状況を劇的に変化させるでしょう悪魔のようなプロジェクトが、目下資材搬入まで進行しているわけなのですよ」
「……悪魔のような? 小悪魔のようなじゃないの?」
「小悪魔で済むような生易しいものではないので」
 そう言って笑う葛ちゃんは悪魔と呼ぶにはかわいいと思うのですが。
「それではおねーさん。 快適な生活をお送りするために、申し訳ありませんが失礼させていただきますね」
「葛ちゃん、ホームルームまだだよ?」
「いえいえ、お構いなくー」
 そう言ってあっという間に教室を出て行く。

 以上回想終わり。

「珍しい事もあるのですね。 羽藤さんにべったりだと思っていたのですけど」
「まあうっとうしいのがいなくていーじゃない」
「陽子ちゃんっ」
「はいはい。 でもあの子いるとお凛が2人いるみたいでイヤなんだよねー」
「それはどういう意味かしら? 奈良さん」
「さ、はとちゃん、さっさと帰ろ」
「あはは…」

 車でお出迎えのお凛さんと校門で別れ、陽子ちゃんと街を歩いてたら、携帯が鳴った。
「あ、陽子ちゃん、ごめん。 電話」
「うそん、はとちゃん。 あたし電話してないんですけど?」
 陽子ちゃんの茶々を無視して電話を取る。
「もしもし?」
『あ…千羽烏月と申しますが、羽藤桂さんでいらっしゃいますか?』
「あ、烏月さんっ」
「うおっ、烏月って言うとアレだな! あのたまに会いに来る美人だなっ!」
 人の電話に絡んでくるのは失礼だと思うのです。 マナーは大切に。 わたし羽藤桂は乗り物ではマナーモードを心がけています。
『やあ桂さん。 久しぶり』
「どうしたの? こっちに来てもらえるのかな?」
『いや…その逆でね。 しばらく沖縄に行かなくてはならなくなって、それを伝えようかと思って電話したんだ』
「そうなんだ…」
 余程声に出てたのだろう。 烏月さんはとりなすように言ってくれる。
『用が済み次第顔を出させてもらうよ。 …それじゃあ桂さん、また』
「うん、気をつけてね」
『ああ』

「あらら、はとちゃん。 フラれちゃった?」
「違うよっ。 …烏月さん、しばらく来られないって」
「うんうん、かわいそうなはとちゃん。 わたしが愛してるから心配いらないわよ」
「もう、陽子ちゃんてば」

ーーー

 翌朝、教室に入るなり陽子ちゃんが抱きついてきた。
「はとちゃんっ。 わたし達離れ離れになってもずっとこの愛は変わらないからねっ」
「わ。 よ、陽子ちゃんっ!? どうしたの?」
 見ると陽子ちゃんは涙目だった。
「離れ離れ、って?」
「実は昨日帰ったら、急に引っ越すって話聞かされて…」
「ええっ!?」
「お家の方のご都合だそうで」
「それは大変ですねー」
「ううっ、はとちゃん、わたしのこと忘れないでねっ。 ずっとずっと愛してるからねっ」
「ううぅっ、陽子ちゃーん」
 突然すぎる別れの話にわたしは泣き出してしまった。

 その日の帰り、陽子ちゃんとも別れ一人家へと向かっていたら、携帯が鳴った。
「もしもし?」
『ああ、桂かい? あたしだよ』
「あ、サクヤさん」
『ちょっとしばらく顔出せそうになくなったんでね。 連絡しとこうかと思ってさ』
「へ?」
『いやね、海外で蝶を撮ってくるっていう仕事なんだけど、やたらと報酬がよくってね。 土産になんかリクエストはあるかい?』
「…」
『桂?』
「サクヤさんもいなくなっちゃうんだ…」
『なんだい、『も』ってのは?』
「うん、烏月さんはお仕事でしばらくこれないって連絡あったし、陽子ちゃんは急に引っ越すことになっちゃったし…」
『葛は?』
「あ、葛ちゃんはいるよ。 今日もわたしが落ちこんでたから、泊まりにきてくれるって言ってたし」
『…』
「サクヤさん?」
『あたしの仕事、今日突然入ったんだよねえ…』
「?」
 それがどうかしたのだろうか。 何を言っているのかわからない。
『最近葛の様子が変だった事はないかい?』
「別になかったけど…。 あ、何か悪魔のようなプロジェクトとか言ってたことはあったけど、葛ちゃんがどうかしたの?」
『フ、フフ、やってくれるねえ………あのガキっ!』
「え? サクヤさん?」
『桂っ、今どこだいっ? 今すぐ…』
「あれっ? サクヤさん?」
 電話が切れた。 見ると圏外になっている。
「あれ? なんで?」
 家の近くで圏外になったなんて初めてだ。

