数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
さてさて、落語好きの桂おねーさんのために、みんなで落語話をできるだけやってみましょうー。
「できるだけ、なんだ…」
まあ、何かと引っ掻き回す人もいることですし。
「こら、何他人のせいにしてんだい。 いつも引っ掻き回してるのは葛、あんただろ」
「同感ですね」
「今回はちゃんとやろうね」
さて、今回のお題なんですが…。
「何無視してんだい。 それともまた引っ掻き回すつもりかい? 葛」
一応候補は3つ程あったのですが、どれも苦しくて…。
「…どうやらそのつもりのようですね」
でたらめな落語であってもそれはそれで作り手には苦労があるわけで…。
「葛ちゃん何言ってるの?」
「最近お忙しいご様子でしたから…」
と言うわけで、桂おねーさんは狐役で。
「あ、うん。 がんばるね?」
サクヤさんはメインの町人役で。
「あたしかい? 桂じゃないのかい?」
ええ。 たまにはいいかと。 烏月さんは子狐役と料亭のおかみ役で。
「わかりました」
その他及び進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「で、葛ちゃん。 もしかして今回のお題は…」
はいです、桂おねーさん。 王子の狐で。
「狐だったらあんたの方がお似合いじゃないかい?」
「どちらも犬科ですが」
「何と並べてんだい? 烏月」
「別に」
「ちょっと2人とも、まだ始めてもいないのに喧嘩しちゃダメだよ」
「わかったよ、桂」
「すまない、桂さん」
「それじゃあみんな、がんばろうねっ」
「へいへいっと」
「わかりました」
ーーー
王子の稲荷にお参りに来た男。 ふと物陰から聞こえた音に興味を持って、覗きこんでみると狐が女に化ける所であった。
「おや狐がえらいかわいい女に化けたよ。 狐は稲荷の使い姫っていうけど本当だよ。 あれじゃあ化かされるってもんさね。 けど見ちまったからになんてこたない、いっそこっちが化かしてやるかね」
いやらしい笑みを浮かべ男は狐の化けた女へと近寄った
「ちょいお待ち」
「どうしたの? サクヤさん」
「今悪意のある解説があったよ」
考えすぎですよ。 ええ、原典通りですよ。
「…」
「桂、桂」
あたかも誘拐犯のような猫なで声で男が声をかける。
「だからお待ちっ」
なんですか一体?
「ほう…今のあからさまな悪意にシラを切るかい。 葛」
「ま、まあまあサクヤさん。 と、年上なんだしっ」
ま、いくつになっても心の成熟が見られない者も世の中にはいますが。
「困ったものですね」
「あんたらねぇ…」
「ね、ちょっとみんな仲良くやろうよ」
ーーー
「あ、サ、兄ィさん」
「いや、後ろ姿がよく似てたから声かけたんだけどさ。 こんな所で桂に会うとは思わなかったよ。 どうしてこんな所に?」
「ええ、稲荷にお参りに来てね。 天気がいいからそのままぶらぶら歩いてたの」
「そうかい。 あたしも稲荷にお参りに来たんだけどさ。 これも何かの縁だ。 桂、飯でも奢ろうじゃないか」
いよいよ人さらいの様相を呈してきましたね。
「…あんた、たまに真面目にやるとこの扱いかい。 なんか言いたい事があるならはっきり言ったらどうだい」
いいええー、別にー。
「葛ちゃんっ」
おねーさん、すいません。 少々疲れ気味で、つい。
「大丈夫? もううちで休む?」
うぅ…わたしのような招かれざる者にそんな暖かいお言葉を…。
「…白々しい…。 この企画やめた方がいいんじゃないかい?」
「最初から真面目にやる気は無かった気もしますしね」
閑話休題
「え? でもいいの? わたしとじゃ迷惑になるんじゃないかな…」
「そんなことないよ、桂。 あたしはあんたのためなら何でもするさ。 羽藤の血はあたしが守るからね」
「って、え? あの、サクヤさん?」
ちょっとちょっとサクヤさん。 おねーさん連れてどこに行くんですか? 真面目にやるんじゃないんですか?
「人の事は言えない気がしますが」
…何か言いました? 烏月さん。
「…いえ」
ちゃんとやりましょう、みなさん。
ーーー
「ああ、構わないさ。 じゃ、話は決まりだ。 すぐそこに茜屋って小料理店がある。 そこで一杯やりながら話そうじゃないか」
「うん、じゃあよろしくね」
「さ、じゃ行こうか…えぇ、ごめんよっ」
いらっしゃいませー。 どうぞお二人様、お二階へご案内ー。
「桂、二階だってさ。 …ああ、こりゃいい眺めだ。 春霞がかかって、鶯が鳴き…桂、どうぞ上座にお座りよ」
「え、えっと…」
「姐さん、まずはすぐに一本つけてもらえるかい? 早幕で申し訳ないけど、今日は盛大に行くからそれで勘弁さ。 酒はどんどん出してくんな」
一応言っておきますけど本物は出しませんから。
「なんだい、締まらないねえ。 いいじゃないのさ」
「サクヤさん、お酒は20を過ぎてからだよ」
「その人に言っても無駄かもしれませんが」
「何か言ったかい、烏月?」
「いや別に」
ーーー
「肴は刺身といきましょう。 桂はどうする? 油揚げ? はぁ、なるほど。 だけどこんな店で油揚げもいただけない、他にはどうだい? 天麩羅? なるほど揚げが好きでいらっしゃる、かな?」
「兄ィさん、お酌しましょう」
「いやあたしが誘ったんだ、まずは一杯。 ああ、しかし桂きれいになったねえ。 久しく見ないうちにいい毛並み…きれいな髪になって。 さてもう一杯」
「わたし、そんな飲めないよ」
「いやいや大丈夫大丈夫。 いざとなったら介抱するさ。 ほら天麩羅もきた、冷めない内におあがりなさい。 どれ、もう一杯…」
差し向かいで飲みつ飲まれつ、いつしか狐はほろ酔いだして…
「兄ィさん、わたしもう眠くて…」
「そうかい? じゃあ少し休むといい。 あたしは一人でやってるからさ」
狐が寝たのを見届けて、男はそっと部屋を抜け出す。
あら、お帰りですか?
「ああ、上で連れが眠ってるけど起こさないでやってくれ。 疲れてるみたいなんでね。 あたしは先にあがるけど、お代は連れからもらっておくれ。 大丈夫、紙入れは渡してあるからさ」
はあ、かしこまりました。
「ついでになんか包んでくれるかい? 近くの知り合いに土産にするからさ」
はい、ただいま。
「二階のお客はそろそろ起こした方がいいのではないですか?」
そうですね。 ではさっそく。
お客さま、お客さま。 あら本当によく寝てらっしゃる…でもこれ以上お休みでは体に障ります。 では失礼して…。
「…お待ち。何で耳と尻尾が出てんだい?」
ちゅっ♪
「~っ!? つ、葛ちゃんっ!?」
「こらっ!! 葛ぁっ!!」
「葛様っ、何をっ!!」
こうして姫は王子のくちづけで目を覚ましたのでしたー。 これぞ正に王子の狐。
と言う訳で、みんなで落語話をやってみようー、第3段、王子の狐でしたー。 お後がよろしいようで…。
「待ちなっ! 今日と言う今日は許さないよっ!!」
「葛様っ、今日はいろいろと納得がいかないのですがっ!」
「よろしくないーっ! 葛ちゃんーっ! これは落語じゃなくて童話でしょーっ!!」
(終)
「できるだけ、なんだ…」
まあ、何かと引っ掻き回す人もいることですし。
「こら、何他人のせいにしてんだい。 いつも引っ掻き回してるのは葛、あんただろ」
「同感ですね」
「今回はちゃんとやろうね」
さて、今回のお題なんですが…。
「何無視してんだい。 それともまた引っ掻き回すつもりかい? 葛」
一応候補は3つ程あったのですが、どれも苦しくて…。
「…どうやらそのつもりのようですね」
でたらめな落語であってもそれはそれで作り手には苦労があるわけで…。
「葛ちゃん何言ってるの?」
「最近お忙しいご様子でしたから…」
と言うわけで、桂おねーさんは狐役で。
「あ、うん。 がんばるね?」
サクヤさんはメインの町人役で。
「あたしかい? 桂じゃないのかい?」
ええ。 たまにはいいかと。 烏月さんは子狐役と料亭のおかみ役で。
「わかりました」
その他及び進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「で、葛ちゃん。 もしかして今回のお題は…」
はいです、桂おねーさん。 王子の狐で。
「狐だったらあんたの方がお似合いじゃないかい?」
「どちらも犬科ですが」
「何と並べてんだい? 烏月」
「別に」
「ちょっと2人とも、まだ始めてもいないのに喧嘩しちゃダメだよ」
「わかったよ、桂」
「すまない、桂さん」
「それじゃあみんな、がんばろうねっ」
「へいへいっと」
「わかりました」
ーーー
王子の稲荷にお参りに来た男。 ふと物陰から聞こえた音に興味を持って、覗きこんでみると狐が女に化ける所であった。
「おや狐がえらいかわいい女に化けたよ。 狐は稲荷の使い姫っていうけど本当だよ。 あれじゃあ化かされるってもんさね。 けど見ちまったからになんてこたない、いっそこっちが化かしてやるかね」
いやらしい笑みを浮かべ男は狐の化けた女へと近寄った
「ちょいお待ち」
「どうしたの? サクヤさん」
「今悪意のある解説があったよ」
考えすぎですよ。 ええ、原典通りですよ。
「…」
「桂、桂」
あたかも誘拐犯のような猫なで声で男が声をかける。
「だからお待ちっ」
なんですか一体?
「ほう…今のあからさまな悪意にシラを切るかい。 葛」
「ま、まあまあサクヤさん。 と、年上なんだしっ」
ま、いくつになっても心の成熟が見られない者も世の中にはいますが。
「困ったものですね」
「あんたらねぇ…」
「ね、ちょっとみんな仲良くやろうよ」
ーーー
「あ、サ、兄ィさん」
「いや、後ろ姿がよく似てたから声かけたんだけどさ。 こんな所で桂に会うとは思わなかったよ。 どうしてこんな所に?」
「ええ、稲荷にお参りに来てね。 天気がいいからそのままぶらぶら歩いてたの」
「そうかい。 あたしも稲荷にお参りに来たんだけどさ。 これも何かの縁だ。 桂、飯でも奢ろうじゃないか」
いよいよ人さらいの様相を呈してきましたね。
「…あんた、たまに真面目にやるとこの扱いかい。 なんか言いたい事があるならはっきり言ったらどうだい」
いいええー、別にー。
「葛ちゃんっ」
おねーさん、すいません。 少々疲れ気味で、つい。
「大丈夫? もううちで休む?」
うぅ…わたしのような招かれざる者にそんな暖かいお言葉を…。
「…白々しい…。 この企画やめた方がいいんじゃないかい?」
「最初から真面目にやる気は無かった気もしますしね」
閑話休題
「え? でもいいの? わたしとじゃ迷惑になるんじゃないかな…」
「そんなことないよ、桂。 あたしはあんたのためなら何でもするさ。 羽藤の血はあたしが守るからね」
「って、え? あの、サクヤさん?」
ちょっとちょっとサクヤさん。 おねーさん連れてどこに行くんですか? 真面目にやるんじゃないんですか?
