数分で読める小話を置いてます。 暇潰しにはなるかもしれません。
「ひっ、人違いじゃないですか?」
「わたし、尻尾の出てる知り合いなんて、人違いするほど多くないんだけど?」
「えっ!? 尻尾出てます!?」
「出てないよ」
「……え?」
「尻尾を出したな、葛ちゃん」
「たはは、これは一本とられました」
後ろから抱きしめたまま、葛の首に桂は額をつける。
「ひどいよ、葛ちゃん…」
「桂おねーさん?」
つい先程まで忘れていた、いや忘れさせられていた少女を強く抱きしめる。
「でも思い出せた…もう忘れない、忘れないよ葛ちゃん」
「たはは…桂おねーさんのためだったのですが…」
「嘘だよっ。 …そんなの嘘だよ」
「えっ?」
即座にはっきりと否定され、葛は戸惑い首を後ろに回す。 すると、半泣きの顔が睨んでいた。
「どうして嘘なんですか?」
「それが本当だったら、葛ちゃんを思い出せてこんなに嬉しいわけないもの。 泣きたいくらいに嬉しいわけないものっ」
「桂おねーさん…」
「葛ちゃんだって、忘れたくなかったんだよね? だからここにいるんだよね?」
「…あ…」
葛は戸惑いを隠せなかった。 そう、逢いたかったのだ。
「いいんだよ、葛ちゃん。 わたしも葛ちゃんに逢いたかったよ」
桂の言葉に葛が顔を上げる。 くりくりとした大きなその目には桂同様涙が浮かんでいる。
「だから、だから逢いたい人を忘れさせるなんて、そんなひどい事しないで、葛ちゃんっ」
そう言って桂は笑顔を向ける。 笑顔の端から涙がこぼれる。
「~っ、桂おねーさんっ」
葛もまた涙を流しながら、自分より年上の少女の控えめな胸に正面から抱きついた。
ーーー
お互い真っ赤になった目で向き合う。
「でもですね、本当にわたしに関わると碌な事になりませんよ?」
「葛ちゃん」
「はい?」
「わたしはね、後悔してる事はたくさんあるの。 だからね、わたしはずっとそういうふうに生きてるんだから、後悔するかもしれない予約が今更ひとつぐらい入ったって、全然構わないよ」
「…」
少々呆気にとられた顔で桂を見ていた葛の顔が笑顔へと変わる。
「ふふふ、桂おねーさんには敵いませんね」
並木道で抱き合う二人。 観客はいない、二人だけのステージ。 けれどまだ幕は降りない、ハッピーエンドは未来へのプロローグだから。
「…やっぱり桂おねーさんは心配です。 とてつもなく甘すぎです」
ため息混じりに葛が呟く。
「そうかな?」
「やれやれですねー」
と、またため息をひとつ。 けれどすぐ笑顔になって、
「でもその無用心さが桂おねーさんのいい所なんですよねっ」
と嬉しそうに言った。
ーーー
若杉の頭首のまま、全てを背負って葛は桂と暮らす事を決めた。
誰の反対も許さなかった。
葛は言った。
「何も問題はありません。 結果で示しましょう」
かくして、若杉財閥会長にして鬼切頭、若杉葛は羽島桂と小さな安アパートで暮らし始めた。
ーーー
「ただいまー」
冬も近付き寒さが一段と厳しくなり始めたとある日のこと。
買い物袋を両手に下げて、桂が家に帰ってきた。
「おかえりなさい、桂おねーさん」
奥からかわいい甲高い声が飛んでくる。
「ううー、寒かったー」
「ご苦労様でした」
さっきまで向き合っていたパソコンと書類の束から目を離し、桂を見つめる。
「わたしが言うべき事じゃないかもしれないけど…葛ちゃん、こんの詰めすぎはよくないよ?」
「わかってますよ、桂おねーさん。 気をつけますね」
微笑を浮かべて葛が応える。
「でも桂おねーさんも体には気をつけてくださいね。 リップクリームを塗った方がいいですよ」
言われて舌で唇を舐める。 この寒さでやられたらしい。
「あはは、そうだね。 気をつけます」
そしてお互い笑いあう。
「じゃあ、夕飯の支度するね。 くれぐれも程ほどに」
「はい、わかりました」
ーーー
深夜、声が聞こえた気がして、桂は目を覚ます。
「はい、ご苦労様です。 詳細は彼に伝えておいてください」
「…葛ちゃん?」
窓際、月明かりに照らされて葛が携帯電話を掛けていた。
「…桂おねーさん。 起こしちゃいました?」
体だけ起こして、桂は少し怒り気味に言う。
「起こしちゃいました?じゃないよ、葛ちゃんっ。 そんなに…そんなに頑張らないとダメなの? 葛ちゃんがそんなに頑張らないとわたしとは暮らせないの? こんな時間まで葛ちゃんが起きてなきゃいけないなんて、わたしつらいよっ!」
最後の方は涙声になっていた。
「ねえ、わたしに何か手伝えない? 何でも手伝うから。 だから葛ちゃんあんまり無理しないで…お願いだから…」
黙って聞いていた葛は優しい笑顔を浮かべ桂に近付く。 桂の布団にまたがり膝をつく。 目線はほぼ同じ高さ。
「残念ながら、桂おねーさんに手伝える事は何もありません」
「でもっ」
葛の言葉につい涙がこぼれる。 わかっていた、自分が手伝えるわけが無いと。 でもわかっているからこそつらかった。
「桂おねーさん」
優しい笑顔のまま、葛は桂を正面から見つめる。 しかし、もはや止まらなくなった涙のせいで桂は返事すらできない。
「わたしはつらいと思った事は無いですよ。 幸せですから」
「しあ…わ…せ?」
戸惑う桂に小さく頷いて言葉を続ける。
「だって好きな人と一緒に暮らしているんですから。 これを幸せと言わずに何と言うんですか」
「でも…」
喋ろうとする桂の唇に人差し指が置かれる。
「わたしは桂おねーさんが好きです。 大好きです」
「あ…」
桂の口が小さく動く。
桂の唇の上に置いていた指を離し、桂の耳もとの髪を梳きながら、葛は言葉を紡ぐ。
「その髪が好きです。 さらさらと風に流れるやわらかく美しい髪が好きです」
すでに泣き止んだ桂の涙の跡を拭いながら
「その瞳が好きです。 どこにいてもわたしを見つけてくれる綺麗な瞳が好きです」
首に両手を回し、抱きつきながら
「その声が好きです。 優しく甘い、心を虜にする声が好きです」
そのまま首筋にキスをしながら
「その匂いが好きです。 どんな花も敵わない、甘くとろける匂いが好きです」
「ぅんっ」
胸元にキスをしながら
「その体が好きです。 ぎゅっとしたら折れてしまいそうな繊細で華奢な体が好きです」
「あっ」
「そして…その血が好きです。 連綿と紡がれる運命と力を秘めていながら、誰よりも暖かいその血も…好きです」
そう言って葛はうっとりとした顔を上げる。
「え?」
「桂おねーさんも人の事ばかりは言えませんよ。 リップ塗らなかったんですね?」
「え? え?」
「切れちゃってますよ、く・ち・び・る」
そう言ったかと思うと葛は顔を一気に近づけて、桂の下唇をついばむ。
「ん、んんっ」
次いで上唇を同じようについばむ。 そしてそのままキスをする。
「ぅんん…」
桂の唇を舌でなぞる。 優しく、そして柔らかく。 そしてまたキスをする。
「好きです、桂おねーさん。 誰よりも何よりも」
「…わたしも好きだよ。 葛ちゃん、大好き…」
そして今度は桂の方から葛の唇を求める。
「…ぅん、だから、桂おねーさんのための努力は惜しみません。 例え桂おねーさんを不安にしてもです」
強い目で葛が口にする。
「そうなんだ…」
「ごめんなさいです、桂おねーさん」
「でも、ね」
「?」
ぐっ、と葛を抱き寄せる。
「こんなに体冷えきって…こういう無理をしないで欲しいんだけどな」
抱きしめたまま倒れこむ。
「さあ寝よう、葛ちゃん…」
「ええ、このままで…」
片方の布団は主不在のまま、ひとつ布団で抱き合って二人は眠る。 夢の中まで抱きしめて。
朝が来て、また夜が来て、繰り返す日常が幸せ。
艱難辛苦を乗り越えて、二人を繋ぐ赤い糸。
(終)
ータイトル命名 葉崎紅弥様ー 多謝
「わたし、尻尾の出てる知り合いなんて、人違いするほど多くないんだけど?」
「えっ!? 尻尾出てます!?」
「出てないよ」
「……え?」
「尻尾を出したな、葛ちゃん」
「たはは、これは一本とられました」
後ろから抱きしめたまま、葛の首に桂は額をつける。
「ひどいよ、葛ちゃん…」
「桂おねーさん?」
つい先程まで忘れていた、いや忘れさせられていた少女を強く抱きしめる。
「でも思い出せた…もう忘れない、忘れないよ葛ちゃん」
「たはは…桂おねーさんのためだったのですが…」
「嘘だよっ。 …そんなの嘘だよ」
「えっ?」
即座にはっきりと否定され、葛は戸惑い首を後ろに回す。 すると、半泣きの顔が睨んでいた。
「どうして嘘なんですか?」
「それが本当だったら、葛ちゃんを思い出せてこんなに嬉しいわけないもの。 泣きたいくらいに嬉しいわけないものっ」
「桂おねーさん…」
「葛ちゃんだって、忘れたくなかったんだよね? だからここにいるんだよね?」
「…あ…」
葛は戸惑いを隠せなかった。 そう、逢いたかったのだ。
「いいんだよ、葛ちゃん。 わたしも葛ちゃんに逢いたかったよ」
桂の言葉に葛が顔を上げる。 くりくりとした大きなその目には桂同様涙が浮かんでいる。
「だから、だから逢いたい人を忘れさせるなんて、そんなひどい事しないで、葛ちゃんっ」
そう言って桂は笑顔を向ける。 笑顔の端から涙がこぼれる。
「~っ、桂おねーさんっ」
葛もまた涙を流しながら、自分より年上の少女の控えめな胸に正面から抱きついた。
ーーー
お互い真っ赤になった目で向き合う。
「でもですね、本当にわたしに関わると碌な事になりませんよ?」
「葛ちゃん」
「はい?」
「わたしはね、後悔してる事はたくさんあるの。 だからね、わたしはずっとそういうふうに生きてるんだから、後悔するかもしれない予約が今更ひとつぐらい入ったって、全然構わないよ」
「…」
少々呆気にとられた顔で桂を見ていた葛の顔が笑顔へと変わる。
「ふふふ、桂おねーさんには敵いませんね」
並木道で抱き合う二人。 観客はいない、二人だけのステージ。 けれどまだ幕は降りない、ハッピーエンドは未来へのプロローグだから。
「…やっぱり桂おねーさんは心配です。 とてつもなく甘すぎです」
ため息混じりに葛が呟く。
「そうかな?」
「やれやれですねー」
と、またため息をひとつ。 けれどすぐ笑顔になって、
「でもその無用心さが桂おねーさんのいい所なんですよねっ」
と嬉しそうに言った。
ーーー
若杉の頭首のまま、全てを背負って葛は桂と暮らす事を決めた。
誰の反対も許さなかった。
葛は言った。
「何も問題はありません。 結果で示しましょう」
かくして、若杉財閥会長にして鬼切頭、若杉葛は羽島桂と小さな安アパートで暮らし始めた。
ーーー
「ただいまー」
冬も近付き寒さが一段と厳しくなり始めたとある日のこと。
買い物袋を両手に下げて、桂が家に帰ってきた。
「おかえりなさい、桂おねーさん」
奥からかわいい甲高い声が飛んでくる。
「ううー、寒かったー」
「ご苦労様でした」
さっきまで向き合っていたパソコンと書類の束から目を離し、桂を見つめる。
「わたしが言うべき事じゃないかもしれないけど…葛ちゃん、こんの詰めすぎはよくないよ?」
「わかってますよ、桂おねーさん。 気をつけますね」
微笑を浮かべて葛が応える。
「でも桂おねーさんも体には気をつけてくださいね。 リップクリームを塗った方がいいですよ」
言われて舌で唇を舐める。 この寒さでやられたらしい。