 なんだか不安が高まる。
 世界で一人になってしまったような喪失感。
 お母さんが亡くなってしまった時のような寂寥感。

 これからわたしはどうしたら…




「どーかしましたか? 桂おねーさん」
「わ、葛ちゃん!?」
 ぼんやりと立ち止まっていた所に、唐突に声をかけられ驚く。
「はいです。 若杉葛でございます。 そんなに驚かれました?」
「う、うん。 突然だったから」
「でもおねーさん、こんな所でぼんやりしてたら車に轢かれちゃいますよ?」
「あ、うん。 そうなんだけど、携帯が圏外になってて…。 なんでかな? この辺りで圏外になるなんて今まで無かったのに…」
「さあ…。 この辺りだけ地磁気が乱れているのでは?」
「チジキ?」
「はい。 読んで字のごとく地の磁場ですね」
「それが乱れてると携帯が繋がらないの?」
「そうですねー。 一般に通信などに影響を与える、と言われてますねー」
「そうなんだー」
「なんか元気ないですね、桂おねーさん。 大丈夫ですか?」
 くりくりしたかわいい大きな目がわたしを見つめている。 そうだよね、わたしはひとりぼっちではない。 葛ちゃんもいるし、皆だってしばらくすればすぐまた会える。
「ううん、大丈夫。 ありがと、葛ちゃん」
 だから一応年上のわたしは精一杯の元気で葛ちゃんに応える。
「桂おねーさん…大丈夫、わたしがついてます」
 わたしの手を両手で握り優しい目をして言ってくれる。
「葛ちゃんは優しいね」
「…ええ。 桂おねーさんには」
「え?」
「いえ、なんでもありません。 ささ、おねーさんの家に向かいましょう」
 2人手を取り合って家に向かって歩き出した。



「ごちそうさま」
「ごちそーさまです」
 夕食を食べ終わり、2人でお茶を飲む。
「あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「うん。 さっきね、葛ちゃんに会う前サクヤさんと携帯で話してる途中で切れちゃったんだけど、家の電話からなら通じるよね?」
「あー…、でもお仕事で海外なんでしょう? 今ごろは空の上でお休み中では?」
「ああ、そうか…」
 時差対策は睡眠のタイミング次第、と誰かが言っていたような。 …あれ?
「わたし葛ちゃんにサクヤさんが海外に仕事で行く、って話してないよ?」
「…。 いえいえ、先ほど桂おねーさんが電話で話しているのを聞いたのですよ。 お話中だったので、声をかけられなかったのですが」
「あ、そうなんだ」

 と、突然ピーッと音が鳴る。 でもわたしの携帯ではない、ということは…、
「あはは、すいません。 わたしのようですね」
「あ、気にしないで」
「では失礼して。 …わたしです」
 葛ちゃんが取り出したのは携帯ではなく、トランシーバーのような見た目の物。 ああ、携帯じゃないからあんな音だったんだ。
 話し出した葛ちゃんの顔色が変わる。
「逃がしたっ!? 何をやっているんですかっ、あなた達はっ!」
 わたしより年下と思えない厳しく冷たい叱責の言葉。 よくわからないが、何かあったらしい。
「目的地はわかっています。 すぐに全員こちらに集めてください。 今の人数では足りないかもしれないですから」
 こちら?
「桂おねーさん、今からドライブと参りましょう」
 話を終えると葛ちゃんはわたしにこう言った。
「えっと…どうかしたの?」
「『鬼』がこちらに向かっているようなのです」
 葛ちゃんの裏の顔(?)、鬼切頭としてのトラブルらしい。 葛ちゃんが話してくれないのでわたしはよく知らないのだけど、鬼退治のお仕事らしい。
「…えっと、どうして?」
「それは…ええ…鬼切頭のわたしを狙っているのですよ。 嫌われてますから、わたしは」
「ええっ!? たいへん、逃げなきゃっ!」
「そうなんですよ。 おねーさんまで巻き込んで申し訳ないのですが…」
「そんなの構わないよっ。 それより早く逃げないとっ」
 そう言うと、葛ちゃんははたして余裕なのか、満足そうに笑って言った。
「そうですね。 桂おねーさん、早く逃げましょうー」

 外に出るとおっきな黒い車が停まっていた。 それを見て葛ちゃんがため息をつく。
「はあ…役に立たない部下を持つと苦労しますね。 これでどうやって逃げるんですか」
「どうかした?」
「隠密と言う言葉があるように、逃げる時は如何にして目立たないか、は基本じゃないですか。 なのにこんな目立つ車を用意して」
「でも速そうだよ?」
「ですから、目立たなくて速い車を用意するのが当たり前だと言いたい訳です。 でもま、仕方ないですね、事は一刻を争いますから」
 2人して車に乗りこみ、車は走り出す。
「ところで葛ちゃん、どこに逃げるの?」
「そうですねえ…」