「人の事は言えない気がしますが」
…何か言いました? 烏月さん。
「…いえ」
ちゃんとやりましょう、みなさん。
ーーー
「ああ、構わないさ。 じゃ、話は決まりだ。 すぐそこに茜屋って小料理店がある。 そこで一杯やりながら話そうじゃないか」
「うん、じゃあよろしくね」
「さ、じゃ行こうか…えぇ、ごめんよっ」
いらっしゃいませー。 どうぞお二人様、お二階へご案内ー。
「桂、二階だってさ。 …ああ、こりゃいい眺めだ。 春霞がかかって、鶯が鳴き…桂、どうぞ上座にお座りよ」
「え、えっと…」
「姐さん、まずはすぐに一本つけてもらえるかい? 早幕で申し訳ないけど、今日は盛大に行くからそれで勘弁さ。 酒はどんどん出してくんな」
一応言っておきますけど本物は出しませんから。
「なんだい、締まらないねえ。 いいじゃないのさ」
「サクヤさん、お酒は20を過ぎてからだよ」
「その人に言っても無駄かもしれませんが」
「何か言ったかい、烏月?」
「いや別に」
ーーー
「肴は刺身といきましょう。 桂はどうする? 油揚げ? はぁ、なるほど。 だけどこんな店で油揚げもいただけない、他にはどうだい? 天麩羅? なるほど揚げが好きでいらっしゃる、かな?」
「兄ィさん、お酌しましょう」
「いやあたしが誘ったんだ、まずは一杯。 ああ、しかし桂きれいになったねえ。 久しく見ないうちにいい毛並み…きれいな髪になって。 さてもう一杯」
「わたし、そんな飲めないよ」
「いやいや大丈夫大丈夫。 いざとなったら介抱するさ。 ほら天麩羅もきた、冷めない内におあがりなさい。 どれ、もう一杯…」
差し向かいで飲みつ飲まれつ、いつしか狐はほろ酔いだして…
「兄ィさん、わたしもう眠くて…」
「そうかい? じゃあ少し休むといい。 あたしは一人でやってるからさ」
狐が寝たのを見届けて、男はそっと部屋を抜け出す。
あら、お帰りですか?
「ああ、上で連れが眠ってるけど起こさないでやってくれ。 疲れてるみたいなんでね。 あたしは先にあがるけど、お代は連れからもらっておくれ。 大丈夫、紙入れは渡してあるからさ」
はあ、かしこまりました。
「ついでになんか包んでくれるかい? 近くの知り合いに土産にするからさ」
はい、ただいま。
「二階のお客はそろそろ起こした方がいいのではないですか?」
そうですね。 ではさっそく。
お客さま、お客さま。 あら本当によく寝てらっしゃる…でもこれ以上お休みでは体に障ります。 では失礼して…。
「…お待ち。何で耳と尻尾が出てんだい?」
ちゅっ♪
「~っ!? つ、葛ちゃんっ!?」
「こらっ!! 葛ぁっ!!」
「葛様っ、何をっ!!」
こうして姫は王子のくちづけで目を覚ましたのでしたー。 これぞ正に王子の狐。
と言う訳で、みんなで落語話をやってみようー、第3段、王子の狐でしたー。 お後がよろしいようで…。
「待ちなっ! 今日と言う今日は許さないよっ!!」
「葛様っ、今日はいろいろと納得がいかないのですがっ!」
「よろしくないーっ! 葛ちゃんーっ! これは落語じゃなくて童話でしょーっ!!」
(終)
さてさて、落語好きの桂おねーさんのために、今度こそ落語話をみんなでやってみましょうー。
では若だんな役を桂おねーさん。
「う、うん。 がんばるね、葛ちゃん」
番頭役にサクヤさん。
「ああ、わかったよ」
父親のだんな役は烏月さん。
「わかりました」
進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「…で、葛ちゃん、肝心のお題は?」
千両みかんで。
「あ、うん。 みんな、がんばろうねっ」
「へーい」
「はい」
ーーー
夏も最中のとある日のこと。 さる大家の若だんなが病の床についた。 とある医者の見立てでは、病の元は心だと。 なにはなんとも病は気からと申しまして…。
「えー、サク…番頭さん。 お医者様はああ言っていたが、桂さ…あの子は私には恥ずかしがって、胸の内を教えてくれない。 無駄かもしれないが、あなたから聞いてくれないですか?」
…。 烏月さん、微妙にニュアンスが間違ってます。
「ああいいさ。 なんせあたしは、こーんな小さな頃からあの子を知っているからねえ」
…。 サクヤさん、主従関係を忘れないでください。
「…。 小さな頃から知っているくせに悩みも知らないなんて、なんて使えない番頭でしょう」
「親なのに知らないよりかはマシだね」
…。 あのー、二人とも。
「ま、でも、小さな頃は何度もキスをかわした仲のあたしが聞けば、すぐに教えてくれるさね」
「ちょ、ちょっと、サクヤさんっ!」
「ほう。 それは羨ましい。 私は先日初めてしたばかりですからね」
「なっ、烏月さんまでっ!?」
…いいですね。 わたしはまだしたこと無いです…。 まあいいです。 今一緒に住んでいるのはわたしですから。 いずれは必ず。
「葛ちゃんまでーっ」
「…桂、あんた誰が本命なんだい?」
「そうですね。 はっきりさせましょう、私だと」
当然わたしに決まってますよね、桂おねーさん?
「…えっと、その…お、お噺の続きをしようよ?」
「桂っ!」
「桂さんっ!」
桂おねーさんっ!
「わたしのための落語話じゃなかったのーっ?」
閑話休題
「それで? 若だんな、一体何をそんなに思いつめているんだい?」
「そ、そんな事恥ずかしくって言えない…。 だって、絶対笑うもん…」
「笑いやしないさ。 あたしに言ってごらん。 なんとかしてみせるさ」
「そ、それじゃあ言うけど…」
恥じらいの顔を浮かべ、若だんなが口を開く。
「艶があって、やわらかく、丸々とした…」
「あーあーあー、皆まで言わなくてもわかるよ。 そうだね、不安になる気持ちはわかるよ」
「え?」
「?」
は?
「でも心配ならいらないよ。 真弓だってあれで結構大きかったよ。 桂にだって十分素養はあるさ。 …ま、でも、しょうがないね。 今日はあたしので我慢しておくれ」
「わ、ちょ、ちょっとサクヤさんっ、何で脱ぐのっ!?」
「さあ桂、好きなだけ触るなり、吸うなり、揉むなり…」
「オン・マカ・シリエイ・ジリベイ・ソワカっ!!」
閑話休題
…いつまでたっても話が進みませんね。
「この人を入れたのが間違いですね」
「何あたしだけが悪いみたいに言ってんだい。 桂がちゃんと続けてれば、問題無かったはずじゃないか」
「えーっ、わたしなのっ?」
…続けさせる気なんか無かったくせに。
「サカってるだけでしょう」
「何か言ったかい? 烏月」
いいかげんにして、ちゃんとやってください。
ーーー
「実は…みかん」
「みかん?」
「そう、みかんが欲しいの」
「はい。 もっといるなら買ってくるから待ってな」
「…」
「…」
…。
「サクヤさん、いくらなんでも…」
…誰でも考えつく現代オチですね。
「くだらなすぎる」
「こんな古い話今時誰が笑えるってんだい。 夏にみかんが無いなんてのは、今じゃ説得力が無いんだよっ」
「サクヤさん、話じゃなくて噺だよ」
逆ギレしましたね。
「話になりませんね」
「そんなに言うなら、烏月、あたしと代わりな」
「どうしてそうなるのかわかりませんが」
「天下の千羽党の力を見せてもらいたいもんだね」
…まあ、話も進みませんし、そうしましょうか。
ーーー
「実は…みかん」
「みかん、ですか?」
「そう、みかんが欲しいの」
「ではこれを」
「…。 『明暗』夏目漱石? …えっと…」
未完、ですか。
「さすが真面目ぶった烏月らしいオチだね」
「あなたのよりよっぽど知的だと思いますが」
「二人とも…」
二人とも、勝手にこんな所でオチをつけるのはやめてもらえませんか?
ーーー
全く話が進みませんね。
「二人とも真面目にやってよ…」
「…面目無い」
「へいへい」
このままではらちがあかないので、配役を大幅に変更しましょう。
「それじゃあ、若だんなは僕が…」
閑話休題
「…今ケイくんがいなかった?」
いませんよ。
「…」
「知らないねえ」
「あれ?」
では配役ですが、桂おねーさんには番頭役をやってもらって…。
「あたしが若だんなをやるよ」
「…。 何かよからぬことを考えていませんか?」
「どう言う意味だい?」
「みかんではなく、桂さんと言い出すとか…」
「烏月、あんたそんな事考えてたのかい? あんたには若だんな役はやらせられないね」
…なんで否定はしないんですか、サクヤさん?
「…」
これ以上お遊びはやってられないので、わたしが若だんな役をやります。 だんな役は烏月さん。 サクヤさんは進行役で。
「とか言って、あんたが言うつもりなんだろ?」
言いませんよ、そんな事。
「そうだよ、サクヤさんは不真面目すぎなの」
では続きから始めましょうか。
ーーー
実は…桂おねーさんの唇。
「えっ!?」
ちゅっ♪
「~っ!!??」
「葛あっ!!」
「つ、葛様っ!?」
ごちそうさまでした♪
と言う訳で、みんなで落語話をやってみようー、第2段、千両みかん、でしたー。 お後がよろしいようで…。
「待ちなっ、葛ーっ!」
「つ、つ、つ、葛様っ! 今のはいくらなんでもっ!!」
「全然よろしくないーっ、千両が出てきてないでしょーっ、葛ちゃんーっ!!」
「………んーっ、んーっ、んーーーっ!(ちょっとーっ、僕を置いてみんな行かないでくれよーっ!)」
(終)
(続けてアカイイト落語3を読む)
では若だんな役を桂おねーさん。
「う、うん。 がんばるね、葛ちゃん」
番頭役にサクヤさん。
「ああ、わかったよ」
父親のだんな役は烏月さん。
「わかりました」
進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「…で、葛ちゃん、肝心のお題は?」
千両みかんで。
「あ、うん。 みんな、がんばろうねっ」
「へーい」
「はい」
ーーー
夏も最中のとある日のこと。 さる大家の若だんなが病の床についた。 とある医者の見立てでは、病の元は心だと。 なにはなんとも病は気からと申しまして…。
「えー、サク…番頭さん。 お医者様はああ言っていたが、桂さ…あの子は私には恥ずかしがって、胸の内を教えてくれない。 無駄かもしれないが、あなたから聞いてくれないですか?」
…。 烏月さん、微妙にニュアンスが間違ってます。
「ああいいさ。 なんせあたしは、こーんな小さな頃からあの子を知っているからねえ」
…。 サクヤさん、主従関係を忘れないでください。
「…。 小さな頃から知っているくせに悩みも知らないなんて、なんて使えない番頭でしょう」
「親なのに知らないよりかはマシだね」
…。 あのー、二人とも。
「ま、でも、小さな頃は何度もキスをかわした仲のあたしが聞けば、すぐに教えてくれるさね」
「ちょ、ちょっと、サクヤさんっ!」
「ほう。 それは羨ましい。 私は先日初めてしたばかりですからね」
「なっ、烏月さんまでっ!?」
…いいですね。 わたしはまだしたこと無いです…。 まあいいです。 今一緒に住んでいるのはわたしですから。 いずれは必ず。
「葛ちゃんまでーっ」
「…桂、あんた誰が本命なんだい?」
「そうですね。 はっきりさせましょう、私だと」
当然わたしに決まってますよね、桂おねーさん?
