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数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
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 (桂とユメイ かなりの変化球ではありますが)

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 白い花が舞い落ちる。 今年もいつもと変わらずきれいに咲いている。
 蝉の鳴き声も聞かず、小鳥のさえずりも聞こえない。 ただ風が草木をなびかせる音だけ。 存在はその音が全て。

 流れる月日は時の夢。 変わらぬ夏が繰り返される。

 茂るに任せた草叢を掻き分け、歩く者がいる。 真っ直ぐに、一点を見つめて。

 辿り着いた先には、天へと向かう大きな木が立っていた。 槐の花びらが舞う。
 その花びらをただ黙って眺める。

 滴が落ちる。 声をあげることもなく泣く。 ただ、泣く。 顔を覆い、泣き崩れる。
 槐の花びらは舞う。 包み込むように、さらさらと、降りそそぐ。

 槐の木に片手をつけ、顔を上げる。 肩で揃えた髪、そして髪に留まる青い蝶。

「…久しぶり。 本当に、久しぶり」
 無理に浮かべた笑顔に花びらがくっつく。 振り払う事も泣き止む事もせず、ただそのままの体勢でいる。

 木にかけた手、その手首には包帯が巻かれている。

「もう1年か…。 ごめんね、白花ちゃん」
 木を見上げ呟く。

「そして…」
 振り向く。 何もない木のふもと、何もないその空間に語りかける。
「ごめんね、柚明お姉ちゃん」

 淡々と一人喋る。 音の無い中、その声は風にさらわれていく。



「わたし…やっぱり無理だよ。 …もう…無理だよ」
 泣き笑いの顔を浮かべ呟き、うな垂れる。
「多分、会えないんだろうね…。 でも、もう、無理…だよ」
 スカートのポケットからそれを取り出す。 太陽に照らされて、それは辺りに銀色の光を振りまく。
「…会えなくても、ここでなら…いいや…」

 ざあっ
 槐の花びらが舞う。 降りそそぐ。 風もなく、花びらは舞う。
「…ごめんね…」

「桂ーーーーーっ!!!」

 びくっと体を震わせ、動きが止まる。 銀の刃を構えたまま。

 草叢を駆ける音に硬直が解ける。 それを包帯の上へと運ぶ。

「殺すのかいっ、柚明をっ!」
「違うっ!」
「違わないさっ!」
「違うっ、違うっ!! お姉ちゃんはもういないっ!!」

 目を瞑ってそれを持った手に力を込める。 が、その手を掴まれる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「いない…いない…いない…」
「はぁっ、いるさ……いるとも」

 耳を塞いで俯く顔に鏡を差し出す。
「目を開けて見なっ」
「嫌」
「いいから見なっ!」
「嫌っ!」
「見ながらでもバカなことができるかいっ!?」
「うるさいっ!!」

 風が流れる。
「…桂。 あんたが死んだら、柚明も死ぬんだよ?」
「…」
「なんのために柱になり…そして消えていったんだい?」
「…」
「全部あんたのためだろう? もうやめておくれっ!」
「…そうよ」
 ぼんやりと顔を上げる。
「全部わたしのせいでお姉ちゃんは…」
「違うっ! そうじゃないっ!」
「違わないよっ! わたしのせいなんだよっ! お姉ちゃんも白花ちゃんもっ!!」
「誰も桂を恨んじゃいないさっ! ただあんたに…あんたに生きて欲しいだけだったんだよ…」
「できないよっ!」
 悲鳴とも思える叫びが響く。

 視界に入った鏡から目を逸らす。

「柚明は生きてる。 …桂、あんたの中に」
 鏡を顔の前に送る。 鏡の中にはあの日別れた愛しい顔と似た泣き顔があった。
「ずっと一緒さ。 あんたが生きてる限り」
「うっ…ううぅっ…うっ…」

 白い花びらが、空に、二人に、舞う。

 鏡を抱いて泣き崩れる少女をやわらかく抱きしめる。

 静かなその場所にただ泣き声だけが聞こえていた。



(終)
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