「あはは、そうだね。 気をつけます」
そしてお互い笑いあう。
「じゃあ、夕飯の支度するね。 くれぐれも程ほどに」
「はい、わかりました」
ーーー
深夜、声が聞こえた気がして、桂は目を覚ます。
「はい、ご苦労様です。 詳細は彼に伝えておいてください」
「…葛ちゃん?」
窓際、月明かりに照らされて葛が携帯電話を掛けていた。
「…桂おねーさん。 起こしちゃいました?」
体だけ起こして、桂は少し怒り気味に言う。
「起こしちゃいました?じゃないよ、葛ちゃんっ。 そんなに…そんなに頑張らないとダメなの? 葛ちゃんがそんなに頑張らないとわたしとは暮らせないの? こんな時間まで葛ちゃんが起きてなきゃいけないなんて、わたしつらいよっ!」
最後の方は涙声になっていた。
「ねえ、わたしに何か手伝えない? 何でも手伝うから。 だから葛ちゃんあんまり無理しないで…お願いだから…」
黙って聞いていた葛は優しい笑顔を浮かべ桂に近付く。 桂の布団にまたがり膝をつく。 目線はほぼ同じ高さ。
「残念ながら、桂おねーさんに手伝える事は何もありません」
「でもっ」
葛の言葉につい涙がこぼれる。 わかっていた、自分が手伝えるわけが無いと。 でもわかっているからこそつらかった。
「桂おねーさん」
優しい笑顔のまま、葛は桂を正面から見つめる。 しかし、もはや止まらなくなった涙のせいで桂は返事すらできない。
「わたしはつらいと思った事は無いですよ。 幸せですから」
「しあ…わ…せ?」
戸惑う桂に小さく頷いて言葉を続ける。
「だって好きな人と一緒に暮らしているんですから。 これを幸せと言わずに何と言うんですか」
「でも…」
喋ろうとする桂の唇に人差し指が置かれる。
「わたしは桂おねーさんが好きです。 大好きです」
「あ…」
桂の口が小さく動く。
桂の唇の上に置いていた指を離し、桂の耳もとの髪を梳きながら、葛は言葉を紡ぐ。
「その髪が好きです。 さらさらと風に流れるやわらかく美しい髪が好きです」
すでに泣き止んだ桂の涙の跡を拭いながら
「その瞳が好きです。 どこにいてもわたしを見つけてくれる綺麗な瞳が好きです」
首に両手を回し、抱きつきながら
「その声が好きです。 優しく甘い、心を虜にする声が好きです」
そのまま首筋にキスをしながら
「その匂いが好きです。 どんな花も敵わない、甘くとろける匂いが好きです」
「ぅんっ」
胸元にキスをしながら
「その体が好きです。 ぎゅっとしたら折れてしまいそうな繊細で華奢な体が好きです」
「あっ」
「そして…その血が好きです。 連綿と紡がれる運命と力を秘めていながら、誰よりも暖かいその血も…好きです」
そう言って葛はうっとりとした顔を上げる。
「え?」
「桂おねーさんも人の事ばかりは言えませんよ。 リップ塗らなかったんですね?」
「え? え?」
「切れちゃってますよ、く・ち・び・る」
そう言ったかと思うと葛は顔を一気に近づけて、桂の下唇をついばむ。
「ん、んんっ」
次いで上唇を同じようについばむ。 そしてそのままキスをする。
「ぅんん…」
桂の唇を舌でなぞる。 優しく、そして柔らかく。 そしてまたキスをする。
「好きです、桂おねーさん。 誰よりも何よりも」
「…わたしも好きだよ。 葛ちゃん、大好き…」
そして今度は桂の方から葛の唇を求める。
「…ぅん、だから、桂おねーさんのための努力は惜しみません。 例え桂おねーさんを不安にしてもです」
強い目で葛が口にする。
「そうなんだ…」
「ごめんなさいです、桂おねーさん」
「でも、ね」
「?」
ぐっ、と葛を抱き寄せる。
「こんなに体冷えきって…こういう無理をしないで欲しいんだけどな」
抱きしめたまま倒れこむ。
「さあ寝よう、葛ちゃん…」
「ええ、このままで…」
片方の布団は主不在のまま、ひとつ布団で抱き合って二人は眠る。 夢の中まで抱きしめて。
朝が来て、また夜が来て、繰り返す日常が幸せ。
艱難辛苦を乗り越えて、二人を繋ぐ赤い糸。
(終)
ータイトル命名 葉崎紅弥様ー 多謝
「えー? 海ってばバレー部なのにスキーできないのー?」
「いやバレー関係無いし」
「だっていっつも体動かしてるじゃん」
「いや本当関係無いし」
「じゃあ行ったら? スキー教室」
「うーん…。 でも、あたし家でいろいろあるから…」
「だったら尚の事行った方が気が楽なんじゃない?」
「うーん…」
「海が行くと言うのなら私が協力しよう」
「いやそれは悪いし………って、いつからいたーっ!」
あたしの名前は後藤海。 バレー部所属の期待の星…自称。 輝け乙女な女子高生。
それはさておき、横から口を挟んできたのは東城つばき。 誰もが認める美少女、おまけにお嬢で成績優秀、普通に見ればパーフェクトレディー。
「初めからいつものように海をストーキングしていたぞ」
ただし口を開かなければ。
「いいから自分の教室に帰れ」
「せっかく転がることしか出来ない海のために、協力しようという私になんという言い草だ」
いまいち理解できないが、少し前に屋上に呼び出されて行ったらキスをされた。 それ以降あたしに付きまとい、先日は告白までされたが、あたしは微妙に困惑中。
「いや別に協力しなくていいから」
「先日の礼代わりに私が連れて行ってやろう」
「だから別にいいって」
「はい、じゃあバスから降りたら整列してー」
なぜか来ている。
「人が多いな」
「そうなの? あたしは来たこと無いからよくわからないけど」
「うむ。 私のゲレンデではじいと護衛の者しかいなかったが」
「…それはあんたのプライベートゲレンデだろうが」
「それ以外のゲレンデに行ったことはなかったのでな」
「大体東城さん滑れるの?」
「ジャンプはやったことないが」
普通はやるのか、ジャンプ? でもまあ、滑れるみたいだ。
「とりあえず宿に行きます。 荷物を置いて、30分後にまたここに集合してください」
先生の指示に従い皆がぞろぞろと動き出す。 ついていこうとすると、腕を掴まれた。
「何?」
「私達の宿舎はそちらではない」
「どうして?」
「部屋割りによると私と海は別なのだ」
「知ってる」
「愛し合う者同士が離れ離れになるのもどうかと思ったので、別に宿を取っておいたのだ」
「待て」
「もうすぐじいが迎えに来るだろう」
無視して皆の後について行こうとするが、彼女が腕を掴んで離さない。
「離して」
「どうしてだ」
「まず学校のスキー教室に来てるから先生に従うため。 次にあたしは部屋割りに不満は無いため。 なにより愛し合ってないから」
「ふむ」
「わかったら手離してよ」
「しかし海。 行っても部屋は無いぞ」
「…どうして」
「すでにキャンセルしている。 無理に行った所で荷物から離れたらじいが荷物を運ぶ事になっているしな」
「かえるっ!」
「今は冬眠してるだろう」
「違うっ! 家に帰るって言ってんのっ!」
「無駄だ。 そんな金は持ってきてないだろう。 そもそもどうやって帰るつもりだ」
「あんた…確信犯か…」
「その用法は間違っているな。 海はヌけているようで本当にヌけているのだな」
「ふざけるなーっ!」
叫んだところで状況は変わらない。 行き場の無い以上仕方なし、彼女の取ったという宿に行く。
「…」
「どうかしたか、海? そう間抜け面で眺めても何も見つかりはしないと思うが」
「東城さんってお嬢よね」
「自分でそう言ったことはないが、そう言われたことはあるな」
「なのになんでこんな所なわけ?」
どう見てもボロな旅館。 シーズン最中なのに駐車場はガラガラ。 傍目に見ても客が入ってない。
「うむ。 できるだけ狭い部屋の方がいいと思ってじいに頼んだらここになった。 心配いらない、厨房にはじいがスタッフを入れているそうだ」
何気なく人聞きの悪いことを言っているがとりあえず流しておいて、
「へ? 東城さん所のお抱えシェフかなんか?」
「よくわからんが、じいがそう言っていたから大丈夫だろう」
「へえー、じゃあここに泊まってる人達はラッキーね」
「どうしてだ?」
「え? だっておいしい物食べれるんでしょ?」
「私達の部屋のためのスタッフだから、他の部屋には関係ない話だと思うが」
「あんた、いい性格してるよね…」
荷物を置いて、外に出る。
「うー、寒っ」
「そうか、なら私があたためてあげよう」
「だからいやらしーオヤジみたいな言い方しないで」
客が少ないせいか滑っている人も少ない。 まあ練習する身のあたしにはありがたい気もする。
「…じゃああんたが教えてくれるの?」
「構わないが…その分のお礼はしてもらえると考えていいか?」
「あんたがここに連れてきたんだから責任を取れって言ってんのっ」
あたしがそう言うと、彼女はため息をつきやれやれと首を振りながら言う。
「仕方がない。 教えてあげよう」
「あんたがそういう態度を取れることが不思議でならないんだけど」
「では海。 まずは軽く滑ってみようか」
「…」
「どうした、海?」
「…」
「黙っているとキスするがいいか?」
「いいわけあるかーっ」
「いつもより勢いが無いな。 寒いのか?」
「…」
どうしてスキーができなくてスキー教室に来ているあたしがこんな高い所にいるのでしょうか。
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、それは聞いたな」
「…下へ降りたいんだけど」
「だから軽く滑ってみようと言っている」
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、だから私が海に教えると約束したではないか」
誰かこの女に人の話を理解する術を教えてください。
吹きすさぶ風は冷たく、ただでさえ人の少ないゲレンデでこの高さには人の気配はなし。 風の音とリフトの機械音以外の音はなし。
「どうした? 滑らなければ教えようもないが」
「もっとこう…基本的な事を安全な場所で教えよう、という気はなかったのっ?」
「ふむ…。 しかし、人が少ないとは言え人のいる場所で練習するのは危ないと思ったのでな」
「滑れないやつがこんな高い場所にいる方がかえって危ないわよっ!」
「言われてみればそうだな」
誰か助けてください。
「ともかく滑るしか戻る術はないのだから、滑ってみたらどうだ」
言うや否や、あたしを突き飛ばす。
「ぎゃーっ」
「海、いきなりそのスピードは危ないと思うが」
「あんたが押したんでしょうがーっ!」
気がつくと彼女に抱きかかえられていた。
「あれ? いったいどうして…?」
寒い。
「うむ。 海は気絶していたのだ。 それを私が介抱しているというわけだ。 場所はよくわからん」
「…」
辺りを見回すと一面の銀世界。 人の姿どころか声もなし、リフトの姿どころか明かりすらなし。
「…まさか……あたし達遭難したってこと?」
「そういう可能性もある」
「ちょ、ちょっとっ。 何そんな冷静なのよっ? たいへんじゃないっ!」
あたしは事態に驚き起き上がる。
「明るい内に戻らなくちゃっ」
そう言って立ち上がるが、彼女は座ったまま動かない。
「何してるのよ、ほらっ」
手を引っ張って立たせようとすると顔をしかめる。
「えっ!? どうしたのっ?」
「いや…少々足を痛めてな。 動けないのだ」
もしかしてあたしのせい? 気絶した時に何か?