「…えっと、その…お、お噺の続きをしようよ?」
「桂っ!」
「桂さんっ!」
桂おねーさんっ!
「わたしのための落語話じゃなかったのーっ?」
閑話休題
「それで? 若だんな、一体何をそんなに思いつめているんだい?」
「そ、そんな事恥ずかしくって言えない…。 だって、絶対笑うもん…」
「笑いやしないさ。 あたしに言ってごらん。 なんとかしてみせるさ」
「そ、それじゃあ言うけど…」
恥じらいの顔を浮かべ、若だんなが口を開く。
「艶があって、やわらかく、丸々とした…」
「あーあーあー、皆まで言わなくてもわかるよ。 そうだね、不安になる気持ちはわかるよ」
「え?」
「?」
は?
「でも心配ならいらないよ。 真弓だってあれで結構大きかったよ。 桂にだって十分素養はあるさ。 …ま、でも、しょうがないね。 今日はあたしので我慢しておくれ」
「わ、ちょ、ちょっとサクヤさんっ、何で脱ぐのっ!?」
「さあ桂、好きなだけ触るなり、吸うなり、揉むなり…」
「オン・マカ・シリエイ・ジリベイ・ソワカっ!!」
閑話休題
…いつまでたっても話が進みませんね。
「この人を入れたのが間違いですね」
「何あたしだけが悪いみたいに言ってんだい。 桂がちゃんと続けてれば、問題無かったはずじゃないか」
「えーっ、わたしなのっ?」
…続けさせる気なんか無かったくせに。
「サカってるだけでしょう」
「何か言ったかい? 烏月」
いいかげんにして、ちゃんとやってください。
ーーー
「実は…みかん」
「みかん?」
「そう、みかんが欲しいの」
「はい。 もっといるなら買ってくるから待ってな」
「…」
「…」
…。
「サクヤさん、いくらなんでも…」
…誰でも考えつく現代オチですね。
「くだらなすぎる」
「こんな古い話今時誰が笑えるってんだい。 夏にみかんが無いなんてのは、今じゃ説得力が無いんだよっ」
「サクヤさん、話じゃなくて噺だよ」
逆ギレしましたね。
「話になりませんね」
「そんなに言うなら、烏月、あたしと代わりな」
「どうしてそうなるのかわかりませんが」
「天下の千羽党の力を見せてもらいたいもんだね」
…まあ、話も進みませんし、そうしましょうか。
ーーー
「実は…みかん」
「みかん、ですか?」
「そう、みかんが欲しいの」
「ではこれを」
「…。 『明暗』夏目漱石? …えっと…」
未完、ですか。
「さすが真面目ぶった烏月らしいオチだね」
「あなたのよりよっぽど知的だと思いますが」
「二人とも…」
二人とも、勝手にこんな所でオチをつけるのはやめてもらえませんか?
ーーー
全く話が進みませんね。
「二人とも真面目にやってよ…」
「…面目無い」
「へいへい」
このままではらちがあかないので、配役を大幅に変更しましょう。
「それじゃあ、若だんなは僕が…」
閑話休題
「…今ケイくんがいなかった?」
いませんよ。
「…」
「知らないねえ」
「あれ?」
では配役ですが、桂おねーさんには番頭役をやってもらって…。
「あたしが若だんなをやるよ」
「…。 何かよからぬことを考えていませんか?」
「どう言う意味だい?」
「みかんではなく、桂さんと言い出すとか…」
「烏月、あんたそんな事考えてたのかい? あんたには若だんな役はやらせられないね」
…なんで否定はしないんですか、サクヤさん?
「…」
これ以上お遊びはやってられないので、わたしが若だんな役をやります。 だんな役は烏月さん。 サクヤさんは進行役で。
「とか言って、あんたが言うつもりなんだろ?」
言いませんよ、そんな事。
「そうだよ、サクヤさんは不真面目すぎなの」
では続きから始めましょうか。
ーーー
実は…桂おねーさんの唇。
「えっ!?」
ちゅっ♪
「~っ!!??」
「葛あっ!!」
「つ、葛様っ!?」
ごちそうさまでした♪
と言う訳で、みんなで落語話をやってみようー、第2段、千両みかん、でしたー。 お後がよろしいようで…。
「待ちなっ、葛ーっ!」
「つ、つ、つ、葛様っ! 今のはいくらなんでもっ!!」
「全然よろしくないーっ、千両が出てきてないでしょーっ、葛ちゃんーっ!!」
「………んーっ、んーっ、んーーーっ!(ちょっとーっ、僕を置いてみんな行かないでくれよーっ!)」
(終)
(続けてアカイイト落語3を読む)
さてさて、落語好きの桂おねーさんのために、落語噺をみんなでやってみましょうー。
まず主人公は桂おねーさん。
「う、うん。 がんばるね、葛ちゃん」
その妻役にサクヤさん。
「ふうん。 ま、悪くないね」
そして、女郎役に烏月さん。
「なっ!? …わ、わかりました」
進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「…で、葛ちゃん。 肝心のお噺は?」
返し馬で。
「…」
…
「……」
…
「………」
…
「できませんっ!!」
「えーっ、いいじゃん。 やろうよ、桂ー」
「何を考えているんですか、あなたは」
以上、みんなで落語噺第1回、「返し馬」でした。 お後がよろしいようで…。
「よろしくないーっ、葛ちゃんーっ!!」
(終)
(続けてアカイイト落語2を読む)
まず主人公は桂おねーさん。
「う、うん。 がんばるね、葛ちゃん」
その妻役にサクヤさん。
「ふうん。 ま、悪くないね」
そして、女郎役に烏月さん。
「なっ!? …わ、わかりました」
進行役はこの若杉葛でお送りしまーす。
「…で、葛ちゃん。 肝心のお噺は?」
返し馬で。
「…」
…
「……」
…
「………」
…
「できませんっ!!」
「えーっ、いいじゃん。 やろうよ、桂ー」
「何を考えているんですか、あなたは」
以上、みんなで落語噺第1回、「返し馬」でした。 お後がよろしいようで…。
「よろしくないーっ、葛ちゃんーっ!!」
(終)
(続けてアカイイト落語2を読む)
「桂さん」
「♪」
「桂さん、桂さん」
「♪」
「…」
「烏月さん、無駄ですようー」
「はっ!? つ、葛様っ」
「そんなにイヤそうな顔しなくても…。 わたしならさっきからいましたよ?」
「…そうですか? それなら気づかないはずは…。 い、いやっ、別にイヤそうな顔なんてしてませんがっ」
「桂おねーさんしか見えてなかったんじゃないですか? それに自分がどんな顔してたかは他人が判断するものですから、烏月さんの意見は聞いてません」
「…。 と、ところで、どうして無駄なのでしょうか?」
「話を逸らしましたね」
「話を戻したのです」
「ま、いいでしょう。 えーっとですね、桂おねーさんは今日学校から帰ってきてからずっとこの調子なのですよ」
「それはどうしてまた?」
「数日前に遡りますが…」
『あ、あったーっ』
『どしたのー、はとちゃん』
『これこれーっ。 この人のCD買おうと思って来たんだけど、ベストが出てたんだー』
『あ、前にあたしが薦めた歌手ね。 どれどれ、何が入ってるのー』
『はい、陽子ちゃん』
『…』
『どうかしたの?』
『…』
『じゃあ、買ってくるから待ってて』
『いかーんっ!』
『わ。 陽子ちゃん、突然大声出さないでよ…』
『はとちゃん、騙されちゃあいけないわ。 これはベストなんかじゃないわよっ!』
『だってそう書いてあるよ?』
『ベストだったら「虹」が入ってなきゃダメでしょうがーっ』
『そんなこと言われてもわたしは聞いたこと無いからわからないよ』
『フッ』
『…陽子ちゃん、その笑いは何? その「あんたはやっぱり甘ちゃんね」って笑いは何かな?』
『あんたはやっぱり甘ちゃんね』
『わ、陽子ちゃんてばひねりなし』
『も、大甘もいいところねー、はとちゃんってば。 これから買おうと思ってるなら先に情報収集くらい当たり前でしょうがーっ』
『えっと…でも知らないからベストって悪くないと思うんだけど…』
『だーかーらっ。 これは「虹」が入ってないから却下っ!』
『…陽子ちゃん、言ってることメチャクチャ』
『仕方ないわねー。 明日1stと2ndを焼いてきてあげるから。 まずそれを聞きなさい』
『…薦めてきた時にそうして欲しかったな…こんな人前で……』
『何か言った?』
『…なんでもないです』
「それで、奈良さんにもらったCDをずーっと聞いてるわけです」
「はあ。 …そんなに気に入られたのでしょうか」
「そのようですねー。 エンドレスですから」
「その歌手の名は?」
「焼いただの、何が入ってないだの、と書いたのでNGです」
「でも曲名を言って…」
「そこに触れなければ問題ないので触れないでください」
「それにしても…」
「どうしました?」
「随分集中して聞いているのですね。 これだけ側にいるのに気づかないとは…」
「だから、先ほどわたしが部屋の扉を開け呼びかけてるのにも気づかないで、不意にこちらを見てひどく驚かれましてね」
「はあ」
「むしろこっちが驚く程の大声でした」
「桂さんらしいと言えばらしいですが」
「なんだったらキスしちゃっても気づかないかもしれませんねー」
「な、何を言ってるんですかっ、葛様っ」
「烏月さんはまだ帰らないんですか?」
「…なんと言うか、ひどく露骨な追い払い方ですね」
「むしろ帰ってください」
「…お断りします」
「帰らないと後悔しますようー」
「私は桂さんを守ると約束しましたから。 例え全てを失っても今は帰れません」
「…」
「…」
「はあ…。 いくら気に入ってるったって、音楽聴きながらじゃ記事なんて書けやしないね。 ちょいと気分変えに桂に会いにでも行ってくるかね」
(終)
註・オチが考えつきませんでした。 適当に書きすぎました。 反省。
「♪」
「桂さん、桂さん」
「♪」
「…」
「烏月さん、無駄ですようー」
「はっ!? つ、葛様っ」
「そんなにイヤそうな顔しなくても…。 わたしならさっきからいましたよ?」
「…そうですか? それなら気づかないはずは…。 い、いやっ、別にイヤそうな顔なんてしてませんがっ」
「桂おねーさんしか見えてなかったんじゃないですか? それに自分がどんな顔してたかは他人が判断するものですから、烏月さんの意見は聞いてません」
「…。 と、ところで、どうして無駄なのでしょうか?」
「話を逸らしましたね」
「話を戻したのです」
「ま、いいでしょう。 えーっとですね、桂おねーさんは今日学校から帰ってきてからずっとこの調子なのですよ」
「それはどうしてまた?」
「数日前に遡りますが…」
『あ、あったーっ』
『どしたのー、はとちゃん』
『これこれーっ。 この人のCD買おうと思って来たんだけど、ベストが出てたんだー』
『あ、前にあたしが薦めた歌手ね。 どれどれ、何が入ってるのー』
『はい、陽子ちゃん』
『…』
『どうかしたの?』
『…』
『じゃあ、買ってくるから待ってて』
『いかーんっ!』
『わ。 陽子ちゃん、突然大声出さないでよ…』
『はとちゃん、騙されちゃあいけないわ。 これはベストなんかじゃないわよっ!』
『だってそう書いてあるよ?』
『ベストだったら「虹」が入ってなきゃダメでしょうがーっ』
