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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (チエとアオイ)

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 アオイに会いに行ったら、例によってマシロ陛下について相談してきた。
 何を話しても反応なし。 けんもほろろな態度に困り果てている様子。 だったら…、

「そっかー、アリカちゃんかー。 ありがとう、チエちゃんっ」
「アオイのためだからね」
「じゃあお礼にー、今日はわたしがご飯を奢るね?」
「お礼? 別にそんなことしてもらう必要はないよ」
 明るい笑顔でそう言ってくれる、それだけで私は充分過ぎるくらいのお礼を貰った。
「いやー、いつもチエちゃんには相談乗ってもらって迷惑かけてるしー。 それにね、いいお店見つけたのっ」
「ほう?」
「すっごい美味しいんだってっ。 これは行かなきゃっ」
 無邪気に語るその様子が年齢よりも幼く、そしてかわいく見える。
「ふうん。 それは行かねば、かな?」
「でしょうー?」
「フフフ」
「アハハハハ」
 かくして私とアオイは2人で街へと向かった。

「でもチエちゃんは凄いよねー。 トリアスNO.1だもんねー」
「いや繰り上がりなだけだから」
 もう日も落ち始める中、アオイお勧めの店に話しながら向かう。
「だけどその前はNO.2でしょ? もうマイスターまですぐだね」
「ま、そうなったらアーミテージ准将の下だから、今よりたいへんだけどね」
「あー…。 あの方の下はたいへんそうだねー…」
 苦笑しつつ私を見る。
「まあ、アオイの方がたいへんかもしれないけどね」
「わたしがたいへんなのは今の内だけだから。 マシロ様もいずれ大人になるわよ」
「でも今はたいへんだろう?」
「アハハ…」
 ふとアオイが城の方を振り返る。
「マシロ様は甘えたいだけなのよ。 本来ならご両親である先王様達に」
「…」
 マシロ女王は先王の娘とは限らない。 喉まで出かかった言葉を飲みこむ。
 そんなことはアオイだってわかっている。 でも公式的にはそうなっているのだから、それでいい。 いずれにせよ、彼女に両親がいないことは確かなのだから。
「…でも、今のままでは大人になる前に…」
 独り言のように呟いた言葉。 アオイの苦悩はわかる。 スラムまで生まれている現状は芳しくない。 あるいは彼女が大人になる時を待たずして…。
「どうしたの、チエちゃん? お店、すぐそこだよ」
「あ、ああ。 少し考え事をね」
「んー? 下の子達でも連れてこようかなって?」
「ははっ、私はそこまでサービスしないよ」

「いらっしゃいませ」
 店はまだ早い時間にもかかわらず、結構な混みようだった。
「申し訳ありません。 只今満席でして、しばらくお待ち頂けますか?」
「あ、はい。 いいよね? チエちゃん」
「ああ」
「………あっ、これは申し訳ありませんっ! パールオトメのチエ様でいらっしゃいましたかっ! 只今席をご用意させていただきますのでっ!」
「あ、え、ええ。 ありがとうございます」
 オトメ候補生への優遇。 それだけオトメを人々が求めていることがわかる。
 混んでいるようだし、せっかくアオイと来ているのだから、いつもなら遠慮するところだが、ここは甘えておくのもいいだろう。 そう、思った。

 だけど…、アオイを見ると、つらそうな困ったような、でも無理につくった笑顔で私を見ていた。
「どうかしたかい、アオイ?」
「う、ううん。 別にどうもしないよ」
 胸の前でアオイは両手を振る。
「私には言えない事かい? なら無理には聞かないけど」
「そうじゃない…。 本当に何でも無いから…」

「お待たせしました」
 先程の店員ではなく、おそらく店長、もしくはオーナーらしき人物の案内で私達は席へと案内される。 他の客に声をかけられ、それに応えながら。

 その間ずっとアオイは顔を伏せて歩いていた。 注目されるのがつらいのか。 でもアオイだって普段は…。

 そこでやっと気付いた。 そう、正に注目されるのがつらかったのだ。
 アオイはマシロではない。 けれどマシロのわがままのすぐそばにいる存在だ。 そしてマシロ程愚かでもいられない。 だから人の目がつらいのだ。
 このような特別扱いが後ろめたい気持ちになる、それをわかってあげれなかった自分が恥かしい。