「で、でもこのままじゃ…」
「ふむ。 では海だけでも先に戻るといい。 おそらくあちらの方向に行けば宿に着くはずだ」
そう言って方向を指差す。
「そ…そんなこと、できるわけないじゃないっ。 バカなこと言わないでよっ!」
あたしが言い放つと彼女は驚いた顔を浮かべる。
「どこか休める場所は…」
辺りを見回すと休めそうな窪みが見つかった。
「少し我慢してよね」
そう言ってあたしは彼女を抱き上げ、そこへ向かって歩く。
「海は意外に力があるのだな」
「…ダイエットしなさいよ」
「そうか? 海よりは無いと思うが」
「…いいから黙ってろ」
寒さに耐えるため、寄り添って座る。
「大丈夫? 寒くない?」
「そう思うのなら今私が考えていることをしてくれ」
「調子にのるなーっ」
辺りが薄暗くなってくる。 寒さも増してきた。 状況は極めて深刻。 いつしかあたし達は抱き合っていた。
「…ここで死んじゃうのかな…」
「なぜだ」
「だって、雪山で遭難して凍死ってよく聞くじゃない」
「ふむ」
「スキー教室なんて来るんじゃなかった…」
だんだんと眠くなって、瞼が下りてくる。
遠くから何か音が聞こえる気がしてきた。 なんか車みたい音。
すると、彼女があたしから離れた。
「どうしたの?」
ぼんやりとあたしは彼女の方を見る。
「どうやらじいが迎えに来たようだ」
「よかったわね…」
って、え!?
「助けが来たのっ!?」
飛び起きるとスノーモービルだかなんだかの明かりがこちらに近づいてくる。 彼女がそれに向かって手を振っている。 …って、
「あんた足はっ!?」
「うむ。 痺れならもう取れた」
「はい!?」
「海が気がつくまで膝枕をしていたら痺れて立てなかったのだが、もう平気だ。 海のおかげだ」
「…」
「それではそろそろ宿に戻るとしよう、海」
「…」
「どうした? まだ足りなかったか? なら続きは宿でにしよう、ここでは体に障るぞ」
「ふざけるなーっっっ!!」
もうスキー教室なんか絶対来ない。 あたしはより深みに堕ちてしまった、そんな気がした。
(終)
「いやバレー関係無いし」
「だっていっつも体動かしてるじゃん」
「いや本当関係無いし」
「じゃあ行ったら? スキー教室」
「うーん…。 でも、あたし家でいろいろあるから…」
「だったら尚の事行った方が気が楽なんじゃない?」
「うーん…」
「海が行くと言うのなら私が協力しよう」
「いやそれは悪いし………って、いつからいたーっ!」
あたしの名前は後藤海。 バレー部所属の期待の星…自称。 輝け乙女な女子高生。
それはさておき、横から口を挟んできたのは東城つばき。 誰もが認める美少女、おまけにお嬢で成績優秀、普通に見ればパーフェクトレディー。
「初めからいつものように海をストーキングしていたぞ」
ただし口を開かなければ。
「いいから自分の教室に帰れ」
「せっかく転がることしか出来ない海のために、協力しようという私になんという言い草だ」
いまいち理解できないが、少し前に屋上に呼び出されて行ったらキスをされた。 それ以降あたしに付きまとい、先日は告白までされたが、あたしは微妙に困惑中。
「いや別に協力しなくていいから」
「先日の礼代わりに私が連れて行ってやろう」
「だから別にいいって」
「はい、じゃあバスから降りたら整列してー」
なぜか来ている。
「人が多いな」
「そうなの? あたしは来たこと無いからよくわからないけど」
「うむ。 私のゲレンデではじいと護衛の者しかいなかったが」
「…それはあんたのプライベートゲレンデだろうが」
「それ以外のゲレンデに行ったことはなかったのでな」
「大体東城さん滑れるの?」
「ジャンプはやったことないが」
普通はやるのか、ジャンプ? でもまあ、滑れるみたいだ。
「とりあえず宿に行きます。 荷物を置いて、30分後にまたここに集合してください」
先生の指示に従い皆がぞろぞろと動き出す。 ついていこうとすると、腕を掴まれた。
「何?」
「私達の宿舎はそちらではない」
「どうして?」
「部屋割りによると私と海は別なのだ」
「知ってる」
「愛し合う者同士が離れ離れになるのもどうかと思ったので、別に宿を取っておいたのだ」
「待て」
「もうすぐじいが迎えに来るだろう」
無視して皆の後について行こうとするが、彼女が腕を掴んで離さない。
「離して」
「どうしてだ」
「まず学校のスキー教室に来てるから先生に従うため。 次にあたしは部屋割りに不満は無いため。 なにより愛し合ってないから」
「ふむ」
「わかったら手離してよ」
「しかし海。 行っても部屋は無いぞ」
「…どうして」
「すでにキャンセルしている。 無理に行った所で荷物から離れたらじいが荷物を運ぶ事になっているしな」
「かえるっ!」
「今は冬眠してるだろう」
「違うっ! 家に帰るって言ってんのっ!」
「無駄だ。 そんな金は持ってきてないだろう。 そもそもどうやって帰るつもりだ」
「あんた…確信犯か…」
「その用法は間違っているな。 海はヌけているようで本当にヌけているのだな」
「ふざけるなーっ!」
叫んだところで状況は変わらない。 行き場の無い以上仕方なし、彼女の取ったという宿に行く。
「…」
「どうかしたか、海? そう間抜け面で眺めても何も見つかりはしないと思うが」
「東城さんってお嬢よね」
「自分でそう言ったことはないが、そう言われたことはあるな」
「なのになんでこんな所なわけ?」
どう見てもボロな旅館。 シーズン最中なのに駐車場はガラガラ。 傍目に見ても客が入ってない。
「うむ。 できるだけ狭い部屋の方がいいと思ってじいに頼んだらここになった。 心配いらない、厨房にはじいがスタッフを入れているそうだ」
何気なく人聞きの悪いことを言っているがとりあえず流しておいて、
「へ? 東城さん所のお抱えシェフかなんか?」
「よくわからんが、じいがそう言っていたから大丈夫だろう」
「へえー、じゃあここに泊まってる人達はラッキーね」
「どうしてだ?」
「え? だっておいしい物食べれるんでしょ?」
「私達の部屋のためのスタッフだから、他の部屋には関係ない話だと思うが」
「あんた、いい性格してるよね…」
荷物を置いて、外に出る。
「うー、寒っ」
「そうか、なら私があたためてあげよう」
「だからいやらしーオヤジみたいな言い方しないで」
客が少ないせいか滑っている人も少ない。 まあ練習する身のあたしにはありがたい気もする。
「…じゃああんたが教えてくれるの?」
「構わないが…その分のお礼はしてもらえると考えていいか?」
「あんたがここに連れてきたんだから責任を取れって言ってんのっ」
あたしがそう言うと、彼女はため息をつきやれやれと首を振りながら言う。
「仕方がない。 教えてあげよう」
「あんたがそういう態度を取れることが不思議でならないんだけど」
「では海。 まずは軽く滑ってみようか」
「…」
「どうした、海?」
「…」
「黙っているとキスするがいいか?」
「いいわけあるかーっ」
「いつもより勢いが無いな。 寒いのか?」
「…」
どうしてスキーができなくてスキー教室に来ているあたしがこんな高い所にいるのでしょうか。
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、それは聞いたな」
「…下へ降りたいんだけど」
「だから軽く滑ってみようと言っている」
「…あたし滑れないんだけど」
「うむ、だから私が海に教えると約束したではないか」
誰かこの女に人の話を理解する術を教えてください。
吹きすさぶ風は冷たく、ただでさえ人の少ないゲレンデでこの高さには人の気配はなし。 風の音とリフトの機械音以外の音はなし。
「どうした? 滑らなければ教えようもないが」
「もっとこう…基本的な事を安全な場所で教えよう、という気はなかったのっ?」
「ふむ…。 しかし、人が少ないとは言え人のいる場所で練習するのは危ないと思ったのでな」
「滑れないやつがこんな高い場所にいる方がかえって危ないわよっ!」
「言われてみればそうだな」
誰か助けてください。
「ともかく滑るしか戻る術はないのだから、滑ってみたらどうだ」
言うや否や、あたしを突き飛ばす。
「ぎゃーっ」
「海、いきなりそのスピードは危ないと思うが」
「あんたが押したんでしょうがーっ!」
気がつくと彼女に抱きかかえられていた。
「あれ? いったいどうして…?」
寒い。
「うむ。 海は気絶していたのだ。 それを私が介抱しているというわけだ。 場所はよくわからん」
「…」
辺りを見回すと一面の銀世界。 人の姿どころか声もなし、リフトの姿どころか明かりすらなし。
「…まさか……あたし達遭難したってこと?」
「そういう可能性もある」
「ちょ、ちょっとっ。 何そんな冷静なのよっ? たいへんじゃないっ!」
あたしは事態に驚き起き上がる。
「明るい内に戻らなくちゃっ」
そう言って立ち上がるが、彼女は座ったまま動かない。
「何してるのよ、ほらっ」
手を引っ張って立たせようとすると顔をしかめる。
「えっ!? どうしたのっ?」
「いや…少々足を痛めてな。 動けないのだ」
もしかしてあたしのせい? 気絶した時に何か?
「で、でもこのままじゃ…」
「ふむ。 では海だけでも先に戻るといい。 おそらくあちらの方向に行けば宿に着くはずだ」
そう言って方向を指差す。
「そ…そんなこと、できるわけないじゃないっ。 バカなこと言わないでよっ!」
あたしが言い放つと彼女は驚いた顔を浮かべる。
「どこか休める場所は…」
辺りを見回すと休めそうな窪みが見つかった。
「少し我慢してよね」
そう言ってあたしは彼女を抱き上げ、そこへ向かって歩く。
「海は意外に力があるのだな」
「…ダイエットしなさいよ」
「そうか? 海よりは無いと思うが」
「…いいから黙ってろ」
寒さに耐えるため、寄り添って座る。
「大丈夫? 寒くない?」
「そう思うのなら今私が考えていることをしてくれ」
「調子にのるなーっ」
辺りが薄暗くなってくる。 寒さも増してきた。 状況は極めて深刻。 いつしかあたし達は抱き合っていた。
「…ここで死んじゃうのかな…」
「なぜだ」
「だって、雪山で遭難して凍死ってよく聞くじゃない」
「ふむ」
「スキー教室なんて来るんじゃなかった…」
だんだんと眠くなって、瞼が下りてくる。
遠くから何か音が聞こえる気がしてきた。 なんか車みたい音。
すると、彼女があたしから離れた。
「どうしたの?」
ぼんやりとあたしは彼女の方を見る。
「どうやらじいが迎えに来たようだ」
「よかったわね…」
って、え!?