『そんなこと言われてもわたしは聞いたこと無いからわからないよ』
『フッ』
『…陽子ちゃん、その笑いは何? その「あんたはやっぱり甘ちゃんね」って笑いは何かな?』
『あんたはやっぱり甘ちゃんね』
『わ、陽子ちゃんてばひねりなし』
『も、大甘もいいところねー、はとちゃんってば。 これから買おうと思ってるなら先に情報収集くらい当たり前でしょうがーっ』
『えっと…でも知らないからベストって悪くないと思うんだけど…』
『だーかーらっ。 これは「虹」が入ってないから却下っ!』
『…陽子ちゃん、言ってることメチャクチャ』
『仕方ないわねー。 明日1stと2ndを焼いてきてあげるから。 まずそれを聞きなさい』
『…薦めてきた時にそうして欲しかったな…こんな人前で……』
『何か言った?』
『…なんでもないです』
「それで、奈良さんにもらったCDをずーっと聞いてるわけです」
「はあ。 …そんなに気に入られたのでしょうか」
「そのようですねー。 エンドレスですから」
「その歌手の名は?」
「焼いただの、何が入ってないだの、と書いたのでNGです」
「でも曲名を言って…」
「そこに触れなければ問題ないので触れないでください」
「それにしても…」
「どうしました?」
「随分集中して聞いているのですね。 これだけ側にいるのに気づかないとは…」
「だから、先ほどわたしが部屋の扉を開け呼びかけてるのにも気づかないで、不意にこちらを見てひどく驚かれましてね」
「はあ」
「むしろこっちが驚く程の大声でした」
「桂さんらしいと言えばらしいですが」
「なんだったらキスしちゃっても気づかないかもしれませんねー」
「な、何を言ってるんですかっ、葛様っ」
「烏月さんはまだ帰らないんですか?」
「…なんと言うか、ひどく露骨な追い払い方ですね」
「むしろ帰ってください」
「…お断りします」
「帰らないと後悔しますようー」
「私は桂さんを守ると約束しましたから。 例え全てを失っても今は帰れません」
「…」
「…」
「はあ…。 いくら気に入ってるったって、音楽聴きながらじゃ記事なんて書けやしないね。 ちょいと気分変えに桂に会いにでも行ってくるかね」
(終)
註・オチが考えつきませんでした。 適当に書きすぎました。 反省。
「ちょっと、エレンディアっ」
「ん。 何?」
「何で今更私達の話なんか書いてるの」
「…アイリーンは出てないよ」
「そうじゃなくてっ。 なんで今更ジルオールなのよ、発売されてどれだけ経ってると思ってるのっ?」
「あ、無印じゃなくてインフィニットだから」
「同じよっ」
「違うよー。 ね、ルルアンタ?」
「そうだよぉ、アイリーンちゃん。 インフィニットはいろいろ変わってるの」
「私が言・い・た・い・の・はっ! PS3も発売されてる今、なんでこんな古いゲームの話なのかって事よっ」
「PS3なんて持ってないしねー」
「持ってないのー」
「…あんた達わざと言ってるわね」
「はいはい、そうムキにならないの。 そんなんじゃまだまだエレンディアには勝てないわよー、アイリーン」
「あ、カルラちゃんなのー」
「でも何で今更ー? やってる人もいないでしょー」
「んー…別に流行りは関係ないし。 書きたい時に書きたい物を書きたいように書く、な訳よ。 ジルオールに限らずだけど」
「そんないい加減なっ」
「まあねー。 その方が気楽でいいよねー」
「カルラ様まで…」
「アイリーンちゃん、大丈夫ー?」
「でもこれ続き物なわけ?」
「ううん。 特にそういうつもりはないわね。 だから次に書く時は私じゃないかも」
「エレンディアいなくなっちゃうのぉ?」
「ウフフ、冒険の旅に行ってるかもね。 もちろんルルアンタと一緒にね」
「うんっ。 ルルアンタはずーっとエレンディアと一緒だよぉっ」
「あらあら、仲のいいことで。 あたし達も負けてらんないね? アイリーン」
「えっ!? あ…その…わ、私は…」
「アイリーンは彼氏持ちだからねー」
「か、彼氏じゃっ…な、無いわよ…」
「あ、そっか。 うう…じゃ、あたしだけ一人ぼっちなのね…」
「そんなことないわよ。 カルラにも大切な人が現れるわよ、絶対」
「そうかな?」
「うん、絶対」
「絶対なの」
「アハハハ。 じゃ、その人が現れるまで待つとしますかー」
「ところでさ」
「うん?」
「どうしたのぉ、エレンディア?」
「ジルオールのSSで探すとさ、セラとかレムオンとかゼネテスとかばっかりなんだよね」
「そうだねー。 ま、ロストールはあたしが潰しちゃうけどねー」
「…お母さん、オッシ先生…」
「私、立場上ロストール寄りだから、カルラの邪魔するけど?」
「うわ。 嫌なコが目の前にいた」
「それはともかくとして。 なんでエルファスは無いのかな?」
「うわ。 エレンディアってば、あんなのがいいの?」
「そうじゃないけど…。 結構かわいいと思うけど、無いのが不思議だなーって」
「本当に無いの? あなた、ちゃんと探した?」
「途中で面倒になって探してないのぉー」
「余計なこと言わないで、ルルアンタ」
「ごめんなさいなの」
「そんなことだと思ったわ。 大体あなたは…」
「はいはいアイリーン、お説教はそこまで。 でもエレンディア、読みたいの?」
「…なんか興味が。 なんだったら自分で書こうかなー、とか」
「うわ。 預言者様の味方なんだ。 シスコン坊やの相手するんだ」
「そういう言い方しなくても…。 だったらセラだってシスコンじゃないの」
「うん、そうだね。 あたしはどっちもイヤ」
「私は…」
「彼氏持ちは黙ってて」
「だっ、だから、あいつは彼氏なんかじゃっ!」
「アイリーンちゃん、顔真っ赤なのー」
「まあ、エルファスはとりあえず置いといて。 百合なSSなんて皆無よ、皆無っ。 薔薇はいくらでもあるのにっ!」
「あー…」
「あのね、百合も薔薇もそもそも不毛で…」
「彼氏持ちは黙っててっ」
「あ、あのねえっ!」
「アイリーンはからかいがいがあるわねー」
「カルラ様っ」
「相手は選り取りみどりでたくさんいるのに…」
「エレンディア、目が怖いの」
「アトレイアとかザギヴとかエステルとかオイフェとかフレアとかフェティとかノエルとかクリュセイスとかヴィアとヴァイの姉妹とかフェルムとかっ」
「…入っていない人と入ってるべきじゃない人がいる気がするんだけど」
「あたしは?」
「もちろんカルラもよ」
「ルルアンタは?」
「当然入ってるわよ」
「…」
「アイリーンも入れて欲しい?」
「遠慮するわ」
「そうよね、彼氏持ちだもんね」
「…オチにしないでくれる? 男じゃないとED無い人とかそもそもEDが無い人も混ざってるんだけど」
「そんな些細なこと気にしちゃダメよ」
「クリアできるのに入ってない人とかいるんだけど」
「あ、そうね。 イークレムンを忘れてたわ。 まだクリアしてないから、つい」
「…他にもいるわよ」
「そうねー」
「いるのー」
「…私だって人の好き嫌いは少しはあるわよ。 ま、それもあるけど…何て言うか、あとの人達はなんか違うなって思って」
「何が違うのよ」
「うーん…そこにあるのが愛じゃないのよねー」
「何言ってるかわかんないんだけど」
「恋でもないのよねー」
「だからわかんないんだけど」
「恋愛じゃないんだよねー」
「わかんないって言ってるでしょっ!」
「彼氏持ちにはわかんないかなー」
「…結局それなのね」
「と言うわけで、ジルオールの百合のサイト情報を誰か教えてください」
「…あなたって……」
「アハハハハ、エレンディアは本当おもしろいねー」
「目が本気なのー」
「メルフォにどかんとどうぞ」
「…自分で書けばいいじゃない」
「ま、そーだよね」
「お願いします」
「エレンディア聞いてないのぉー」
「まず自分で探しなさいよ」
「彼氏持ちは黙ってて」
「いい加減にしなさいよっ!」
(終)
追記。 エルファス×女主のSSを扱っているサイトと百合SSを扱っているサイトはありました。 でも、情報はどかんとくださると嬉しいです。
「ん。 何?」
「何で今更私達の話なんか書いてるの」
「…アイリーンは出てないよ」
「そうじゃなくてっ。 なんで今更ジルオールなのよ、発売されてどれだけ経ってると思ってるのっ?」
「あ、無印じゃなくてインフィニットだから」
「同じよっ」
「違うよー。 ね、ルルアンタ?」
「そうだよぉ、アイリーンちゃん。 インフィニットはいろいろ変わってるの」
「私が言・い・た・い・の・はっ! PS3も発売されてる今、なんでこんな古いゲームの話なのかって事よっ」
「PS3なんて持ってないしねー」
「持ってないのー」
「…あんた達わざと言ってるわね」
「はいはい、そうムキにならないの。 そんなんじゃまだまだエレンディアには勝てないわよー、アイリーン」
「あ、カルラちゃんなのー」
「でも何で今更ー? やってる人もいないでしょー」
「んー…別に流行りは関係ないし。 書きたい時に書きたい物を書きたいように書く、な訳よ。 ジルオールに限らずだけど」
「そんないい加減なっ」
「まあねー。 その方が気楽でいいよねー」
「カルラ様まで…」
「アイリーンちゃん、大丈夫ー?」
「でもこれ続き物なわけ?」
「ううん。 特にそういうつもりはないわね。 だから次に書く時は私じゃないかも」
「エレンディアいなくなっちゃうのぉ?」
「ウフフ、冒険の旅に行ってるかもね。 もちろんルルアンタと一緒にね」
「うんっ。 ルルアンタはずーっとエレンディアと一緒だよぉっ」
「あらあら、仲のいいことで。 あたし達も負けてらんないね? アイリーン」
「えっ!? あ…その…わ、私は…」
「アイリーンは彼氏持ちだからねー」
「か、彼氏じゃっ…な、無いわよ…」
「あ、そっか。 うう…じゃ、あたしだけ一人ぼっちなのね…」
「そんなことないわよ。 カルラにも大切な人が現れるわよ、絶対」
「そうかな?」
「うん、絶対」
「絶対なの」
「アハハハ。 じゃ、その人が現れるまで待つとしますかー」
「ところでさ」
「うん?」
「どうしたのぉ、エレンディア?」
「ジルオールのSSで探すとさ、セラとかレムオンとかゼネテスとかばっかりなんだよね」
「そうだねー。 ま、ロストールはあたしが潰しちゃうけどねー」
「…お母さん、オッシ先生…」
「私、立場上ロストール寄りだから、カルラの邪魔するけど?」
「うわ。 嫌なコが目の前にいた」
「それはともかくとして。 なんでエルファスは無いのかな?」
「うわ。 エレンディアってば、あんなのがいいの?」
「そうじゃないけど…。 結構かわいいと思うけど、無いのが不思議だなーって」
「本当に無いの? あなた、ちゃんと探した?」
「途中で面倒になって探してないのぉー」
「余計なこと言わないで、ルルアンタ」
「ごめんなさいなの」
「そんなことだと思ったわ。 大体あなたは…」
「はいはいアイリーン、お説教はそこまで。 でもエレンディア、読みたいの?」
「…なんか興味が。 なんだったら自分で書こうかなー、とか」
「うわ。 預言者様の味方なんだ。 シスコン坊やの相手するんだ」