「やっぱり出ようか?」
 席に案内されると同時にアオイに向かって言う。
「えっ? どうして?」
「それは…、だって…」
「せっかくチエちゃんのおかげで席を用意してもらえたんだから、甘えておこうよ。 それとも何か用事あった?」
 何もなかったかのように振舞うアオイを見るのがつらい。 無理に張りつけた笑顔をされるのがつらい。 …だけど、それを口にするわけにはいかない。
「さーて、何頼もうかー?」
 そう言って、アオイはメニューで顔を隠す。 私にはもう何も言う言葉が見つからなかった…。



「美味しいーっ。 うん、来てよかったねー、チエちゃん」
「ああ、そうだね」
 美味しい? さっきからのせいで私にはもはや味なんかわからない。 だけどアオイがそう言うのだから美味しいのだろう。
「どうしたの、チエちゃん? 美味しくない?」
「いや…」
 いつも通りに振舞うアオイがつらくて、ポーカーフェイスでいられない。 だったらいっそのこと…。
「ねえ、アオイ」
「ん?」
「どうしてそんなつらいのを我慢してまで、マシロ女王に仕え続けるんだい?」
「…」
 目の前の料理へと伸ばしていた手が止まる。
「別に仕事なら他にいくらでもあるだろう? それなのに…」
「どうしたの? チエちゃん。 それにわたし女王陛下に仕えてるのよ? これ以上名誉な仕事は無いわよ」
「でもそのせいでアオイはそんな顔をするようになった」
「そんな顔って?」
「つらいことを押し隠して無理やり笑顔を浮かべたり、つらいくせになんでもないような顔を浮かべたりっ」
「…」
「私はそんなアオイを見るのは嫌だよ」
 そう言うと、アオイは少し俯いて小さく呟いた。
「ありがとう、チエちゃん」
 そして顔を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「でもね。 マシロ様には味方がいないの。 最初からずっと。 だから、せめてわたしは、わたしだけはずっと味方でいるつもりなの」
「どうしてそうまでしてあの女王にっ。 本物とは限らないのにっ」
「…チエちゃん」
 厳しい目でアオイが私を見る。 つい興奮して言うべきではない事まで口走ってしまった。
「…すまない」
「でも…そうね。 だからこそ、かもしれない。 マシロ様はもしかしたら突然皆から突き放されてしまうかもしれない。 だからこそ味方であるのかもしれないかな」
「だけど…だけどっ、アオイの、アオイの味方がいないじゃないかっ」
 もはや溢れ出した感情を止める事も出来ず、私はアオイに感情をぶつける。
「わたしにはチエちゃんがいるから」
 そう言って、アオイはいつもの笑顔で微笑んだ。
「…」
 その暖かい笑顔は、とても美しく、そして優しかった。 それが嬉しく、悲しかった。
 わがままな女王に振りまわされ、民の不満に晒され、王宮においても心安らぐ時もそう無いであろう。 なのに優しさを失わず、こんなにも暖かい。

 だから私は自分に誓う。 アオイが女王に忠誠を誓う以上に、私はアオイを想う。 私がどんな時もどんな事があってもアオイの味方でいる。
 例え離れ離れになろうとも、心は常にアオイの傍らに。



「おいしかったねー」
「…ほとんど味はわからなかったよ」
「もー。 チエちゃんってばもったいないー」
「ハハハ、だからまたどこか行こう。 今度は私が奢るからさ」
 店を出て二人ぶらぶらと歩く。 たわいのない時間。 だけど、私には心安らぐ大切な時間。 願わくばアオイもそうであって欲しい。

 出来るだけ二人でいたくて、わざと人通りを避けて城へと向かう。

「姉さーん。 準備完了ですよー」
「よし、それじゃあ…」
 せっかく人通りを避けたのに何やら声がする。 …どこか聞いた事のある声のような…。
「あ」
「あ」
「ん?」
 ナオだった。 愚連隊まがいのことをしていると小耳に挟んではいたが、正にそのままであった。

 そして…

「すまない、アオイ」
「ううん、いいよ。 チエちゃんもたいへんだね」
 とんでもない事態に早々に寮に戻る必要が出来た。 仕方なく慌ただしくアオイを城へと送る。
「それじゃあ、アオイ、また。 愛してるよ」
「こんな時にふざけないのっ」
 綺麗な笑顔を浮かべ、私を見送ってくれる。

 冗談に乗せた想いは届かない。 わかってはいるが少し切ない。 だけど、言えるだけでもいい。 いずれは言うことすら出来なくなるかもしれない。
「おやすみ」
「うん」

 心でアオイの笑みを、声を想い返し、私は踵を返して寮へと向かった。



(終)
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