「助けが来たのっ!?」
飛び起きるとスノーモービルだかなんだかの明かりがこちらに近づいてくる。 彼女がそれに向かって手を振っている。 …って、
「あんた足はっ!?」
「うむ。 痺れならもう取れた」
「はい!?」
「海が気がつくまで膝枕をしていたら痺れて立てなかったのだが、もう平気だ。 海のおかげだ」
「…」
「それではそろそろ宿に戻るとしよう、海」
「…」
「どうした? まだ足りなかったか? なら続きは宿でにしよう、ここでは体に障るぞ」
「ふざけるなーっっっ!!」
もうスキー教室なんか絶対来ない。 あたしはより深みに堕ちてしまった、そんな気がした。
(終)
「どうしようっ、サクヤさんっ」
「…藪から棒になんだい、桂。 なんかあったのかい?」
「たいへんなんだよっ、どうしたらいいっ?」
「少し落ち着きな。 何がたいへんなのかもわかりやしないよ」
「あのね、あのね…なくしちゃったのっ!」
「いやだから落ち着きなってば、桂。 わかるもんもわからないって」
「うー…どうしようー…」
「まいったね、これは…。 あとそこでうずくまってる黒いの、何してるんだい」
「見ての通りです」
「ホラー映画のまねかい? それとも財布でも落としたのかい?」
「違いますが、完全に間違ってるわけでもありませんね」
「はあ?」
「つまりは桂さんのためです」
「あんたの言うこともわからんよ」
「その…桂さんがそのようになっているのは大切な紙をなくしたせいなのです」
「紙?」
「インするために必要な事を書いたものだそうです」
「…」
「ここで探して見つかるものかはわかりませんが…見るに堪えなくて」
「…いつ、どこで?」
「それがわかるようなら、こうはなっていないでしょうね」
「はあ…。 相変わらず抜けてるねえ、桂は。 なら仕方ない、パス変更するしかないね」
「…」
「なんだい?」
「私も同じ事を言ったのですが…。 どうも同じ紙に確認用のものも書いてあったらしくて…」
「…」
「…」
「…それは…お手上げじゃないのかい?」
「…はい。 ですから…無駄かもしれませんが、探しているということです」
「あたしが匂いで…ああ、桂の部屋で桂の匂いを探すのは無理か」
「かれこれ五時間程探しましたが、やはりありませんね」
「そんな前からいたのかい」
「昨晩泊めていただいたので」
「へえ…」
「何か? 今は桂さんのことが心配ですのでお相手はできませんが」
「随分言うようになったねえ、烏月」
「うう、どうしよう…」
「ま、なくしちまったもんはしょうがないさ。 とりあえず今は問題ないから気にする必要は無いさ」
「でもでも、必要になったら? 入れなくなったらどうすればいいのかな?」
「どうしようもないね。 あきらめな」
「そんなサクヤさんっ」
「いやでも桂さん、実際どうしようもないと思うよ」
「そうなの? 烏月さん」
「だからその時は、残念だけどあきらめよう」
「…うん、わかった」
「あたしん時と態度が違わないかい、桂?」
「でも見に来てくれてる人にはどうすればいいのかな?」
「どうするもこうするも、どうしようもないってさっきから言ってるじゃないか」
「そうだね…これを読んでくれてると信じよう」
「…それでいいの? 後から読み始めた人とかは?」
「今の内に注意事項にでも書いておけばいいんじゃないかな? なにか断り書きを」
「あ、うん。 わかった、書いておくねっ」
「そんなんで解決になるかい?」
「ならないとは思いますが…。 まあできることをしておくしかないでしょう」
「書いてきたよっ」
「たいして人来てないんだろ? 別に気にしなくてもいいんじゃないかい?」
「数は関係ないのっ。 来てくれてる人がいるから感謝しなくちゃいけないんだよ、サクヤさんっ」
「へいへい」
「それにPINGは送信してないから、人来なくて当然…なんじゃないかな?」
「…なんで送んないんだい。 何のためにWeb公開してるんだい?」
「だって隠れ家だから。 Web公開してる理由は…話さなくてもいいことだから、教えない」
「なんだい、そりゃ」
「いいのっ。 あんまり詮索しないでよっ。 わたしにだって秘密くらいあるんだから。 サクヤさんは黙ってて」
「はいはい、そりゃ悪かったね」
「ところでメルフォなんだけど」
「一人しか貰ってないね」
「それはいいんだけど。 来た時のために言っておくと返信はするつもり…でも、返信もこんな感じでするので怒らないで欲しいな…って」
「私達ですか?」
「その時の気分次第かなー…。 相手がわからなくても勝手なキャラでやりそう…」
「…ふざけてるね。 そんなんでいいのかい?」
「…よくないかも」
「それで、名前とかメッセージ内容とかを出したくない人はそう書いてくださいね」
「その…より一層メッセージが来なくなるのではないでしょうか」
「うーん…考えるのがたいへんそうだから、来ない方が助かるかも」
「拍手にすりゃいいんじゃないかい?」
「あれ面白そうだからつけてみたいんだけど…」
「つけりゃいいじゃないか」
「今パスなくしたばかりだし…」
「…」
「…」
「誰かのお気に入りになってるのかなー」
「解析つけてんだから、それ見ればいいじゃないか」
「…あれ見ても何がなんだかわからないよ」
「ヘルプを見られてはどうですか?」
「…見たけどよくわからなかった」
「桂、あんた今時そんなんじゃ世の中渡っていけないよ? だったらいっそ外しちまいな」
「でもあれ、手裏剣くるくる回って楽しいんだよ」
「あきれて言葉も無いね…」
「経観塚店に来てた人がどれだけいるかな?」
「なぜですか?」
「あそこの最終日に出した戯言の原型を出しちゃダメかな?」
「どうなんでしょう?」
「今更な話だしねえ…。 書き足すかい?」
「あれは…書き足せる事ないよ…」
「経観塚店と言えば…前も少し触れましたがあの小話は出さないんですか?」
「…今やってないし…また見つかって人一杯来たら怖いし…」
「怖いってなんだい、怖いって」
「だって、経観塚店一ヶ月しかやってないのに千アクセスだよ? 嬉しいより怖かったよー」
「あそこのサイトさんは利用者が多いようですからね」
「自分も利用してたから、紹介された時は嬉しかったけど、来た人の数見たら怖かったよ…もっと書かなきゃいけないなーって」
「気にしなきゃいいじゃないか」
「気になるんだよっ。 サクヤさんだってなればわかるよっ」
「あたしは自分の書いた記事にどんな反応があっても気にしないよ? 逆に励みになるもんさね」
「わたしは無理です…。 あ、でもでも本当感謝してるんだよ? だからリンクは残してるの」
「それは書かないということですか?」
「そんなことないよ? 書きたい話もあるよ? でも今はプレッシャーになるだけだから書かない、と思う」
「戯言でやればいいじゃないか」
「戯言は、小話出してから」
「そんなルールがあるのかい?」
「ここにはあるの」
「あれだね、その内戯言ばかりになるのが見えるね」
「そういうこと言わないでよっ。 サクヤさんのいじわる…」
「否定はしないんですね」
「…はい」
「ま、がんばれるだけがんばるしかないね」
「…うん。 わたしがんばるよっ」
「桂ががんばってもたかが知れてるけどね」
「うう…」
(終)
「…藪から棒になんだい、桂。 なんかあったのかい?」
「たいへんなんだよっ、どうしたらいいっ?」
「少し落ち着きな。 何がたいへんなのかもわかりやしないよ」
「あのね、あのね…なくしちゃったのっ!」
「いやだから落ち着きなってば、桂。 わかるもんもわからないって」
「うー…どうしようー…」
「まいったね、これは…。 あとそこでうずくまってる黒いの、何してるんだい」
「見ての通りです」
「ホラー映画のまねかい? それとも財布でも落としたのかい?」
「違いますが、完全に間違ってるわけでもありませんね」
「はあ?」
「つまりは桂さんのためです」
「あんたの言うこともわからんよ」
「その…桂さんがそのようになっているのは大切な紙をなくしたせいなのです」
「紙?」
「インするために必要な事を書いたものだそうです」
「…」
「ここで探して見つかるものかはわかりませんが…見るに堪えなくて」
「…いつ、どこで?」
「それがわかるようなら、こうはなっていないでしょうね」
「はあ…。 相変わらず抜けてるねえ、桂は。 なら仕方ない、パス変更するしかないね」
「…」
「なんだい?」
「私も同じ事を言ったのですが…。 どうも同じ紙に確認用のものも書いてあったらしくて…」
「…」
「…」
「…それは…お手上げじゃないのかい?」
「…はい。 ですから…無駄かもしれませんが、探しているということです」
「あたしが匂いで…ああ、桂の部屋で桂の匂いを探すのは無理か」
「かれこれ五時間程探しましたが、やはりありませんね」
「そんな前からいたのかい」
「昨晩泊めていただいたので」
「へえ…」
「何か? 今は桂さんのことが心配ですのでお相手はできませんが」
「随分言うようになったねえ、烏月」
「うう、どうしよう…」
「ま、なくしちまったもんはしょうがないさ。 とりあえず今は問題ないから気にする必要は無いさ」
「でもでも、必要になったら? 入れなくなったらどうすればいいのかな?」
「どうしようもないね。 あきらめな」
「そんなサクヤさんっ」
「いやでも桂さん、実際どうしようもないと思うよ」
「そうなの? 烏月さん」
「だからその時は、残念だけどあきらめよう」
「…うん、わかった」
「あたしん時と態度が違わないかい、桂?」
「でも見に来てくれてる人にはどうすればいいのかな?」
「どうするもこうするも、どうしようもないってさっきから言ってるじゃないか」
「そうだね…これを読んでくれてると信じよう」
「…それでいいの? 後から読み始めた人とかは?」
「今の内に注意事項にでも書いておけばいいんじゃないかな? なにか断り書きを」
「あ、うん。 わかった、書いておくねっ」
「そんなんで解決になるかい?」
「ならないとは思いますが…。 まあできることをしておくしかないでしょう」
「書いてきたよっ」
「たいして人来てないんだろ? 別に気にしなくてもいいんじゃないかい?」
「数は関係ないのっ。 来てくれてる人がいるから感謝しなくちゃいけないんだよ、サクヤさんっ」
「へいへい」
「それにPINGは送信してないから、人来なくて当然…なんじゃないかな?」
「…なんで送んないんだい。 何のためにWeb公開してるんだい?」
「だって隠れ家だから。 Web公開してる理由は…話さなくてもいいことだから、教えない」
「なんだい、そりゃ」
「いいのっ。 あんまり詮索しないでよっ。 わたしにだって秘密くらいあるんだから。 サクヤさんは黙ってて」
「はいはい、そりゃ悪かったね」
「ところでメルフォなんだけど」
「一人しか貰ってないね」
「それはいいんだけど。 来た時のために言っておくと返信はするつもり…でも、返信もこんな感じでするので怒らないで欲しいな…って」
「私達ですか?」
「その時の気分次第かなー…。 相手がわからなくても勝手なキャラでやりそう…」
「…ふざけてるね。 そんなんでいいのかい?」
「…よくないかも」
「それで、名前とかメッセージ内容とかを出したくない人はそう書いてくださいね」
「その…より一層メッセージが来なくなるのではないでしょうか」
「うーん…考えるのがたいへんそうだから、来ない方が助かるかも」
「拍手にすりゃいいんじゃないかい?」
「あれ面白そうだからつけてみたいんだけど…」