「そういう言い方しなくても…。 だったらセラだってシスコンじゃないの」
「うん、そうだね。 あたしはどっちもイヤ」
「私は…」
「彼氏持ちは黙ってて」
「だっ、だから、あいつは彼氏なんかじゃっ!」
「アイリーンちゃん、顔真っ赤なのー」
「まあ、エルファスはとりあえず置いといて。 百合なSSなんて皆無よ、皆無っ。 薔薇はいくらでもあるのにっ!」
「あー…」
「あのね、百合も薔薇もそもそも不毛で…」
「彼氏持ちは黙っててっ」
「あ、あのねえっ!」
「アイリーンはからかいがいがあるわねー」
「カルラ様っ」
「相手は選り取りみどりでたくさんいるのに…」
「エレンディア、目が怖いの」
「アトレイアとかザギヴとかエステルとかオイフェとかフレアとかフェティとかノエルとかクリュセイスとかヴィアとヴァイの姉妹とかフェルムとかっ」
「…入っていない人と入ってるべきじゃない人がいる気がするんだけど」
「あたしは?」
「もちろんカルラもよ」
「ルルアンタは?」
「当然入ってるわよ」
「…」
「アイリーンも入れて欲しい?」
「遠慮するわ」
「そうよね、彼氏持ちだもんね」
「…オチにしないでくれる? 男じゃないとED無い人とかそもそもEDが無い人も混ざってるんだけど」
「そんな些細なこと気にしちゃダメよ」
「クリアできるのに入ってない人とかいるんだけど」
「あ、そうね。 イークレムンを忘れてたわ。 まだクリアしてないから、つい」
「…他にもいるわよ」
「そうねー」
「いるのー」
「…私だって人の好き嫌いは少しはあるわよ。 ま、それもあるけど…何て言うか、あとの人達はなんか違うなって思って」
「何が違うのよ」
「うーん…そこにあるのが愛じゃないのよねー」
「何言ってるかわかんないんだけど」
「恋でもないのよねー」
「だからわかんないんだけど」
「恋愛じゃないんだよねー」
「わかんないって言ってるでしょっ!」
「彼氏持ちにはわかんないかなー」
「…結局それなのね」
「と言うわけで、ジルオールの百合のサイト情報を誰か教えてください」
「…あなたって……」
「アハハハハ、エレンディアは本当おもしろいねー」
「目が本気なのー」
「メルフォにどかんとどうぞ」
「…自分で書けばいいじゃない」
「ま、そーだよね」
「お願いします」
「エレンディア聞いてないのぉー」
「まず自分で探しなさいよ」
「彼氏持ちは黙ってて」
「いい加減にしなさいよっ!」
(終)
追記。 エルファス×女主のSSを扱っているサイトと百合SSを扱っているサイトはありました。 でも、情報はどかんとくださると嬉しいです。
こうして今旅をしているのは不思議な気分。 一緒に歩いているパーティの顔を見ながら思う。
「どうしたの、エレンディア? どこか痛いのぉ?」
すぐ横を歩く私の大切な妹であるルルアンタが心配そうに私を見上げている。
「ううん、大丈夫。 どこも痛くないわよ」
「でもなんか今ぼーっとしてたよぉ?」
「うん…。 お父さんが亡くなってもうすぐ一年になるかな、ってね」
「フリントさん…」
ルルアンタが悲しそうに俯く。
「あ、でもそれで落ち込んでたってわけじゃないのよ? もちろん悲しいけど、今こうしているのが不思議だなあって思ってたの」
「不思議?」
「ええ。 私ずっとお父さんやルルアンタと旅をする人生なんだろうな、って思ってたけど、こんな風になることは考えもしなかったから」
「ふーん?」
自分自身でもよくわからない言い方だったため、ルルアンタは返事に困っている。
「よくわからないけどぉ、ルルアンタはエレンディアとずっと一緒にいるよっ」
そう言ってルルアンタは笑顔を見せる。
「うん。 ずっと一緒ね」
私も笑顔で返した。
「どうでもいいけど今どこに向かってるわけ?」
後ろから声がかかる。 わがままエルフのフェティだ。
「今はとりあえず仕事でエンシャントだけど…。 そのままウルカーンに行こうかと思ってるわ」
「はあ? なんであんな辺境に行かなきゃいけないのよっ。 アタクシはあんな暑苦しい場所はイヤよっ」
「フレアちゃんに会いに行くのぉ? エレンディア」
「うん…。 いろんな巫女さんに会ったけど…イークレムンさんやエアとか。 なんかフレアは見ててつらそうなんだよね」
「フレアちゃん、悲しそうな顔してたね」
「ちょっとあんた達アタクシの話を聞いてるのっ?」
「だからね、友達になりたいなって思ってね」
「うんっ。 ルルアンタも友達になるっ」
「このアタクシを無視するんじゃないわよっ!」
「…だってどうせフェティはどこ行くにも文句ばかりじゃない」
フェティの方を向いて私は言う。
「だ・か・らっ、こんな世界はつまらないって言ってんでしょっ。 あなたが『世界は驚きに満ちている』って言ったんだから、責任取りなさいっ」
「エンシャントに着いたらエステルちゃんも帰ってくるかなぁ?」
「どうかなー。 ま、彼女は彼女で忙しいみたいだから。 カルラはいるかな?」
「エレンディア、カルラちゃんと会ったのぉ?」
「うん。 何回か会ってるわよ」
「だから無視するんじゃないわよっ! あんな小娘どもなんかどうでもいいわよっ!」
「小娘って…」
ほとんど同じ位の年齢にしか見えないエステルやカルラをそう呼ぶフェティに呆れたが、
「フェティちゃんはとっても長生きだからねー」
ルルアンタが私を見上げ言う。
「そうなの?」
「千年以上なのぉ」
「そんなに!?」
「…どうしてリルビー風情がアタクシの年齢を知ってるのっ」
「この前猫屋敷に行った時にオルファウスさんが教えてくれたのぉ」
「なんであいつがそんなこと知ってんのよっ!」
「それは聞いてないのぉ」
ルルアンタと言い合いをしているフェティを見ながら、空に思いを馳せる。 けれどわずか数十年の命の身としては想像も及ばない。
「千年以上、か…。 フェティもたいへんなんだな…」
と、遠くにエンシャントの町並みが見えてきた。
「二人とも、エンシャントが見えてきたわよっ」
「わーい、ルルアンタ、カルラちゃんに会うのー」
そう言ってルルアンタは私に寄ってきて手を握る。
「だからなんだと言うのよ。 くだらない」
いつものように不満顔でフェティは切り捨てる。
「フフフ」
「何がおかしいの」
「ウフフフフ」
「どうしたのぉ? エレンディア」
「冒険は楽しいわね、ってね」
「うんっ」
「何が楽しいって言うのよ、バカじゃないの?」
「ウフフフフ」
みんないろいろな悲しみや苦しみを背負っている。 ルルアンタ、フェティ、今はいないエステル、出会った人達、これから出会う人達、そして私。
だけど、悲しみや苦しみだけではないし、だけにはしたくない。 笑顔でいられる時間を必ず手に入れる。
今は不満そうなフェティにだって、これから会いに行くフレアにだって、笑顔になって欲しい。 生きている今を楽しんで欲しい。
風を体に浴びて、大地を踏みしめ、清流のせせらぎを聞き、情熱の炎を心に灯す。 無限に広がる世界を生きる、それこそが冒険。
時に悲しみ合い、時に笑い合う、仲間はいつも側にいる。
「エレンディアどうしたのー? ルルアンタ先に行っちゃうよぉー」
「何ぼんやりしてるのよ、早くしなさいよっ」
お父さん、私は元気にがんばっていますっ。
「待ちなさいよ、二人ともーっ」
(終)
「どうしたの、エレンディア? どこか痛いのぉ?」
すぐ横を歩く私の大切な妹であるルルアンタが心配そうに私を見上げている。
「ううん、大丈夫。 どこも痛くないわよ」
「でもなんか今ぼーっとしてたよぉ?」
「うん…。 お父さんが亡くなってもうすぐ一年になるかな、ってね」
「フリントさん…」
ルルアンタが悲しそうに俯く。
「あ、でもそれで落ち込んでたってわけじゃないのよ? もちろん悲しいけど、今こうしているのが不思議だなあって思ってたの」
「不思議?」
「ええ。 私ずっとお父さんやルルアンタと旅をする人生なんだろうな、って思ってたけど、こんな風になることは考えもしなかったから」
「ふーん?」
自分自身でもよくわからない言い方だったため、ルルアンタは返事に困っている。
「よくわからないけどぉ、ルルアンタはエレンディアとずっと一緒にいるよっ」
そう言ってルルアンタは笑顔を見せる。
「うん。 ずっと一緒ね」
私も笑顔で返した。
「どうでもいいけど今どこに向かってるわけ?」
後ろから声がかかる。 わがままエルフのフェティだ。
「今はとりあえず仕事でエンシャントだけど…。 そのままウルカーンに行こうかと思ってるわ」
「はあ? なんであんな辺境に行かなきゃいけないのよっ。 アタクシはあんな暑苦しい場所はイヤよっ」
「フレアちゃんに会いに行くのぉ? エレンディア」
「うん…。 いろんな巫女さんに会ったけど…イークレムンさんやエアとか。 なんかフレアは見ててつらそうなんだよね」
「フレアちゃん、悲しそうな顔してたね」
「ちょっとあんた達アタクシの話を聞いてるのっ?」
「だからね、友達になりたいなって思ってね」
「うんっ。 ルルアンタも友達になるっ」
「このアタクシを無視するんじゃないわよっ!」
「…だってどうせフェティはどこ行くにも文句ばかりじゃない」
フェティの方を向いて私は言う。
「だ・か・らっ、こんな世界はつまらないって言ってんでしょっ。 あなたが『世界は驚きに満ちている』って言ったんだから、責任取りなさいっ」
「エンシャントに着いたらエステルちゃんも帰ってくるかなぁ?」
「どうかなー。 ま、彼女は彼女で忙しいみたいだから。 カルラはいるかな?」
「エレンディア、カルラちゃんと会ったのぉ?」
「うん。 何回か会ってるわよ」
「だから無視するんじゃないわよっ! あんな小娘どもなんかどうでもいいわよっ!」
「小娘って…」
ほとんど同じ位の年齢にしか見えないエステルやカルラをそう呼ぶフェティに呆れたが、
「フェティちゃんはとっても長生きだからねー」
ルルアンタが私を見上げ言う。
「そうなの?」
「千年以上なのぉ」
「そんなに!?」
「…どうしてリルビー風情がアタクシの年齢を知ってるのっ」
「この前猫屋敷に行った時にオルファウスさんが教えてくれたのぉ」
「なんであいつがそんなこと知ってんのよっ!」
「それは聞いてないのぉ」
ルルアンタと言い合いをしているフェティを見ながら、空に思いを馳せる。 けれどわずか数十年の命の身としては想像も及ばない。
「千年以上、か…。 フェティもたいへんなんだな…」
と、遠くにエンシャントの町並みが見えてきた。
「二人とも、エンシャントが見えてきたわよっ」
「わーい、ルルアンタ、カルラちゃんに会うのー」
そう言ってルルアンタは私に寄ってきて手を握る。
「だからなんだと言うのよ。 くだらない」
いつものように不満顔でフェティは切り捨てる。
「フフフ」
「何がおかしいの」
「ウフフフフ」
「どうしたのぉ? エレンディア」
「冒険は楽しいわね、ってね」
「うんっ」
「何が楽しいって言うのよ、バカじゃないの?」
「ウフフフフ」