ーーー

「うわー。 わたしこんな所初めて来たよー」
 家からかなり離れた豪華なホテルのスイートルーム。 テレビで見た事ならあるが、実際に来る日が訪れようとは思わなかった。
「さすがに疲れましたねー。 今夜はもう休みましょうか」
 わたしの手を握る手の力が弱い。 横を見ると葛ちゃんは眠そうにふらふらしている。 あまり見ることないけど年相応のその様子はとてもかわいい。
「そうだね。 でもその前にお風呂に入ろ?」
「え? いや…今夜はいいですよ。 なんだったら桂おねーさんだけでもどうぞ」
「だめだよ葛ちゃん。 お風呂はちゃんと入らなきゃ」
 離れようとした手をしっかりと掴み直し、お風呂場へと連行。
「うわー、お代官様ご勘弁をー。 義朝公も湯殿で殺されちゃったんですよー」



「あー、さっぱりした」
「そうですねー」
 入る前はごねていた葛ちゃんだが、どうやらお風呂が嫌いという訳ではないらしい。
 備え付けのガウンを着てみるが、ちょっとわたしや葛ちゃんには大きすぎの様子。 仕方がないので、来た時の服を着る。 着の身着のままで来たのだから仕方ない。

「おやおや着替えくらい用意してなかったのかい?」
 と、突然声がかかる。 聞きなれた声。
「サクヤさんっ!」
 部屋のソファーにサクヤさんがぐったりした様子で座っていた。
「…どうして…」
 葛ちゃんが呟く。 確かになんでここにサクヤさんがいるんだろう?
「あたしの鼻は特別でね」
「…一応コロンを付けた囮も動いているはずなんですが」
「逆効果だね。 あんなに匂いが残ってるわけないんだよ」
「…なるほど。 つくづく使えない者達ですね。 機転のきの字も見つからない」
 2人の会話についていけない。
「2人とも何言ってるの?」
「さあ? 葛に聞いてみればどうだい?」
 葛ちゃんは窓の外を見て押し黙っている。 外の様子を伺っているのだろうか。
「あのね、サクヤさん。 今葛ちゃん、鬼から逃げてる所なんだよ」
「へええー」
 どこまで人の話を聞いてるのか生返事で返しつつ、サクヤさんは葛ちゃんを見る。
「それはたいへんだねえ。 じゃああたしが守ってあげるよ」
 葛ちゃんがサクヤさんを睨む。
 突然鬼とか言っても信じられないだろうけど、あーゆー態度はよくないと思うのです。 葛ちゃんがムッとするのはよくわかる。
「本当なんだよ、サクヤさん」
「別に嘘ついてるなんて思ってないさ。 あたしもこの部屋で休ませてもらうから心配ないって。 なあ葛、問題あるかい?」
「………こうなっては仕方ないですね」





 翌日学校に行くと陽子ちゃんがいて、引越しは中止になったとの事。 2人で抱き合って喜んだ。

 そして帰り、今日一日落ちこんでいた葛ちゃんだったが、別れ際、
「桂おねーさん、わたしはあきらめませんからっ」
 そう言って走っていってしまった。

「何を?」
 何がなんだかわからないわたしは一人立ち尽くしていた。



 それからさらに翌日。

「あれ? 葛ちゃん何してるの?」
「あ、桂おねーさん。 もうすぐ修学旅行じゃないですか。 奈良・京都の地理を調べているのですよ」
「え? もうすぐ、って…まだまだ一月以上先だよ?」
「いえいえ。 計画は早めに綿密に立てておくものなんですよ? コマの能力も今回で充分わかりましたし」
「え?」
「いえいえ、お気になさらず」
 机にガイドブックや地図を広げ、メモをとる葛ちゃん。
「…そうだよね。 準備は早め早めだね、わたしにも見せて?」
 わたしも『用意周到』をモットーにする身。 葛ちゃんの言葉に考えを改める。

 2人でガイドブックを見ながら話す。
「楽しい修学旅行になるといいね?」
「そうですね。 楽しい旅行にしましょう」
「うんっ」
 笑顔で返す。 すると葛ちゃんも笑顔で、
「今度は失敗はしませんから」
 と言った。
 何の事だかよくわからなくて、首をかしげるが、葛ちゃんは何も言わずに、
「うふふっ♪」
 と微笑んだ。

 それは魅入られてしまいそうなくらいかわいい、小悪魔のような微笑みだった。



(終) 
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