「つけりゃいいじゃないか」
「今パスなくしたばかりだし…」
「…」
「…」
「誰かのお気に入りになってるのかなー」
「解析つけてんだから、それ見ればいいじゃないか」
「…あれ見ても何がなんだかわからないよ」
「ヘルプを見られてはどうですか?」
「…見たけどよくわからなかった」
「桂、あんた今時そんなんじゃ世の中渡っていけないよ? だったらいっそ外しちまいな」
「でもあれ、手裏剣くるくる回って楽しいんだよ」
「あきれて言葉も無いね…」
「経観塚店に来てた人がどれだけいるかな?」
「なぜですか?」
「あそこの最終日に出した戯言の原型を出しちゃダメかな?」
「どうなんでしょう?」
「今更な話だしねえ…。 書き足すかい?」
「あれは…書き足せる事ないよ…」
「経観塚店と言えば…前も少し触れましたがあの小話は出さないんですか?」
「…今やってないし…また見つかって人一杯来たら怖いし…」
「怖いってなんだい、怖いって」
「だって、経観塚店一ヶ月しかやってないのに千アクセスだよ? 嬉しいより怖かったよー」
「あそこのサイトさんは利用者が多いようですからね」
「自分も利用してたから、紹介された時は嬉しかったけど、来た人の数見たら怖かったよ…もっと書かなきゃいけないなーって」
「気にしなきゃいいじゃないか」
「気になるんだよっ。 サクヤさんだってなればわかるよっ」
「あたしは自分の書いた記事にどんな反応があっても気にしないよ? 逆に励みになるもんさね」
「わたしは無理です…。 あ、でもでも本当感謝してるんだよ? だからリンクは残してるの」
「それは書かないということですか?」
「そんなことないよ? 書きたい話もあるよ? でも今はプレッシャーになるだけだから書かない、と思う」
「戯言でやればいいじゃないか」
「戯言は、小話出してから」
「そんなルールがあるのかい?」
「ここにはあるの」
「あれだね、その内戯言ばかりになるのが見えるね」
「そういうこと言わないでよっ。 サクヤさんのいじわる…」
「否定はしないんですね」
「…はい」
「ま、がんばれるだけがんばるしかないね」
「…うん。 わたしがんばるよっ」
「桂ががんばってもたかが知れてるけどね」
「うう…」
(終)
「はとちゃん、今日はどうする?」
「えっと今日は…」
学校も終わり、校門を出たところ。
「あ」
「え? あ、葛ちゃん♪」
少し離れた所から葛ちゃんが手を振っているのが見えた。
「くっ、出たわね子供。 またあたしとはとちゃんのラブのお邪魔にっ」
「子供じゃなくて、葛ちゃん。 もう陽子ちゃん、なんでそんなに葛ちゃんをいやがるの?」
「あたしとはとちゃんの間に割り込む者は全て敵だーっ!」
「お凛さんは?」
「お凛は車でお出迎えだからいーのよ」
「ふーん」
「桂おねーさん、お久しぶりです」
「葛ちゃん、いらっしゃい♪」
「…この前も来てたじゃないの…」
「陽子ちゃんっ」
「…はあ。 お邪魔でしたか?」
「お邪魔だー…ふがっ」
大人気ない陽子ちゃんの口を塞ぐ。
「今日はゆっくりできるの?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、泊まってってね♪」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。 葛ちゃんならいつでも大歓迎だよ」
「ふがっ、もがっ!」
葛ちゃんは何か喚く陽子ちゃんを見上げ、いたずらっぽく笑うと
「じゃあ毎日来ちゃいましょうかね♪」
そう言って、わたしに抱きついた。
「あたしのはとちゃんに何するかーっ、この子供ーっ」
わたしの抵抗もむなしく陽子ちゃんがわたしを振りほどいて叫ぶ。
「…別にわたし陽子ちゃんのものじゃないよ?」
「はーなーれーろーっ」
わたしの言葉を無視して、抱きついている葛ちゃんを離そうと陽子ちゃんが振り回す。
「ちょっと陽子ちゃん、やめてよー。 葛ちゃんがかわいそうでしょー」
ついでに一緒に振り回されてるわたしのことも考えて欲しいです。
「わたし、今離れるとたいへんなことになるんですけどー。 ご勘弁をー」
「勘弁ならーんっ」
「あ、なんか時代劇みたいだねー。 って、本当やめてよー、陽子ちゃーん」
学校帰りの道路でわたし達はくるくると回っていた。
(終)
「えっと今日は…」
学校も終わり、校門を出たところ。
「あ」
「え? あ、葛ちゃん♪」
少し離れた所から葛ちゃんが手を振っているのが見えた。
「くっ、出たわね子供。 またあたしとはとちゃんのラブのお邪魔にっ」
「子供じゃなくて、葛ちゃん。 もう陽子ちゃん、なんでそんなに葛ちゃんをいやがるの?」
「あたしとはとちゃんの間に割り込む者は全て敵だーっ!」
「お凛さんは?」
「お凛は車でお出迎えだからいーのよ」
「ふーん」
「桂おねーさん、お久しぶりです」
「葛ちゃん、いらっしゃい♪」
「…この前も来てたじゃないの…」
「陽子ちゃんっ」
「…はあ。 お邪魔でしたか?」
「お邪魔だー…ふがっ」
大人気ない陽子ちゃんの口を塞ぐ。
「今日はゆっくりできるの?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、泊まってってね♪」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。 葛ちゃんならいつでも大歓迎だよ」
「ふがっ、もがっ!」
葛ちゃんは何か喚く陽子ちゃんを見上げ、いたずらっぽく笑うと
「じゃあ毎日来ちゃいましょうかね♪」
そう言って、わたしに抱きついた。
「あたしのはとちゃんに何するかーっ、この子供ーっ」
わたしの抵抗もむなしく陽子ちゃんがわたしを振りほどいて叫ぶ。
「…別にわたし陽子ちゃんのものじゃないよ?」
「はーなーれーろーっ」
わたしの言葉を無視して、抱きついている葛ちゃんを離そうと陽子ちゃんが振り回す。
「ちょっと陽子ちゃん、やめてよー。 葛ちゃんがかわいそうでしょー」
ついでに一緒に振り回されてるわたしのことも考えて欲しいです。
「わたし、今離れるとたいへんなことになるんですけどー。 ご勘弁をー」
「勘弁ならーんっ」
「あ、なんか時代劇みたいだねー。 って、本当やめてよー、陽子ちゃーん」
学校帰りの道路でわたし達はくるくると回っていた。
(終)
「じーっ」
「うん? どうかしたかい、桂さん?」
お守りに力を入れに来てくれた烏月さんに、お茶を出して二人で飲んでいたのだが、ついついじっと見つめてしまっていた。
「えっと…その、楽にして欲しいなー、って」
「え? ああ、これのことかい?」
そう言って、烏月さんは自分の脚を見る。 きちんとした正座。
「脚つらくない?」
「いや、いつもこうだから。 この方が楽なんだよ」
「前に陽子ちゃんとお茶飲みに行った時も思ったんだけど、烏月さんって、いつも背筋がピンとしてて凄いな。 …だけど、疲れない?」
「…全く、というわけではないけど、慣れているからね」
やわらかい微笑みで烏月さんが答える。
「でも少しは疲れるんだ」
「ああ、そうだね」
ならば! 守られてばかりの羽藤桂、今こそ役に立つ時!
「じゃあ烏月さん、わたしが肩をお揉みしましょう♪」
「えっ?」
「さあさあ♪」
烏月さんの背中にまわり、肩を揉む。
「け、桂さん」
「うまくないと思うけど、その時は遠慮なく言ってね」
「いやでも…」
「嫌かな…?」
「…いや、ありがたくお受けするよ」
「うん♪」
やっぱり迷惑かけている気もするけれど、できることはしたい。
だって、大好きだから。
…だけど。
「う、ううー…」
華奢な体つきでも烏月さんは日々戦いの中に身を置く人、しっかりと筋肉があって、だらだら過ごしているわたしとは違う。
何が言いたいかというと、揉むわたしの手の方があっさり疲労負けのもよう。
「大丈夫かい? 桂さん」
後ろを振り返り心配そうな顔でわたしを見上げる烏月さん。
「ごめんなさい…烏月さん。 わたしって本当役立たずなんだね…」
自分の不甲斐なさに肩を落として烏月さんを見る。 なんだか泣きたくなってきた。
だけど、烏月さんは優しくて。
「そんなことないよ、桂さん。 充分なくらい楽になったよ」
やわらかく微笑んで、わたしの手に手を重ねてくれる。
「本当だよ」
「烏月さん…」
わたしはしゃがんで烏月さんの肩に頭を寄せる。
夕暮れ迫る午後、二人の影が重なっていた。
(終)
「うん? どうかしたかい、桂さん?」
お守りに力を入れに来てくれた烏月さんに、お茶を出して二人で飲んでいたのだが、ついついじっと見つめてしまっていた。
「えっと…その、楽にして欲しいなー、って」
「え? ああ、これのことかい?」
そう言って、烏月さんは自分の脚を見る。 きちんとした正座。
「脚つらくない?」
「いや、いつもこうだから。 この方が楽なんだよ」
「前に陽子ちゃんとお茶飲みに行った時も思ったんだけど、烏月さんって、いつも背筋がピンとしてて凄いな。 …だけど、疲れない?」
「…全く、というわけではないけど、慣れているからね」
やわらかい微笑みで烏月さんが答える。
「でも少しは疲れるんだ」
「ああ、そうだね」
ならば! 守られてばかりの羽藤桂、今こそ役に立つ時!
「じゃあ烏月さん、わたしが肩をお揉みしましょう♪」
「えっ?」
「さあさあ♪」
烏月さんの背中にまわり、肩を揉む。
「け、桂さん」
「うまくないと思うけど、その時は遠慮なく言ってね」
「いやでも…」
「嫌かな…?」
「…いや、ありがたくお受けするよ」
「うん♪」
やっぱり迷惑かけている気もするけれど、できることはしたい。
だって、大好きだから。
…だけど。
「う、ううー…」
華奢な体つきでも烏月さんは日々戦いの中に身を置く人、しっかりと筋肉があって、だらだら過ごしているわたしとは違う。
何が言いたいかというと、揉むわたしの手の方があっさり疲労負けのもよう。
「大丈夫かい? 桂さん」
後ろを振り返り心配そうな顔でわたしを見上げる烏月さん。
「ごめんなさい…烏月さん。 わたしって本当役立たずなんだね…」
自分の不甲斐なさに肩を落として烏月さんを見る。 なんだか泣きたくなってきた。
だけど、烏月さんは優しくて。
「そんなことないよ、桂さん。 充分なくらい楽になったよ」
やわらかく微笑んで、わたしの手に手を重ねてくれる。
「本当だよ」
「烏月さん…」
わたしはしゃがんで烏月さんの肩に頭を寄せる。
夕暮れ迫る午後、二人の影が重なっていた。
(終)
「桂おねーさん、何をしてるんですか?」
「あ、葛ちゃん。 今ね、落語の修業をしてたんだよ」
「はあ?」
なんかあからさまにバカにしたような問い返し。
「まあ桂おねーさんが落語が好きなのは知ってますけど…。 その座布団はなんなんです?」
「座布団を重ねて座った方が、その気になっていい修行になるのですよ」
「…えっと、それは『落語』ではないのではないでしょうか?」
さりげなく痛い所をつく。
「いーのっ、わたしはこの方が修行になるのっ」
「それで、具体的にはどういう修行なのでしょうか?」
「…」
「…」
「…落ちないように、かな?」
「尾花ーっ、どこ行ったんですかーっ?」
「って、ちょっと葛ちゃーんっ」
なんだか遠い目をして葛ちゃんはどこかに行ってしまった。
「…オチが無いだけに、落ちない修行?」
重ねた座布団の上でゆらゆら揺れながら、一人呟いた。
(終)
「あ、葛ちゃん。 今ね、落語の修業をしてたんだよ」
「はあ?」