みんないろいろな悲しみや苦しみを背負っている。 ルルアンタ、フェティ、今はいないエステル、出会った人達、これから出会う人達、そして私。
だけど、悲しみや苦しみだけではないし、だけにはしたくない。 笑顔でいられる時間を必ず手に入れる。
今は不満そうなフェティにだって、これから会いに行くフレアにだって、笑顔になって欲しい。 生きている今を楽しんで欲しい。
風を体に浴びて、大地を踏みしめ、清流のせせらぎを聞き、情熱の炎を心に灯す。 無限に広がる世界を生きる、それこそが冒険。
時に悲しみ合い、時に笑い合う、仲間はいつも側にいる。
「エレンディアどうしたのー? ルルアンタ先に行っちゃうよぉー」
「何ぼんやりしてるのよ、早くしなさいよっ」
お父さん、私は元気にがんばっていますっ。
「待ちなさいよ、二人ともーっ」
(終)
「♪」
「んー? どうしたんだい、桂。 なんかご機嫌だね」
「年末に『むらさきのちへい』を買ったんだー♪」
「へえー、競争率高かったらしいじゃないか。 それでラミネートは?」
「何それ?」
「先着100名には付いてたって話だよ。 本間Pの直筆のラミネートカードが」
「ええっ!? わたしそんなの貰ってないよっ」
「ああ、じゃあもう無くなってたんだね」
「ううぅ…。 で、でもいいもん、買えたからいいもんっ」
「そうかい。 どれ見せてごらんよ。 …これタイムアップって……」
「いいのっ! Hal様の烏月さんがあるだけでも得なんだからっ」
「ああ、そうかい」
「烏月さん…素敵ー…」
「こら桂、何顔近づけてんだい」
「で、他は?」
「…」
「どうしたんだい?」
「それが桂ちゃんたら、久しぶりだからって無計画に買って欲しい物は結構買い逃したらしくって…」
「なんだい、そりゃ」
「うう、それは言わない約束だよ」
「そんな約束してないわよ、桂ちゃん」
「柚明お姉ちゃんはわかってくれると思ったのに…」
「何言ってるの?」
「どうも西には行かなかったみたいのようだし…」
「あーあー、何しに行ったんだい、桂」
「で、でもアカイイトはだいたい東だよっ」
「西が当初のメインだったじゃないの」
「疲れちゃって…」
「普段から鍛えてないからだよ。 桂は素早く動けないんだから計画通りに動くべきだろうに。 どうせ行く前にいつもみたいに無駄に計画立ててたんだろ?」
「うん…」
「だめねえ、桂ちゃん。 わたしはハシラになる前は晴海で戦ってたわよ?」
「ええっ!? でもお姉ちゃん、本持ってないよ?」
「…桂ちゃん。 人はね、ある時期に人生を一度リセットするものなのよ」
「それは何か違うんじゃないのかい?」
「絵をがんばって描いていたはずなのに、いつの間にか描かなくなってSS書いてたりするのよ」
「お姉ちゃん、何言ってるの?」
「引き出しのデリータを眺めて『これどうしよう?』なんて考えてた時期も今となっては過去…」
「あー…」
「えっと…」
「もう情熱は過ぎて時間は還らない。 時間は残酷なくらいに有限なのよ…」
「あんた行きたかったのかい?」
「そうじゃないのよ、サクヤさん。 だから桂ちゃんには後悔しないよう、楽しんでもらいたいの」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。 『てなもんやエアリーズ』だって買えたし」
「それはアカイイトじゃないわっ! 桂ちゃんっ!!」
(終)
註・この話はフィクションです。 実在の人物、商品、場所、出来事とは一切関係ありません。 似ている名前等あっても関係ありません。 あしからず。
「んー? どうしたんだい、桂。 なんかご機嫌だね」
「年末に『むらさきのちへい』を買ったんだー♪」
「へえー、競争率高かったらしいじゃないか。 それでラミネートは?」
「何それ?」
「先着100名には付いてたって話だよ。 本間Pの直筆のラミネートカードが」
「ええっ!? わたしそんなの貰ってないよっ」
「ああ、じゃあもう無くなってたんだね」
「ううぅ…。 で、でもいいもん、買えたからいいもんっ」
「そうかい。 どれ見せてごらんよ。 …これタイムアップって……」
「いいのっ! Hal様の烏月さんがあるだけでも得なんだからっ」
「ああ、そうかい」
「烏月さん…素敵ー…」
「こら桂、何顔近づけてんだい」
「で、他は?」
「…」
「どうしたんだい?」
「それが桂ちゃんたら、久しぶりだからって無計画に買って欲しい物は結構買い逃したらしくって…」
「なんだい、そりゃ」
「うう、それは言わない約束だよ」
「そんな約束してないわよ、桂ちゃん」
「柚明お姉ちゃんはわかってくれると思ったのに…」
「何言ってるの?」
「どうも西には行かなかったみたいのようだし…」
「あーあー、何しに行ったんだい、桂」
「で、でもアカイイトはだいたい東だよっ」
「西が当初のメインだったじゃないの」
「疲れちゃって…」
「普段から鍛えてないからだよ。 桂は素早く動けないんだから計画通りに動くべきだろうに。 どうせ行く前にいつもみたいに無駄に計画立ててたんだろ?」
「うん…」
「だめねえ、桂ちゃん。 わたしはハシラになる前は晴海で戦ってたわよ?」
「ええっ!? でもお姉ちゃん、本持ってないよ?」
「…桂ちゃん。 人はね、ある時期に人生を一度リセットするものなのよ」
「それは何か違うんじゃないのかい?」
「絵をがんばって描いていたはずなのに、いつの間にか描かなくなってSS書いてたりするのよ」
「お姉ちゃん、何言ってるの?」
「引き出しのデリータを眺めて『これどうしよう?』なんて考えてた時期も今となっては過去…」
「あー…」
「えっと…」
「もう情熱は過ぎて時間は還らない。 時間は残酷なくらいに有限なのよ…」
「あんた行きたかったのかい?」
「そうじゃないのよ、サクヤさん。 だから桂ちゃんには後悔しないよう、楽しんでもらいたいの」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。 『てなもんやエアリーズ』だって買えたし」
「それはアカイイトじゃないわっ! 桂ちゃんっ!!」
(終)
註・この話はフィクションです。 実在の人物、商品、場所、出来事とは一切関係ありません。 似ている名前等あっても関係ありません。 あしからず。
アオイに会いに行ったら、例によってマシロ陛下について相談してきた。
何を話しても反応なし。 けんもほろろな態度に困り果てている様子。 だったら…、
「そっかー、アリカちゃんかー。 ありがとう、チエちゃんっ」
「アオイのためだからね」
「じゃあお礼にー、今日はわたしがご飯を奢るね?」
「お礼? 別にそんなことしてもらう必要はないよ」
明るい笑顔でそう言ってくれる、それだけで私は充分過ぎるくらいのお礼を貰った。
「いやー、いつもチエちゃんには相談乗ってもらって迷惑かけてるしー。 それにね、いいお店見つけたのっ」
「ほう?」
「すっごい美味しいんだってっ。 これは行かなきゃっ」
無邪気に語るその様子が年齢よりも幼く、そしてかわいく見える。
「ふうん。 それは行かねば、かな?」
「でしょうー?」
「フフフ」
「アハハハハ」
かくして私とアオイは2人で街へと向かった。
「でもチエちゃんは凄いよねー。 トリアスNO.1だもんねー」
「いや繰り上がりなだけだから」
もう日も落ち始める中、アオイお勧めの店に話しながら向かう。
「だけどその前はNO.2でしょ? もうマイスターまですぐだね」
「ま、そうなったらアーミテージ准将の下だから、今よりたいへんだけどね」
「あー…。 あの方の下はたいへんそうだねー…」
苦笑しつつ私を見る。
「まあ、アオイの方がたいへんかもしれないけどね」
「わたしがたいへんなのは今の内だけだから。 マシロ様もいずれ大人になるわよ」
「でも今はたいへんだろう?」
「アハハ…」
ふとアオイが城の方を振り返る。
「マシロ様は甘えたいだけなのよ。 本来ならご両親である先王様達に」
「…」
マシロ女王は先王の娘とは限らない。 喉まで出かかった言葉を飲みこむ。
そんなことはアオイだってわかっている。 でも公式的にはそうなっているのだから、それでいい。 いずれにせよ、彼女に両親がいないことは確かなのだから。
「…でも、今のままでは大人になる前に…」
独り言のように呟いた言葉。 アオイの苦悩はわかる。 スラムまで生まれている現状は芳しくない。 あるいは彼女が大人になる時を待たずして…。
「どうしたの、チエちゃん? お店、すぐそこだよ」
「あ、ああ。 少し考え事をね」
「んー? 下の子達でも連れてこようかなって?」
「ははっ、私はそこまでサービスしないよ」
「いらっしゃいませ」
店はまだ早い時間にもかかわらず、結構な混みようだった。
「申し訳ありません。 只今満席でして、しばらくお待ち頂けますか?」
「あ、はい。 いいよね? チエちゃん」
「ああ」
「………あっ、これは申し訳ありませんっ! パールオトメのチエ様でいらっしゃいましたかっ! 只今席をご用意させていただきますのでっ!」
「あ、え、ええ。 ありがとうございます」
オトメ候補生への優遇。 それだけオトメを人々が求めていることがわかる。
混んでいるようだし、せっかくアオイと来ているのだから、いつもなら遠慮するところだが、ここは甘えておくのもいいだろう。 そう、思った。
だけど…、アオイを見ると、つらそうな困ったような、でも無理につくった笑顔で私を見ていた。
「どうかしたかい、アオイ?」
「う、ううん。 別にどうもしないよ」
胸の前でアオイは両手を振る。
「私には言えない事かい? なら無理には聞かないけど」
「そうじゃない…。 本当に何でも無いから…」
「お待たせしました」
先程の店員ではなく、おそらく店長、もしくはオーナーらしき人物の案内で私達は席へと案内される。 他の客に声をかけられ、それに応えながら。
その間ずっとアオイは顔を伏せて歩いていた。 注目されるのがつらいのか。 でもアオイだって普段は…。
そこでやっと気付いた。 そう、正に注目されるのがつらかったのだ。
アオイはマシロではない。 けれどマシロのわがままのすぐそばにいる存在だ。 そしてマシロ程愚かでもいられない。 だから人の目がつらいのだ。
このような特別扱いが後ろめたい気持ちになる、それをわかってあげれなかった自分が恥かしい。
「やっぱり出ようか?」
席に案内されると同時にアオイに向かって言う。
「えっ? どうして?」
「それは…、だって…」
「せっかくチエちゃんのおかげで席を用意してもらえたんだから、甘えておこうよ。 それとも何か用事あった?」
何もなかったかのように振舞うアオイを見るのがつらい。 無理に張りつけた笑顔をされるのがつらい。 …だけど、それを口にするわけにはいかない。
「さーて、何頼もうかー?」
そう言って、アオイはメニューで顔を隠す。 私にはもう何も言う言葉が見つからなかった…。
「美味しいーっ。 うん、来てよかったねー、チエちゃん」
「ああ、そうだね」
美味しい? さっきからのせいで私にはもはや味なんかわからない。 だけどアオイがそう言うのだから美味しいのだろう。
「どうしたの、チエちゃん? 美味しくない?」
「いや…」
いつも通りに振舞うアオイがつらくて、ポーカーフェイスでいられない。 だったらいっそのこと…。
「ねえ、アオイ」
「ん?」
「どうしてそんなつらいのを我慢してまで、マシロ女王に仕え続けるんだい?」
「…」
目の前の料理へと伸ばしていた手が止まる。
「別に仕事なら他にいくらでもあるだろう? それなのに…」
「どうしたの? チエちゃん。 それにわたし女王陛下に仕えてるのよ? これ以上名誉な仕事は無いわよ」
「でもそのせいでアオイはそんな顔をするようになった」
「そんな顔って?」
「つらいことを押し隠して無理やり笑顔を浮かべたり、つらいくせになんでもないような顔を浮かべたりっ」
「…」
「私はそんなアオイを見るのは嫌だよ」
そう言うと、アオイは少し俯いて小さく呟いた。
「ありがとう、チエちゃん」
そして顔を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「でもね。 マシロ様には味方がいないの。 最初からずっと。 だから、せめてわたしは、わたしだけはずっと味方でいるつもりなの」
「どうしてそうまでしてあの女王にっ。 本物とは限らないのにっ」
「…チエちゃん」
厳しい目でアオイが私を見る。 つい興奮して言うべきではない事まで口走ってしまった。
「…すまない」
「でも…そうね。 だからこそ、かもしれない。 マシロ様はもしかしたら突然皆から突き放されてしまうかもしれない。 だからこそ味方であるのかもしれないかな」
「だけど…だけどっ、アオイの、アオイの味方がいないじゃないかっ」
もはや溢れ出した感情を止める事も出来ず、私はアオイに感情をぶつける。
「わたしにはチエちゃんがいるから」
そう言って、アオイはいつもの笑顔で微笑んだ。
「…」
その暖かい笑顔は、とても美しく、そして優しかった。 それが嬉しく、悲しかった。
わがままな女王に振りまわされ、民の不満に晒され、王宮においても心安らぐ時もそう無いであろう。 なのに優しさを失わず、こんなにも暖かい。
だから私は自分に誓う。 アオイが女王に忠誠を誓う以上に、私はアオイを想う。 私がどんな時もどんな事があってもアオイの味方でいる。
例え離れ離れになろうとも、心は常にアオイの傍らに。
「おいしかったねー」
「…ほとんど味はわからなかったよ」
「もー。 チエちゃんってばもったいないー」
「ハハハ、だからまたどこか行こう。 今度は私が奢るからさ」
店を出て二人ぶらぶらと歩く。 たわいのない時間。 だけど、私には心安らぐ大切な時間。 願わくばアオイもそうであって欲しい。
出来るだけ二人でいたくて、わざと人通りを避けて城へと向かう。
「姉さーん。 準備完了ですよー」
「よし、それじゃあ…」
せっかく人通りを避けたのに何やら声がする。 …どこか聞いた事のある声のような…。
「あ」
「あ」
「ん?」
ナオだった。 愚連隊まがいのことをしていると小耳に挟んではいたが、正にそのままであった。
そして…
「すまない、アオイ」
「ううん、いいよ。 チエちゃんもたいへんだね」
とんでもない事態に早々に寮に戻る必要が出来た。 仕方なく慌ただしくアオイを城へと送る。
「それじゃあ、アオイ、また。 愛してるよ」
「こんな時にふざけないのっ」
綺麗な笑顔を浮かべ、私を見送ってくれる。
冗談に乗せた想いは届かない。 わかってはいるが少し切ない。 だけど、言えるだけでもいい。 いずれは言うことすら出来なくなるかもしれない。
「おやすみ」
「うん」
心でアオイの笑みを、声を想い返し、私は踵を返して寮へと向かった。
(終)
何を話しても反応なし。 けんもほろろな態度に困り果てている様子。 だったら…、
「そっかー、アリカちゃんかー。 ありがとう、チエちゃんっ」
「アオイのためだからね」
「じゃあお礼にー、今日はわたしがご飯を奢るね?」
「お礼? 別にそんなことしてもらう必要はないよ」
明るい笑顔でそう言ってくれる、それだけで私は充分過ぎるくらいのお礼を貰った。
「いやー、いつもチエちゃんには相談乗ってもらって迷惑かけてるしー。 それにね、いいお店見つけたのっ」
「ほう?」
「すっごい美味しいんだってっ。 これは行かなきゃっ」
無邪気に語るその様子が年齢よりも幼く、そしてかわいく見える。
「ふうん。 それは行かねば、かな?」
「でしょうー?」
「フフフ」
「アハハハハ」
かくして私とアオイは2人で街へと向かった。
「でもチエちゃんは凄いよねー。 トリアスNO.1だもんねー」
「いや繰り上がりなだけだから」
もう日も落ち始める中、アオイお勧めの店に話しながら向かう。
「だけどその前はNO.2でしょ? もうマイスターまですぐだね」
「ま、そうなったらアーミテージ准将の下だから、今よりたいへんだけどね」
「あー…。 あの方の下はたいへんそうだねー…」
苦笑しつつ私を見る。
「まあ、アオイの方がたいへんかもしれないけどね」
「わたしがたいへんなのは今の内だけだから。 マシロ様もいずれ大人になるわよ」
「でも今はたいへんだろう?」
「アハハ…」
ふとアオイが城の方を振り返る。
「マシロ様は甘えたいだけなのよ。 本来ならご両親である先王様達に」
「…」
マシロ女王は先王の娘とは限らない。 喉まで出かかった言葉を飲みこむ。
そんなことはアオイだってわかっている。 でも公式的にはそうなっているのだから、それでいい。 いずれにせよ、彼女に両親がいないことは確かなのだから。
「…でも、今のままでは大人になる前に…」
独り言のように呟いた言葉。 アオイの苦悩はわかる。 スラムまで生まれている現状は芳しくない。 あるいは彼女が大人になる時を待たずして…。
「どうしたの、チエちゃん? お店、すぐそこだよ」
「あ、ああ。 少し考え事をね」
「んー? 下の子達でも連れてこようかなって?」
「ははっ、私はそこまでサービスしないよ」
「いらっしゃいませ」
店はまだ早い時間にもかかわらず、結構な混みようだった。
「申し訳ありません。 只今満席でして、しばらくお待ち頂けますか?」
「あ、はい。 いいよね? チエちゃん」
「ああ」
「………あっ、これは申し訳ありませんっ! パールオトメのチエ様でいらっしゃいましたかっ! 只今席をご用意させていただきますのでっ!」
「あ、え、ええ。 ありがとうございます」
オトメ候補生への優遇。 それだけオトメを人々が求めていることがわかる。
混んでいるようだし、せっかくアオイと来ているのだから、いつもなら遠慮するところだが、ここは甘えておくのもいいだろう。 そう、思った。
だけど…、アオイを見ると、つらそうな困ったような、でも無理につくった笑顔で私を見ていた。
「どうかしたかい、アオイ?」
「う、ううん。 別にどうもしないよ」
胸の前でアオイは両手を振る。
「私には言えない事かい? なら無理には聞かないけど」
「そうじゃない…。 本当に何でも無いから…」
「お待たせしました」
先程の店員ではなく、おそらく店長、もしくはオーナーらしき人物の案内で私達は席へと案内される。 他の客に声をかけられ、それに応えながら。
その間ずっとアオイは顔を伏せて歩いていた。 注目されるのがつらいのか。 でもアオイだって普段は…。
そこでやっと気付いた。 そう、正に注目されるのがつらかったのだ。
アオイはマシロではない。 けれどマシロのわがままのすぐそばにいる存在だ。 そしてマシロ程愚かでもいられない。 だから人の目がつらいのだ。
このような特別扱いが後ろめたい気持ちになる、それをわかってあげれなかった自分が恥かしい。
「やっぱり出ようか?」
席に案内されると同時にアオイに向かって言う。
「えっ? どうして?」
「それは…、だって…」
「せっかくチエちゃんのおかげで席を用意してもらえたんだから、甘えておこうよ。 それとも何か用事あった?」
何もなかったかのように振舞うアオイを見るのがつらい。 無理に張りつけた笑顔をされるのがつらい。 …だけど、それを口にするわけにはいかない。
「さーて、何頼もうかー?」
そう言って、アオイはメニューで顔を隠す。 私にはもう何も言う言葉が見つからなかった…。
「美味しいーっ。 うん、来てよかったねー、チエちゃん」
「ああ、そうだね」
美味しい? さっきからのせいで私にはもはや味なんかわからない。 だけどアオイがそう言うのだから美味しいのだろう。
「どうしたの、チエちゃん? 美味しくない?」
「いや…」
いつも通りに振舞うアオイがつらくて、ポーカーフェイスでいられない。 だったらいっそのこと…。
「ねえ、アオイ」
「ん?」
「どうしてそんなつらいのを我慢してまで、マシロ女王に仕え続けるんだい?」
「…」
目の前の料理へと伸ばしていた手が止まる。
「別に仕事なら他にいくらでもあるだろう? それなのに…」
「どうしたの? チエちゃん。 それにわたし女王陛下に仕えてるのよ? これ以上名誉な仕事は無いわよ」
「でもそのせいでアオイはそんな顔をするようになった」
「そんな顔って?」
「つらいことを押し隠して無理やり笑顔を浮かべたり、つらいくせになんでもないような顔を浮かべたりっ」
「…」
「私はそんなアオイを見るのは嫌だよ」
そう言うと、アオイは少し俯いて小さく呟いた。
「ありがとう、チエちゃん」
そして顔を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「でもね。 マシロ様には味方がいないの。 最初からずっと。 だから、せめてわたしは、わたしだけはずっと味方でいるつもりなの」
「どうしてそうまでしてあの女王にっ。 本物とは限らないのにっ」
「…チエちゃん」
厳しい目でアオイが私を見る。 つい興奮して言うべきではない事まで口走ってしまった。
「…すまない」
「でも…そうね。 だからこそ、かもしれない。 マシロ様はもしかしたら突然皆から突き放されてしまうかもしれない。 だからこそ味方であるのかもしれないかな」
「だけど…だけどっ、アオイの、アオイの味方がいないじゃないかっ」
もはや溢れ出した感情を止める事も出来ず、私はアオイに感情をぶつける。
「わたしにはチエちゃんがいるから」
そう言って、アオイはいつもの笑顔で微笑んだ。
「…」
その暖かい笑顔は、とても美しく、そして優しかった。 それが嬉しく、悲しかった。
わがままな女王に振りまわされ、民の不満に晒され、王宮においても心安らぐ時もそう無いであろう。 なのに優しさを失わず、こんなにも暖かい。
だから私は自分に誓う。 アオイが女王に忠誠を誓う以上に、私はアオイを想う。 私がどんな時もどんな事があってもアオイの味方でいる。