なんかあからさまにバカにしたような問い返し。
「まあ桂おねーさんが落語が好きなのは知ってますけど…。 その座布団はなんなんです?」
「座布団を重ねて座った方が、その気になっていい修行になるのですよ」
「…えっと、それは『落語』ではないのではないでしょうか?」
さりげなく痛い所をつく。
「いーのっ、わたしはこの方が修行になるのっ」
「それで、具体的にはどういう修行なのでしょうか?」
「…」
「…」
「…落ちないように、かな?」
「尾花ーっ、どこ行ったんですかーっ?」
「って、ちょっと葛ちゃーんっ」
なんだか遠い目をして葛ちゃんはどこかに行ってしまった。
「…オチが無いだけに、落ちない修行?」
重ねた座布団の上でゆらゆら揺れながら、一人呟いた。
(終)
「特に桂おねーさんは、よろしくしてやってくださいね!」
そう言って、小さなクラスメートができたのだが…。
「桂おねーさん、お昼一緒に食べましょうっ」
「あ、うん。 陽子ちゃんとお凛さんも一緒だけどいい? あ、陽子ちゃんって言うのは奈良陽子ちゃんで、お凛さんって言うのは東郷凛さんのことね」
「東郷?」
「どうかした?」
「いえいえ。 …まあ、いいですよ」
「まあ、ってのは何だ。 まあ、って」
近付いてきた陽子が葛に向かって言う。
「別に」
「失礼します」
と凛が近くの席に座り、桂の席とくっつける。
「そう言えば葛ちゃん、お弁当は?」
「…来る時にパンを買ってきました」
「あ、そ、そっか…。 …ごめんね、葛ちゃん」
葛の境遇を思い出し、謝る桂。
「いえ、構いませんよ。 自分だけが不幸だとか思っていませんし。 ただ、お弁当を作ってくれる親がいないのは寂しいですけどねー」
表情こそ明るいものの、声の方は暗い。
「…そうだ! わたし葛ちゃんの分も作ってきてあげようか?」
「え? いいんですか? 桂おねーさん」
「うん、いいよ。 大した物は作れないけど…」
「いえいえ構いませんよ。 嬉しいです♪」
満面の笑みで葛が応える。
「…」
そのやり取りを凛は黙って見つめていた。
「両親いない、って…。 じゃ、子供一人で暮らしてるの?」
「そう言えば葛ちゃん今どこに住んでるの?」
「えーっと、それは…」
と、何か思いついたのか、葛の眼が一瞬妖しく光る。
「…えー、少し離れた場所で家族も無く暮らしてるんです。 何かと心細いのですが…」
「ええっ、そうなのっ!?」
驚く桂。
「たいへんだねー」
おざなりの返事な陽子。
「…」
黙って聞いている凛。
三者三様の中、一番素直な反応をした桂が提案を挙げた。
「そうかー…。 じゃあ葛ちゃん、わたしと住む? 今わたしも一人暮しだし」
「本当ですかっ」
先程以上の笑顔で葛が応える。
「はとちゃん! いきなり同棲なんて、何考えてんの。 こんな小さい子をたぶらかすなんて…」
「たぶらかしてなんかないよっ。 変なこと言わないでよ、陽子ちゃんっ!」
「…」
黙ったまま葛の方を見る凛。
「葛ちゃんはね、その…いろいろとたいへんなんだよ」
「おっ? はとちゃん、何それ? この子の何を知ってるの?」
「それは…」
桂と陽子がやいやいと言い合いを始める。
「…何か? 東郷さん」
凛の視線を感じ、ここまで一度も見せたことの無い冷たく厳しい目と口調で、葛が凛に話しかける。
「嘘はよくないか、と」
「嘘?」
「食事を作ってくれる人がいないとか」
「わたしは作ってくれる『親』がいない、と言いましたよ?」
薄く笑い葛が答える。
「一人で暮らしているかのように言ってましたし」
「そう聞こえたかもしれませんが、そうは言ってないですね」
余裕の表情で返す。 凛にしては珍しく焦りの表情が浮かぶ。
「計算づく、というわけですか?」
「何のことでしょう?」
視線がぶつかる。
「葛ちゃん?」
「っ!? はい? なんですか? 桂おねーさん」
一瞬で表情を変え、桂の方を向く。
「お凛さんと何話してたの? 仲良くなれた?」
「ええ。 ねえ東郷さん」
笑顔で凛に話しかける。
「…羽藤さん」
「東郷さん。 東郷さんの家はたいそう大きいそうで、いろんな所とぶつかりあいなんかもあるんでしょうねえ」
「!?」
鋭い目で葛を見る。 葛は笑顔のままだ。 だが、どこかうすら怖い。
「お凛はねー、お嬢だからねー」
「あ、でも葛ちゃんも…」
「それはさておき。 そうなると敵も多いでしょうねえー…。 送り迎えの時に『誰か』に襲われたりとかするんでしょうかねえー」
「…どういう意味でしょう?」
「いいええー、別にぃー。 ただ、『親』が力を持ってると子供はたいへんだろうなー、と。 子供には力は無いのにねえ…」
余裕の表情の葛と少し苛立った表情の凛。 そしてなんだかよくわからない桂と陽子。
「二人ともどうかしたの?」
「いえいえ、別に何も。 それより早くお昼食べてしまわないと、休み時間終わっちゃいますよ?」
「えっ? もうそんな時間なの?」
「そうだねー。 とっとと食べますかー」
「…」
戦いはまだ始まったばかり、波乱の高校生活の始まりである。
(終)
そう言って、小さなクラスメートができたのだが…。
「桂おねーさん、お昼一緒に食べましょうっ」
「あ、うん。 陽子ちゃんとお凛さんも一緒だけどいい? あ、陽子ちゃんって言うのは奈良陽子ちゃんで、お凛さんって言うのは東郷凛さんのことね」
「東郷?」
「どうかした?」
「いえいえ。 …まあ、いいですよ」
「まあ、ってのは何だ。 まあ、って」
近付いてきた陽子が葛に向かって言う。
「別に」
「失礼します」
と凛が近くの席に座り、桂の席とくっつける。
「そう言えば葛ちゃん、お弁当は?」
「…来る時にパンを買ってきました」
「あ、そ、そっか…。 …ごめんね、葛ちゃん」
葛の境遇を思い出し、謝る桂。
「いえ、構いませんよ。 自分だけが不幸だとか思っていませんし。 ただ、お弁当を作ってくれる親がいないのは寂しいですけどねー」
表情こそ明るいものの、声の方は暗い。
「…そうだ! わたし葛ちゃんの分も作ってきてあげようか?」
「え? いいんですか? 桂おねーさん」
「うん、いいよ。 大した物は作れないけど…」
「いえいえ構いませんよ。 嬉しいです♪」
満面の笑みで葛が応える。
「…」
そのやり取りを凛は黙って見つめていた。
「両親いない、って…。 じゃ、子供一人で暮らしてるの?」
「そう言えば葛ちゃん今どこに住んでるの?」
「えーっと、それは…」
と、何か思いついたのか、葛の眼が一瞬妖しく光る。
「…えー、少し離れた場所で家族も無く暮らしてるんです。 何かと心細いのですが…」
「ええっ、そうなのっ!?」
驚く桂。
「たいへんだねー」
おざなりの返事な陽子。
「…」
黙って聞いている凛。
三者三様の中、一番素直な反応をした桂が提案を挙げた。
「そうかー…。 じゃあ葛ちゃん、わたしと住む? 今わたしも一人暮しだし」
「本当ですかっ」
先程以上の笑顔で葛が応える。
「はとちゃん! いきなり同棲なんて、何考えてんの。 こんな小さい子をたぶらかすなんて…」
「たぶらかしてなんかないよっ。 変なこと言わないでよ、陽子ちゃんっ!」
「…」
黙ったまま葛の方を見る凛。
「葛ちゃんはね、その…いろいろとたいへんなんだよ」
「おっ? はとちゃん、何それ? この子の何を知ってるの?」
「それは…」
桂と陽子がやいやいと言い合いを始める。
「…何か? 東郷さん」
凛の視線を感じ、ここまで一度も見せたことの無い冷たく厳しい目と口調で、葛が凛に話しかける。
「嘘はよくないか、と」
「嘘?」
「食事を作ってくれる人がいないとか」
「わたしは作ってくれる『親』がいない、と言いましたよ?」
薄く笑い葛が答える。
「一人で暮らしているかのように言ってましたし」
「そう聞こえたかもしれませんが、そうは言ってないですね」
余裕の表情で返す。 凛にしては珍しく焦りの表情が浮かぶ。
「計算づく、というわけですか?」
「何のことでしょう?」
視線がぶつかる。
「葛ちゃん?」
「っ!? はい? なんですか? 桂おねーさん」
一瞬で表情を変え、桂の方を向く。
「お凛さんと何話してたの? 仲良くなれた?」
「ええ。 ねえ東郷さん」
笑顔で凛に話しかける。
「…羽藤さん」
「東郷さん。 東郷さんの家はたいそう大きいそうで、いろんな所とぶつかりあいなんかもあるんでしょうねえ」
「!?」
鋭い目で葛を見る。 葛は笑顔のままだ。 だが、どこかうすら怖い。
「お凛はねー、お嬢だからねー」
「あ、でも葛ちゃんも…」
「それはさておき。 そうなると敵も多いでしょうねえー…。 送り迎えの時に『誰か』に襲われたりとかするんでしょうかねえー」
「…どういう意味でしょう?」
「いいええー、別にぃー。 ただ、『親』が力を持ってると子供はたいへんだろうなー、と。 子供には力は無いのにねえ…」
余裕の表情の葛と少し苛立った表情の凛。 そしてなんだかよくわからない桂と陽子。
「二人ともどうかしたの?」
「いえいえ、別に何も。 それより早くお昼食べてしまわないと、休み時間終わっちゃいますよ?」
「えっ? もうそんな時間なの?」
「そうだねー。 とっとと食べますかー」
「…」
戦いはまだ始まったばかり、波乱の高校生活の始まりである。
(終)
「…あれ? エレンディアは? いないのか?」
「うん。 ちょっと落ち込んじゃってて…」
「なんで?」
「その…結局アトレイアさんを諦めてシャリでクリア目指してたらしいんだけど…」
「ああ」
「その…なんかネモだったらしくて…」
「うわっ、だっせーっ」
「それで、凄い沈み込んでて…」
「でもなんで俺やお前なわけ? お前死んだじゃん」
「それ言ったらヴァンだってテラネで寝たきりじゃないかっ!」
「まあまあ二人とも落ち着け。 そういうのは時の運だ。 誰だって死にたくはないが、そうなっちまう時もあらあな」
「それは助かった人の理屈だと思います」
「まあな。 俺もいつもなら叔母貴と心中なんだが…今回はエレンディアがうまくやってくれたからな」
「あのキザっちいのも助かってたし。 初めてだーっ、とか喜んでたじゃんよ」
「…僕、いつもほっとかれるんだけど……エレンディアに嫌われてるのかなあ…」
「そうなんじゃね?」
「いや、そうとも限らないだろう。 物事悪い方に考えるもんじゃないぜ」
「フフフ…。 まあ当たらずとも遠からずじゃないかな。 君達は面倒くさいんだよ」
「うわっ、シャ、シャリっ」
「長い時間かけてイベントこなして、アルノートゥンまで助けに行かなくちゃいけないからねー」
「そんなこと言ったって、僕だって悩んで…」
「俺はどうなんだい? とっつぁんを犠牲にしてまで助けられる存在か?」
「ま、ロストールにはエレンディア愛しの姫もいるからね。 別に苦ではないんじゃない?」
「やれやれ。 俺はアトレイアのついでかい? でも助かったのは初めてな気がするんだが」
「あくまで、ついでだからじゃない? ノーブル伯でもアトレイアの所に行くからね、エレンディアは」
「姫が悲鳴をあげるから助けにいくってわけだな。 …ぷぷっ」
「…ヴァン、黙ってなよ」
「それにしてもエレンディアひどいなー。 僕でクリアしてくれるって楽しみにしてたのにー」
「本人に言ってやればいいじゃないか。 斧ぶん回されても知らないけどな」
「アハハハ、それは勘弁だね。 僕、結構彼女のこと気に入ってるからさ」
「今回、男キャラ片っ端から無視だよね…」
「そんなことないよー。 ぼくだっているしね」
「そうだな。 それに俺もレムオンもいるし。 レーグだって仲間にしてるじゃないか」
「イオンズさんには会ってもいないよね…」
「アルノートゥンに行ったことあるのー?㌧、なんつって。 …ぷぷっ」
「…だからヴァンは黙ってて」
「まああそこは行くのが大変だから仕方ないんじゃないか? あまり手を出しすぎて、目的を見失っちゃ元も子もないからな」
「でもエレンディア、ウルカーンやエルズには行ってるよねー。 フフフ、まあ人には好みがあるからねー。 仕方ないのは確かじゃないかな?」
「どうでもいいけどさ、今回なんで俺らなわけ?」
「ああ、なんだ。 あまりにも男っ気がないんでたまには男だけで、って話だったかな」
「でも僕死んで…」
「ならぼくが鎮魂の歌でも歌おうかー?」
「………ひどいや」
「やめな、クリスピー。 縁起でもない」
「ちょっとー、なんでそう呼ぶのさ、ゼネテスっ。 ぼくはレルラ=ロントンだって言っただろ?」
「言われて嫌な事を考えろ、って意味さ、レルラ=ロントン」
「ちえー」
「それはともかく、どうして『男を出す』じゃなくて、『男だけ出す』なんかなー? なんかムサくてどうしようもねーじゃんか」
「アハハハ、確かにね。 なんだったら僕が救世主様も連れてこようかい?」
「いやほら、どうせならカルラとかさー」
「ヴァン、目がやらしいよ」
「お前さんじゃ、あの鎌でくびられるだけだと思うぜ」
「鎌でも構ってくれればいーじゃん。 …ぷぷっ」
「僕もう疲れたよ…」
「セラさんとかレムオンさんとか出ないね」
「ま、あいつら雑談しないからな。 もうちっと協調性つーか、人との折り合いを持った方がいいんだがな」
「まあでも彼らはそこも人気の一つだろうからね。 ジルオールサイトをご覧よ、彼らのことばかりさ」
「そうだよね」
「なあなあ、デルガドは出ないのか?」
「どうしてデルガドさんなの? ヴァン」
「デルガドだけに出るかと。 …ぷぷっ。 今日も俺は冴えまくってるぜ」
「…いい加減にしてよ、ヴァン。 考えるの苦労してるんだよ?」
「…で、結局エレンディアはどうするのかな。 僕はイヤになっちゃったかな?」
「とりあえず歴史区分4からやり直すみたいだよ。 一番古いデータがそこだったから」
「あー…それじゃあまたアトレイアからか…」
「…だから残ってたんじゃないかな」
「今からなら俺、寝たきり回避できるんじゃねーかな?」
「できるかもしれないけど…しないんじゃないの? するくらいなら前もしてくれてるんじゃ…」
「書いてる時間あるのか?」
「無いと思うよ? だから僕の予想じゃ、しばらく更新のネタは再アップ物か、戯言かな?」
「ぼくの歌でも更新しようかー?」
「歌に交代。 なんつって、…ぷぷっ」
「まあ別に毎日更新しなくてもいいだろ。 もっとテキトーにな、テキトーに」
「フフフ、なるほどね。 それじゃあ僕は願いをかなえに行くよ。 じゃあね、みんな」
「俺もちょっと飲んでくるか」
「じゃあぼくも一緒にいくよ、ゼネテス」
「俺らは?」
「ヴァンはテラネで寝てたら?」
「くわ。 なんつーひどいこと言うんだ、お前は」
「どうせそうなるんだから、諦めなよ」
「うう…。 ナッジがなじる…。 …ぷぷっ」
「………もう書かれること無さそうだよね、ヴァンは」
(終)
「うん。 ちょっと落ち込んじゃってて…」
「なんで?」
「その…結局アトレイアさんを諦めてシャリでクリア目指してたらしいんだけど…」
「ああ」
「その…なんかネモだったらしくて…」
「うわっ、だっせーっ」
「それで、凄い沈み込んでて…」
「でもなんで俺やお前なわけ? お前死んだじゃん」
「それ言ったらヴァンだってテラネで寝たきりじゃないかっ!」
「まあまあ二人とも落ち着け。 そういうのは時の運だ。 誰だって死にたくはないが、そうなっちまう時もあらあな」
「それは助かった人の理屈だと思います」
「まあな。 俺もいつもなら叔母貴と心中なんだが…今回はエレンディアがうまくやってくれたからな」
「あのキザっちいのも助かってたし。 初めてだーっ、とか喜んでたじゃんよ」
「…僕、いつもほっとかれるんだけど……エレンディアに嫌われてるのかなあ…」
「そうなんじゃね?」
「いや、そうとも限らないだろう。 物事悪い方に考えるもんじゃないぜ」
「フフフ…。 まあ当たらずとも遠からずじゃないかな。 君達は面倒くさいんだよ」
「うわっ、シャ、シャリっ」
「長い時間かけてイベントこなして、アルノートゥンまで助けに行かなくちゃいけないからねー」
「そんなこと言ったって、僕だって悩んで…」
「俺はどうなんだい? とっつぁんを犠牲にしてまで助けられる存在か?」
「ま、ロストールにはエレンディア愛しの姫もいるからね。 別に苦ではないんじゃない?」
「やれやれ。 俺はアトレイアのついでかい? でも助かったのは初めてな気がするんだが」
「あくまで、ついでだからじゃない? ノーブル伯でもアトレイアの所に行くからね、エレンディアは」
「姫が悲鳴をあげるから助けにいくってわけだな。 …ぷぷっ」
「…ヴァン、黙ってなよ」
「それにしてもエレンディアひどいなー。 僕でクリアしてくれるって楽しみにしてたのにー」
「本人に言ってやればいいじゃないか。 斧ぶん回されても知らないけどな」
「アハハハ、それは勘弁だね。 僕、結構彼女のこと気に入ってるからさ」
「今回、男キャラ片っ端から無視だよね…」
「そんなことないよー。 ぼくだっているしね」
「そうだな。 それに俺もレムオンもいるし。 レーグだって仲間にしてるじゃないか」
「イオンズさんには会ってもいないよね…」
「アルノートゥンに行ったことあるのー?㌧、なんつって。 …ぷぷっ」
「…だからヴァンは黙ってて」
「まああそこは行くのが大変だから仕方ないんじゃないか? あまり手を出しすぎて、目的を見失っちゃ元も子もないからな」
「でもエレンディア、ウルカーンやエルズには行ってるよねー。 フフフ、まあ人には好みがあるからねー。 仕方ないのは確かじゃないかな?」
「どうでもいいけどさ、今回なんで俺らなわけ?」
「ああ、なんだ。 あまりにも男っ気がないんでたまには男だけで、って話だったかな」
「でも僕死んで…」
「ならぼくが鎮魂の歌でも歌おうかー?」
「………ひどいや」
「やめな、クリスピー。 縁起でもない」
「ちょっとー、なんでそう呼ぶのさ、ゼネテスっ。 ぼくはレルラ=ロントンだって言っただろ?」
「言われて嫌な事を考えろ、って意味さ、レルラ=ロントン」
「ちえー」
「それはともかく、どうして『男を出す』じゃなくて、『男だけ出す』なんかなー? なんかムサくてどうしようもねーじゃんか」
「アハハハ、確かにね。 なんだったら僕が救世主様も連れてこようかい?」
「いやほら、どうせならカルラとかさー」
「ヴァン、目がやらしいよ」
「お前さんじゃ、あの鎌でくびられるだけだと思うぜ」
「鎌でも構ってくれればいーじゃん。 …ぷぷっ」
「僕もう疲れたよ…」
「セラさんとかレムオンさんとか出ないね」
「ま、あいつら雑談しないからな。 もうちっと協調性つーか、人との折り合いを持った方がいいんだがな」
「まあでも彼らはそこも人気の一つだろうからね。 ジルオールサイトをご覧よ、彼らのことばかりさ」
「そうだよね」
「なあなあ、デルガドは出ないのか?」
「どうしてデルガドさんなの? ヴァン」
「デルガドだけに出るかと。 …ぷぷっ。 今日も俺は冴えまくってるぜ」
「…いい加減にしてよ、ヴァン。 考えるの苦労してるんだよ?」
「…で、結局エレンディアはどうするのかな。 僕はイヤになっちゃったかな?」
「とりあえず歴史区分4からやり直すみたいだよ。 一番古いデータがそこだったから」
「あー…それじゃあまたアトレイアからか…」
「…だから残ってたんじゃないかな」
「今からなら俺、寝たきり回避できるんじゃねーかな?」
「できるかもしれないけど…しないんじゃないの? するくらいなら前もしてくれてるんじゃ…」
「書いてる時間あるのか?」
「無いと思うよ? だから僕の予想じゃ、しばらく更新のネタは再アップ物か、戯言かな?」
「ぼくの歌でも更新しようかー?」
「歌に交代。 なんつって、…ぷぷっ」
「まあ別に毎日更新しなくてもいいだろ。 もっとテキトーにな、テキトーに」
「フフフ、なるほどね。 それじゃあ僕は願いをかなえに行くよ。 じゃあね、みんな」
「俺もちょっと飲んでくるか」
「じゃあぼくも一緒にいくよ、ゼネテス」
「俺らは?」
「ヴァンはテラネで寝てたら?」
「くわ。 なんつーひどいこと言うんだ、お前は」
「どうせそうなるんだから、諦めなよ」
「うう…。 ナッジがなじる…。 …ぷぷっ」
「………もう書かれること無さそうだよね、ヴァンは」
(終)
それはそれは美しい、美術館にある彫像のように、または愛らしい人形のように。 彼女はとても美しく、私は声も出なかった。
リベルダムのスラムを歩いていた時だった。 少し前から私の前に現れ、たちの悪いちょっかいをかけてくる少年、シャリ。 彼が突然現れた。
「かわいそうなお姫さまを助けてあげて欲しい」
騙されるのを覚悟で彼の話にのったのは、ケリュネイアに頼まれた闇の神器が関わっていたからだ。
彼の言うとおりに闇の神器『色惑の瞳』を手に入れて指示された場所に行くと彼女がいた。 悲しげな憂いの顔、陰のある美しさ、先帝の娘、光を失った王女、アトレイア・リュー。 それが彼女だった。
「ありがとうございます、エレンディア様」
その時に見た小さなかわいい笑み。 私は思った。 もっと彼女の笑顔を見てみたい、と。 だって、今でもこんなに綺麗でかわいいのだから、笑顔になればもっと綺麗なんだろうと思ったから。
初めて出会った時から私は彼女に魅せられていた。
それから私は彼女の元へ足しげく通うようになった。 だけど、彼女は彼女がここまで暮らしてきた陰に沈みこんでいた。
「外の世界を見に行こう」
だから彼女を外へと誘ってみた。 今日は月がとても美しかったから。 見て欲しかった、世界を。
「あっ!?」
「うがっ!?」
自分でも嬉しかったせいか、少し先に行き過ぎた。 アトレイアはまだ光を取り戻して間もない、このペースは無理か。 彼女が来るのを待つことにする。
すると、来るはずの方向から小さな悲鳴が聞こえた。 見張りの兵士にでもぶつかったのだろうか。
「俺様にぶつかってくるとはどこに目をつけてやがるっ。 このクズがっ!」
「おやめください、タルテュバ様っ。 この方はアトレイア様ですっ、目が不自由なのですっ」
「アトレイア?」
…タルテュバ? よくも王宮に顔が出せるものだ…いや、今はそれどころではない、そんな気がする。
「お前みたいな醜いのが外に出てくるんじゃねえっ。 ティアナとは段違いなんだよっ。 部屋で鏡でも見て来いっ!」
「…っ」
「このクズがっ、お前はどっかに引きこもってればいいんだっ。 その醜い面出すんじゃねえっ!」
「おやめください、タルテュバさまっ」
あわててアトレイアの所へ駆け戻ると、タルテュバの正気とは思えない罵倒の言葉が聞こえてくる。
そして私が目にしたのは、倒れたアトレイアに足を出すタルテュバの姿とその手をタルテュバに掴まれたティアナの姿だった。
「エレンディア様っ」
倒れたアトレイアに駆け寄り、タルテュバの前に立つ。 アトレイアは小さく震えている。 その姿が私にはつらかった。
「なんだクズがっ。 お前ら俺様を誰だと思ってる!」
怒りで肩が震える。 自分で思う限りの罵詈雑言をぶつけたくなる。 だけど精一杯抑える。 今そんなことをしても傷つくのはむしろアトレイアだから。