例え離れ離れになろうとも、心は常にアオイの傍らに。
「おいしかったねー」
「…ほとんど味はわからなかったよ」
「もー。 チエちゃんってばもったいないー」
「ハハハ、だからまたどこか行こう。 今度は私が奢るからさ」
店を出て二人ぶらぶらと歩く。 たわいのない時間。 だけど、私には心安らぐ大切な時間。 願わくばアオイもそうであって欲しい。
出来るだけ二人でいたくて、わざと人通りを避けて城へと向かう。
「姉さーん。 準備完了ですよー」
「よし、それじゃあ…」
せっかく人通りを避けたのに何やら声がする。 …どこか聞いた事のある声のような…。
「あ」
「あ」
「ん?」
ナオだった。 愚連隊まがいのことをしていると小耳に挟んではいたが、正にそのままであった。
そして…
「すまない、アオイ」
「ううん、いいよ。 チエちゃんもたいへんだね」
とんでもない事態に早々に寮に戻る必要が出来た。 仕方なく慌ただしくアオイを城へと送る。
「それじゃあ、アオイ、また。 愛してるよ」
「こんな時にふざけないのっ」
綺麗な笑顔を浮かべ、私を見送ってくれる。
冗談に乗せた想いは届かない。 わかってはいるが少し切ない。 だけど、言えるだけでもいい。 いずれは言うことすら出来なくなるかもしれない。
「おやすみ」
「うん」
心でアオイの笑みを、声を想い返し、私は踵を返して寮へと向かった。
(終)
訪れた夜のとばり、見え始めた煌く数多の星、その中に薄く光る青い宝玉。
「ノゾミちゃんっ! これっ、これならっ!?」
「…桂」
「これだったら平気なんじゃないのかなっ!? ねえっ!」
流れる涙もいとわずに、必死にわたしに問いかけてくる。
目の前で振られる宝玉に目を向ける。 確かに呪力を、そして『力』を感じる。 けれど…、
「…あなたわかっているの? 鬼を永らえさせて…」
「ノゾミちゃんは鬼なんかじゃないよっ!」
強い否定に驚く。
「ううん、鬼かもしれないけど…鬼じゃないっ。 だって、だってっ…」
何を言っているのかわからない。 だけど、心地よかった。 凄く心地よかった。
「桂」
「消えちゃだめだよっ。 ノゾミちゃんっ」
「…わかったわ」
もう充分だったけど、充分な時を過ごしたけど、まだ消えられない理由はできた。
こんなにも誰かに懇願されたことはなかった。
こんなにも望まれたことはなかった。
わたしは初めて必要とされた。
わたしが『人』として生きていた時、わたしが『鬼』として過ごしてきた時、わたしが求め続けたのはただ、ただひたすら『自由』であった。
だけど、ずっと一人だったからわからなかった。 親の顔を知らず、妹の顔も知らず、主様もミカゲも相槌しかくれなかったからわからなかった。
自分以外の感情をぶつけられることを
こんなにも愉快なこととは、こんなにも………幸せな気持ちになることだとは。
だからわたしは消えるわけにはいかない。 わたしはまだ満足していないのだから。
浅はかで愚鈍な、けれどいとおしく暖かいこの娘がわたしを必要とするのだから。
その時を共に過ごそう。
依り代となる宝玉に意識を延ばし、魂を送る。 依って立つ力場に崩れかかっていた魂が安定を取り戻していく。
そして、中にあった『力』は魂へと運ばれ、わたしは…現世に残った。
「ノゾミちゃんっ!?」
桂からすればわたしの姿は消え失せたようにしか見えないことを忘れていた。 泣き喚く桂にあわてて声をかける。
『落ちつきなさいな、桂っ。 わたしはちゃんといるわっ』
「…ノゾミ、ちゃん?」
『全くもう、ちゃんと人の話はお聞きなさいな。 わたしはわかったと言ったでしょう?』
「うう…ごめんなさい…」
『今現身を出すから』
そう言って力を具現化していく。
「ノゾミちゃんっ!」
形になったと同時に桂が抱きついてくる。 触れられている場所が暖かい。 桂の髪、桂の手、桂の身体…全てが心地よい。
ゆっくりとわたしも桂に触れる。 ゆっくりと桂の背中に手を回す。 抱きしめる。
今まで血を貰う時に人を抱いた事はあった。 だけど違う、そしてなぜかわかる。 わたしは、今、初めて、人を抱きしめた、と。
暖かい、暖かい、暖かい…温もりが魂に染みてゆく。
「ノゾミちゃん…」
「桂…」
しばらくそうしていたが、しなければならないこともある。 それにわたしには時間ができた。 また抱きしめる事はできる。 名残惜しい気持ちはあったが、桂の体からゆっくり離れる。
「桂、わたしが依ったせいで宝玉の力が無くなってしまったわ。 すぐに『力』をこめなければいけないの。 わかるわね?」
「あ、うん。 わたしの血が必要なんだね、うん、いいよ、吸って?」
「いいこね。 大丈夫、痛くはしないわ」
首筋へと顔を近づける。 桂の甘い香りが鼻をくすぐる。 その瞬間を恐れ緊張する桂の頬に手を回す。
「…大丈夫よ」
そのわたしの手に桂が手を重ねる。 もう片方の手で肩を掴む。 そして白くやわらかい肌に歯を立てた。
「んっ」
ほんのわずかな滴から、溢れるような『力』が宝玉に流れていく。
…うん、もう充分。
そっと歯を離す。 わずかに傷ついた肌を舐める、『力』をこめて。
「ひゃっ」
やってみるのは初めてだが、うまく傷を消せた。
「あれ? もういいの?」
「ええ、もう充分よ。 別に『力』はまだ入るのだけれど、今はこんなところでいいでしょう」
「大丈夫? なんだったらもっと吸っても…」
「あなたさっきわたしとミカゲに吸われた事をわかっていて? わたしのことより少しは自分のことも心配なさいなっ」
「あ、そっか」
「全く仕様のない子ね」
「…だって、ノゾミちゃんさっきまで消えそうだったわけだし。 わたし心配で…」
桂の言葉がわたしに響く。 温もりを与える。 だけど、わたしはどうすれば、どう応えるべきなのかよくわからない。
「もう大丈夫よ。 心配ならいらないわ」
うまく伝えられない。 もどかしい気分ではあるが、いずれできるようになるだろう。 時を経て、多くを語り合ううちにわかるだろう。 そう、思う。
そうなれば今度はわたしが桂に温もりを与える事ができるだろう。 そう考えると楽しかった。
わたしはノゾミ。 果てなく続く新たな望みは今桂とともにある。
(終)
「ノゾミちゃんっ! これっ、これならっ!?」
「…桂」
「これだったら平気なんじゃないのかなっ!? ねえっ!」
流れる涙もいとわずに、必死にわたしに問いかけてくる。
目の前で振られる宝玉に目を向ける。 確かに呪力を、そして『力』を感じる。 けれど…、
「…あなたわかっているの? 鬼を永らえさせて…」
「ノゾミちゃんは鬼なんかじゃないよっ!」
強い否定に驚く。
「ううん、鬼かもしれないけど…鬼じゃないっ。 だって、だってっ…」
何を言っているのかわからない。 だけど、心地よかった。 凄く心地よかった。
「桂」
「消えちゃだめだよっ。 ノゾミちゃんっ」
「…わかったわ」
もう充分だったけど、充分な時を過ごしたけど、まだ消えられない理由はできた。
こんなにも誰かに懇願されたことはなかった。
こんなにも望まれたことはなかった。
わたしは初めて必要とされた。
わたしが『人』として生きていた時、わたしが『鬼』として過ごしてきた時、わたしが求め続けたのはただ、ただひたすら『自由』であった。
だけど、ずっと一人だったからわからなかった。 親の顔を知らず、妹の顔も知らず、主様もミカゲも相槌しかくれなかったからわからなかった。
自分以外の感情をぶつけられることを
こんなにも愉快なこととは、こんなにも………幸せな気持ちになることだとは。
だからわたしは消えるわけにはいかない。 わたしはまだ満足していないのだから。
浅はかで愚鈍な、けれどいとおしく暖かいこの娘がわたしを必要とするのだから。
その時を共に過ごそう。
依り代となる宝玉に意識を延ばし、魂を送る。 依って立つ力場に崩れかかっていた魂が安定を取り戻していく。
そして、中にあった『力』は魂へと運ばれ、わたしは…現世に残った。
「ノゾミちゃんっ!?」
桂からすればわたしの姿は消え失せたようにしか見えないことを忘れていた。 泣き喚く桂にあわてて声をかける。
『落ちつきなさいな、桂っ。 わたしはちゃんといるわっ』
「…ノゾミ、ちゃん?」
『全くもう、ちゃんと人の話はお聞きなさいな。 わたしはわかったと言ったでしょう?』
「うう…ごめんなさい…」
『今現身を出すから』
そう言って力を具現化していく。
「ノゾミちゃんっ!」
形になったと同時に桂が抱きついてくる。 触れられている場所が暖かい。 桂の髪、桂の手、桂の身体…全てが心地よい。
ゆっくりとわたしも桂に触れる。 ゆっくりと桂の背中に手を回す。 抱きしめる。
今まで血を貰う時に人を抱いた事はあった。 だけど違う、そしてなぜかわかる。 わたしは、今、初めて、人を抱きしめた、と。
暖かい、暖かい、暖かい…温もりが魂に染みてゆく。
「ノゾミちゃん…」
「桂…」
しばらくそうしていたが、しなければならないこともある。 それにわたしには時間ができた。 また抱きしめる事はできる。 名残惜しい気持ちはあったが、桂の体からゆっくり離れる。
「桂、わたしが依ったせいで宝玉の力が無くなってしまったわ。 すぐに『力』をこめなければいけないの。 わかるわね?」
「あ、うん。 わたしの血が必要なんだね、うん、いいよ、吸って?」
「いいこね。 大丈夫、痛くはしないわ」
首筋へと顔を近づける。 桂の甘い香りが鼻をくすぐる。 その瞬間を恐れ緊張する桂の頬に手を回す。
「…大丈夫よ」
そのわたしの手に桂が手を重ねる。 もう片方の手で肩を掴む。 そして白くやわらかい肌に歯を立てた。
「んっ」
ほんのわずかな滴から、溢れるような『力』が宝玉に流れていく。
…うん、もう充分。
そっと歯を離す。 わずかに傷ついた肌を舐める、『力』をこめて。
「ひゃっ」
やってみるのは初めてだが、うまく傷を消せた。
「あれ? もういいの?」
「ええ、もう充分よ。 別に『力』はまだ入るのだけれど、今はこんなところでいいでしょう」
「大丈夫? なんだったらもっと吸っても…」
「あなたさっきわたしとミカゲに吸われた事をわかっていて? わたしのことより少しは自分のことも心配なさいなっ」
「あ、そっか」
「全く仕様のない子ね」
「…だって、ノゾミちゃんさっきまで消えそうだったわけだし。 わたし心配で…」
桂の言葉がわたしに響く。 温もりを与える。 だけど、わたしはどうすれば、どう応えるべきなのかよくわからない。
「もう大丈夫よ。 心配ならいらないわ」
うまく伝えられない。 もどかしい気分ではあるが、いずれできるようになるだろう。 時を経て、多くを語り合ううちにわかるだろう。 そう、思う。
そうなれば今度はわたしが桂に温もりを与える事ができるだろう。 そう考えると楽しかった。
わたしはノゾミ。 果てなく続く新たな望みは今桂とともにある。
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