「戦場で部下を見捨て逃げ出した貴族、でしょう? それどころか王女に対する礼儀すらお持ちではないのですか」
「クズがっ! 平民上がりがまぐれで調子に乗りやがって…。 このクソっ、クソがっ! バカにしやがって、クズがっ!」
言って剣を抜く。
「逃げたあなたにはまぐれすら起きません。 女になら勝てるとでもお思いですか?」
暗いバルコニーを照らす月で、タルテュバの見開かれた瞳孔が見える。 そしてただ地面を見つめ震えるアトレイアの悲しい陰も。
だから私は背中に背負った斧をタルテュバの目の前に振り下ろし、タルテュバを睨み付けて言う。
「ファーロス総司令副将、竜字将軍エレンディア・ロス。 尋常にお相手いたしますっ」
「このクズがあっっっ!!」
戦う前から勝負はついている。 幾多の死線を越えてきた私と死線を逃げ続けた男。 戦いの際には一切の油断は禁物と肝に銘じここまで生きてきた私と格上すら見下す愚かな男。
斧を縦に小さく揺らし牽制して、タルテュバの右へと廻る。 右手に構えた剣ではこちらには切り掛かれない。 もっともそれ以前に彼は私の動きを捉えることが出来ていない。
「うがあっ!」
適当に振り上げた剣、無造作に開いた懐を私は斧で強く突いた。
「はあっ!」
「ぐああっ!!」
そのたった一撃でタルテュバは倒れ転げてのたうち回る。 油断させる誘いかと警戒もしたが、剣すら落としているので大丈夫であろう。
「ぐ、ぐぐぐ…」
「消えて。 不快だから今すぐに」
「ク、クズがあ…クソクソクソっ! 俺様をバカにしやがってええぇっ…覚えていろっ!」
最後まで汚い言葉を吐き続けタルテュバが逃げ去る。 後に残ったのはティアナとアトレイアと私の三人。
「大丈夫? アトレイア」
ゆっくりとアトレイアを立たせる。 小刻みに震える彼女は月明かりの下蒼白の顔を浮かべていた。 そして次の瞬間には駆け出して走り去っていく。
「アトレイアっ」
「エレンディア様っ」
ティアナが私を呼びかける。 だけど、あんな真っ青な顔をしていた彼女を放っては置けない。 私はアトレイアの後を追い駆け出した。
「…大切な物は皆私をすり抜けていく…。 そう、彼女は本当の王女……しょせん私は…」
後ろからティアナが何か言うのが聞こえる。 ごめんね、ティアナ。
「アトレイアっ」
彼女の部屋に行くとアトレイアは部屋の隅で虚ろな顔で佇んでいた。 その顔を見て私はどうしようもなく悲しくなる。
「…私はティアナ様に比べて醜い…。 ぶざまで醜い…。 …目なんて、見えなければよかった…」
「アトレイアっ!」
「ごめんなさい…醜い私のせいで、エレンディア様にまで恥をかかせて…ごめんなさい…」
アトレイアの肩を掴んでぎゅっと抱きしめる。
「そんなことない。 そんなことないよ、アトレイア」
「私のせいで…」
震える声で尚も俯き謝る彼女が悲しい。 私はアトレイアの頬を両手で挟んで顔を私に向けさせる。 その目は閉ざされ、涙だけがただ零れていく。
「アトレイア」
そして私は彼女の額に口付ける。
「エレンディア…様…?」
「あなたは綺麗でかわいいお姫さまよ、アトレイア。 初めて会ったあの時から、あなたは私にとって届かない夢。 私が選ばなかった、選べなかった『可憐な花』そのものよ」
「そんな…エレンディア様は充分お綺麗で魅力的です…」
「こんな斧を振り回す女は魅力的じゃないわよ。 それに私が言ってるのは女の子のようなかわいさって意味よ。 それは私にはないわ」
「でも…」
「あなたはとても魅力的。 でも今はまだ、その魅力は陰ってるわ。 手に入れた光で少しずつでもいいから、明るい色に変えて欲しい」
困ったような顔でアトレイアが私を見る。
「私があなたを光へと導く。 そうすればあなたはどこまでも輝くわ。 見せて欲しいの、あなたの本当の魅力を」
「私は、そんな魅力は…」
「あるわ。 絶対。 私は信じられないかな?」
「そんなこと…」
「だったら信じて、お願い。 私の分まで綺麗に美しくなって、アトレイア」
「エレンディア様…」
私の体に回された彼女の腕に力がこもる。 だから私も彼女を強く抱きしめる。
「…でも、今日は…今は…泣いていいですか…」
「うん…」
アトレイアが落ち着くまで、私は彼女を抱きしめ続けた。 暗い部屋の片隅で二人ずっと…。 強く、強く…。
(終)
リベルダムのスラムを歩いていた時だった。 少し前から私の前に現れ、たちの悪いちょっかいをかけてくる少年、シャリ。 彼が突然現れた。
「かわいそうなお姫さまを助けてあげて欲しい」
騙されるのを覚悟で彼の話にのったのは、ケリュネイアに頼まれた闇の神器が関わっていたからだ。
彼の言うとおりに闇の神器『色惑の瞳』を手に入れて指示された場所に行くと彼女がいた。 悲しげな憂いの顔、陰のある美しさ、先帝の娘、光を失った王女、アトレイア・リュー。 それが彼女だった。
「ありがとうございます、エレンディア様」
その時に見た小さなかわいい笑み。 私は思った。 もっと彼女の笑顔を見てみたい、と。 だって、今でもこんなに綺麗でかわいいのだから、笑顔になればもっと綺麗なんだろうと思ったから。
初めて出会った時から私は彼女に魅せられていた。
それから私は彼女の元へ足しげく通うようになった。 だけど、彼女は彼女がここまで暮らしてきた陰に沈みこんでいた。
「外の世界を見に行こう」
だから彼女を外へと誘ってみた。 今日は月がとても美しかったから。 見て欲しかった、世界を。
「あっ!?」
「うがっ!?」
自分でも嬉しかったせいか、少し先に行き過ぎた。 アトレイアはまだ光を取り戻して間もない、このペースは無理か。 彼女が来るのを待つことにする。
すると、来るはずの方向から小さな悲鳴が聞こえた。 見張りの兵士にでもぶつかったのだろうか。
「俺様にぶつかってくるとはどこに目をつけてやがるっ。 このクズがっ!」
「おやめください、タルテュバ様っ。 この方はアトレイア様ですっ、目が不自由なのですっ」
「アトレイア?」
…タルテュバ? よくも王宮に顔が出せるものだ…いや、今はそれどころではない、そんな気がする。
「お前みたいな醜いのが外に出てくるんじゃねえっ。 ティアナとは段違いなんだよっ。 部屋で鏡でも見て来いっ!」
「…っ」
「このクズがっ、お前はどっかに引きこもってればいいんだっ。 その醜い面出すんじゃねえっ!」
「おやめください、タルテュバさまっ」
あわててアトレイアの所へ駆け戻ると、タルテュバの正気とは思えない罵倒の言葉が聞こえてくる。
そして私が目にしたのは、倒れたアトレイアに足を出すタルテュバの姿とその手をタルテュバに掴まれたティアナの姿だった。
「エレンディア様っ」
倒れたアトレイアに駆け寄り、タルテュバの前に立つ。 アトレイアは小さく震えている。 その姿が私にはつらかった。
「なんだクズがっ。 お前ら俺様を誰だと思ってる!」
怒りで肩が震える。 自分で思う限りの罵詈雑言をぶつけたくなる。 だけど精一杯抑える。 今そんなことをしても傷つくのはむしろアトレイアだから。
「戦場で部下を見捨て逃げ出した貴族、でしょう? それどころか王女に対する礼儀すらお持ちではないのですか」
「クズがっ! 平民上がりがまぐれで調子に乗りやがって…。 このクソっ、クソがっ! バカにしやがって、クズがっ!」
言って剣を抜く。
「逃げたあなたにはまぐれすら起きません。 女になら勝てるとでもお思いですか?」
暗いバルコニーを照らす月で、タルテュバの見開かれた瞳孔が見える。 そしてただ地面を見つめ震えるアトレイアの悲しい陰も。
だから私は背中に背負った斧をタルテュバの目の前に振り下ろし、タルテュバを睨み付けて言う。
「ファーロス総司令副将、竜字将軍エレンディア・ロス。 尋常にお相手いたしますっ」
「このクズがあっっっ!!」
戦う前から勝負はついている。 幾多の死線を越えてきた私と死線を逃げ続けた男。 戦いの際には一切の油断は禁物と肝に銘じここまで生きてきた私と格上すら見下す愚かな男。
斧を縦に小さく揺らし牽制して、タルテュバの右へと廻る。 右手に構えた剣ではこちらには切り掛かれない。 もっともそれ以前に彼は私の動きを捉えることが出来ていない。
「うがあっ!」
適当に振り上げた剣、無造作に開いた懐を私は斧で強く突いた。
「はあっ!」
「ぐああっ!!」
そのたった一撃でタルテュバは倒れ転げてのたうち回る。 油断させる誘いかと警戒もしたが、剣すら落としているので大丈夫であろう。
「ぐ、ぐぐぐ…」
「消えて。 不快だから今すぐに」
「ク、クズがあ…クソクソクソっ! 俺様をバカにしやがってええぇっ…覚えていろっ!」
最後まで汚い言葉を吐き続けタルテュバが逃げ去る。 後に残ったのはティアナとアトレイアと私の三人。
「大丈夫? アトレイア」
ゆっくりとアトレイアを立たせる。 小刻みに震える彼女は月明かりの下蒼白の顔を浮かべていた。 そして次の瞬間には駆け出して走り去っていく。
「アトレイアっ」
「エレンディア様っ」
ティアナが私を呼びかける。 だけど、あんな真っ青な顔をしていた彼女を放っては置けない。 私はアトレイアの後を追い駆け出した。
「…大切な物は皆私をすり抜けていく…。 そう、彼女は本当の王女……しょせん私は…」
後ろからティアナが何か言うのが聞こえる。 ごめんね、ティアナ。
「アトレイアっ」
彼女の部屋に行くとアトレイアは部屋の隅で虚ろな顔で佇んでいた。 その顔を見て私はどうしようもなく悲しくなる。
「…私はティアナ様に比べて醜い…。 ぶざまで醜い…。 …目なんて、見えなければよかった…」
「アトレイアっ!」
「ごめんなさい…醜い私のせいで、エレンディア様にまで恥をかかせて…ごめんなさい…」
アトレイアの肩を掴んでぎゅっと抱きしめる。
「そんなことない。 そんなことないよ、アトレイア」
「私のせいで…」
震える声で尚も俯き謝る彼女が悲しい。 私はアトレイアの頬を両手で挟んで顔を私に向けさせる。 その目は閉ざされ、涙だけがただ零れていく。
「アトレイア」
そして私は彼女の額に口付ける。
「エレンディア…様…?」
「あなたは綺麗でかわいいお姫さまよ、アトレイア。 初めて会ったあの時から、あなたは私にとって届かない夢。 私が選ばなかった、選べなかった『可憐な花』そのものよ」
「そんな…エレンディア様は充分お綺麗で魅力的です…」
「こんな斧を振り回す女は魅力的じゃないわよ。 それに私が言ってるのは女の子のようなかわいさって意味よ。 それは私にはないわ」
「でも…」
「あなたはとても魅力的。 でも今はまだ、その魅力は陰ってるわ。 手に入れた光で少しずつでもいいから、明るい色に変えて欲しい」
困ったような顔でアトレイアが私を見る。
「私があなたを光へと導く。 そうすればあなたはどこまでも輝くわ。 見せて欲しいの、あなたの本当の魅力を」
「私は、そんな魅力は…」
「あるわ。 絶対。 私は信じられないかな?」
「そんなこと…」
「だったら信じて、お願い。 私の分まで綺麗に美しくなって、アトレイア」
「エレンディア様…」
私の体に回された彼女の腕に力がこもる。 だから私も彼女を強く抱きしめる。
「…でも、今日は…今は…泣いていいですか…」
「うん…」
アトレイアが落ち着くまで、私は彼女を抱きしめ続けた。 暗い部屋の片隅で二人ずっと…。 強く、強く…。
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